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「人狼」はどうしてここまで人を魅了するのか? 名作『グノーシア』開発者が異色の対戦ミステリー新作『クライムサイト』制作陣と対談したら、「人間味」「ハプニング」など刺激的な考察が尽きなかった

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『Among Us』などを通じて考える「正体隠匿系ゲームの魅力」

「人狼」はどうして人を魅了するのか? 『クライムサイト』×『グノーシア』鼎談_020
(画像はAmong Us ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

──今回、ディスカッションできるものとして『Among Us』があるじゃないですか。あれが何だったんだろうというのが、ひとつ面白い論点かなと思うのですが。

長田氏:
 『Among Us』は、状況設定がうまいですよね。抜け出せない閉塞感のある宇宙空間で協力しなければいけないという状況がある。その上で個々にわかりやすい「タスク」が配置されている。ミニゲーム化されているタスクは画面を見ただけで誰でもできるようになっている。配線が切れてるから同じ色と繋げばいいのね、とか。

 「大変なことが起きている空間」をみんなで乗り越えようという状況をお手軽に楽しめますよね。脅威となる「インポスター」がその中に紛れ込んでいるけど、そもそもこの状況を打開しない限り、インポスターがいなかろうが脅威であると。だから協力せざるを得ない。

川勝氏:
 僕はあのゲームを遊ぶと、小学校のときの授業が終わったあとの掃除の時間を思い出すんですよね。ある人はトイレの掃除をする、ある人は音楽室に行ってサボる、ある人は告げ口をする。それにすごく似ていて、小さい子がよく遊んでいる気持ちがよくわかる。雑に遊んで推理するけど、学校でかつて体験したあのワチャワチャ感が、バーチャルな世界で繰り広げられている気がしますね。

イシイ氏:
 正体隠匿系は考え方が本質的に大人っぽいんですよ。つまり、「ルールの裏をかく」、「騙し合う」みたいな背徳的な要素があるので、世界観が大人っぽすぎて子供たちのなかになかなか持ち込みづらい。

 その点、『Among Us』は川勝さんの言われたとおり、子供がやる鬼ごっこみたいな単純なルールのなかで、騙して皆殺しをしてもよいというゲームデザインになっていて、本当にうまく出来ていますよね。

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(画像はSteam | 『Among Us』より)

──正体隠匿系はなにが魅力なんですかね。ここにきて、なんでここまで流行っているんでしょうか。

イシイ:
 正義で悪を倒すゲームか、同じ正義や悪の視点で悪を競い合うゲームが中心のなかで、人狼は立場によって正義だったり悪だったり、価値観が変化するのが刺激的ですよね

 現実の社会で考えると、人狼の様な立場になって他者を騙して滅ぼしていくのは不可能ですし、それを論破して「お前が犯人だ」というのも探偵役もなかなかできるものではない。このふたつの立ち場を遊べるという構造は、人間の社会的な抑圧と本能に訴えかけているのではないかと感じますね。

長田氏:
 他人を騙して、というか「自分を隠して」信頼を勝ち得ることは普遍的な喜びを感じる部分があるのではないかと思いますね。たとえば子供や恋愛であっても、親や相手に好かれたいから、いいところを見せようと考える部分が少なからずあると考えています。

──ただ、人狼ゲームや『Among Us』で騙すことは、それ自体に快感はなくて、ただただドキドキしているだけだと思うんですね。とくに騙して快感とか、そういうわけではないのかなと。

長田氏:
 自分を隠した結果、敵対したのか信頼してくれている味方になったのか。その状況を維持できれば隠してでもやろうとしていることの成功率が上がるけど、隠した自分を暴かれたらいまのこの状況が破綻して失敗しかねないから、ドキドキしてるんじゃないかなと個人的には思っています。
 そもそも悪いことしようとしていますし。

「人狼」はどうして人を魅了するのか? 『クライムサイト』×『グノーシア』鼎談_022

──そのように考えると、正体隠匿系は見つかるか見つからないかを楽しむステルスゲームの発明に近いものかもしれませんね。

イシイ氏:
 僕は初めて人狼ゲームで遊んだとき、じつは人狼の役割がすごく嫌だったんですよ。悪者という立場だし、嘘をつかなきゃいけないし。
 最初は苦痛だったんですね。人狼の役割を引いたらハズレと思っていて、頑張ってやらないといけないなと思ったのですが、ある日「村騙り」といって、村人だけど嘘をついて人狼を追い詰めるやり方を知ったんです。

 人狼に間違えた情報を与えて、どうやって混乱させようかとかいろんなことを考えた瞬間、すごく能動的に嘘がつけたんですよ。これはすごく面白い現象だと思いました。一度村騙りに慣れると、ゲームのための嘘として、人狼になってもすごく楽にゲームとして嘘をつけるようになったんですよ。

──嘘をつくときに快感はあるんですか?

イシイ氏:
 快感はないですね。快感ではなくストレスがなくなりフラットになったということです。だから、人間は正義のための嘘となるとハードルが下がるけど、悪のための嘘と考えるとすごくストレスなんだなと思いましたね。ある意味怖い思考ですが。

 ただ個人的な感想としては、人狼側で勝ったときの方が気持ちが良いかもしれません。人狼側で追い詰められて、なんとか逃げ切ったときの感情を考えると、勝った時のドキドキ感は人狼のほうがあるような気がします。ジェットコースターみたいに怖いことを楽しんでるのに近い気はしますよ。

人狼や『Dead by Daylight』は「勝敗」がすべてじゃない

長田氏:
 対戦ゲームは勝った人が嬉しいのではなくて、負けた人がもう1回やろうとならないのが辛いと思っています。だから負けたときのストレスを下げるために不確定要素を増やしたんです。

 「NPCが勝手に動いたから負けた、俺のせいじゃない」と、ある意味で言い訳を残すというか。その言い訳の余地が広ければ広いほど、もう一度遊びたくなると思ったんですね。
 もちろん、対戦である以上そういった不確定要素が嫌い、という人たちもいることはわかっていました。運の要素が大きくなるほど、今度は練習する意味が薄くなっていきますので。だから1vs1は「ディベート」、多人数は「ディスカッション」という感じになったら良いなと思いました。

 非対称対戦は僕自身も考えたことはあるんですが、難しいですよね。バランスという意味では崩壊しやすいし、作り手としてはゲームが2個入っているのと変わらないので。

──『Dead by Daylight』はそんな難しい非対称対戦のゲームとしては、かなり長期にわたって人気ですよね。

長田氏:
 『Dead by Daylight』はバランスや勝敗以前に、そもそもホラー映画の登場人物みたいな体験ができる。勝ち負けはその結果にすぎなくて、ある種の物語体験として何回もプレイしたくなるように作られているのが、感心しましたね。

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(画像はSteam | 『Dead by Daylight』より)

──なるほど。その「勝敗よりもホラー映画的な体験」もそうですが、コンピューターゲームで勝敗ではないところに価値を見出した動きというか、ムーブメントはわりと最近のことなんですかね。

長田氏:
 最近かどうかはわかりませんが、完全情報公開かつ持ち時間無限という構造でない限り、厳密には勝敗以外のものが必ず混じるとは思います。重要なのはその比重ですよね。

 勝敗にせよ、勝敗以外の何かにせよ、そのどちらを求めるのがが良い悪いではなくて、その人の価値観がどっちに向いてるかを両方受け入れられるゲームにしたいなと僕は思っていました。

──それこそKONAMIだと『桃太郎電鉄』は、理不尽なことが起こりまくっていますが、理不尽なことが起こったときにふざけんなっていう反応が楽しいですね。成長もあるけど、勝敗じゃないところに価値を置いているゲームといえそうですね。

長田氏:
 そうですね。スリに8億取られたりしますからね。持ち歩くなよと(笑)。

川勝氏:
 『グノーシア』の場合は、勝っても負けても楽しく終われるように、どちらの結果でも経験値が入るようにしましたし、あえて負けなきゃいけない場面を入れたのもそうですね
 だから最初に勝っても負けてもこのゲームは大丈夫ですよ、ゲームオーバーの概念が希薄ですから。本作でいうと勝ち負けにこだわりすぎると面白くないというのがありますからね。クリアするんだという概念を少し変えていますよね。

長田氏:
 『クライムサイト』でも、1日目にすぐキルされる可能性があったりするわけですけど、これはあり得るものだと最後まで残すべきとしました。そういった決着を迎える「ことがある」。それがドラマとなって面白いものになるとしたかった。

少人数での開発、ゲームに見合った「ボリューム」

──不透明性やランダム性を残しつつ、それでもどのように遊びやすくするかで苦労がありそうですね。そもそも企画を通すときにアナログ版を作られたそうですが、プレイ時間はどのくらいだったんですか。

長田氏:
 大まかに計算すると1300時間くらい……でしょうか。

イシイ氏:
 僕はアナログ版では一試合3時間くらいかかったけど楽しかった記憶がありますね。

長田氏:
 アナログ版のテストプレイに、イシイさんには夜間数時間もプレイに付き合ってもらったことがあって、本当にありがとうございました。アナログ版はPawnの挙動やシャーロックの推理、アイテムの処理などをすべてGM(ゲームマスター)が人力でやっていたので、ゲーム後半ほどGMの胃が痛くなるんですよ。3日目の推理がはじまって、そこで間違えたら全部パーになるんで。

イシイ氏:
 処理の待ち時間がすごかったんですよ。「今からどれが3マス外れてるか計算します。野犬が出るのかサイコロ振ります」とか、すごくメモを取りながらプレイしました。ゲームマスターの処理が軽いゲームはアナログでやればいいと思うんですけど、こういう処理が複雑なゲームはデジタルが圧倒的に向いていますね。

長田氏:
 前述の通り、アナログで『クライムサイト』をやると、GMが死ぬんですよ(笑)。
 ですが、苦しみながらもこれはむしろ良いことだと思いました。GMがこれだけ大変だからこそ、デジタル化してコンピューターに高速かつ正確に処理させる価値がある、と。

イシイ氏:
 『クライムサイト』を開発したのは大手のKONAMIさんですけど、チーム的には小さくて、尖ったゲーム性が出てくるインディーズ的な体制になっていますよね。

長田氏:
 多いときにはもうちょっといましたけど、それでも10人前後、開発期間は2年ですね。

川勝氏:
 『グノーシア』は4人で約4年かけて作りました。その少ない人数であるメリットを最大限に活かしたというのはあったと思います。音や演出、絵のクオリティとかについて、お互いの話し合いの密度を濃くできるんですよね。

 しかも仕様変更にも対応できるメリットもあります。その時々に必要な瞬発力みたいなのが必要で、書類を書いていると待ってられないんですよね。作ったからあとで書類を起こすということもありました。

長田氏:
 何世代かあとの最新ハードで『グノーシア』を移植してみようとなったときに、このコードは一体どうなっているんだと言われそうですね。

川勝氏:
 それぞれのゲームには適切なボリュームがきっとあって、『グノーシア』の場合、あのボリュームであのクオリティが一番良かったんですよ。そこの適切なボリュームはゲームごとにあるから、ちゃんと見定めてあげればいいと思います。

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(画像はSteam | 『グノーシア』より)

──ゲームが完成できるかは、やはり意志が必要になりますけど、話を伺っていると『グノーシア』は川勝さんの意志が強かったから、そして『クライムサイト』は長田さんの意志が強かったから完成したんだろうと思っています。

長田氏:
 ゲームは開発費が高騰するに従い、当然ですが商品という観点からはどうしても回収できるかどうか、が重要になっていますよね。どうしても、挑戦がしづらくなっていると思っています。自分は、それは重々理解できるんだけどもやっぱり少し寂しいなと思うところがありまして。今回、小規模でもいいから「新しい体験」ができるゲームを作らせてほしいと、そういう思いは確かに強かったかと思います。

イシイ氏:
 僕の出身であるチュンソフトにはアナログゲーム文化が強くあったんですけど、所属していたときは3Dのゲームの流行が来て、なかなかそういうゲームデザインは作れなかった。でも、いまはインディーゲームとボードゲームの流行がきて、ついにこういうゲームに携わることができたなと思いました。今回、企画に参加できたのはすごく嬉しかったですね。

次は「時差を超えるゲーム」を。つねに新しいものを

──今回のインタビューでは、正体隠匿系ゲームの魅力や今後の可能性についても近づけたかなと思います。では最後にメッセージをお願いします。

イシイ氏:
 『グノーシア』も『クライムサイト』も両作品ともプレイして欲しいですね。どちらも、これからのストーリーゲームの限界を突破する可能性を持つゲームシステムだと思っているので、ぜひこの二作品を遊んでない人は遊んでいただきたいなと思っております。

川勝氏:
 今回の『クライムサイト』は新しいゲーム性を感じさせるものがあって、楽しみであり、僕自身も頑張らなければならないと思いました。ストーリーモノのゲームは、もうひとつ先に行くためにも、まだまだ進化していくなと。それがシミュレーションなのかはわかりませんけれど、こういうゲームのジャンルにぜひご期待いただきたいなと思っております、

長田氏:
 僕自身が小さいころからゲームをやってきた上で、ゲームという共通言語を使って、その人を知るというのがすごく楽しかった。言語を使わずに世界の人がお互いの心の機微を探り合う『クライムサイト』は、ひとつの成功だと思っています。

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長田氏:
 次の具体的な構想はまだ何とも言えないのですけれども、できれば今度は「言語」の次、人を隔たる要素としてある「時差」を超えられたら、と考えています。

──時差ですか。

長田氏:
 距離や時差によって他の人と一緒に遊べないことがありますよね。距離は通信技術が解消してくれた面がありますが、時差をなんとかしたい。この時差とは、通信のタイムラグではなく、例えば16時間離れた北米のユーザーとの対戦です。まあ非同期という形にならざるを得ないですけど、時間を超えてその人を感じられるようなゲームデザインができないかというのを、すごく渇望しています。

 相手の生活時間を拘束せずに、人と人を繋げられたらと思っていますね。本や文字というのはそういうものじゃないですか。僕たちはアーサー・コナン・ドイルや芥川龍之介に会うことはできないですけど彼らが残したものを読んで、彼らがどんな人たちだったかっていうのを時間を越えて知ることができる。そこに双方向性を持たせる。ゲームですからね。そういったものを何とかひねり出したいなとは思っています。

──期待しております。ありがとうございました。


 歴史的に一大ジャンルとなったコンピューターRPGもアドベンチャーゲームも、思い返せばもともとは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』というアナログゲームの影響を受けて誕生したものだ。

 そうしたなか、『グノーシア』と『クライムサイト』は、アナログゲームの『人狼』をデジタルゲームとして再解釈したゲームを提示してみせた。今後のデジタルゲームの革新を考える上で、ふたたびアナログゲームが突破口となる日が来るのかもしれない。

 そのように考えると『グノーシア』と『クライムサイト』は、デジタルゲームに新しい潮流をもたらす萌芽となるゲームとして注目すべき作品だ。

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ライター
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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