RPGは操作も音楽も「長時間繰り返しても飽きないようにする」ことが重要
田村氏:
自分もファミコンの頃から、その時代時代の3DダンジョンRPGを遊んできて。なぜ魅力的に映っているかというと、正直よく分かっていないところがあるんですよね。
ただ、自分が幼少期……ではないですけど、ゲームを遊び始めた初期に刷り込まれているせいなのか、あるいは本当に何か、自分を掴んで離さない魅力があるのか、自分の世代だと微妙に判断しづらいところがあって。
RPGというといわゆるフィールド型、日本でいうと『ドラゴンクエスト』みたいなものと、3Dダンジョンというある種、ふたつのジャンルがあるわけで。自分としては、世界の中を移動する様子を自分の視点から見られるというのが、体感的な部分としては大きいのかなと思うんです。
あとはアクションバトルじゃなくて、コマンド操作というのが大きいと思います。自分で行動を入力するというところで、戦ってる感というか、臨場感が大きいのかなと思っています。
増田氏:
僕もふだん、「3DダンジョンRPGの魅力とは何か?」なんてことを深く考えてプレイしたりしないですけど、あえて言うなら「潜っている感」ですかね。
「潜る」ことなんてふだんの生活ではそうそうないですから、非日常ですよね。その時点でファンタジーだし、夢見がちな感じがしますし。
野外が舞台のRPGだと、そこまで非日常感はないかなと思うんです。それはそれで晴れやかな楽しさがあるんですけど、「潜る」というのは何かいけないことをしちゃってるような、スリリングな背徳感があるのかなと。ダンジョンの中は必然的に地味ですから、野外を冒険するよりは想像力もかき立てられますし。
奥田氏:
自分が好きな3DダンジョンRPGって『Wiz』の初期作も良いんですが、冒険感のあるやつの方が好みで『マイト&マジック』とか『Wiz』シリーズでも『5』とか『BCF(Wizardry Bane of the Cosmic Forge)』の方が好きだったりします。スーファミの『BCF(ウィザードリィ6禁断の魔筆)』は名作と思ってます。なので野外を冒険するのはアリ派です(笑)。『残月』でも何気にそのエッセンスはわりと濃かったりします。
『残月』でも本当は、もうちょっといけないことをできるようにしたかったんです。善悪の属性というのをもうちょっと、ゲームのシナリオ進行上に反映させたかったんですけど、そこは時間が足りなくて。
善の人は回復の能力が高くて、寺院で復活する時の確率も上がる。悪の人は戦闘力が高いんですけど、復活の確率が下がるという違いがあって。今回、善悪混成のパーティ構成ができるんですよ。でも、善と中立しか使えないスキルがあって、善悪混成だとそれが一部使えなくなったりするんです。
本当はゲームの中で、善行を積みたいんだけど常にトロッコ問題のような課題がどんどんと湧いてきて、何かを犠牲にするという判断をしたほうが絶対にラクになる……みたいなシチュエーションをやりたかったんです。
増田氏:
面白そうですね。
奥田氏:
もし次を作らせてもらえるなら、そういうアイデアが今あるんですけど。でも今回の『残月』がユーザーさんからポジティブな反応をいただけないと、次を作れるという話にもならないので(笑)。
増田氏:
僕は最初、『残月』ではキャラのアラインメントはあんまり関係ないのかと思っていたんです。それで、中立で白騎士を作っちゃったら、スキルがぜんぜん使えなくて大変でした(笑)。
田村氏:
増田さんが『残月の鎖宮』をプレイしている時に、他に何か気になった点はありますか?
増田氏:
気になったところとしては、『ウィザードリィ』で言うところの「マロール」の呪文がない点ですね。好きな場所に移動できるテレポートの呪文が存在しないのは、これも意図的なんですか?
奥田氏:
そうですね。ワープの呪文に関しては最後まで悩んだところで。自由に移動できるというのは不具合が起きやすいのとUIの実装も複雑になってしまうので、正直そこは開発の都合とかもある感じですね。
その前に覚える「帰還」の術もリスクありにするか無しにするかで相当悩みました。
増田氏:
あとは高速バトルの仕様ですかね。最初、戦闘メッセージの表示が速くて「ちゃんと見たいな」と思っていたら、途中で「あっ、速度を切り替えられるんだ」と気づきました。
田村氏:
そのあたりは、説明がちょっと不足していたかもしれません。
増田氏:
今は戦闘中のメッセージの表示が速いか、遅いかの切り替えですよね。僕の好みとしては戦闘中にメッセージの表示が止まって、自分でボタンを押すことで次に送れる機能があると嬉しいかな、と思いました。アイテムを装備してどれぐらいの効果があるのか、一個一個のメッセージを確認したい時があるので。
奥田氏:
自分としては「サクサク動いてほしい」というのを主眼に置いていたので、増田さんが今おっしゃったように「一手ごとに止まって確認したい」というのは、ぜんぜん想像もしていなかったです……。ちなみに、ログは右スティックで辿ることができます。
増田氏:
僕はアイテムを見つけるのが嬉しいので、「このアイテムはどれだけのダメージを与えられるのかな」というのを、装備した後に確かめたくなるんですよ。
田村氏:
なるほど。
増田氏:
でも僕が今回プレイしていていちばん感心したのは、やっぱり「和」の強烈なイメージと、あとは操作がすごくラクだったというところですね。
奥田氏:
自分がハマれるゲームって、ゲームバランスが良かったり、UIが快適だったりというところがクリアできていないと、自分としてはまったくハマれないんですよ。だから今回は表面的な派手さよりも、そこの手触りの部分にいちばんこだわっていて。
——アクションゲームで手触りが大事というのはよく分かるんですけど、RPGの手触りというのは、どういうところにこだわりがあるのですか?
奥田氏:
RPGってアクションに比べて、長時間ずっと遊び続けるゲームじゃないですか。そうなると、なんというか「手になじんでくる感じ」がないと、やっぱり厳しいところがあると思うんですよ。
田村氏:
同じ操作を何百回繰り返しても、苦にならないようにすることがすごく大事だと思うんです。逆にルーティン化して、手が勝手に動くようになるのを目指す感じですかね。
奥田氏:
「何百回繰り返しても、苦にならないようにする」というのは、音楽も同じですね。すぎやまこういち先生が『ドラクエ』で「聴き減りしない音楽」ということをおっしゃっていて。『残月の鎖宮』でもそこは、スーパースィープさんがすごくこだわってくださいました。
バトルの音楽なんかは開発中からずっと、ものすごい回数を聴いていますけど、いまだに飽きていないですよ(笑)。
増田氏:
それは説得力がありますね。
田村氏:
長時間プレイすると同じ操作を何度も繰り返すように、音楽も同じ曲を何度も繰り返し聴くことになるわけで。そういう意味で、何度聴いても「もういいよ」とはならない曲にする。「聴き減りしない音楽」とはそういうことですよね。
増田氏:
3DダンジョンRPGは想像力を大事にされるプレイヤーさんが多いので、音楽も重要ですよね。曲によってイメージが固定されてしまうこともあるし、「この曲は違うんじゃないか」と思う人もいるでしょうし。
奥田氏:
バトルのデモ曲をこちらにいただくまでに、スーパースィープさんのほうでセルフリテイクを出されていて。そのバトルのデモ曲は10曲目だったらしいんです。「これまでにボツにした曲が9曲あります」と言われて。デモが出来てからは時間を掛けて尺を伸ばしながらどんどん磨き上げて下さって、そこまでこだわってくださいました。他にも「決定のSEを連続で鳴らす時はそれぞれの音が途切れないようにして欲しい」とか(笑)、細かい要望も頂いて、わざわざそういうふうに実装しました。
これから発売されるDLCで、ストーリーの続きやさらなるやり込みが楽しめる
奥田氏:
先ほど増田さんが挙げられた『ウィザードリィ』の4つの魅力は、自分としてもまったくその通りだと思っていて。その中でも「生死ギリギリの戦闘」というのが、個人的にはいちばん楽しいところだと思っているんです。
だから、これは暴言なんですけど、リスクのないゲームってつまんないと思っていて「無限にレベルを上げ続けて強くなる」というのは、自分にはちょっと理解できないんですよ(笑)。
田村氏:
自分としては3DダンジョンRPGって、画面が常に前を向いていて敵と対峙しているところに、ビジュアル的な魅力があるのかなと。たとえば絵がまったくなくて、テキストだけですべて進行していったとしたら、どこまで魅力が感じられるのかなと思うところがあって。
そういう画面の中で「生死ギリギリの戦闘」が行われるというのは、改めて項目として挙げていただいて、すごく納得いたしました。その緊張感が、今のプレイヤーさんとどこまでマッチするのかな、というのもあるんですけど。常に緊張しているのも疲れるので。逆に言うと、そこが苦にならないような何かしらの施策ができていれば、いいのかなと。
奥田氏:
今このジャンルのものを作ろうとした時に、ユーザーさん的には求めているものがあって。増田さんとか田村さんが今おっしゃったところがコアだと思うんですけど、商品としての体裁を考えた時にどうしても「売りにくいな」とか、「こういう要素がないと手に取ってもらえないかな」という色気が出てきて。
それで、今言われたようなコアに徹しきれなくて、昔からのユーザーからそっぽを向かれるというのがあるのかなと。
それで言うと今回の『残月』は、萌え要素とかもないし、ぜんぜん媚びてないところがプロモーション的にはすごくやりにくいだろうなと思っていますけど。
田村氏:
正直なところ、かわいい女の子はぜんぜん出てこないですしね(笑)。PVを作った時もとにかく敵、敵、敵みたいな感じで。
奥田氏:
グラフィックの予算の80パーセントは、敵のグラフィックに割いていますから(笑)。
増田氏:
敵のグラフィックと言えば、出てくる敵の大きさって一体一体、微妙に違いますよね?
奥田氏:
HPが大きいものほど、身体も大きいんです。
増田氏:
やっぱり! 最初は「遠近法でそう見えるのかな?」と思ったんですけど(笑)。そこも凝っていますよね。
あと、さらなるやり込み要素が今後追加されるのか気になりますね。クリア後に「これってエクストラダンジョンとかないの?」と思ったんですけど、でもよく見たら、価格が3000円台じゃないですか。この価格でこのボリュームなら十分だ、って思いましたよ。
奥田氏:
このゲームって、今のところは『ドラクエIII』で言うとバラモスを倒したところで終わっているんですよ。定価が発表された時に「これってボリュームが少ないんじゃないの」と、Twitterでつぶいやいたりされてる方もいらっしゃったんですけど……。
増田氏:
ということは……?
奥田氏:
本編の続きとなるストーリーが収録されたDLCを出す予定です。「滅びの炭」だとか「残月の地」というのはなんだったのかも、このDLCのほうで明らかになる内容になっております。
あとはより難易度の高い上級モードもあるので、通常モードでクリアした方は上級モードでパーティの組み合わせを変えたりして2回目、3回目を遊んでほしいなと思います。そのために、一回クリアした時のデータはそのまま残しておいてほしいなと。
ちなみに、PS4版のプレイ時間のトロフィー条件はセーブスロットを跨いだ総計になっています。
田村氏:
DLCはクリアしたデータを受けて、その続きをプレイする形になるので。だからクリアしたデータを使ってさらにやり込んでいくと、ちょっとバランスが悪くなるかなと思います。
奥田氏:
本当はレベルキャップを入れたかったんですよ。昔の『D&D』で言うと本編はベーシックルールで、DLCはエキスパートルールみたいな内容になっていて、上級ルールで高レベルが開放されてよりレベルの高いダンジョンで続きをやるという。そういうイメージでまとめたかったんですが、日本のジャンルのファン的にそこは許されないだろうというところで、キャップを入れたりルールを多段階にするのはやめました。じつは結構ギリギリの段階まで上級職はDLCで開放することも検討していました。現状、上級職は本編だけだと持て余してしまうかもしれません。
増田氏:
今の段階でもレアアイテムの収集とかをけっこう楽しめますけど、DLCによってモンスターもアイテムもさらに増えていく、というところですか?
田村氏:
そこは新しい体験を、ということですから。目標だったり敵だったりというのは、さらに追加していきたいと思っています。
増田氏:
そろそろまとめの時間ですかね……。この取材は『残月』の発売日(2022年9月29日)の直前に行っているのですが、発売後はユーザーさんの意見がいろいろと出てくると思います。そういうところを採り入れて、これからも修正していくわけですか?
田村氏:
時間や費用の問題もあるので、どこまで採り入れていけるのか、難しいところもあるとは思います。それでもユーザーさんのほうを向いていくことができればいいな、と思っています。
奥田氏:
作り手としては、ベストは尽くしたつもりではあるし、アクワイアさんには我慢できるギリギリまで待っていただきもしたんですが、今の状態がベストかと言われると全然そうではなくて、小骨がまだいっぱい残っている認識ですので……。それを取り除くことでプレイヤーさんのプレイ体験がさらに上がるようなところに関しては、なるべく応えたいと思っています。
田村氏:
アクワイアとしては新しい3DダンジョンRPGですから、いろいろと楽しんでもらいたい、いろいろと触ってもらいたいと思います。そのために、今のプレイヤーでも違和感のない操作性だったり、とっつきの良さになっていると思うので、まずは触って遊んでもらいたいなというのがありますね。
一方で、このジャンルのベテランのプレイヤーの方には「お手柔らかに」と(笑)。そういう意味でも、増田さんに最初に触っていただいて、先ほどご意見をいただいて、ちょっと安心しました。
増田氏:
あくまで僕個人の意見ではありますけど。
田村氏:
とはいえ、増田さんの想いというのがあって、まずはそこに合致したのかなと。そういった人が多いといいなと思っています。
増田氏:
クラシックな3DダンジョンRPGのファンに向けた作品でありながらも、新規の方にもたくさんプレイしてもらいたいわけですよね。僕もすんなり入れたし、難易度としてはそれほど難しくはないですし。といっても、僕も通常モードで遊んだんですけど。
田村氏:
でも、まずはそこが基本になりますから。最初から上級モードで遊び始めると、途中で投げ出したくなるかもしれないですし。そういう意味で、まずはとにかく触ってもらって、それから条件を変えたりして、より深いところを遊んでもらえればと思っています。
増田氏:
本日はありがとうございました。(了)
記事の冒頭でも記したように、3DダンジョンRPGというジャンルはゲームの黎明期から高い人気を誇ってきただけに、これまでに長い歴史を積み重ねてきている。そのため、見かけの印象ではあまり変化がないように感じられるかもしれないが、実際には細部に至るまで工夫が積み重ねられて、長い時間をかけて洗練されてきたジャンルだと言えるだろう。
『残月の鎖宮』もまた、3DダンジョンRPGというジャンルを現代のユーザーにアピールするために、さまざまな工夫が行われていることは、本文で語られているとおりだ。一見すると地味に見えるかもしれないが、それは長時間遊んでも飽きないようにするためと、ユーザーの想像力を刺激するために、あえて削ぎ落とされている部分でもある。
『残月の鎖宮』は今後、DLCがリリースされて遊び応えがさらに増すほか、遊びやすさの改良なども随時行われていくという。この機会にぜひプレイしてみてほしい。