海外でも200万人のユーザーが、毎月『プロセカ』を遊んでいる
──2周年記念の大きなトピックとしては、やはり「キャラクターが進級する」という発表になるのでしょうか?
近藤氏:
それはどうでしょうね。僕らとして、2周年のタイミングでキャラクターが進級することを発表したのは、3周年の時にいきなり進級しちゃうと、心の準備ができないユーザーさんもいるだろうなと。なので、コンテンツとしての今後の方針を先にお伝えしておこうと思いました 。
今回、2周年記念で追加される楽曲も、個人的にはスゴイ楽曲がたくさん入っていると思っているので。そういうものを大きなトピックとして喜んでくださる方も多いと思いますし。
──それから、記事が掲載される時にはすでに終了していますが、2022年9月23日、24日にはリアルステージイベントの「プロジェクトセカイ 2nd Anniversary感謝祭」も開催されますよね。
近藤氏:
こちらはリアルライブというよりは、本当に名前の通り、2年間『プロセカ』を応援してくださったファンのみなさんに対する「感謝祭」なので。
小菅氏:
1周年の時の「セカフェス」(「プロジェクトセカイ アニバーサリーフェスタ 2021」)でも、ゲーム大会もありましたし、会場での展示物もけっこうあったと思いますけど、今回は『プロセカ』のファンが会場に来て楽しめるものにするにはどうすればいいか、というのをより深く考えた、密度の濃いイベントになっていると思います。
近藤氏:
「セカフェス」が終わってすぐ、小菅さんに電話しましたから。
小菅氏:
「まだできることがあるよね」って。「心の底から楽しめるものを目指そう」というのは、ずっと話していましたよね。
近藤氏:
僕が個人的に嬉しかったのは、クリエイターさんからもメッセージを頂いたことですね。「『プロセカ』がボカロ界隈に良い影響をもたらしてくれていると思います」といったメッセージを頂いて、僕らとしてはそれを最初からの目的としてやってきたので、それは本当に嬉しかったです。
小菅氏:
僕は海外での展開も担当しているので、海外での『プロセカ』についてもお話しすると。今はアジアで50万人ぐらい、北米で150万人ぐらい、合わせて200万人ぐらいが国外で『プロセカ』を毎月遊んでいて。確実に広がってきているので、これをもっと伸ばしていきたいと思っています。
『プロセカ』はゲーム以外にもいろんな展開をしているじゃないですか。それに対して興味を持っているファンの方々が、本当に世界中にいるので。そういった人たちに向けても、楽しいことをしていきたいなと。
──海外だと、どういった地域の人気が高いのですか?
小菅氏:
アジア、北米、欧州と、どこも均等に人気が高くて。その中で人口比率に応じて強弱がある感じですね。
佐々木氏:
リズムゲームは当然、いろんなタイトルがあると思うんですけど、他社さんはひとつのコンセプトでまとめられているものがほとんどじゃないですか。でも『プロセカ』はそれとは真逆の、ものすごくたくさんいろんなジャンルや多様なクリエイターの曲が集まっている、すごく自由自在な広がりがあって。日本の音楽やイラストや動画に携わる人たちが緩やかにつながっていて、今まで見たことのないまとまり方になっているんです。
そこの面白さって世界共通というか、むしろ海外の方のほうが「なんでこんなふうになってるの!?」という驚きがあるんじゃないかなと。こんなジャンルレスなコンテンツは世界中を見ても他にないと思いますし、もっともっと広がっていってくれるんじゃないかと期待しています。
小菅氏:
佐々木さんが今おっしゃったことが、数字上でも実感できていて。『プロセカ』には毎月、すごい人数のお客さんが新しく増えているんですけど、こういうスマートフォンのゲームって普通は宣伝の展開とか、いろんな導線から入ってくるんです。でも『プロセカ』の場合は「オーガニック」って呼ばれる、自然に入ってこられるお客さんが圧倒的に多くて。商業的な広告よりも、ユーザー間のコミュニティの熱量みたいなものから広がってきているというのを、実感しています。
──それは海外でも同様なんですか?
小菅氏:
国内のほうがオーガニックの割合が高いんですけど、海外でもそうですね。
土台となるボーカロイド文化そのものを盛り上げていくことで、『プロセカ』をできるだけ長く続けていきたい
近藤氏:
コミュニティに関しては、長く楽しめるコンテンツにしていくためにも、「各々の好きを否定しない」というふうにしていかなければいけないと思っています。ボーカロイド文化自体がそういうものですし 、若い人たちも自然にボーカロイド曲を聴くような時代になってきて、これがずっと長く続いたほうが良い と思うんです。
佐々木氏:
音楽を作って、それをたくさんの人に聴いてもらっている実感の得られる指標は、ひと昔前ならラジオでの再生数、あるいはオリコンやビルボードでのランキングでしたよね。でもボカロ文化において面白いと思うのはクリエイターさんが自分以外の他のクリエイターのみなさんの作品を意識して、「どういうところがウケているか」と分析を行ったりして、それらを反映しながらクリエイターさん自身で自分の表現や戦略のプランを立てているところで。
16年間このシーンを見ていると、流行りのジャンルがどんどん変化していって、「昔のこのジャンルって、今聴いても素敵だよね」と思っても、最新のランキングに出て来れる曲の風潮はちょっと違っていたりするんです。でも『プロセカ』はユニット構成とかの構造的な面で、時代感を超えてコース料理みたいな形でお客さんにバランス良く提供できていて。そうすると、いろんなものが「素敵だよね」「カッコイイよね」という流れにもなりますし。
ネットクリエイターのファンもまた、自分が尊敬しているクリエイター達の作品をみんなで楽しみたいという感覚が強くて。クリエイターさんもファンもつながりを大事にしていて、ランキングも大事なんだけど、プロセカではそれに流されすぎずに「いろんな音楽をみんなで楽しもう」という方向に、全体としては向かっていて。そういうボカロカルチャーそのものの流れと、Colorful Paletteさんが『プロセカ』で描いているストーリーが呼応している気が、僕はしているんですね。
──そういう意味では、佐々木さんが初期の頃から努力されてきたと思うんですけど、ボカロってコミュニティとして作られたというか、コミュニティだったじゃないですか。
佐々木氏:
というより、2000年代後半のネットコミュニティを指し示していた象徴の一つがボカロだったんですね。当時、ボカロが音楽ジャンルだったわけではなく。
──そういう意味ではこの2年間で、『プロセカ』もコミュニティになったのでは、と思うんです。
近藤氏:
ただ僕らとしては、『プロセカ』というものはあくまでサブコミュニティであって、ボーカロイドがメジャーコミュニティだと思っているので。『プロセカ』が主のコミュニティみたいになって、その土台となる部分が軽視されてしまうと、「音楽を楽しむ」みたいな部分も含めて、いろんなキャラクターが生まれる元となる多様性がなくなっていってしまうと思うんです。
だからメジャーコミュニティであるボカロ文化自体を盛り上げていかないと、サブコミュニティである『プロセカ』の寿命も縮まっていくんです。ファンの方もそのことをちょっとずつでも理解を示してもらえると、みんなもっと楽しめると思うんですね。3年目はそこをやらなきゃいけないと思っています。
佐々木氏:
そういうコミュニティって昔から、時期々々にあったんです。たとえば2008年、2009年ぐらいには「ボーカロイドにゃっぽん」っていう会員制のSNSがあって。クリエイターさんやファンの方がそこで交流されていたんですが、他SNSの流行を受けてクローズしてしまったんですね。
そこにいらっしゃった方から「このコミュニティが無くなってしまうと、初音ミクの一部も無くなってしまうように感じて、苦しいです」っていうようなご連絡をいただくことがあって。「そうだよなぁ」と思いつつも、僕らがどうこうできるものでもなかったんですけど…。
これまでにもいろんなコミュニティにお世話になってきたし、そういう意味ではTwitterだってYouTubeだってコミュニティだし。いろんな経験を経て、時代が移り変わることも理解しながら、今は『プロセカ』が若い人中心にすごく上手く、音楽のエネルギーをいろんな方に伝える機能になっているわけですから。
近藤氏:
でも「すべての歴史を理解していないと楽しんではいけません」というのも、多様性を否定する話なので。『プロセカ』が入口になって楽曲と出会うのも「好き」のひとつの形ですし 、クリエイターさんからも 、そういうふうに楽曲と出会って好きになってもらえて嬉しいと、仰ってもらえることもあって 。
ただボーカロイド界隈のいろんなクリエイターさんたちは、音楽を本当に好きな人たちがそのクリエイターさんを見つけ出して、クリエイターさん自身も見つけ出されたことが嬉しくてまた新しい曲を作って……という相乗効果で盛り上がって、今の多様性を獲得してきたというこれまでの歴史があるので。だから、気軽に楽しんでもらってぜんぜん良いんだけど、「そういう楽しみ方もあるんだよ」ということも知っておいてほしいな、とは思います。
小菅氏:
今はこの場であえて因数分解しましたけど、他の人の「好き」を否定しないで、みんながいろんな形で「好き」になればいいんじゃない、ということですから。
佐々木氏:
『プロセカ』で初めてボカロに触れる若い人たちも、「ここに私の“好き”がありそう」っていう勘が働いて、そこからいろいろ聴いてみよう、調べてみようってなっていると思いますし、それがいちばん自然なのかなと思いますね。
近藤氏:
『プロセカ』に関して言えば、アクティブユーザーの数が多いというのも嬉しいんですけど、それよりも大事なことがあると思っていて。この『プロセカ』というコンテンツを本当に長く続けていくためには、「『プロセカ』を長く応援したい」という人がひとりでも多くなってほしいと思ってやっています。
──では最後に何か、ユーザーのみなさんに伝えたいメッセージがあれば。
小菅氏:
2周年という節目の機会に、ユーザーさんに対して本当に「ありがとうございます」とお礼が言いたくて。僕らの想定以上にユーザーさんから支えられて、このコンテンツが育てられているなと実感しているので。なので、これからも応援して頂けると嬉しいです。
近藤氏:
『プロセカ』の2周年を純粋に楽しんでいただきたいと思っていますし、楽しんでもらえるコンテンツを準備したつもりです 。
プロデューサーとしては、2年目は反省のほうが多かったので。1.5周年の時に「地道な改善」というお話をさせていただいたんですけど、それは2周年を迎えてもぜんぜん終わっていなくて。しばらくは地道な改善を続けていこうと思っています。
佐々木氏:
『プロセカ』の根本はひとつひとつのクリエイティブの力の連なりだと思いますし、それを好きなファンの方の熱量だと思っています。こうやって音楽と、音楽を好きでいたい人とが知り合うきっかけがずっと続いていけば、ちょっとだけ良い世の中になるんじゃないかなと。
「音楽や、音楽を好きでいる人々の世界を、もっと広げて、継続させていきたいんだ」と胸を張って伝えていくことに集中できればいいなと思っています。
──ありがとうございました。(了)
本文中にもあるように、『プロセカ』については半年の節目ごとにプロデューサー陣のお話を伺っているが、特に今回の2周年では、派手なイベントやコラボでアニバーサリーを祝うというよりも、今後もサービスを長く続けていくための地に足のついた展開を構築しようとしている様子が感じられた。「キャラクターが進級する」という展開をその1年前に発表するという、今時のスマホゲームにしては気が長いように思える施策も、ファンがキャラクターやストーリーとこれからも長期に渡って関係を築いていくための布石だと思えば、非常に納得がいく。
初音ミクの登場から15年が経過して、当初は珍しいものに思えたその存在も、今ではJ-POPの世界に「いて当たり前」と思えるくらい、定着している。同様に『プロセカ』もまるで音楽配信サービスや動画サイトのように、ユーザーの日常に「あって当然」のものとして、これからライフスタイルに組み込まれていくのかもしれない。
これから3年、5年、10年と、ユーザーが「推し」のキャラクターと一緒に人生を歩み続けていくというのも、日常の一部となるスマホゲームならではの展開だといえるのではないだろうか。
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