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『エルダー・スクロールズ・オンライン』のクリエイティブ・ディレクターは、“『エバークエスト』で妻と出会った”筋金入りのゲーマーだった。『オブリビオン』や『フォールアウト3』にも関わったクリエイターが考える「ベセスダらしさ」とは?

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 ゼニマックス・オンラインスタジオが手がける『エルダー・スクロールズ』シリーズは、まもなく第1作の発売から30年を迎える。2014年にはその世界を舞台としたMMORPG『エルダー・スクロールズ・オンライン』(以下、『ESO』)が発売され、ついにその日本語コンソール版も11月15日に発売されることが発表された。プラットフォームはPS4/PS5、Xbox One/Xbox Series X|Sとなっている。

 本作は、広大なタムリエル大陸を舞台に、エルダー・スクロール(星霜の書)と呼ばれる伝説の予言書を巡り壮大な冒険を繰り広げる『エルダー・スクロールズ』シリーズ初のオンラインゲームである。シリーズ中でもっとも古い時代に勃発した大陸全土を巻き込む大戦争が描かれる。

 地域ごとに発生する多彩なクエストやギルドへの所属、さまざまな職業に加え、ハウジングやカードゲームまでも楽しむことが可能となっており、リリースから10年近く経つ現在も精力的にアップデートが実施されている。

 今回電ファミはゼニマックス・オンラインスタジオリッチ・ランバート氏へのインタビューを実施した。同氏は2014年の『ESO』発売までシリーズに携わり、その後のアップデートや拡張パックでも監督を務めている。

 本稿では『ESO』の魅力について深堀していくほか、同氏が考える「おもしろいオープンワールドゲーム」の定義やベセスダらしさなど多角的な視点から迫っていく内容となっているので、楽しんでいただければ幸いだ。

聞き手/実存・Squ
文/Squ
撮影/増田雄介

オープンワールドゲームを“おもしろくする”要素とは

――『ESO』開発はいつごろから始まっていたのでしょうか?

リッチ・ランバート氏(以下、リッチ氏)
 『ESO』の開発は2007年から始まりました。開発に携わることができたのは非常に貴重な体験だったと思います。「ユーザーが何をしたいのか」ということに対し、「私たちはなにができるのか」ということを開発が変化していくなかで学びました。

――2007年の立ち上げから2014年のリリースまでは7年の歳月が経っていますよね。かなり長い期間だと思いますが、開発中に大きな作り直しや方向転換などがあったのでしょうか?

リッチ氏
 大きな方向転換があったのは事実です。当初、本作は『オブリビオン』のようなスタイルだったのですが、『スカイリム』が発売されてしまったので「なにか変えなきゃ!」となりました。
 最終的にキャラクターボイスを追加するなどして、『スカイリム』のようなシネマティックな演出、つまり「語り」を意識した作風に落ち着きました。

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――リッチさんはベセスダで『オブリビオン』や『フォールアウト3』といった作品に携わっていますが、いちファンとして “これらの作品こそ「オープンワールドゲーム」だ” という印象が強くあります。リッチさんにとっての「ベセスダらしさ」とはなんでしょうか?

リッチ氏
 「広大なフィールドのどこへでも行ける」というのももちろんですが、選択の自由度もベセスダらしさのひとつだと思います。

 例えば「NPCの頭にバケツを被すことで視界を遮ってモノを盗む」など、選択の自由がたくさんあります。それに加えて、多角的な視点から物語を語るナレーションも大きな魅力のひとつだと思います。

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(画像は『フォールアウト3』製品ページより)

――「オープンワールドゲームをおもしろくする要素」について心がけていることがあればお聞かせください。

リッチ氏:
 まずいちばん大きな要素は、プレイヤーが「おもしろい」と感じてくれるフィールドを用意することですね。それは、プレイヤーがなにかを学ぶことができるような場所のことです。

 それから、自分なりに解釈できる要素も同様に重要です。例えば骸骨の上に岩が落ちていたら、プレイヤーは「岩が落ちてきたんだな」と理解できると思います。具体的に言うと、『ESO』の中で実践したものとしては、子犬がお墓の前に座っている場所があります。これも、ストーリー中で名言していなくてもプレイヤーが自分自身で解釈して「飼い主のお墓なのかな?」といった解釈が可能になっています。

Found this is the Alik’r Desert today. Almost made me cry
byu/JessieTheNerd inelderscrollsonline

――なぜ直接的な語り方ではなく、いわゆる「環境ストーリーテリング」がおもしろいと感じるのでしょうか?

リッチ氏:
 実際のところは両方必要だと思います。大きなストーリーを語ったうえで、さらにプレイヤーが自分なりに解釈をする。つまり、プレイしている人がその世界の一部となり、自分ごととして物語を感じられるようになるわけです。

――『スターフィールド』にもリッチさんがおっしゃっている “ベセスダらしさ” が組み込まれているように思えますが、同時にモダンなスタイルもしっかり取り入れられているように感じました。もしプレイされていたら、印象に残っている要素はありますか?

リッチ氏:
 『スターフィールド』はちょうどメインストーリーをクリアしたばかりなのですが、非常にベセスダらしい世界観で、ベセスダらしいゲームだと思います。本当に大好きです。
 ゲームの内容もそうですが、スタッフも素晴らしい。なにより何層にも重なったストーリーが魅力的で、本当に最高の作品です。

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(画像はXbox Game Pass 詳細ページより)

――『スターフィールド』を1時間くらい遊んでいると、ついメインストーリーを放り出してサブクエストや探索を始めてしまいます。メインクエストも寄り道も同じように楽しいので、クリアに年単位で時間かかりそうな印象を受けました。おそらく開発の段階で、メインストーリーの充実具合と寄り道のおもしろさを天秤にかけていると思うのですが、どのように切り分けているのでしょうか。

リッチ氏
 メインストーリーは作品の核となる大切な要素です。ただしそれと同時にプレイヤーには選択肢を与える必要もあります。寄り道しながら遊ぶ人もいればメインストーリーだけ進める人もいて、それはプレイヤー自身の選択です。個々のプレイヤーがそれぞれの旅路を楽しみながら経験できるようにしなければいけないと思います。

プレイヤーに対するヒントはどれくらい必要?プレイヤーが楽しめるギリギリのラインを見極める

――プレイヤーが自分で「なにかを見つける」という経験は楽しいことだと感じるのですが、ノーヒントで答えを探すのは難しいですよね。プレイヤーが自分で見つけたと感じるギリギリのラインでヒントを与える必要があると思いますが、工夫していることはありますか?

リッチ氏
 それで言うと、レベルデザインの段階で特定の廊下にだけライトを灯すなどプレイヤーの目線やプレイヤー自身を誘導しています。

 ただ、ヒントのバランス調整というのは簡単なことではありません。だからこそ「ゲーム作りは難しい」と思っているのですが(笑)。実際のところは何度もテストプレイを重ねるしかないです。1回目でうまくいくことはまずありえないので、とにかく時間をかけて調節しています。

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――テストプレイでリッチさんが「おもしろい」と思ったタイミングで本実装に移るのでしょうか?

リッチ氏
 そうですね。アイディアや実装しようとしているシステムによって変動しますが、新しいコンテンツを試してチームに共有することが私の仕事の大部分になります。新要素を実装するときに、「プレイヤーが理解できない」という事態を避けなければならないからです。
 そのため、実際に作ってみるとダメダメだったりすることはすごく多いです。

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『エバークエスト』にのめり込み、妻と出会う

――リッチさんは古くからベセスダのゲームに携わっていらっしゃいますが、改めてご経歴について教えていただけますか?

リッチ氏
 キャリアのスタートは1995年で、エレクトロニック・アーツでスポーツゲームのテスターとして働いていました。そのあとはプロデューサーとして長く携わり、ベセスダに移ってからはテクニカルプロデューサーを経てデザインにも携わるようになりました。

――技術分野からクリエイティブ分野に移られたのは、なにか理由があるのでしょうか?

リッチ氏
 「自分が遊びたいゲームを作りたかった」というのが大きいです。自分で世界を作り、ストーリーを語ることに携わりたいと思いました。

――役職が変わったことで、リッチさんが作りたいものは実現できたのでしょうか?

リッチ氏
 はい、自分が作りたいものを作っています!
 お金やスケジュールの管理をすることよりも、プレイヤーが楽しんで遊んでくれて、かつ自分が楽しみたいものを作る。そういう方向に転換していきたかったんです。

――では「リッチさん自身が作りたいもの」と「ユーザーに求められているもの」は一致しているのでしょうか?

リッチ氏
 何年も続けられているということは、ふたつの要素が両立できているからだと思います。
 自分が遊びたいものを実装していきながら、プレイヤーのフィードバックにも耳を傾けていく。両方があってこそ、うまくいってるのだと感じます。

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――「リッチさん自身が作りたいもの」と「ユーザーに求められているもの」をどのように分析しているのかお聞かせください。

リッチ氏
 ゲームジャンルによってそのふたつは大きく異なると思うのですが、私はオンラインゲームが大好きです。妻と出会った場所でもあるので、特別な存在です。プレイヤーが求めているのは、まずシンプルに「楽しいこと」だと思うので、どれだけ楽しいものを提供できるかが重要だと思っています。

――奥さまとはオンラインゲームで出会われたのですね。どのゲームで出会われたのでしょうか?

リッチ氏
 妻とは『エバークエスト』がきっかけで出会いました。もう20年以上も前ですが。

――日本でも『ファイナルファンタジー14』などのオンラインゲームで出会って結婚するという話はよくありますが、『エバークエスト』の時代からというのはすごいですね。先ほどの「ユーザーに求められているもの」に付随しますが、『エバークエスト』での“楽しさ”とはなんだったのでしょうか?

リッチ氏
 当時あそこまで大きなフィールドを持つゲームは体験したことがなかったんです。いまとなっては当たり前ですが、「誰かと一緒に遊べる」ということにも驚きました。あとはアイテム集めも大好きです。

――話を聞いているだけでも、リッチさんは王道のオンラインゲーマーという感じがします。

リッチ氏
 真のテレビゲームオタクですからね(笑)。

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――そういった体験があってこそ今の『ESO』に繋がっているのだと思います。そんなリッチさんがプレイヤーを見たとき、どのように楽しんでいると分析されていますか?

リッチ氏
 プレイヤーはすごく多様性にあふれていると思います。クラフトやハウジングを楽しみたいプレイヤーもいれば、交流や対人戦が好きなプレイヤーもいるので。
 ゲームを楽しんでくれる人を幸せにすることで、ゲームは成長できるのだと思います。何年にもわたりさまざまな趣向のユーザーたちが楽しめるものを作ってきたシリーズの歴史が大事なことだと考えています。

10年続く『エルダー・スクロールズ・オンライン』はまだまだ続く?

――『ESO』に存在する「テイルズ・オブ・トリビュート」というカードゲームについて、遊んでいるだけでレベルが上がると聞いて驚きました。戦闘要素だけではなく実際に世界の中で生活ができるという方向性を目指しているのでしょうか?

リッチ氏:
 はい。仮想世界を作りたいと思っています。
 戦闘に関連しないさまざまなアクティビティも用意しているのですが、カードゲームもそのひとつで、こういった新たな選択肢の追加は今後も注力していきたいです。

――『ESO』は今後も『エルダー・スクロールズ6』のようなメインシリーズと並行して進んでいく作品だと思いますが、どのような立ち位置・関係性でサービスを展開していく予定でしょうか?

リッチ氏
 じつは「自分自身でプレイしてストーリーを経験する」という点で言えば『ESO』もメインシリーズも遊び方の基礎は同じなんです。ただ、『ESO』はオンラインゲームなので「ほかのプレイヤーとの結びつき」があります。だから「また遊んでみよう」「もっと遊びたい」と思わせるひとつの“魔法”だと思います。

 なので、立ち位置としては “長く遊べる『エルダー・スクロールズ』” といったところでしょうか。定期的にアップデートを続けているのも、それが理由ですね。

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――サービスインしてから10年近く経過してるわけですが、今後も大型アップデートであったり、『ESO2』のような後継作といったものは計画されていますか?

リッチ氏
 これからも遊び続けてほしいので、プランはたくさん用意しています。
 例えばレンダリング周りを改善してもっときれいなグラフィックにしたり処理速度を高めるなど、技術的な部分の変更もそのひとつです。

――今後どれくらいの期間サービスを続けていきたいとお考えですか?

リッチ氏
 多くのプレイヤーに遊んでいただける限り、サービスは続くと思います。

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――これから『ESO』をはじめるプレイヤーに向けて、メッセージをお願いします。

リッチ氏
 今回コンソール版をリリースできることを非常にうれしく思っています。ぜひ、時間をかけて、楽しんで、自分だけの旅を体験してください。(了)

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『エルダー・スクロールズ・オンライン』について

 広大なタムリエル大陸を舞台に、エルダー・スクロール(星霜の書)と呼ばれる伝説の予言書を巡る壮大な冒険を繰り広げる『エルダー・スクロールズ』シリーズ初のオンラインゲーム、『エルダー・スクロールズ・オンライン』の家庭用ゲーム機向け日本語版は2023年11月15日発売予定。対応機種はPS4/PS5、Xbox One/Xbox Series X|Sとなっている。

ライター
最近ゲーム業界にサメ映画ブームが来ている気が・・・え? 『スター・ウォーズ』のゲームが出すぎて手が回らない毎日。1日36時間欲しい。

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