試作段階では、現実の日本の歴史を舞台にした物語になっていた
増田氏:
これは余計な話なんですけど、アイテムで「手裏剣」を見つけて「やったー!」と思ったら、意外と弱くて(笑)。べつにスーパーアイテムじゃなかったんだ……って思いました。
奥田氏:
世界観的な話をすると、手裏剣とか日本刀みたいな日本製っぽいアイテムは、同じ威力でもちょっと値段設定が安くなっているんです。海の向こうから伝来した品と比べて「簡単に作れるから」という裏設定で。
ウチに降りてくる前にアクワイアさんのほうで作られていた試作版だと、わりとガッツリ昔の日本みたいな設定だったんですよ。種族とかの設定もなくて。
田村氏:
どちらかというと歴史物に近かったかなと。史実の一部から物語を膨らませて、その中で固定のメンバーがクエストをこなしていくというのが、試作時のシナリオだったんですね。そういう意味では、横の広がりが薄かったかと思います。
それに対して、完成した『残月の鎖宮』はあくまで「和“風”」で、現実の日本の歴史とは関係がないというイメージで作っています。
奥田氏:
現実の歴史のある一点を取り上げると、何かを設定していくにしても全部その縛りが出てくるのがイヤだなというのがあって。プレイヤーにも教養を求めるみたいな感じになってしまうのも、あまり良くないんじゃないかなとも思いましたし。伝統と格式を求められるジャンルで、設定に対して歴史警察みたいな方に、ゲームと関係ないところでツッコまれて足元を掬われるとかとかも避けたかったので。
土台となる設定はしっかりしているんだけど、その上でプレイヤーが自分なりの想像をしながらプレイするのに、邪魔にならないような世界観のほうがいいんじゃないかと。なので、試作の段階であった設定とかは、全部なかったことにさせていただいて。
増田氏:
歴史物というのも、それはそれで興味がありますね。源平の戦いを採り上げた3DダンジョンRPGとか、南北朝の戦いを背景にした3DダンジョンRPGとか。でもおっしゃるように、史実をどんどん入れちゃうと、すごく制限されてしまうし……。
田村氏:
物語もどうしても広がりにくいですし、歴史に興味のないユーザーさんだと「これはよく分かんないな」と、のめり込み度が今ひとつ下がりそうだし。
増田氏:
作る側としても難しいですよね。歴史に詳しい方だと逆に、自分の常識が邪魔になりそうだし。「こんなことないよな」と、詳しい人ほど作りにくくなりそうで。
奥田氏:
職業の設定とかも、制約が出てきそうだったので。それで、いわゆる西洋ファンタジー要素強めで「指輪物語の世界」と「江戸時代」が融合したみたいな感じで、和の世界にエルフとかドワーフとかも存在しているという世界にしたんです。
増田氏:
そういえば『残月』は、どんな種族も職業も漢字の当て字になっているのが、こだわりですよね。
奥田氏:
「窟法人(クツホウビト)」という、同系の作品だとノームとホビットを合わせたような能力の種族がいるんですけど。これは監修の三遊亭楽天さんが「ホビットって固有名詞は使えないんですよね? じゃあ、Cavegramというのはどうでしょう」と提案してくれたんです。
それを更に捻って日本語風の呼び名にする時に、西田シャトナーさんが「ホビット」の響きをもじった「法人(ホウビト)」という案を出してきてくださって(笑)。このネーミングは自分的にも会心のネタと思っています。
増田氏:
ドワーフが「達磨夫(ダルマフ)」なのは、あの達磨(だるま)さんのイメージですか?
奥田氏:
そうですね。達磨さんのビジュアルがドワーフに似ているかなと思いまして。じつは自分の父親が生前、彫刻家だったんですが、父親の作った達磨がすごくドワーフっぽいんですよ(笑)。
増田氏:
職道のほうは、「侍(サムライ)」とか「法術士(ホウジュツシ)」とか基本的に日本語っぽい言葉になっているのに、種族の「斥夫(シーフ)」と「門狗(モンク)」はカタカナの当て字ですよね。これは何か意味があるんですか?
奥田氏:
舞台となっている都市「異土(イド)」は長崎の出島みたいに、政府機関としては鎖国中なんだけどそこだけは外国との貿易が許されていて、海外の人も入ってきているという設定なんです。
そういう文化だと、外国の言葉をそのまま採り入れた新しい言葉が生まれていそうだなって思って、あえてカタカナの当て字にしてみました。「ソーイングマシーン」が日本語の「ミシン」になったみたいな感じで、ソード(SWORD)が本作だと「スォド」だったり。
「和風」というところにガチガチにこだわりすぎても、それはそれで窮屈だなと思ったので。ちょっと遊んでいる部分があったほうが、プレイヤーさんも想像の余地が生まれるというか、「ここは勝手に想像していいんだ」というふうになるのかなと。
増田氏:
ゲームの中のいろんなところで、日本語と英語が併記されているじゃないですか。それも「面白いこだわりだな」と思ったんですけど。
奥田氏:
日本語と英語が併記されているのは、こだわりというよりはじつは海外版をローカライズする時になるべく工程を少なくしたいという配慮だったんです。そうしたら韓国語版で「日本語を全部取ってくれ」という注文が入って、結局今、そこに全部手を入れているんですけど(笑)。
田村氏:
海外展開を意識するとどうしても、英語は必須だなというのがありましたね。
奥田氏:
アイテムと呪文に関しては、あんまり凝った名前にすると、逆にプレイヤーのイマジネーションを邪魔してしまうのかなと。なので本当に最低限の名前というか、他の言葉と比べると、だいぶ底の浅い名前になっているんじゃないかなと思います。
そういう意図なので、もし気になるのならお好きな名前で呼び変えてくださってけっこうです(笑)。
敵に関しては日本の古典の妖怪、鳥山石燕の『図画百鬼夜行』に載っているような妖怪をベースにしているのですが、並べてみたら、名前が今ひとつカッコ悪いものも多くて(笑)。語感がイマイチだなって思うものは、あえて外したりしました。
増田氏:
ということは、オリジナルのモンスターもけっこう入っていると……?
田村氏:
妖怪は古典から引っ張ってきていますけど、それ以外はオリジナルですね。
奥田氏:
うーんと、妖怪以外全部オリジナルというよりは、RPGの定番モンスターがこの世界にいたら?というのが多いと思います。敵の強さの分布のリストをこちらで作って、それを元に三遊亭楽天さんに叩きのリストを作成していただいて、そこから膨らませていきました。 デーモンとかも出てくるんですけど、そちらは楽天さんから「アボラス」とか「バニラ」とか、怪獣の名前をつけるアイデアとかも出ていたんです。でも自分としては、あまり特定の色がついていないほうが良いかなと。
意識としては新しいものにしたかったので、既存のコンテンツのモロ分かりなオマージュはなるべく避ける方向にしたくて。それで、レッサーデーモンにあたるヤツが汎用の魔で「汎魔」とか、グレーターデーモンにあたるヤツが「弩級魔」とか、わりとストレートな名前にしてます。
定番以外だと「般若」「鉄輪(かなわ)」とかは伝統芸能の能が出典だったり。オリジナルでいうと、人間の手みたいな形状の「腕蜘蛛」は西田シャトナーさんの発案。他に敵に関するエピソードとしては最序盤のザコ予定だった「ぬっぺっぽう」「目競」あたりは森野ヒロさんのデザインがカッコ良すぎて当初よりグレード上げたみたいなものもあります。
海外の人からは「テーブルトークRPGのデジタル化」に見えるゲームにしたかった
増田氏:
僕はこのゲームの、水墨画のような荒涼としたビジュアルがすごく好きで。マニアックな例えをすると、昔、白土三平さん原作の『サスケ』という忍者アニメがあったんです。あのアニメも人物以外の背景は、あまり色合いが強くないモノクロの水墨画っぽい感じだったんですが、すごく効果的で時代劇っぽい渋さが出ていた。このゲームをプレイして、それを連想しました。
奥田氏:
ダンジョンが墨絵風にじわっと描画されるロジック含めたダンジョン全体の制御は、マーティンさんというカナダ在住のプログラマーの方に組んでもらったんです。元々もっと全面的にゆっくりじわーっと描画されていたんですけど、慣れてくるとだんだんウザくなってきて。
プロモーション上はそういう見た目のほうが、もしかしたら良かったのかもしれないですけど。でも繰り返しプレイしているなかで、それを毎回見せられるのもけっこう厳しいなと。
増田氏:
それはたしかにそうですよね。
奥田氏:
ダンジョンの描画とか、最初はそんなに凝るつもりはなかったんです。でもせっかく墨絵という題材を扱うからには、もうちょっとどうにかしたくて。マーティンさんはふだんアメリカの某大手自動車企業に勤めている、おそらく自動運転技術とかの超絶エンジニアなんですけど、ゲーム作りが大好きで。ふだんは自分のゲームエンジンを作ったりされてるんですが、お手伝いをお願いすると柔軟な頭でこちらの要望をかなり的確に受け取って超スピードで対応してくれる、ゲームのプログラマーとしても超絶優秀な方です。
でもゲーム作りを専門で仕事にすると給料が今の3分の1ぐらいになっちゃうらしくて、彼の趣味と実益を兼ねて(笑)彼の空き時間にウチの仕事を副業で手伝ってもらったりしています。
ワールドワイド視点で違和感ないものを目指すにあたって、外国人から見て直感的な操作系についてとか、今後予定されているSteam版のキーアサインについてとかは彼の意見をかなり参考にしています。
田村氏:
今回はけっこう、日本と海外の混成チームなんです。
増田氏:
エンディングのスタッフロールを見ると、いろんな方がいらっしゃいますよね。さっきお名前が出た落語家の三遊亭楽天さんとか。
奥田氏:
三遊亭楽天さんは、ゲーム関連のネタを落語にされたりしている方なんですけど、この方もファミコン版『Wiz』原理主義者だなと思ったので(笑)、こちらの陣営に引き込もうと思ってお声がけしたんです。
田村氏:
「3DダンジョンRPGのファンとして、どうしてほしいですか?」というのをお聞きする、ご意見番みたいな形ですね。
奥田氏:
演目で「TRPG落語」とかもやられているので、現代のTRPG文化ともう少し融合したいなという時に、お話を伺ったりもしましたね。
増田氏:
楽天さんご本人と直接お会いしたことはないんですけど、じつは僕もTwitterの相互フォロワーなんです(笑)。ツイートを拝見していると、3DダンジョンRPGに愛のある方だと思うので。
それにしても、ここまで「和」に徹した『Wiz』ライクな3DダンジョンRPGって、これまであまりなかった気がするんですけど、どうですかね?
奥田氏:
『ウィザードリィ外伝IV 〜胎魔の鼓動〜』は、かなり和風でしたよね。
増田氏:
スーパーファミコンですね。でもあのゲームの画面はカラフルでしたよね?
奥田氏:
たしかにそうですね。
ちなみに、『残月の鎖宮』のプロジェクトは、先述の試作版や『ととモノ。』含めて過去からの引用は一切なくて、データ処理といった各メンバーのノウハウ持ち込みを除いて完全新規作成です。内部の計算式とか、まったく違っているのであんまり『Wiz』を引き合いに出されると釈然としないものがあります(笑)。
バランスだとかプレイ感覚が似てると感じる部分は、後付でそう感じるようなパラメータにしてたり、『Wiz』と同じルーツを消化してる事に起因していたりもします。基本的に全てバラしてゼロベースで根っこから消化し直しています。
日本人の目から見たら『残月』は、『Wiz』ライクのクラシックな3DダンジョンRPGに見えると思うんですけど。でも海外から見たら、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(『D&D』)や『パスファインダーRPG』みたいなテーブルトークRPGをデジタル化したものに見えるという、そういう建て付けにしたかったんですよ。
増田氏:
それは興味深いですね。
奥田氏:
海外ではコロナ禍で『D&D』のオンラインプレイがすごく盛り上がって、世界的に今、『D&D』が大ブームになっているんです。日本ではなぜか『D&D』よりも『クトゥルフ神話TRPG』のほうが人気なんですけど(笑)。なので、できれば海外のそういう層にもアプローチできたらなと。今ブームが来てるからこんな事言ってるんじゃなくて、これはウチで企画を立て直した当初から考えていたことで、アクワイアさんに提案した企画書にもそんな感じで記述してました。
昔の『ウィザードリィ』は、当時の『D&D』や『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』がベースになっているんですけど、今のテーブルトークRPGは「d20システム」【※】というゲームシステムが、世界的な主流になっているんです。
そこで『残月の鎖宮』も「d20システム」を意識して、すべての計算式とかを再構築しています。開発に時間がかかってしまったのも、計算式を完全に新調したので、そこが安定して動作するかの確認に、かなり時間がかかってしまったところがあって。
※d20システム
テーブルトークRPGの汎用的なルールシステムで、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が第3版に改訂された際のルールがベースになっており、20面体サイコロ(d20)を使って行為の判定を行う。この「d20システム」は商業利用も可能な一種のオープンソースとなっており、新作TRPGのゲームシステムとして利用されたり、『トラベラー』や『クトゥルフの呼び声』といった人気TRPGのd20システム版が発売されたりしている。
増田氏:
そういう見えない部分でも、今までの3DダンジョンRPGとはかなり違っているんですね。
奥田氏:
システムを構築していく上で、もしかしたら旧来の3DダンジョンRPGファンからは嫌がられるかも知れないけれど、あえてそうしたところで言うと、今のTRPGとかの仕様にあわせた部分があって。
たとえば昔の『D&D』やそれを原典とした『WIZ』だと、アーマークラス(※装備によって敵の攻撃の命中率が軽減される数値)がマイナスになっていくほど良かったんですけど。でも『残月』では、アーマークラスが高くなっていくほど良いという形になっていて。それは完全に今のd20システムの『D&D』に合わせたところです。
ヒーラー系が刃物を装備できるというのも同様です。旧来の日本の3DダンジョンRPGだと、聖職者は戒律とかによって刃物を装備できないという伝統があったんですね。初期の『FF』なんかもそういう仕様になってたと思います。
でも昔の日本では僧兵が薙刀を持っていたりしたし、近年の『D&D』などではクレリックが刃物を持っていたりするので、それで本作でも刃物を装備できるようにしたんです。
あとはHPがゼロになった時、やはり近年の海外のTRPGだと「死ににくい」ルールが一般的になってて、死ぬ前に一回、生死判定が入るんですね。それによって死んでしまうか、仮死状態になるかが変わるという。『残月』ではそれも採り入れました。その代わり、生き返らせる時にコストが掛かるとか、ロストする可能性があるとか、わざとそこは厳しくしたりしているんですけど。
増田氏:
僕もプレイしていて、何度もキャラの蘇生に失敗しましたね(笑)。侍と魔術士がよく死ぬんですよ。それを蘇生しようとして、けっこう灰になっちゃうことが多く、お金が足りないんでリセットしました(笑)。
奥田氏:
本作では、とにかく死の取り扱いを重くしたかったんですが、そうするとHPゼロで死ぬ仕様では序盤から大ダメージを食らうようなバランスってやりにくくて。HPゼロを即死でなくしたことで、結果的に当初考えていたものよりバトルがダイナミックになりました。
ちなみに上級モードだと、寺院の復活で結果が出る前に裏側で勝手にセーブしちゃうので、リセットしてもやり直しが利かないようになっているんですよ(笑)。
田村氏:
そこはあくまでユーザーさんの選択次第なので。よりヒリヒリしたプレイを味わいたい人は、ぜひ上級モードを選んでもらえればと思います。
クラシックな作りではあるけれど、操作面では「古さ」を感じさせないものに
増田氏:
こうやってお話を伺うと、一見すると原点回帰に見えても、特にシステムの部分に関しては、カエルパンダさんならではの工夫がいろいろと加わっているんですね。
——逆に、オールドスクール的な古くささを、あえて残しているところはあるんですか?
奥田氏:
宝箱の罠を1個1個解除していくところ、とかですかね。
例えば『ウィザードリィ』での罠の解除は、大元のパソコン版では「罠の名前をキーボードで打ち込んでいく」という形だったんです。それがファミコン版では、罠の名前のリストがズラッと並んで、その中から正解を選ぶ仕様になって。でも個人的には、その仕様は無粋だと思うんですよ。一方で『ドラクエ』とかの宝箱の感じだと簡略化されすぎだなぁと。
『残月の鎖宮』では、宝箱を調べることで罠の正体は具体的に判明するのですが、ここでワンクッション操作が必要になる事で、罠を解除する儀式自体の感覚をあえて残したという感じですね。
増田氏:
今回はいろんなところが長押しの操作になっているじゃないですか。操作ミスを防ぐという意味でも、あの長押しの操作って良いですね。
奥田氏:
内容的には古くさいゲームかもしれないんですけど、今のゲームを遊んでる人が触った時に「あっ古っ」とは思われたくなかったんです。ゲームのインターフェースってずっと進化しているので、取り込めるところはなるべく取り込みたいと。
長押しに関しては、初見のスタッフからは「ウザい」という意見もあったんですよ。その声も、基本的に1時間もプレイしたら「ああ、なるほどね」となったんですが。本当にウザい部分はカットしたり時間を調整したり、ここは必要な面倒くささだろうというところはあえて残しました。実際にダンジョン探索している時に、そんなにサクっと探せるわけがないじゃないですか。本当はスキルレベルが上がるとだんだん時間が短縮されていくとかやりたかったんですが、このあたりをもうちょっときれいに消化できるとベストでした。
基本的には増田さんがおっしゃったとおり、誤操作を防ぐ意味だったり、ゲーム的に色んな事象を消化する仕掛けとして長押しを使っています。勝手にどんどんセーブされていって後戻りできないゲームなので、「その判断で本当に良いのか?」ボタンをじーっと押しながらプレイヤーの意志決定をしっかり伝えてもらいたいという意図もあります。「はい」「いいえ」のダイアログをいちいち表示しなくても済むメリットもあります。
そうやっていろいろと考えながらUIを作っているんですけど、「ここは直さないとダメだなぁ」というところがいまだにいっぱいあるんですけどね(笑)。
あと、どうしてもプレイヤーさん毎にプレイスタイルが違うと思うし、色んな意見出てくると思うので。最初は何かしら叩かれるのは覚悟してます。
増田氏:
まぁ、どれが正解かというのは答えがないから、難しいですよね。
奥田氏:
じつはUIのデザインに関しては、初期の段階でアクワイアさんから「もっと派手にしてほしい」というオーダーがあって。けっこうバトルしたところではあるんです。あんまりうるさいデザインのUIだと、繰り返しプレイした時に絶対に目障りになるので、ここだけは譲りませんでした (笑)。
増田氏:
そういえば、キャラの顔グラフィックを文字に変更できますよね? きっと、これもわざとそうしたんですよね?
奥田氏:
以前にモバイル&ゲームスタジオで『ネザードメイン』という3DダンジョンRPGが作られてて、自分は現場のすぐそばにいたのですが、その時もユーザーさんから、顔グラフィックについてはいろんな意見が届いていたので。なので、顔グラフィックを表示するかしないか、選択肢を用意するべきだと思いました。
とはいえ、顔グラフィックを表示したい人からすれば逆に、バリエーションがあんまり少ないのも良くないだろうと。そこで予算をやりくりして、ここまで用意すればとりあえず許してもらえるかなというラインまで頑張って増やしました。
田村氏:
バリエーションは増やしつつ、増田さんみたいに「顔グラフィックはいらない」という人の声にも応えたいと(笑)。
増田氏:
もちろん「顔グラフィックがなきゃイヤだ」という人もいるでしょうし。ユーザー側で選べるのはいいですよね。
奥田氏:
あとは、ダンジョンから地上に出てきて、いちいち「宿屋に泊まる」と操作を行うのは、面倒くさいと思っていて。旧ゲームスタジオが作っていた携帯電話版の『Wiz』だと、地上に出てきた時点でHPとかが全部回復する仕様だったんです。あれはけっこう良かったなと思っていたので、『残月』でも便利なところとして踏襲しました。その上で、墨の影響を回復するのだけにはお金がかかるって形にしたんです。
ただ、墨の影響を回復するのはちょっと厳し目の設定にしたんですけど、ちょっとキツくしすぎたかなと……。
田村氏:
そのあたりは増田さん、どうでした?
増田氏:
バトル中にボスキャラが、墨をバンバン撃ってきて。「ヤバイ、こっちの回復が追いつかない!」というのはありましたけど。地上に出てからはお金でなんとかできるので。
地上に戻ってきたら自動的に回復するというのは快適ですよ。だって回復は誰もが絶対にやることですから。たしかに墨の影響だけは残っていて、自分で取り払うひと手間が入りますけど、それにしたってエナジードレイン【※】に比べればマシでしょう(笑)。
ちなみに『残月の鎖宮』には、エナジードレインに相当するものってないですよね?
※エナジードレイン
『ウィザードリィ』シリーズでモンスターが使ってくる特殊な攻撃法。攻撃が命中したプレイヤーキャラのレベルが減少する。
奥田氏:
コードの中にはあるんですけど、実際のゲームに入れるかどうかですごく悩んで、現段階では入っていないです。
増田氏:
ということは、これから入ってくるかもしれない?
奥田氏:
かもしれないですね。
増田氏:
昔の『ウィザードリィ』だと敵が「4レベルドレイン」とか繰り出してきて、命中するとそれまでの経験値がパーになっていましたから、凶悪でしたよね。
奥田氏:
昔の『ウィザードリィ』で、敵がいろんな状態異常のついた攻撃をしてくるのが、自分はすごく好きだったんですよ。ちょっと笑っちゃうじゃないですか。「毒を受けた」「マヒした」「石になった」「レベルを下げられた」と。
増田氏:
複数の状態異常がいっぺんに来るのはゾクゾクしましたよね。あげく「首をはねられた」とか(笑)。『ウィザードリィ』プレイヤーはドMが多いから(笑)。
奥田氏:
あとでネタにして、誰かに話したくなりますよね。そういう要素は『残月の鎖宮』にも入れたんですけど、さすがに「首をはねられた」みたいな即死攻撃は入れなかったんです。正確には、即死することもあるんですけど、それはクリティカル状態になるとダメージが2倍、3倍になる仕様があるので……。
増田氏:
一発の攻撃のダメージが、即死するぐらい大きくなるわけですね。
3DダンジョンRPGならではの「4つの魅力」が、『残月の鎖宮』でもしっかりと味わえる
——自分は『ウィザードリィ』の原典を遊んだことがなくて。だから今の増田さんと奥田さんみたいに、自分よりも上の世代のゲーマーの方々が古典3DダンジョンRPGを語っているのに対して、憧れみたいなものがあるんですよ。
なんだかオールドスクールな感じで、カッコよくて。最近だとコミックの『ダンジョン飯』で昔の『ウィザードリィ』や『D&D』みたいなエピソードが出てきたりするのも、面白いですよね。
他のファンのみなさんも、とんでもない状態異常を面白がったりとか、そういうところを大事にしている気がするんです。長年のファンから見て、『ウィザードリィ』といった古典3DダンジョンRPGで「ここが面白かった」というのは、具体的にどういうところですか?
増田氏:
僕個人が感じる『Wiz』の魅力というのは、4つあって。まずは「生死ギリギリの戦闘」ですね。どれだけ鍛えてレベルを上げても、一撃でキャラが死んだりしますし。こちらの魔法攻撃がぜんぜん通用しない敵が出てきたり、とにかく安心ができない。どれだけキャラを鍛え上げて、どれだけ良い装備にしても、いったんダンジョンに入れば、ずっと死と隣り合わせにいる緊張感があるという。
次に、今はそういうゲームもいっぱいあると思うんですけど、キャラクターをいじくり回せる楽しさですね。『Wiz』は前のキャラクターの良さを受け継いだまま新しい職業に転職できる。魔法を使える戦士や、治療の呪文を使える忍者が育成できたり、自分なりの転職の仕方によって、いろんなキャラクターを作り上げられる。
3点目は「アイテム探し」ですね。一度ゲームをクリアしただけでは出てこない、3、4回クリアしてようやく出てくるようなレアなアイテムがあって。
昔の『Wiz』だと村正とか、手裏剣とか、聖なる鎧とかですね。そういうレアアイテムを見つけた時の喜びもあるし、その見つけたレアアイテムを店に売ることで、店先に並べられる。あんな古くから「集めゲー」の要素があったというのは、なかなかスゴイなと思います。
4点目は、シンプルゆえに想像力をかき立てられるところですね。余計なストーリーも、長すぎる演出もないですし。グラフィックも非常にシンプルで、自分のキャラの外見も表示されなければ、アイテムも文字だけ。
でもそれによって、想像力豊かなプレイヤーはその人独自の物語を作り上げることができる。想像力が豊かな人ほど面白くなってしまうというのは、初期の『Wiz』ってズルいゲームだな、と昔から思っているんです(笑)。
奥田氏:
あとはファミコン版での味付けの仕方が、その当時に「『ドラクエ』ってちょっと幼稚だな」みたいに感じていた、ちょっと背伸びしたユーザーの中二病心を刺激したというか。
たぶんね、大元のパソコン版はそこまで深く考えて作られていなかったと思うんですよ(笑)。
増田氏:
僕もそう思います(笑)。
奥田氏:
それがファミコン版で、原作の不具合が直されたり、パソコン版の100倍高速に動く『ウィザードリィ』ができたことによって、プレイのサイクルをより良い形でプレイヤーが体験できるようになって。
増田氏:
でもゴマをするわけじゃないですけど、僕がさっき『Wizライク』の魅力として挙げた4つの要素は、この『残月の鎖宮』でも同じように楽しめると思いました。
田村氏:
ありがとうございます。
奥田氏:
転職に関しては、初期の『Wiz』とかだと転職すると、パラメータが種族の基本値まで下がってしまったり結構厳しかったんですよね。
『残月』では、転職直後はパラメータ下がったりするんですが、近年の『D&D』系のRPGのサブクラスの概念や『ソード・ワールド』の職業の取り扱いを昇華するような感じで、もうちょっとモダン目に、覚えたスキルだとか、なるべく職の経験が引き継がれるような作りにしています。
アイテム探しに関しては、各鎖宮に全部レアアイテムを設定しているので。その情報をプレイヤーさんに暗示するような場をもうちょっと設定すればよかったかな……というのはあるんですけど。大半の方はそこをスルーしちゃうと思うので。まあ、今はネットですぐにネタバレするかなぁってのはあると思うんですが。