キャラクターメイキングによって自分だけのパーティを作成し、3Dダンジョンでモンスターとの戦闘や、レアなアイテムの探索に挑む3DダンジョンRPGは、ファミコン誕生以前のパソコンゲーム時代から、日本でも根強い人気を獲得しているジャンルだ。
2022年9月29日に発売された、アクワイアの『残月の鎖宮 -Labyrinth of Zangetsu-』は、古典的とも言える3DダンジョンRPGのジャンルに今、改めて送り出された最新タイトルだ。
『残月の鎖宮』は墨絵を彷彿とさせるモノクロームの画面で、和風の世界観を舞台にした冒険を繰り広げるのが特徴になっている。「古典回帰」を謳っているゲームシステムともあいまって、いぶし銀のように「シブい」雰囲気を醸し出しているタイトルだ。
アクワイアはこれまでに、ライトノベル風のポップな雰囲気が特徴のは『剣と魔法と学園モノ。』(『ととモノ。』)シリーズをはじめ、さまざまなタイプの3DダンジョンRPGをリリースしてきたゲームメーカーだ。
そのアクワイアがなぜ今、このように「シブい」雰囲気の3DダンジョンRPGをリリースしたのか。そしてその開発には、いったいどんな工夫が行われたのだろうか。
今回はそうした開発秘話を、株式会社アクワイア プロデュース部の田村純一郎氏と、開発を担当した株式会社カエルパンダでクリエイティブディレクターを務める奥田覚(おくだかく)氏のおふたりに直接伺ってみた。
そして今回は、聞き手を忍者増田氏にお願いした。日本のゲーム黎明期から『ログイン』や『ファミ通』といったメディアで3DダンジョンRPGについて語り続けてきた人物だけに、3DダンジョンRPGの根強いファンも納得がいくような、深いところにまで話を掘り下げてくれている。
一見すると古典的な「シブい」雰囲気を醸し出している『残月の鎖宮』だが、現代のプレイヤーにアピールするための、細かな工夫が積み重ねられていることを実感できるはずだ。
聞き手/忍者増田
取材・文/伊藤誠之介
編集/実存
カメラマン/松本祐亮
(取材日/2022年9月28日)
「画面がモノクロの3DダンジョンRPGを作りたい」というところから企画がスタート
——今回、忍者増田さんに「取材までに軽くゲームを遊んでおいてください」とお願いしていたら、なんとクリアするまでやり込んでくださったそうですね。
増田氏:
はい。電ファミさんのほうからは「ある程度まででいい」と言われていたんですけど、3DダンジョンRPGの中でも僕の好きなタイプだったので、ついつい遊び続けてしまって。気がついたらクリアしていた、って感じですね。
田村氏:
先ほどデータを見させていただいて「プレイ時間が長い!」と驚いていたんです。
増田氏:
トータルのプレイ時間は、60時間弱ですね。
現在のパーティの平均レベルが20で、闘兵(ツワモノ)、門狗(モンク)、侍(サムライ)、法術士(ホウジュツシ)がクラスチェンジして白騎士(シロキシ)、斥夫(シーフ)がクラスチェンジして忍者(ニンジャ)、魔術士(マジュツシ)がクラスチェンジして賢者(ケンジャ)と、ゲームに登場するすべての職道(職業)を一応プレイさせていただきました。
奥田氏:
ありがとうございます。60時間も遊んでいただいたというのは、すごく嬉しいですね。
増田氏:
でも、そんなに一生懸命にやったという感じはないですね。操作が快適でサクサクと進められたので、あれよあれよという間に、それだけの時間が経っていたという。だから楽しんで遊ばせていただきました。
田村氏:
プレイを通じて印象に残っているところはありますか?
増田氏:
やっぱり最初に感じたのは、徹底した「和」の雰囲気がとても新鮮だな、と。荒涼とした雰囲気だとか、監獄がバーッと並んでいるところだとか、寺院の不気味なイメージとか。「和」を舞台にした3DダンジョンRPGも悪くないなと思いました。
それでいてシステムは、古き良き3DダンジョンRPGが踏襲されていたので、違和感なく入り込めましたし。このジャンルの原点回帰を願っているファンの人なら、楽しめる内容じゃないかなと。
そもそも『残月の鎖宮』の企画は、どういった経緯で立ち上がったのでしょうか?
田村氏:
2019年の初め頃に、弊社代表の遠藤(琢磨氏)のほうから「(墨絵調の) モノクロの3DダンジョンRPGを作りたい」という意見が出てきまして、それで試作を始めたんですね。その試作はいろいろと課題を残しつつ、いったん中断していたんですけど。それで2019年の末あたりに、改めてカエルパンダさんに作っていただくということになりました。
アクワイアではこれまで、独自のIPとしては『剣と魔法と学園モノ。』や『MIND≒0(マインド/ゼロ)』といった3DダンジョンRPGを作ってきました。
『残月の鎖宮』はそれらに続く新しいタイトルを作ろうというのが、遠藤の意図でもあります。そんななかでモノクロで表現された世界というのは、これまでにまったくなかったわけではないんですけど、今のユーザーに与えるインパクトが大きいのでは、というところもあって、新しいものとして受けとめられるだろうと考えたんです。
そこで、古典的な3DダンジョンRPGという見かけを持ちながらも、操作感覚やインターフェースといったものは今風の、現在のプレイヤーでも受け入れてもらえるような仕様にしようと。そのあたりはカエルパンダさんのほうで、いろいろと考えていただきまして。
より遊びやすい操作であったり、手間のかかるところをできるだけ簡素化したりして、プレイに没頭できるようにすることを狙いとして作っています。
奥田氏:
自分はちょうど中学生ぐらいの時に、ファミコン版の『ウィザードリィ』【※】にどっぷりハマった世代で。そのまま大人になって、いろんな縁もあって、遠藤雅伸さんが代表取締役を務めていた株式会社ゲームスタジオに入社して。
新入社員で入った時のいちばん最初の仕事が、じつは『ウィザードリィ』シリーズだったんです。
※ファミコン版の『ウィザードリィ』
3DダンジョンRPGの元祖的な作品となっている『ウィザードリィ』シリーズの第1作目は、1981年にApple II用ソフトとして発売された。日本ではPC-8801などのパソコンに移植されて、高い人気を得ていた。1987年には、株式会社ゲームスタジオによりファミコン版への移植が行われて、さらに注目を集めることになる。ファミコン版では音楽や敵グラフィックなど、さまざまな独自要素が加えられている。
増田氏:
えっ、そうなんですか!?
奥田氏:
はい。ネットを見ていたら「カエルパンダがなんで3DダンジョンRPGを作っているんだ」とか、「こいつらに作れるのかよ」と書かれていたんですけど、じつはぜんぜん関わったことがないわけではなくて。
ファミコン版の『ウィザードリィ』って、ものすごくプレイアビリティの高い『ウィザードリィ』(『Wiz』)なので、いまだにアレを崇拝している人がものすごく多くて。日本で新しい3DダンジョンRPGが発売されるたびに、ファミコン版『Wiz』と比べられるという。
だから本作を開発する上での裏テーマとしては、「ファミコン版『Wiz』原理主義者を唸らせたい」というのが、じつはありました。
一同:
(笑)。
奥田氏:
とはいえ、そう言っている自分もファミコン版『Wiz』原理主義者なので(笑)。自分もアクワイアさんから出た『ととモノ。』とかを遊んだ時に、「もうちょっとこうなっていたら良かったのに」と思うところがいろいろあって。
増田氏:
『Wizardry 囚われし魂の迷宮』や『Wizardry 囚われし亡霊の街』ですと、「顔グラフィックを消せたらいいのに」とか?(笑)
奥田氏:
「動作がちょっともっさりしているな」とか、プレイアビリティのところですね。そんなふうにユーザーとしてプレイした時に、思うところがいろいろあって。自分が3DダンジョンRPGに関わるのであれば、そこを突き詰めたいという気持ちがありました。
あとは、ゲームスタジオで作っていた『ウィザードリィ』の系譜って、今はもう途絶えてしまっているんですが、それは自分が継がなかったからというのもあるんです。旧ゲームスタジオが「モバイル&ゲームスタジオ」になった時【※】に、企画系の部署で「『ウィザードリィ』を作れる若い人たちを育成しよう」という動きがあって。じつは自分も、そこで英才教育的なものを受けたひとりだったんです。
※旧ゲームスタジオが「モバイル&ゲームスタジオ」になった時
ファミコン版/スーパーファミコン版『ウィザードリィ』シリーズや、ファミコン用ソフト『機動戦士Zガンダム・ホットスクランブル』などの開発を行っていた株式会社ゲームスタジオは、2004年に設立された株式会社モバイル&ゲームスタジオに、営業権を譲渡した。モバイル&ゲームスタジオは2015年に、社名を「株式会社ゲームスタジオ」に変更している。
増田氏:
そうなんですね。
奥田氏:
中学生の時に薫陶を受けたゲームに関われるのは幸せなことではあったんですけど、でも当時は自分も若かったので、「もっとお姉ちゃんとかに遊んでもらえるゲームが作りたい」と思ってしまって(笑)。
なんていうか、自分の若いエネルギーを、先細っていくジャンルに向けるのはちょっと違うかなと、当時は思ったんですね。それで自分としては、どちらかというとカジュアルなゲームをずっと作り続けてきたんです。
ただ、アクワイアさんから今回のお話をいただいた時に、いろいろと考えたんです。1990年代に硬派なタイトルを遊んでいた人たちが満足できるような3DダンジョンRPGが今、出ているかというと、じつは出ていない気もしたし。だったらこのお話に思い切り乗っかって、自分と同じような原理主義者を唸らせられるようなものを作ろうと。
増田氏:
なるほど。
奥田氏:
それと、『Legend of Grimrock』という海外のインディーゲームがあるんですけど、これが『ダンジョンマスター』【※】をリブートしたようなゲームなんですよ。そんなふうに海外では、いったん下火になったジャンルのゲームが良い感じにリブートされて、たくさん支持されているという流れがあって。そういうことが3DダンジョンRPGでもできるんじゃないかと思ったんです。
とにかく、「ファミコン版『Wiz』原理主義者を唸らせる」というのを裏テーマに置きながら、ワールドワイドでもちゃんと受け入れられるものを作りたいというのが、今回一番考えていた事になります。
※『ダンジョンマスター』
1987年にAtari STで発売された3DダンジョンRPGで、日本でもFM-TOWNSなどのパソコンやスーパーファミコンなどに移植された。ダンジョンでの移動や敵との戦闘がリアルタイムで進行するため、緊迫感のあるプレイが楽しめる。
増田氏:
それにしても「ファミコン版『Wiz』原理主義者を唸らせる」というフレーズは強烈ですね(笑)。
奥田氏:
原理主義者を唸らせるって意味では、じつはファミコン版『Wiz』のプログラマーだった黒須一雄さん【※】にも監修に入っていただいています。黒須さんにガッツリ見てもらったのは、かなり初期の段階までだったんですけど。
いろいろできるたびに見ていただいて、「ここはもうちょっとサクサク動いてほしい」とか、そういうフィードバックをいただいていたんです。そこがわりと初期にクリアできそうな感じだったので、黒須さんからは「奥田君の思うようにやったらもう大丈夫だよ」と言ってもらえて。そこからはあまりマメに見てもらうということはやらなくなったんです。
※黒須一雄
1979年にナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)に入社。プログラマーとして『ラリーX』『ボスコニアン』『リブルラブル』など、ナムコ初期のビデオゲーム開発を支えた。1985年に、遠藤雅伸氏とともに株式会社ゲームスタジオを設立。『ゼビウス』のファミコン版移植や、ファミコン版/スーパーファミコン版『ウィザードリィ』シリーズのプログラミングを手がけた。
増田氏:
これは自分もそのひとりとして、愛を持って言うんですけど、たいていの3DダンジョンRPGファンって僕も含めて、面倒くさいじゃないですか(笑)。
古くさいものを作ると「昔から抜け出せていない」と言われちゃうし、ヘンにアレンジすると「古き良き3DダンジョンRPGはどこへいったんだ」と言われるし。作られる方たちは本当に大変だなと。
田村氏:
何かを変えると必ず文句が来るし、変えないとそれはそれで文句が来るし(笑)。そういった反応も分かった上で3DダンジョンRPGを作っていますし、そういう中から良いところが受け入れられていくと思うので。だから我々としては今、この『残月の鎖宮』の評価がどうなるのか、戦々恐々としているところです(笑)。
増田氏:
奥田さんとしては昔ぶつけられなかったものを、いい機会だからここにぶち込んだと?
奥田氏:
そうですね。あとはカジュアルゲームをたくさん作ってきたなかで、なるべく快適に遊んでもらうためにレスポンスをすごく速くするだとか、すぐに決着がついて次のプレイがパッと始まるだとか、そういうところをずっと心がけて作ってきたんです。
そういうノウハウがあったので、今回の『残月の鎖宮』もインターフェースやプレイ感覚は、けっこうサクサクになっていると思います。
増田氏:
たしかに、非常に快適でした。でないと一気に60時間もプレイできませんし。
奥田氏:
そういうところで「ムダに20年近く、カジュアルゲームを作ってきたんじゃないんだぜ」というところをなるべく見せられるようにがんばってみました。
ただ、「ここは分かりにくいな」と自分で思うところもいっぱいあって。最近は発売後にパッチとかも当てることができるので、「ちょっと不便だな」というところで直せるところは、できるだけ直していければと思っています。
「滅びの墨」の設定によって、ビジュアルと世界観をつなげる理由付けができた
増田氏:
これは本当に褒め言葉として受け止めていただきたいんですけども。『残月の鎖宮』には、クラシックな3DダンジョンRPGの良い部分がちゃんと詰まっていると感じました。
徹底して「和風」にこだわられていて、一見すると奇をてらっているようにも見えるんだけど、内容自体はすごくオーソドックスな3DダンジョンRPGで。やっていて個人的に、「原点回帰」している印象を強く感じたんですけど、やっぱりそういうところを目指されたのですか?
奥田氏:
後ろ向きな「原点回帰」ではなくて、なるべく世界中で投げずに遊んでもらいたいという気持ちがあって。そのために、あんまり小難しいシステムを入れちゃうと、せっかく興味を持って手に取ってもらっても、要素を理解するのに時間がかかったりして、そこで投げ出されたらイヤだなというのがあったんです。そこで、あえていろいろ削ぎ落としていった感じですね。
当然、ゲーム開発者の端くれとして(笑)「俺の考えた最強のゲーム」的に、戦場のお侍さんみたく武器を複数携帯してシチュエーションによって使い分けるような仕様、例えば、ダンジョンの狭い所では小ぶりな武器しか使えないとか……従者をお金で雇うと冒険の補助機能が付くとか、枝葉の要素は色々考えたんですが、そういう複雑になりそうな仕様は切りました。
あとはコアの開発のスタッフがすごく少人数で、あんまり複雑なシステムにすると条件がねずみ算式に増えて調整が大変になっていくので、なるべくシンプルにしたかったという事情もあります。まぁ正直、バランスを完全に取り切れたかというと、今もまだ甘い部分がいっぱい残っていると思っています。
増田氏:
先ほどのお話だと、まず最初に「画面がモノクロ」というところから、企画がスタートしているんですよね。でも画面をモノクロにするのは、すごく度胸が必要だったんじゃないかと思ったのですが?
田村氏:
そうなんです。試作の段階でいろいろやってみたんですけど、「やっぱりモノクロだとなぁ……」という感じだったんですね。最初の試作の段階で、ちょっと海外へ話を持っていったんですが、モノクロだとウケが悪くて。「何か色がほしい」と。
実際にカエルパンダさんに作っていただくなかでも、モノクロだけだと表現の難しさがいろいろと出てきました。いちばん大きかったのは、キャラクターのカラーバリエーションが作れないところですね。だから外観上の違いを入れるしかなくて。
結果的に、世界全体が完全にモノクロではなくて、攻撃のエフェクトであったり、場所によっては色味をつけていく形になりました。そういった部分が違和感のないようにするために、シナリオの部分でも「滅びの墨」という設定を入れることで、上手く世界を作っていただいて。
奥田氏:
「滅びの墨」の設定は、自分的にもナイスアイデアだと思っています。
ビジュアルが墨絵調であることに、何か深い理由付けにしたいなというのがあって。単に白黒の墨絵調なだけだと、奇をてらっただけで浅く見えそうだなぁと。ビジュアルと世界をつなげる舞台装置みたいなものを、いろいろ考えたんです。「色がなくなった世界」だとか、「ボスを倒すたびに色が戻っていく」とか。でもそれだとグラフィックのバリエーションをいっぱい持たないといけないので、予算から逆算しても無理だなと(笑)。
そんななかで「墨と結合した呪いの暗黒物質みたいなものに侵食されて、世界が大変なことになっている」という設定を思いついたんです。ただ、自分には文学的な教養がないので、劇作家の西田シャトナーさんに、世界観設定やシナリオをお願いしました。
シャトナーさんは原子レベルでの深い設定を考えるのが好きな方なので、墨の呪いの設定をお話ししたら、そこからいろいろと話が膨らんでいって。
そもそも「墨」や「炭」というものは、生物が死なないとできないんですよ。生物が焼かれて、炭化してできるものですから。だから「墨が怨念物質である」という設定だとか、西田さんとすごく盛り上がって。そんなふうに世界観に関してはずっと、西田シャトナーさんと二人三脚でやってきました。
増田氏:
たしかに「滅びの墨」の設定は、かなりユニークですよね。
奥田氏:
裏側の設定に関してはいろいろと考えてはいるんですけど、そこはユーザーさんに対してあんまり語っていなくて。ゲームの中で語られているテキストって、じつはものすごく少ないんです。その行間をユーザーさんの好きなように楽しんでもらいたいなと。そのために言葉の解像度をあえて上げていない感じにしています。
ただ、テストプレイヤーさんは自分よりもひと回り、下手するとふた回り下の世代の人たちだったので、「ビジュアルが少ないんじゃないか」とか、「ここってイベントがスカスカなんですけど」とか、そういう意見がけっこう飛んできて(笑)。
そういう意見が上がってくるたびに、自分もけっこう苦悩しました。最終的にそこをクリアできたのかというと、まだいろいろ課題が残っているという認識です。
増田氏:
3DダンジョンRPGのプレイヤーさんは想像力で楽しんでいるというか、3DダンジョンRPGの魅力のひとつは、想像力がかき立てられるところなので。そこはゲームのほうであまり説明しすぎても良くないですし。どれだけ情報を与えるかというのは、難しいですよね。
僕も設定はシンプルなほうが好きなので、そういう意味で『残月の鎖宮』は、想像力がかき立てられるなって思ったんです。画面がモノクロなところも、カラーよりは想像力がかき立てられますし。クラシックな3DダンジョンRPGをプレイしてこられた方は、僕みたいなタイプが多いと思いますよ。
それにしても「墨」という要素は、ビジュアル的にもシステム的にも相性が良かったんですね。
奥田氏:
というか、そこは1年ぐらいかけて整合性を取っていったんですけど(笑)。
増田氏:
あっ、そうなんですか。
奥田氏:
やっぱりビジュアル面が、ものすごく難しくて。
最初は「ダンジョンの壁に、墨で描いたようなテクスチャを適当に貼り付けておけば、なんとかなるかな」という、すごく軽い気持ちで考えていたんです。だけどあまり良い感じにはならなくて、ものすごく試行錯誤が必要になりました。見た目が良い効果が得られても、量産する時に作るのが面倒なフォーマットだとダメですし。
あとは、システムの中にもなるべく「墨」の要素を入れたいというのがあって。最初は行動するたびにHPが減少していくようないわゆる「毒」の要素として、「墨を受けた」ということにしていたんです。でも墨に侵されたプレイヤーが、もうちょっと真綿で締められていくような感じがないと、「滅びの墨」の設定と乖離しているなと思って。それで、「HPの上限がどんどんと侵食されていく」という、現在の形にしたんです。
増田氏:
墨でHPの上限が減るのは面白いアイデアだなと思いました。たしかにキツかったですけど、そういうシビアさも3DダンジョンRPGの醍醐味ですから。
奥田氏:
HPの上限が削られるのは、『フォールアウト』シリーズで放射能の影響を受けるとHPの上限が削られていくのに、影響を受けたアイデアですね。本当は、「滅びの墨」の影響を受けると何かのパラメータがプラスになるというのも入れたかったんですけど、それは上手く消化しきれなくて。
そういうふうに消化しきれなかったところは、いろいろあります。ユーザーさんから「なんでこうしなかったの?」と思われるところはおそらくたくさんあると思うんですけど、その大半はこちらも考えていたんだけど時間がなかったとか、こちらにまとめる実力がなかったとか、いろんな理由で実現できなかったところなので。
田村氏:
「それはこちらも気がついていたんだけど……」というところですよね(笑)。