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出版社各社がなぜここに来て”ゲーム事業”に身を乗り出すのか?──KADOKAWAのゲーム事業が新体制になった背景には、異色の経歴を持つ女性プロデューサーの存在があった

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フロム宮崎氏やスパチュン櫻井氏も参加するボードメンバーがゲーム事業の意思決定機関

──2021年に夏野剛さんがKADOKAWAの社長に就任されて、どういうチームが組まれたんですか?

熊谷氏:
 夏野さんが社長に就任されたとき、重点施策がふたつあるとおっしゃっていました。ひとつは海外事業で、もうひとつがゲーム事業だったんです。「これはいいぞ」と思いました。

 その後、組織が変わるタイミングで夏野さんと1対1の面談の機会があったんですが、「夏野さんと直接お話できる最初で最後の機会になるかもしれない」と思ったので、人事的な面談だったにも関わらずゲーム事業の資料を作って「こういうステップでやっていきたいです」と勝手にプレゼンしました(笑)。

──(笑)。

熊谷氏:
 そうしたら、「わかった、海外事業とゲーム事業に関してはステアリングコミッティ【※】で話しながら進めていくからそこに出なよ」と。

※ステアリングコミッティ
Steering Committee、運営委員会のこと。大規模なプロジェクトにおいて、各所関係者の代表が集まり、利害調整や意思決定を行う。「ステコミ」と略される。

 KADOKAWAのゲーム事業は「ステアリングコミッティで決めていく」のがコンセプトなんだそうで。そのコミッティがゲームに関する意思決定機関なので、「ライセンスアウトも新しい企画も、なんでもここに持ってきなさい」と伝えられました。

 コミッティには、出版やアニメ、海外のチーフオフィサーのほか、KADOKAWAの子会社であるフロム・ソフトウェアの宮崎英高さんやスパイク・チュンソフトの櫻井光俊さんにもご参加いただいています。

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(画像はKADOKAWA公式サイトより)

──熊谷さんはコミッティでどんな活動をされているんですか?

熊谷氏:
 これまでのKADOKAWAでは、ゲームはおのおのの組織内で企画を立ち上げていました。そのため同じグループ内でも会社や部署が違うと、なにをしているのかまったくわからない……という状況だったんです。
 どこでなにが起きているかがわからなかったので、まずそれぞれの活動を洗いざらい明るみに出して、チーフオフィサー同士が議論できるように整えました。

 「ライセンスアウト」、「協業」、「メーカー」といったゲーム事業に関する言葉の定義・整理からスタートして、ゲーム事業を進めるにあたり自分たちが「どんな役務を持つべきか」、「パブリッシャーとして必要な機能は揃っているか」というところから議論を始めました。最初に整理整頓をしたことで、社内のリレーションはだいぶやりやすくなりました。

「0を1にする」ことと「1を100にする」ことの違い

──KADOKAWAで熊谷さんが直面した課題はありますか?

熊谷氏:
 夏野さんが旗振り役をやるまでは、リスクを負ってまでゲーム事業に賭ける覚悟はできていないように見えました。むしろ、「ゲームは、原作やアニメの利益を最大化するためのメディアミックスの一環でしかない」といったポジションに近かったと思います。

 一方で現場のプロデューサーに近い方たちは、「原作やアニメにコミットしている、質が高いゲームにしていかないと作品を棄損することにもなりかねない」という危機感を持っていたようです。会社としてはリスクを負いたくないけど、現場は「やらなきゃ」みたいな。

──これまでゲームを出すときは、KADOKAWA・パブリッシャー・デベロッパーの3社が絡んでいたと思うんですが、今回の話って、要はここからパブリッシャーを抜いてしまうということですよね。
 ということは、今後は自社パブリッシングにしたり、場合によってはKADOKAWA自身が開発費を拠出することもあると。

熊谷氏:
 開発費の一部負担はもちろんなんですけど、外から入ってきた人間からすると、いちばんの魅力は、KADOKAWAが持っている大きなメディアの力を利用できることだと思います。
 原作やアニメを作っている部隊が近くにいたり、テレビや雑誌からもアクセスができるのはKADOKAWAならではの強みなのではないかと。

 それと、そもそも原作がないオリジナルゲームはお客さんに興味を持ってもらうまでが大変なんです。魅力的なキャラクターを作っても「はじめまして!」「だれ?」となってしまう。ゲームの世界観やキャラクターを紹介していかないといけないので時間もかかる。
 それを、ひとりではなくたくさんの人に理解や認知をしてもらわないといけないわけですから、すごく苦労するんです。そんなときに、原作やアニメがあることがどれだけ心強いか。ゲームをゼロから立ち上げたことがある人なら、この力強さを実感すると思います。

──そういった意味で、ゲームでIPをうまく使った例としては『トルネコの大冒険』や『ポケモンGO』が挙げられると思います。「まったく新しいゲームの仕組みや遊びを届けること」って、熊谷さんのおっしゃるとおり非常に大変なんですが、『ドラクエ』や『ポケモン』といったIPの力を利用することで、そこにチャレンジしやすくなっている。

熊谷氏:
 おっしゃる通り、IPによってチャレンジしやすくなることは確実にありますね。思えばセガで『アヴァロンの鍵』というカードゲームを作ったときも「このゲームシステムを助けてくれるIPはないか」と考えたことがありました。

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(画像はセガ『アヴァロンの鍵』公式ページより)

──「0から1」を作り上げ、さらにそれを売れるゲームにまで昇華できる人……つまり本当に天才的なゲームクリエイターって、日本に10人もいないと思うんです。でも、「1から100を作れる人」は、恐らくですが、100人、200人の規模でいるような気もする。
 「ビジネスを大きくしていく」という視点から見ると、そちらの人材のほうが重要だったりするので、出版社がやるべきことは「1から100を作る」なのかもしれませんね。

熊谷氏:
 そういった意味では、KADOKAWAは「1から100を作る」ことができる規模や人材、ポテンシャルを持っていると思います。デベロッパーさんに向けては完全な委託ではなく、レベニューシェアである程度利益部分をリスクテイクしてもらう代わりに、リクープ前から一定の利益をお約束する……といった取り組みもしています。

──KADOKAWAがこれからゲーム事業を進めるにあたって、必要なアクションや求める人材はどういう人ですか?

熊谷氏:
 ポートフォリオが潤沢と言えないので、今は1本でも魅力あるタイトルを企画して拡充していきたいです。タイトルもプロデューサーも足りていませんので、よくも悪くも隙があります(笑)。

 KADOKAWAで予算を持って動いていますし、また、KADOKAWAだけの出資ではなくいろんなパートナーの方と組むこともできます。
 なので、いちプロデューサーとして「こういう企画を立ち上げたい」とか、スタジオの視点から「こういうゲームを作りたいから、こういう座組をしましょう」だとか、全方位からアイディアを募集していますので、何卒よろしくお願いいたします……!

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
編集部
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちでレベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著「デブからの脱却」(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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