NHKのゲーム番組「ゲームゲノム」とは? 「ゲーム」×「教養」という異色の組み合わせによってゲームを知っている人にも知らない人にも刺さるド真ん中ストレートな番組だった。総合ディレクターの平元氏にその狙いを聞く

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 NHKは2022年10月より毎週水曜23時から、ゲームを紹介する番組「ゲームゲノム」を総合テレビで放送している。第1回目の放送で扱っている作品は上田文人氏が手がける『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』だ。第2回目の放送は『ペルソナ5』、第3回目の放送は『逆転裁判』と続いていく。

 “ゲームを紹介する番組” については、これまでさまざまなテレビ局が放送をしてきた。NHKでも過去に『ファイナルファンタジー』特集『ドラクエ』特集などが放送されており、めずらしいことではない。ところがこの「ゲームゲノム」はこれまでの番組と大きく異なる点がある。

 それは、“教養番組である”ということ。「ゲームゲノム」はゲームの教養番組なのだ。いかにもNHKらしい響きのように思えるが、よくよく考えてみると「教養」の定義は曖昧ではないだろうか。

 「ゲームの教養番組」とは……? わかるようでわからない……!

 そこで今回電ファミは、「ゲームゲノム」の総合ディレクターを務める平元慎一郎氏にお話をうかがう機会をいただいた。「ゲームを文化として捉える」という番組のコンセプトをはじめ、扱う作品の選定方法からゲームの持つ体験性の魅力、そして教養に込められた意味まで聞いたインタビューをお届けしよう。

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聞き手/TAITAI
文/柳本マリエ
編集/実存
カメラマン/増田雄介


普段ゲームに触れていない人の “とっつきにくさ” を解消したい

──改めて「ゲームゲノム」の経緯をおうかがいできればと思います。どういう立ち上がりだったのでしょうか?

平元氏:
 2021年10月にパイロット版の「ゲームゲノム」が放送されました。まずは1回限りの放送だったんです。これはNHK内の事情なんですが、“特番”“開発番組”という違いがありまして。「ゲームゲノム」は開発番組の枠で企画を通して作った番組になります。

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 特番との違いとして、開発番組は番組の内容や反響がよければレギュラー化も…ということを見据えて作るのですが、「ゲームゲノム」はそうした意味でも定時化を強く意識して企画・制作を行いました。

──これまでもゲームの番組はあったと思いますが、「自分だったらこうしたい」というような思いがあったんですか?

平元氏:
 「アンチテーゼ」とまで言ってしまうとちょっと言葉が強くなってしまいますが、既存のゲーム番組に対して「自分だったら…」という気持ちは正直ありました。いままでNHKでも他局でもネットメディアでも、ゲームを紹介する映像コンテンツはいろいろあったと思います。僕も小さいころからそういうメディアに触れてきて、それを楽しんできた人間ではあるので、おもしろさは感じていました。

 ただその一方でテレビディレクターの目線で見たとき、それらの番組がゲームについて深掘りをしていない印象を受けました。たとえば流行っているゲームを紹介して「みんなでリアクションを取る」、もしくは「“あるある”を言い合う」みたいな。もちろん、それはそれで楽しい番組ではあるんですけど……。

 過去にはNHKでも、『ファイナルファンタジー』○○周年などの特番を放送したことがありましたが、やはりそのときも“自分がゲームを好きだからこその違和感”がありました。というのも、その作品を知っている人にとってはものすごく楽しめる番組だったと思うんです。だけど作品を知らない人からすると、作品を知っている人たちだけが喜んでいる構図になってしまっていて、そこに“とっつきにくさ”を感じてしまうと思うんです。これは「ゲームへの“とっつきにくさ”」もさることながら、「メディアとしての“とっつきにくさ”」かなと。

 あくまで個人的な感覚ですが、ゲーム番組はたくさんあっても、普段ゲームに触れていない人の “とっつきにくさ” を解消できていないんです。だからこそ「ゲームゲノム」はそもそも作品を知らない人であったり、遊んだことがない人にもその魅力を伝えたいと欲張りました。これは番組の構成を考えるうえでの自分の中の指針になっています。

──番組の指針は言葉で言うとどういうものになるんですか?

平元氏:
 言葉でいうとものすごくシンプルで、「ゲームを文化として捉え、魅力や奥深さを深堀りする」というものです。その中から我々がプレイ体験から受け取った感情や価値観を紐解いて、番組を通して視聴者のみなさんとシェアすることがこの番組のコンセプトです。

──これまでのゲーム番組だとそういうものがなかなかなくて、「ゲームゲノム」はその塩梅が素晴らしいと思いました。たとえば「宮崎駿の特集」に近い空気というか、知っている人にも知らない人にも届くようなレンジの広さを感じました。

平元氏:
 おっしゃっていただいたことはまさに強く考えていたところです。パイロット版の『デス・ストランディング』放送後、作品を知らなかった方からは「すごく興味がわいた」とか「ゲームの世界ってこんなにすごいんだ」という驚きに近い反響をいただきました。ゲームファンの方からは「小島監督の話を聞けてよかった」、「MCの本田翼さんやゲストの星野源さんの考察が聞けてよかった」という声もあって。

 一方で「ぜんぜん深掘りできていない」というご意見も多数いただいたのですが、僕はそれが成功だと思ったんです。先ほどおっしゃっていただいたレンジの広さの部分について “届いた” のではないかと。

 「深掘りできていない」と感じた方はおそらくその作品やゲームそのものに深い愛がある方で、きっと普段から情報を丁寧にキャッチアップされている方だと思います。自分もその一人だから、正直その感覚も分かるんです。一方で、小島監督の頭の中はとてつもなく複雑な世界が広がっていて、手掛ける作品も然り。ですから、55分の拡大版ですらいろんなことを説明しましたが、おそらく0.1%くらいしか伝わっていない。壮大な伏線や脚本論みたいなところも含めたら、ぜんぜん語りきれていないことは百も承知です。でも、まずはその「0.1%」を広く確実に伝えることが重要なんだというスタンスですね。

 かたやそういった踏み込んだ考察まで求めるなら、たとえばYouTubeや公式の設定資料集などで十分に楽しむことができる時代でもありますよね。そこは棲み分けの問題になるかな、と個人的には思っています。

 そうした意味でも「めちゃくちゃゲームが好きな人」だけ、もしくは「ゲームをまったく知らない人」だけを対象としたテレビ番組は作りたくなかったですし、どうしていままでそういう番組が出てこなかったんだろうと考えました。それは「どちらの視聴者にも楽しんでもらえるような新しいゲーム番組を作る」という覚悟の問題かなと。

 テレビ番組は基本的に不可逆的なメディアなので、頭から見てもらわないと番組の内容はわかりにくい。雑誌のようにページを戻して確認することがとても手間なメディアですので、そういったテレビ番組が持つ特性も考えなければなりません。

 そのため、序盤はその作品のことをよく知っている人にとっては「そこがおもしろいんだよね」とか「懐かしい」という確認作業になってしまうんですけど、知らない人にとっては「こんな世界があるんだ」と思ってもらえる。
 中盤〜終盤になってくるとそのゲームの深いところがわかる構成になっているので、知っている人にとっても「ゲームゲノム」を通して「その作品のなにが好きだったのか」を改めて言語化・体系化するきっかけになるかもしれない。スタジオパートでは、ゲストの方の発言に共感したり、あるいは自分と違う考え方も含めて気づきになったりすると思います。

 その作品を知らない人にとってもきちんと届くような形にするというところは、必ずやりたいと思っていました。「めちゃくちゃゲームが好きな人」もしくは「ゲームをまったく知らない人」という両極端ではなくて、ド真ん中ストレートを狙いつつもボールを大きく、トゲトゲさせることで、どちらの視聴者にも届く形にしたかったというのは、いちばん最初から決めていたことです。

「なぜこの作品なのか」というズバリの部分を番組の冒頭で言う

──お話を聞いていて、番組の作り方ってすごく難しそうだと思いました。例えば『ポケモン』特集をするとなったら『ポケモン』を知っている前提になるじゃないですか。でも『ワンダと巨像』だった場合は、タイトル名だけで届く人は限られてくると思います。
 作品によって知名度に違いがあるので、そのうえでレンジを広げようとすると紹介の仕方に工夫が必要かと思いますが、どういうものがあったんですか?

平元氏:
 工夫のひとつ目は、キャスティングです。第1回目は山田孝之さんに来ていただいていて、山田さんご自身の説得力や迫力みたいなものをお借りしたいと思ってお願いをしました。また、『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』への作品愛、ひいてはゲーム全般に対する愛は確かなもので、一部のゲームファンからは山田さんがそういう存在であるということも知られています。もちろんMCの本田翼さんも然りで、まずはおふたりの力を借りて第1回目を見ていただけたらと思いました。

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 先ほどおっしゃっていたように、作品によって視聴者の“興味までのストローク”がぜんぜん違う。全10回の放送の終盤で出てくる作品のなかで、担当ディレクターが「このゲームでやりたい」と提案があったのですが、それが恥ずかしながら僕も聞いたこともない海外のインディーズ作品だったんです。

 僕自身、ゲームの情報はわりとチェックしている方なんですけど、名前すら知らなかった。それでもゴーサインを出した理由は“あえてニッチな回を作ろう”といったことではなく「ゲームゲノム」という番組の中で、この作品からどういう“ゲームゲノム”が抽出できるか、という番組の核となるコンセプト重視の議論の中で決めました。該当タイトルは、まさにそれが十分実現できて、視聴者に伝えたい明確なメッセージと届けられる演出プランが立ったから、という形です。

──我々はゲームメディアですけれども、ゲームの紹介の仕方は本当に難しいと感じています。知名度がある作品を紹介するときは「おもしろいよ」と言えば伝わるんですけど、知名度がない作品を紹介するときはなかなか届かない。そこを山田孝之さんや本田翼さんを起用する“ド直球の160キロ感”というか。このド直球感はいままでのゲーム番組にはなかったので『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』をNHKで取り上げてもらえることはいちファンとしてうれしい一方で、届け方については興味深いです。

平元氏:
 そうですね。著名な出演者からパワーをいただいているというところは、テレビ局が持つ強みの一つかなと思っています。もちろんそれだけでは、番組に辿り着いても作品に興味を持ってもらえるかでいうと足りないかもしれない。そこで工夫のふたつ目は、「なぜこの作品なのか」というズバリの部分を番組の冒頭で言うことです。「ゲームゲノム」のコンセプトや我々が番組に込めた意味を視聴者のみなさんに受け取っていただけるように毎回“大テーマ”を掲げています。これは「教養番組」のニュアンスにも関わってくる重要な要素です。

 僕がディレクションを担当した第1回目の『ワンダと巨像』と『人喰いの大鷲トリコ』では「孤独と生命」というテーマを掲げています。レギュラー放送の第1回目でかなり抽象的な概念をぶち込んだわけなんですけど、個人的には孤独や生命ってよくも悪くも引っかかりがあるワードだと思っていて。

 でも実は、田文人さんは両作とも「孤独」や「生命」というワードを使ってプロモーションをしていないんです。そこが番組独自の切り口であり、ある種の作戦でもあります。単なるゲームの紹介で終わらせたくない、つまり教養番組であることを明確に提示したいので、この大テーマがすごく大事になってきます。
 引っかかりになるようなキーワードが予告やプロモーション動画、そして番組序盤に入っていればゲームを知らない人にも「ゲームからそんなことが受け取れるのか」みたいな興味や好奇心を持ってもらえるのではないかと考えました。

──タイトルの選定とテーマは両軸で動いているんですか? 第1回目は上田さんの作品を扱っていますが、なぜ『ICO』ではなく『ワンダと巨像』と『人喰いの大鷲トリコ』になったのでしょう?

平元氏:
 基本的にはタイトルから進行してます。というのは、テーマから先行すると「こんなことを感じてほしい」というような押しつけがましさを作品に当てはめてしまうような気がして。番組を作るうえではよくあることではありますが、最初からそういうことにはしたくありませんでした。

 「ゲームゲノム」の制作チームにはディレクターが何人もいるんですけど、みんな「この作品で作りたい」と提案してくれています。まずは作品への愛や本人が感じている題材としてのポテンシャルのようなものを大事にしてもらっています。もちろんそれだけでは「ゲーム教養番組」にはならないので、そこからういうことが紐解けるのかもセットで企画を出してもらうことを前提にはしています。

 あとは、そこから詳細かつ具体的に「じゃあどうやって視聴者に教養として届けられるか」ということをチームで話し合いながら切り口を明確にしていく感じです。

 第1回目だったら「孤独」と「生命」という概念についてどう感じるか。普段だったらあまり深く考えないけど、ゲームを通すことで「重み」や「輝き」が増してくる。「ゲームゲノム」という番組から、その作品が持っている唯一無二の魅力やプレイ体験で培われた価値観みたいなものが感じられることを必ず達成できるように企画をしています。

──放送ごとにディレクターがいるんですね。作品の選定はどのような流れなんですか?

平元氏:
 「第2回の担当はこの人」、「第3回の担当はこの人」というようにディレクターの順番が決まっていて、それぞれのディレクターから提案をしてもらっています。僕は企画の立ち上げであり総合ディレクターを務めているので必ず企画会議に参加して話し合いながら決めているんですけど、なるべくディレクターが持ってきてくれた発意の気持ちを大事にして取り扱う作品は選んでいます。

NHKのゲーム番組「ゲームゲノム」とは? 「ゲーム」×「教養」という異色の組み合わせによってゲームを知っている人にも知らない人にも刺さるド真ん中ストレートな番組だった。総合ディレクターの平元氏にその狙いを聞く_008

 もちろん、そのあとにゲームメーカーさんの許可を取る必要もあるので、番組としてすぐ実現するかは別ですが。

──必ずしも国内だけではなくて、海外も含んでいるんですか?

平元氏:
 そうですね。たまたま制作の事情で国内のものが続いていますが、企画の段階で国内に限っているわけではないです。なんなら売り上げ本数の多寡や発売の時期…要は最新タイトルか昔の作品かどうかなども全く条件にはしていなくて、ディレクターに自由に提案してほしいと伝えています。

扱う作品数を増やしてビュッフェ形式になってしまうことは避けたい

──第1回目は『ワンダと巨像』と『人喰いの大鷲トリコ』という2タイトルを扱っていますが、複数タイトルを扱うところも許容しているのでしょうか?

平元氏:
 ゼロから立ち上がった番組なので、自分も含めて「自由に発想してもらいたい」とディレクターのみなさんにお伝えしています。まったく違う作品の組み合わせでも、テーマがズバッと整うなら番組としてそれでいい。メーカーさん同士が横に並べることを許してくださるのであれば、むしろ異なる作品の組み合わせがあるのはおもしろいと思ってます。

 ただ気をつけなきゃいけないことは、1番組の中で扱う作品数が増えてテーマが薄まってしまうと途端に“ビュッフェ形式”というか、オムニバス感が出てしまうということです。そうなってしまうことは避けたいと思っています。とはいえ、ひとつの作品だけを深掘りするということはルールとして決めていません。

 僕がパイロット版で『デス・ストランディング』を扱い、レギュラー放送の第1回目を作るときになぜ『ワンダと巨像』と『人喰いの大鷲トリコ』の2本立てにしたかというと「前回と作りを変える」という挑戦をしたかったからなんです。そこは正直に上田さんにもお話をしました。

 実はどちらかひとつのタイトルでも「孤独と生命」というテーマとして成立した可能性があると個人的に思っています。紹介の時間が半分になってしまうリスクもある中であえて2本を組み合わせた理由は、前回の『デス・ストランディング』1本で表現した「繋がり」と、今回の上田さん作品2本で表現する「孤独と生命」の違いを踏まえてもらえたらより深みが増すのではないかと考えたからです。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
編集部
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちでレベル上げを怠るため終盤に苦しくなるタイプ。著作『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto
編集
ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
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