『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下『プロセカ』)は、2022年9月末で、サービス開始2周年を迎えた。この2年間でユーザー数は1000万人を突破し、日本以外にも全世界約130の国や地域にサービスが広がっているなど、10代・20代の若いユーザーを中心に、今最も勢いのあるスマホゲームのひとつだと言えるだろう。
電ファミニコゲーマーでは、今から2年以上前のサービス開始前から本作のインタビューを行っており、ここしばらくは半年のアニバーサリーごとにプロデューサー陣の生の声をお届けしている。サービス開始2周年となる今回も、ゲームの開発・運営を担当しているColorful Palette代表取締役社長であり、本作のプロデューサー兼ディレクターである近藤裕一郎氏、セガのプロデューサーである小菅慎吾氏、そしてクリプトン・フューチャー・メディアで「初音ミク」の責任者として知られる佐々木渉氏の3名に、お話を伺った。
この2周年では、記念のリアルイベントや新規楽曲の追加といった定番の企画に加えて、1年後の3周年にキャラクターたちが「1学年進級する」という、ストーリー上の大きな動きが予告されている。今回のインタビューでは、そうした展開を決断した理由や、それを1年前に予告する理由などについても聞いている。
3年目を迎えた『プロセカ』が今後、いったいどういった方向に進んでいくのか、ぜひ確認してもらいたい。
取材・文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二
この半年ぐらいでようやく、ボカロのディープなところと『プロセカ』のバラエティ感の両方を見渡せるようになってきた
──みなさんにはこのところ、半年に1回のペースでお話を伺っているわけですが、いつも「○周年」を迎える1カ月前ぐらいに取材しているので、その周年にどんなサプライズがあるのかというのを取材前に教えてもらうものもあれば、ユーザーさんと同じタイミングで知るものもあって。
たとえば、「ブラック★ロックシューター」【※】とのタイアップが発表されましたよね。こちらも初期のボカロにとっては象徴的な曲なので、あの頃を覚えている人たちには刺さりますよね。
⭐️「ブラック★★ロックシューター DAWN FALL」
— プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク【プロセカ】 (@pj_sekai) May 9, 2022
放送記念タイアップログインキャンペーン開催決定🎉
5月10日15時より、
アバター衣装「B★RSなりきり衣装」をプレゼントするログインキャンペーンを開催🎁
※詳細はゲーム内お知らせをご確認ください#プロセカ pic.twitter.com/SDNkgalb9m
※「ブラック★ロックシューター」
イラストレーターのhuke氏が2007年に発表した1枚のキャラクターイラストから着想を受けて、「メルト」「ワールドイズマイン」などの楽曲でボカロPとして高い人気を集めていたsupercellのryo氏がオリジナルの楽曲を制作。2008年にニコニコ動画で発表されると大きな話題となり、イラストと楽曲を起点にしてフィギュア化やアニメ化、ゲーム化といったメディア展開が広がっていった。2022年4月からは最新版アニメ『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』のTV放送が開始されて、『プロセカ』とのタイアップも行われている。
近藤氏:
「ブラック★ロックシューター」はアニメとタイアップしたアバターも好評で。やっぱりデザインが良いですから。
佐々木氏:
「ブラック★ロックシューター」のようなミクの象徴的な楽曲は、ファンも熱狂的に喜んでくれますよね。象徴的な楽曲を都度入曲する事で、古くからのミクファンに喜んで貰えますし、「やっと入った!」という感じで安心してもらえてるなと感じます。逆に言うと、まだまだ入れていかなきゃいけない曲が沢山あるので、そこはファンのみなさんの期待に答えていきたいところですね。
──1.5周年からの半年間で特に印象に残っているのは、どんなことでしょうか?
近藤氏:
「印象に残ったこと」って毎回聞かれるんですけど、毎回「特にないです」って答えてるんですよね(笑)。その時、その時にやらなければいけないことが常にあるので。それを振り返った時に「あれは良かった」というよりは、「もっと上手くやれた」「もっとこうすれば良かった」という気持ちのほうが先に来ちゃうんです。
小菅氏:
僕はやっぱりコネクトライブですね。パンフレットを作ったり、効率とかを考えたら、普通はやらないじゃないですか。でも「ライブをやるんだったらここまでやる」という積み重ねが、新しい体験につながっているんだなぁと思いました。
──コネクトライブに関しては別途、近藤さんや開発スタッフの方々にお話を伺っているので、詳しくはそちらを見てもらえればと思いますが。こちらも2周年に合わせて、第2回目の公演が発表されましたね。
小菅氏:
インフラもこの半年ぐらいで、相当に補強しているんですよ。
近藤氏:
一時期は、出来る限りの増強をするために、AWS(※Amazonのクラウドサービス)で借りられるデータベースを、これ以上はもう借りられないというところまで借りていました 。コストのことはとりあえずいいから、借りようと。
インフラに関しては、以前のインタビューでも説明したように、単純にサーバーを増やせばいいという問題でもなく、さらに本質的なチューニングをコツコツ積み上げていかないといけないですから。
──佐々木さんは、何か印象に残っていることはありますか?
佐々木氏:
まず、もう2年経った事に驚きを感じます。『プロセカ』って色々な要素が混ざり合っていて複雑だったんです。ボカロカルチャーだったり、ミク達のキャラクター性、オリキャラ、音楽的な世界観とColorful Paletteさん由来のリズムゲームシステムだったり、声優さんの声の魅力だったり、新しい要素も含めていろんなものが混ざっていて、企画時には「何がどうなるのやら」みたいなところが強かったんですよね。どのユニットがウケるのかも、正直、分からなかったところがあります。
そんな時期が過ぎ去って、特に昨今印象深いのは、「バグ」(作詞・作曲:かいりきベア)、「ロウワー」(作詞・作曲:ぬゆり)、「アイデンティティ」(作詞・作曲: Kanaria)といった、楽曲の世界観がハマったときの相乗効果の凄まじさですね。やっぱり若いボカロファンを中心とした需要として、ちょっとドロッとした感じの濃い世界観が盛り上がりやすいのだなぁと思います。
一方ではワンダショ(ワンダーランズ×ショウタイム)のポップな感じだとか、モモジャン(MORE MORE JUMP!)のアイドルっぽい感じというのも、当然『プロセカ』の柱としてあって。『プロセカ』そのもののバラエティ感や、『プロセカ』に注目してくれている人たちがどういうものを好むのか、どういう世界観を望んでいるかということが、本当に最近ようやく見渡せるようになってきました。
ボカロって、時代時代で流行る曲の曲調とかが変わっていくので本当にバラエティ豊かなんです。「ボカロの魅力っていろいろあるんだよ」というのを『プロセカ』がもっとバランス良く押し出せるようになっていけるのかなぁと思います。
──ユニットのバリエーションみたいなところで、その幅自体は最初から想定されていたのかと思っていましたが、そうではないんですか?
近藤氏:
人それぞれに当然好みはあるので、その好みの中のどれかを取れればいい、という考え方はありました。クレヨンが何色かあって「私はこの色が好きだから、このクレヨンセットを買おう」というふうになればいいと、僕は最初思っていたんですけど。
でも今の佐々木さんのお話は、「この色のクレヨンを目当てに買ったんだけど、こっちの色も意外と良いよね」みたいなことだと思うので、そういうふうになれているんだとしたら、それは嬉しいことだと思います。
佐々木氏:
企画当初に近藤さんや小菅さんとお話しして、ボカロの音楽的側面のバラエティの豊かさを大事にしようと話していました、そのコンセプトを考えてユニットを組んでいったところがあったので。バラエティとバランスは本当に大事にしてきました。
ネットでウケるようにクリエイターさんはいろんな仕掛けや企画を考えながら作られていらっしゃいますけど、書き下ろしのクリエイター毎に、プロセカというテーマの中で工夫されてアイディアが広がって連鎖して、ブランディングとして浸透していった部分もあるかなぁと思います。
小菅氏:
ジャンルに留まらないことも増えてきましたよね。「こういう曲をこのユニットに当ててくるんだ」みたいな。
──そこは音楽のジャンルというよりも、2年間ストーリーを重ねてきたことで、そのユニットのキャラクター性が見えてきたからこそですよね。
近藤氏:
そうだと思います。バックグラウンドとかこれまでのストーリーを踏まえて、一見すると変化球に見える曲でもぜんぜん成立するよね、っていう広がりが生まれていると思うので。
そういう広がりが出てくるのはいいことだと思います。クリエイターさんに曲を作ってもらう時も、幅が狭まれば狭まるほど、そのクリエイターさんの持ち味が消えてしまうと思うので。こちらとしては、できるだけ自由に作ってもらいたいというのがありますから。
佐々木氏:
クリエイターさんも『プロセカ』の他のクリエイターの作品やファンの反響を見て研究されて、曲の構成とかを決めて、それがまた面白い相乗効果になったりすることもありますよね。
広大な「ボカロシーン」の中でプロセカが個性的でわかりやすい題材になって、サブジャンルとして勢力をここまで伸ばせたのが勝因かなと(笑)。
キャラクターたちが人間として成長していく姿を描いていく以上、年を取って学年が進級していくのは当然だ
──今回『プロセカ』が2周年を迎えて、次の3周年に向けた新たな動きも当然、考えられているわけですよね?
近藤氏:
そうですね。セガさんも Colorful Paletteも今、本当にいろいろなことを仕込んでいて。基本的にはゲームですしエンターテインメントなので、新鮮な気持ちで遊べる体験を常に用意して、なるべく長く遊んでもらいたいということですね。
今回、発表されることと発表されないことがあって、たいていのことは発表されないんですけど(笑)。今回発表されることとしては、次の3年目に、キャラクターたちが1年進級します。
プロジェクトセカイ
— プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク【プロセカ】 (@pj_sekai) September 29, 2022
カラフルステージ! feat. 初音ミク
Journey to Bloom
3周年では、各ユニットのキャラクターが進級いたします。
新たなステージへの物語をお届けしていきますので、引き続きストーリーをお楽しみください✨
📺番組生配信中:https://t.co/jv7dgoWAtV#プロセカ2周年 pic.twitter.com/yzE5DvVhRd
──ということは学年が上がって、誕生日が違うので全員が同時にではないでしょうけど、キャラクターが1歳、年齢を重ねるわけですね。
近藤氏:
そうです。キャラクターたちを人間として描きたいというのが、『プロジェクトセカイ』の根底にあるので。だから少しずつ大人になっていくことを、僕たちはけっこう最初の頃から決めていて。それを3年という節目にやるというのも、1年目の時から決めて動いていました。
なので、3周年にはいろいろなものが大きく変わるんじゃないかと思います。
──これは確認なんですが、3周年のタイミングで全員が1学年進級するわけですか?
近藤氏:
3周年で全員まとめて進級する形になります。
各ユニットの今後がどうなるかについては、それぞれ別々に考えていたんですけど、「年を取る」ということに関してはいろいろな事情で、同時にやらないと難しいだろうと。たとえば「学年が変わると制服の着こなしも変わるよね」となった時に、エリアの会話時に新しい制服と古い制服が混在しているのもおかしいですから。そういうことを考えると、全員が一気に進級せざるを得ないなと。
でも、キャラクターを進級させるためにいろいろなところで無茶をしてきたかというと、そんなことはなくて。「こういうペースで物語が進めば、みんなちょうどよくなるよね」というふうに、前々から進めていて。その計画をずっと前からしていた形です。
──そういう意味では、予定通りだと?
近藤氏:
予定通りです。ネクスト演出的なところはユニットによって回数が違ってもいいのかな、とも思っていたのですが、ユーザーさんの反応を見て、そこも揃えたほうがみなさん納得がいくだろうと。なので、すべてのユニットが3周年のタイミングで一斉に、次の段階へと進んでいく感じになるかと思います。
──漫画やアニメの人気作では、作品の外側では何十年も時間が経っていても、物語の中ではキャラクターの年齢がずっと変わらない作品も少なくないですよね。それに対して『プロセカ』は、現実世界とは時間のスパンが違うかもしれないけれど、それでもキャラクターが少しずつ年齢を重ねていくことになるわけで。そこに関してある種の想いみたいなものはあるのですか?
近藤氏:
無理やりキャラクターの年齢を上げたいわけではなくて。
どのユニットも最初の構想段階から、エンディングのイメージがずっとあるんです。そのエンディングには、キャラクターが人間的に成長していかないとたどり着けない。そう考えた時に、それなら年齢的にも成長していくほうが自然だろうと思いました。
キャラクターコンテンツ としては、キャラが年を取ることに対して賛否があると思うのですが。でもキャラクターが人間として生きていると考えると、僕たちとしては年齢を重ねていくほうが絶対に自然なことだと思ってやっています。
──ファンの中には「最初にミクさんを知った時には年下だったけど、今はミクさんより年上になってしまった」という方もいると思うんです。だとすると、年を取らないバーチャル・シンガーたちと、年齢を重ねていく『プロセカ』のキャラクターとの関係はある意味、現実世界を生きているボカロファンの目線と近いのかなと。
近藤氏:
そういう感じ方をしていただけるのは有り難いですけど、べつにそれを狙ってはいないです(笑)。
佐々木氏:
とはいえ、楽曲としては5年前、10年前の曲なんだけど、『プロセカ』のキャラクターが歌うことによって楽曲の強みが際立って、最近の曲と一緒くたとなって、新鮮なものとして聴かれているのが面白くて。そうやってエバーグリーンであることを痛感します。
──それこそ、僕らがかつてニコニコ動画で盛り上がっていた人気曲を、今の10代の人たちが『プロセカ』を経由して楽しんでいるという現実が、目の前にありますから。
佐々木氏:
動画共有サイトとは違った『プロセカ』の時間軸はすごく面白いなと思いますね。