長年にわたって続くスマホゲームというものは、決してありふれた存在ではない。多くが基本無料の形態でサービスを展開する以上は常に新規ユーザーを獲得し続ける必要があるし、後続の作品に既存ユーザーを奪われてしまう場合も少なくない。
そんな中、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、ガルパ)は2023年3月をもって6周年の節目を迎えた。『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』や『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』といった強豪たちがそろう「リズムゲー」というジャンルで、『ガルパ』もまた着実に歩みを進めてきたのだ。
そして『ガルパ』はこの3月、超大型アップデートというひとつの大きな勝負に出る。
本アップデートでは、今や多くのスマートフォン向けリズムゲームに搭載されている「3Dライブモード」を実装。そしてストーリー面では全キャラクターの学年をひとつ上げる「進級」が行われ、一部のキャラクターは高校を「卒業」する。
こうして大きな転換のときを迎える『ガルパ』だが、実際のプレイヤーはこの変化をどう受け止めているのか? そして、手ごわいライバルたちが立ち並ぶ本ジャンルにおいて生き残ってきた『ガルパ』には、どんな魅力があるのか?
今回、電ファミニコゲーマーでは約5年間ほどにわたって『ガルパ』をプレイし、動画投稿を行い続けている歴戦の『ガルパ』プレイヤー・まーしー。氏(Twitter / YouTube)にインタビューを行う機会をいただいた。
『ガルパ』のベテランである同氏に上のような疑問をぶつけると同時に、ひとりのプレイヤーとしてキャラクターの「卒業」をどう感じるのか、という点もお聞きすることができた。『ガルパ』ファンの方はもちろんのこと、この大型アップデートを機に『ガルパ』に触れてみようと考えている方にとっても有益なお話となっているため、ぜひご一読いただきたい。
20代の“ちょっと大人になった人”にこそ突き刺さる『ガルパ』のストーリー
──まーしー。さんの『ガルパ』歴をお聞きしてもよろしいでしょうか。
まーしー。氏:
はい。僕が『ガルパ』をはじめたのは2018年の1月で、だいたいサービス開始から1周年を迎える少し前くらいの時期ですね。その後はずっとやり続けてきているので、およそ5年ほどを『ガルパ』と過ごしてきた計算になります。
──同じスマホゲームを約5年間遊び続けるというのは、よほど作品が好きでないと難しいと思うのですが、まーしー。さんにとっての『ガルパ』最大の魅力ってずばりどこになるんでしょう?
まーしー。氏:
『ガルパ』ってキャラクターコンテンツでもあるので、やはり多くのユーザーが支持しているのはキャラの魅力、そしてその魅力を描くストーリーが何よりも大きいところかなと思います。
まずキャラクターのストーリーの良さについて簡単にお話しますと、一見すると『ガルパ』のストーリーって小学生でも分かるような単純なものに見えるんですよ。ただ、その中でもキャラクターに人間臭さを感じるような部分があって、僕はそこが好きですね。
あと、キャラクターの心理描写にユーザーが想像する余地を残してくれるところもハマりやすいポイントだと思います。
たとえば、そのキャラクターが考えていることって、やろうと思えば、独白みたいな形でテキストに起こすことってできるじゃないですか。ただ、それをせずに仕草とか、ちょっと頬を赤らめたりみたいな表情とかで描写を終える場合があるんですよ。
それだと「あのキャラクターはあの時、どう思ってたんだろう?」ってはっきりしないまま残るじゃないですか。すると、僕たちユーザーが「もしかしたらあの子はこう思っていたのかな?」とか、「あいつは今こんなふうに考えているのかな?」みたいに想像する余地があるんですよ。
それがキャラクターへの愛情が深まることにつながり、ユーザーが『ガルパ』自体にハマっていく導線になっているんじゃないかなと思います。
──なるほど。あまり単純明快な物語ではなく、読み解くこと自体を楽しめるような深さがあるんですかね?
まーしー。氏:
そうです。『ガルパ』のストーリーって、実は大人向けなんですよ。20代中盤とか、ある程度大人になった人にこそ伝わる魅力があると思うんです。
成長するにつれて忘れてしまっていた感情を思い出させてくれたり、年を取ったからこそ生じる悩みに刺さるセリフがある。今の学生さんとか、若い世代の人たちには『プロセカ』とかの方がフィットしているかもしれないんですけど、“ちょっと大人になった人”に『ガルパ』はすごく合うんじゃないかなと思います。
──学生よりも“ちょっと大人になった人”に刺さる、と……。でも、登場するキャラクターは基本的に女子高生ですよね?
まーしー。氏:
それはその通りなんですけど。でも、子ども向けの映画とかでも、大人になってから観ると「ああ、この台詞ってこういう意味だったんだ」とか、「このキャラクターはこう考えていたんだ」みたいなことが分かる作品ってあるじゃないですか。
大人になったからこそ理解できる深みがあるというか。『ガルパ』もそういったものに近いです。
たとえば、あるキャラクターが「自分のやっていることは裏方の仕事だ。だから、本当に自分が必要とされているのか分からない」みたいな悩みを抱いているんです。それで同じバンドのメンバーに相談するんですけど、そうすると「どんな姿でも誰かの役に立っているのなら、それは誇るべき自分の姿だよ」って伝えるシーンがあるんですね。
僕には、このシーンがかなり刺さったんです。大人になっても、自分の仕事が本当に人の役に立っているのか? とか、この仕事をしていていいのかな? みたいに思う日ってあるじゃないですか。
そういうときにこのセリフが心に来るというか、「ああ、そうだよな。誇っていいんだよな」って思えた……みたいな感じですね。
──確かに。これは少し大人向けのエピソードですね。
まーしー。氏:
ほかにも良いストーリーがありますよ。瀬田薫(せた かおる)と白鷺千聖(しらさぎ ちさと)という幼なじみの関係性にあるふたりのキャラクターがいるんですけど。
この千聖の方が昔から子役をやっていて、その姿に薫はずっと憧れていたんです。中学からは分かれてしまったんですが、そのときに薫の方が演劇を始めて、高校時代にはなんと互いに役者として刺激し合うくらいの存在になっていて。互いの成長に戸惑いながらも、時には昔の面影を見たりもする、みたいなストーリーがつづられているんですね。
で、あるとき千聖の方が「自分もひとつ前へ進もう」と決心して、「もう幼なじみだった薫はいないんだ。だから私もあのころの薫を卒業して、これからは瀬田薫という“ひとりの役者”としてあなたを応援していきます」みたいな手紙を書くんです。
それを瀬田薫の卒業公演で渡そうとするんですが、その公演で薫が放つセリフが「本当にそれでキミはいいのかい?」という。
このセリフって実は、幼いころに千聖を救った薫の言葉なんですよ。小さいころから子役として活動していた千聖はドラマで悪役を演じている時期もあって、クラスメイトからいろいろと言われることもあったんです。薫は、それをずっと心配している立ち位置のキャラクターで、本当に優しい子なんですけど。
それであるとき、演劇ごっこで千聖が「もうあっちに行って」と言ったら相手は走り去っていってしまう、というシーンがありまして。
でも、その役を演じていた薫は走り去らず、「本当にキミはそれでいいの?」と聞き返すんです。もちろん劇の筋とは違う、薫が勝手に言ったセリフなんですけど、千聖はそれに救われたんですよ。
──おお、エモい……。
まーしー。氏:
本当は千聖は、ずーっと薫を卒業したくはなかったんですよね。でも、高校卒業の間際に「お互いの道を行こう」と思い立って、先ほどお話した手紙を渡そうとする。でも、そこで薫が「本当にそれでキミはいいのかい?」というセリフを言えるのは、千聖にとっての“幼なじみの薫”がまだ存在している証拠なんですよ。
……あらためて言葉で説明しようとするとすごく難しい。でも、『ガルパ』はこういう難しさを恐れずに、味わい深いストーリーを紡いでくれるんです。
こういうストーリーテリングって、小さいときに見てもなかなかピンと来ないと思うんですよ。でもある程度年を取ってから読むと、それぞれのセリフの重さとか、千聖にとって“幼なじみの薫”がどれほど重要な存在だったのか、みたいなことが想像できるようになる。 「若いうちに読んでおくのが無駄だ」という話では無くて、そこで分からなくても、大人になってもう一度読むと本当に良さが伝わってくるというイメージなんですけど。
僕自身も、このストーリーを最初に見たときにはそこまでピンときていなかったんです。でも、2周目で読んでみるとけっこう分かってきて。これ、最後は千聖も「私はこれがいいの」と手紙を渡さない選択をするんですよ。
このセリフも良いですよね、「これがいいの」というワードチョイス。『ガルパ』って、ときどきこういった大人の表現をするんですよ。
──ちょっと詩的な感じですよね。
まーしー。氏:
そうなんです。『ガルパ』のセリフってけっこうクサいというか、直球な表現が多いんですよ。でも、逆にそのクサさが仕事や人生で悩んだり、迷っている自分に突き刺さるときがあるんですよね。
特にこの1年間は全体的に大人なストーリーが多めになっていまして。
もうひとり紹介したいキャラクターで大和麻弥(やまと まや)という、高校生ながらプロのドラマーとして活動している子がいるんですけど。この子の考え方はすごく大人なんですよ。
プロのミュージシャンなので、基本的には「求められた音を叩く」というやり方になるんですが、麻弥はその中でも自分の良さを出そうとするんです。他者と仕事をするとどうしても、ある程度は妥協したりとか、相手のやり方に寄り添うような場合ってあるじゃないですか。「これは仕事だから」、「お金をもらってやってるわけだから」みたいなね。
でも麻弥は「仕事だから」で終わらせず、自分なりの良さを出したりとか、自分を捨てずにやり方を変えてみたりするんです。その姿勢ってものすごく大人だと思うんですよね。
──なるほど。たしかに、それはかなり大人向けなテーマですね。
まーしー。氏:
「ある程度は自分を殺す必要もあるけど、でもプロとしてやるなら自分の良さを出していかないといけない」。そんな大人な考えを、高校生の麻弥が持っているんですよ。
そういう仕事に対する心意気も描いてくれるから、僕は『ガルパ』のストーリーが好きなんです。
物語に楽曲やイラストが噛み合わさるニクい演出
まーしー。氏:
あとはやっぱり、キャラクター同士でも全員が最初から和気あいあいとしているわけではなくて。
特に印象的なのは氷川紗夜(ひかわ さよ)と氷川日菜(ひかわ ひな)という姉妹のキャラクターです。姉の紗夜が妹にずっとコンプレックスを抱いていて、すごくギクシャクとした関係性の家族なんですね。
で、ある年の七夕のイベントで、紗夜が「日菜とちゃんと向き合えますように」みたいなお願いをしたんです。そしてリアルの方の時間で3年くらいが経過して、ゲーム中ではふたりの間でもいろいろなやり取りが起こって、ようやく向き合えるようになってきたかな、というところでクリスマスイベントでふたりの関係性がフォーカスされたんです。
そのイベントでは紗夜と日菜が一緒にクリスマスを過ごそう! ってなるんですけど、急に日菜の方に仕事が入ってしまって。
「私はお姉ちゃんと過ごすって言ったもん!」と日菜は拗ねてしまうんですけど、そこで姉の紗夜が「私の目を見て話しましょ」って自分から言うんです。そのとき、「ああ、3年前の七夕のお願いが叶ったんだな」と思いました。
──なんと、3年越しで……。
まーしー。氏:
そう、3年越しなんですよ。プレイヤーの側からすると長かったなと思うんですけど、でもそれが、七夕での願いでもあった「紗夜が妹に向き合えた瞬間」だったんです。
「あなたはプロなんだから」って諭すと同時に、「そういう日菜だからこそ、日菜が奏でるギターの音がものすごく私は魅力的だと思うし、憎らしいと思ったこともあるんだよ」みたいな。
あれは本当に感動しましたね。「あのときの“お願い”が今になって回収されるんだ!」 という。さすがに回収が遅いんじゃね? とも思うんですけど、それは長く遊んできたプレイヤーの特権みたいなところですかね(笑)。
──ほかにも年単位での伏線回収というか、綺麗に物語がつながった例っていくつかあるんでしょうか?
まーしー。氏:
ありますよ! もうひとつ例をお話すると美竹蘭(みたけ らん)と青葉モカという、こちらも幼なじみの関係にあるふたりがいるんですが、ボーカルである蘭の方がすごい勢いで成長していくんですよ。で、幼なじみのモカはその育ち具合に戸惑ってしまうという。
で、とあるバンドストーリーでモカは「私は蘭の背中を追いかけていこうと思う」みたいなことを言うんですね。でも僕は「それでいいのか?」って思ってしまって。「幼なじみなのに、隣に立たずに背中を追う形でいいのか?」と。
でも、これも1年越しくらいに回収されたんですよ。蘭の実家は華道の家元なんですけど、彼女は華道を継ぎたくなくて、ずっと反抗期みたいな振る舞いをしていたんです。ですが、ようやくその反抗も終わり、華道の出展をすることになったんですね。
それでモカたちに見に来て欲しい、と伝えるんですが、モカはすごく怖がってしまうんです。蘭の作品を見たら「私の知っている蘭がいなくなるんじゃないか」と。
ところが、いざ作品を見たら使われている花は、蘭がモカたちと最初に出会ったときに渡したサザンカだったんです。
それでモカは「蘭の中には私たちの記憶がしっかり残っているし、蘭のそばにはずっと自分たちがいたんだ」って気づいて、「私はもう蘭の背中を見るのをやめる!」って言うんですよ。ちょっと上でお話した薫と千聖のエピソードにも近いものがあるかもしれませんが。
──すごく良い話ですね。なんというか、じんわり来るというか。
まーしー。氏:
良い話なんですよ……。あとこの2人だと別のストーリーにはなりますが、そのストーリーの際に追加された楽曲で入りと終わりにギターのパートがものすごく多いものがあるんです。
曲を単体で聞くと「なんでこんなにギターが長いんだ?」みたいに思うんですけど、ストーリーを読むと、実はモカがギターに対してすごく貪欲に取り組んでいたことが分かってくる。するとギターパートの長さも「そういうことか!」って納得できる。こういうストーリーと楽曲をリンクさせた演出も本当にニクいんです。
このほかにも衣装とか、新規イラストとか、細かな描写に本当にこだわられていて、まさに「神は細部に宿る」みたいな感じです。なのでやり込めばやり込むほどハマる、それが何よりの『ガルパ』の魅力ですね。
「やってもないのにどうしてダメって決めつけるわけ?」キャラクターに背中を押されて始めたゲーム実況
──なるほど。ここまで聞くとまーしー。さんが『ガルパ』にハマった理由も少し分かってくる気がします。ところで『ガルパ』をはじめたきっかけは何だったんでしょう?
まーしー。氏:
『ガルパ』を始める以前から僕はゲーム実況をやっていまして、いろいろゲームをやりたいなとは思っていたんです。そうしていると、当時は大学生だった妹が『ガルパ』にハマっていまして。「兄貴にもちょっと『ガルパ』やって欲しい」みたいなことを言われて、それで初めて知りました。
そこで1か月くらい自分で遊んでみたら、「お、ええやん」と。どうせゲーム実況をやるなら自分が面白いと思える作品をやりたかったので、それで『ガルパ』を選んだというような流れですね。なので、妹がいなかったら『ガルパ』を知らずにそのまま終わっていたと思います。だから今となっては、きっかけとなってくれた妹に感謝しています。
──そこからゲーム実況を始められて、今では5年間続けられていると。
まーしー。氏:
実は『ガルパ』でゲーム実況をやるかどうか、というところについては迷っていた時期もあったんです。
ただそのとき、たまたま読んでいたストーリーで弦巻こころという女の子が「やってもないのにどうしてダメって決めつけるわけ?」みたいなことを言っていて、その言葉に勇気づけられて一歩踏み出した……という経緯があります(笑)。
ちなみにこの弦巻こころは、僕が一番好きなバンド「ハロハピ(ハロー、ハッピーワールド!)」のボーカルなんです。
──なんか、運命を感じるエピソードですね。まーしー。さん一押しの「ハロハピ」ではどんなストーリーが紡がれているんでしょう?
まーしー。氏:
ハロハピで悩みを抱えているのは基本的にひとりで、奥沢美咲(おくさわみさき)というキャラクターなんですけど。
この美咲って子は、もともと「人生ほどほどが良い」みたいな、ちょっと悟ったようなことを言う子なんです。ただ、先ほどの弦巻こころというとんでもないキャラクターに「バンドしよう!」と巻き込まれて、なかば無理やりバンドに入ることになってしまって「どうしよう……」みたいな。
ただ、ハロハピのメンバーたちと過ごしている内に、だんだんとバンド活動が嫌いではなくなってくるんですよ。そうしてバンドメンバーとして過ごすうちにいろいろなことを考えて、またドラマが描かれていくといった具合ですね。
僕はハロハピの主人公的なポジションにいるのは奥沢美咲だと思ってます。基本的にはボーカルがメインになるんですけどね。
──奥沢美咲というと、あの着ぐるみに入っている子ですよね。
まーしー。氏:
そうです、着ぐるみの時はミッシェルって呼ばれるんですけど。それで今回6周年を迎えるにあたって、ついにミッシェルではない「奥沢美咲」としてプレイアブルキャラクターになったんです。
これまで「奥沢美咲」として動くときは、つねに裏方にいたんですよ。それが、とうとう去年のストーリーをきっかけに表舞台に立てるようになった、という流れですね。
こんな感じで個人の物語にフォーカスしても面白いんですけど、やっぱり軸になっているのはバンドごとのストーリーですかね。バンド単位でいろいろなものに向き合っていくとか、そういうのが多いので。その中でも特に目立つのは高校生ならではの“進路”の話ですかね。
「進級」や「卒業」をするからこそ描けた、歴代でも最高クラスのストーリー
──ちょうど進路のお話が出たところで、今度の6周年アップデートの目玉要素でもある「進級」についてお話を聞いてみたいと思います。『ガルパ』では通算で2回目の進級にあたるとのことですが、1回目の進級のときはどんな感じだったんですか?
まーしー。氏:
やっぱり驚きはしましたよ。「あ、進級するんだ」「『サザエさん』方式じゃないんだね」という(笑)。でもその当時って、メインのキャラクターは1年生と2年生ばかりだったんですよ。だからそれぞれ2年生、3年生になるけど、卒業するわけではないから思いっきり環境が変わるという感じでは無かったですね。
まぁ、1年生として新しいキャラクターが増えこそしましたけど、将来的に卒業もあり得るんじゃないか、と心配するユーザーはいたと思いますが、進級自体に抵抗がある人は少なかったんじゃないでしょうか。
──でも、今回はついに「卒業」してしまうキャラクターもいるんですよね。
まーしー。氏:
ユーザー側としては「プレイアブルキャラクターじゃなくなっちゃうんじゃないか」とか「新しいキャラクターと世代交代してしまうんじゃないか」みたいな不安があったと思うんですけど、別に完全にいなくなってしまうわけではないので。
ただキャラクターが大学に行くから、彼女たちの大学でのエピソードが見られるという形ですね。それ自体は僕はわりと楽しみでもあるんですよ。
僕は『ガルパ』の物語がやっぱり好きなので、毎回どのバンドでも全部のストーリーを追いかけてはいるんです。ただ、どうしても作中の1年間で描けるエピソードって限界があると思うんですよ。人間、1年間でそんなに何回も何回も成長できるわけがないじゃないですか。
──確かに(笑)。
まーしー。氏:
で、その場しのぎの日常ストーリーとかでお茶を濁して内容が薄くなるくらいなら、思い切って進級して次のステージへ進んで、そこでまた新しいドラマを描いてくれる方がユーザーからしたら飽きないですし、楽しみが増えますよね。
だから僕としては、運営さんが「この先も彼女たちの成長を描いていきますよ」という姿勢を示してくれたのは嬉しいんです。
あと、進級して「作品の中の時間が進むからこそ描けるもの」というのもあると思うんですね。今回で言えば「卒業式イベント」なんかその最たるものじゃないですか。それって、時間が進まない、卒業させない作品だったら絶対に作れないものなので。
そうすると、卒業式の前のキャラクターたちの寂しさを描いたストーリーとか、「卒業式の前に何かやろう」というエピソードだとかが生まれてくる。実際、リアルの時間で6年間かけて描かれてきたキャラクターの成長の総決算を感じるストーリーに仕上がっているんですよ。「私は高校生活でこれを得て、先へ進んでいくんだ」みたいなね。
──せっかくなので、卒業にまつわるまーしー。さん一押しのエピソードがあれば紹介していただきたいです。
まーしー。氏:
もちろんです! メンバーのほとんどが卒業する3年生で、ひとりだけが2年生というバンドがあるんですね。この2年生の子が若宮イヴちゃんというんですけど。
そんな中、バンドメンバーで遊びに出かけていると周りはみんな「高校卒業したら……」という話をするんです。「でもバンド活動は変わらないでしょ」と言われて、イヴも一応は「そうですよね」みたいに合わせていくんですけど、いざ帰り道になると急に街中で「寂しいです!」って言っちゃうんですよ。
──あー……かわいいんですけど、胸に来ますね。
まーしー。氏:
すると歯止めもきかなくなって泣き出しちゃう。その後は「イヴちゃんが寂しくないように、みんなで延長戦のお泊り会をしよう!」となりまして、みんなで楽しく過ごすんですが……やはりイヴちゃんはなかなか眠れなかったんです。
そこで、高校を卒業する日菜と話すんですが、そのときに「なんでもう1年遅く生まれてきてくれなかったんですか」って言ってしまうんですよ。
──……なるほど。
まーしー。氏:
お泊り会で「もう寂しくないです!」みたいに振る舞っていたんですけど、夜になると本音が漏れてしまっている。こんなところまで描くアニメやゲームって、そんなにないんじゃないかな? と思うんです。普通だったら、「もう寂しくないです。ありがとうございました!」みたいに晴れ晴れと終えちゃっていいじゃないですか。
でも『ガルパ』は「なんでもう1年遅く生まれてきてくれなかったんですか」って言わせるんですよね。こういうちょっとした演出が、本当に深みを生むと思うんです。
──そういう、ちょっとした苦味がいい味になっているんですね。
まーしー。氏:
卒業絡みで言いますと、親子に焦点をあてたストーリーみたいなのもありますよ。山吹沙綾(やまぶき さあや)というキャラクターがいまして、この子は大学に進むか、実家を継ぐか卒業後の進路に迷っているんです。
それで父親に「私、実家を継ごうと思うんだけどどうかな?」みたいに相談を持ち掛けてみるんですけど、父親は「そんな気持ちなら継がなくていい」と冷たく突き放すんですね。 沙綾もそれまでずっと一生懸命に家業を手伝ってきたので、「どうしてそんなこと言うの?」と怒って、家出をしてしまうんです。その後はバンドメンバーにいろいろ相談したりして、結局は戻ってくるんですけど。
帰ってくると母親が迎えてくれるんですが、そのときのセリフも良くて。「次に家出するときは事前に言ってね。お弁当を用意するから」って(笑)。
──親には敵わないな、って感じがしますね(笑)。でも、山吹家の親子関係が良好だということが、そのセリフだけでも分かりますね。
まーしー。氏:
父親が彼女を冷たく突き放したのも、沙綾の本音を聞くためだったんですよ。この子はもともと家族思いで、自分よりもずっと家族を優先して生きてきて、お父さんもそのことを分かっていた。だから、沙綾が本当に実家を継ぎたいのか、大学へ行きたいのかを聞き出すためにあえて冷たく突き放したという。
最終的には三者面談のシーンがあって、そこで沙綾ははっきりと大学への進学を選びます。その帰り道にお父さんとふたりで公園を横切るんですが、その際に「昔、沙綾ってな、じつはずっとあそこで逆上がりをがんばってたんだよ」とお父さんの語りが入って来るんです。「もうできないから帰ろうって言ったのに、それでもやめなかった。お前は本当はもっと頑固な子だったんだよ」みたいに。
この親子の会話がまたクサいんですけど、どこかリアルでもあるんですよね。自分と親の会話に重ねちゃったりして、僕はウワーッ!ってなりました(笑)。
こういうのが刺さるのはやっぱり、ある程度の人生経験を積み重ねてきた大人だからこそだと思いますし、そういう意味でも『ガルパ』って大人向けなんじゃないでしょうか。
──なるほど。確かにここまでの物語が読めるのであれば、進級や卒業をさせる意味もありますし、ユーザー目線でも納得できますよね。
まーしー。氏:
僕、『ガルパ』の中でも“殿堂入り”みたいなストーリーを勝手に選び出しているんですが、今回の5周年から6周年にかけての1年間の物語の出来栄えって、歴代でもダントツ1位なんですよね。
それくらい濃密なストーリーを届けてくれたんです。こういった「進級」や「卒業」を決めたからこそ描けたエピソードには本当に価値があったと思うので、個人的には大賛成の試みでした。
──物語の“山場”としてばっちり機能したと。
まーしー。氏:
それにくわえて「大学編を見たい」という気持ちもあるんですよ。違う高校だったキャラクター同士が大学で一緒になって、また新しいドラマが生まれてくるとかも期待していますし。
それでいうと、先ほどお話した幼なじみの瀬田薫と白鷺千聖のふたりは今度大学で一緒になるんです。彼女たちが大学でどんなドラマを生み出してくれるのか、それにすごく注目しています。
もちろんまだ進路が確定していないキャラクターもいるので、この先もこういった熱い展開が生まれてくることに期待したいですね。それこそ、先ほどお話に出した氷川日菜と紗夜の姉妹も今でこそ高校は別々なんですけど、この先は同じところに通う可能性だってあるわけですよ。そういう展開を想像する楽しみもありますよね。