──“背中で魅せるガンガールRPG”。
仮に『勝利の女神:NIKKE』(以下、NIKKE)をプレイしていなくとも、このキャッチコピーや、それに違わぬ魅惑のキャラクターたちを目にしたことがある方は少なくないのではなかろうか。『ニーア オートマタ』や『チェンソーマン』など大人気IPとのコラボも行ってきた同作は、今や日本での地位を確立したと言っても良いはずだ。
さてそんな『NIKKE』だが、この2023年11月には日本でのリリースから1周年の節目を迎える。日々激しい競争が繰り広げられているソーシャルゲーム界において、勢いを失うことなく1年間を走り抜けるというのは、決して簡単な課題ではないだろう。
しかし『NIKKE』はそれを成し遂げた。その成功の裏には、いったいどのような取り組みがあったのか?
今回、1周年を記念したインタビューに応じてくださったのは『NIKKE』運営プロデューサーであり、本作の運営におけるキーパーソンであるリード・ルー氏。日本のみならず、グローバルでの展開に広く携わる同氏には『NIKKE』で注力したポイントや制作のフローだけでなく、世界規模の視点から見た“日本市場”の特徴などもうかがうことができた。
また、本稿が掲載されるのと同時期にはじまる『NIKKE』1周年を記念した大規模イベントについてもご紹介いただいたので、ぜひ最後までご一読いただきたい。
この1年の『NIKKE』のパフォーマンスは想像以上だった
──本日はよろしくお願いいたします。まずは『NIKKE』の日本リリースから1周年を迎えるということで、おめでとうございます!
リード・ルー氏:
ありがとうございます。
──日本リリースから今日までを振り返ってみて、運営プロデューサーとしての立ち位置から見た『NIKKE』の評価は100点満点で表現するとどのくらいでしたでしょうか。
リード・ルー氏:
まず作品に評価をつける権利はユーザーさんにあると思いますので、プレイヤーの皆さんにお任せしたいと思います。
ただ、それを踏まえてパブリッシングという視点から見ますと『NIKKE』のパフォーマンスは期待以上のものでした。それは数字的にもそうですし、ユーザーさんの反応をはじめとする日本市場への受け入れられ方という面でも想定以上のパフォーマンスを発揮してくれたと思います。手ごたえとしては上々といった感触ですね。
──本作はグローバルで展開しているタイトルですが、特に“日本に向けて”という意味で注力されている部分や、「日本ではここがウケているな」と実感するようなポイントはありますか?
リード・ルー氏:
日本のユーザーさんに向けて、という意味で注力している部分はいくつかありますので、順番にご紹介していきます。
まずひとつ目は「ローカライズ」ですね。自然なテキストになることはもちろんですが、日本のネタを取り入れたりして、より面白く感じていただけるように工夫しています。
イベントの内容についても近いことをやっていまして、今年の春ごろに「CHERRY BLOSSOM」というバージョンがあったんですが、これは文字通り「桜」をイメージしたものですね。あわせて日本をイメージしたキャラクターを実装したりと、このあたりは特に日本のユーザーさんに向けて作った部分になります。
あと大きいのはIPコラボです。日本のアニメ、ゲームなどの有名なIPとコラボすることによって、よりプレイヤーの皆さんに喜んでいただけるのではないかと考えています。またIPコラボとは別に、グッズなど日本の企業さんとのコラボも積極的に行ってきています。
──ありがとうございます。逆にいま、1周年を振り返ってみて課題に感じられている部分についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
リード・ルー氏:
そうですね……我々としてもゲーム内のバージョンごとにユーザーアンケートを行っていまして、そちらをベースにするとメインストーリーの難易度だとか、育成に関する部分についてはご意見をいただくことも多いです。もちろん、こうしたフィードバックをもとに開発チームで調整を行っていまして、今回の1周年でもメインストーリーの難易度を調整したり、イベントの内容を充実させたりと改善を進めています。
キャラクターに愛着を持ってもらうことがIPの長続きにもつながる
──『NIKKE』という作品を見るとすごく物語に注力されているのではないかと感じますが、実際のユーザーさんの進捗具合ってどの程度になるんでしょうか。
リード・ルー氏:
多くのユーザーさんが20章前後まで進められているようなイメージですね。21章以降まで進んでいる方は少ない印象です。それより先に進んでいる方はもっと少なくなってきます。
実はこの進捗ペースは私たちの予想よりも遅いんです。なので「想定よりも難易度が高くなってしまっているのかもしれない」という反省を踏まえ、今回の1周年にあわせてメインストーリーの難易度調整を行うつもりです。
──これはコンセプト的なお話になってしまうかもしれませんが、そもそも“物語”に注力するのにはどういった意図があるんでしょうか。また、実際にストーリーを表現するにあたってされている工夫などもお聞きしてみたいです。
リード・ルー氏:
まず、二次元系のRPGをプレイするユーザーさんはメインストーリーを求めているというのが基本的な認識ですので、リリース前から物語の内容については力を入れていました。
もうひとつ大きな理由としては「キャラクターに深い愛着を持っていただくため」という面があります。『NIKKE』はキャラクターから入ってきてくださる方が多いので、プレイをしてストーリーを知り、キャラクターの背景を知って愛するようになってくれると嬉しいですね。それは『NIKKE』というIPそのものが長続きすることにもつながるのではないかと考えています。
──確かに「イラストで興味を引いて、重厚なストーリーで沼にハメる」というのはかなり効果のあるアプローチな気がしました。
リード・ルー氏:
フルボイスにしたり、ストーリーのハイライトの部分にアニメーションを挿入して、ストーリー面の補強を行ったりしています。ハーフアニバーサリーイベントの「OVER ZONE」なんかが良い例ですが、宣伝用に制作したアニメーションPVもあり、イラストもあり、ミニゲームもあり……と、さまざまな手段を通してユーザーさんに没入感ある体験をして頂けるよう工夫しました。
ちょっと補足的な話ですが、今回の1周年にあわせて過去のイベントを遊べる「アーカイブ」機能もアップグレードしました。昨年のクリスマスに行われた「MIRACLE SNOW」というイベントにフルボイスを実装したり、アニメPVをつけた状態で遊べるようにしているので、リアルタイムでプレイしていただいた方もまたアーカイブで楽しんでいただけるのではないかなと。
──このアプローチにはやはり魅力的なキャラクターが欠かせないかと思いますが、実際のところ本作の「ニケ」たちはどのようなフローで制作されているんでしょうか?
リード・ルー氏:
キャラクターの見た目の部分については、開発のSHIFT UPから「こういうキャラクターが作りたい」というラフを受け取り、そこからイメージを膨らませていくような流れになっています。
なのでキャラクターの設定やチャームポイントなど、それぞれの「ニケ」に深みを持たせるための工程は運営をふくむ開発チーム全体で協力して行っています。 運営チームも、アンケートやSNSを通じてプレイヤーの好みを把握し、それに基づき開発チームに提案を行っています。
──ストーリー的に「こういうキャラクターが必要だから」というよりは、先にビジュアルのアイデアが寄せられる……というようなイメージになるんでしょうか?
リード・ルー氏:
キャラクターのイメージデザインとシナリオの作成、どちらが先かというと、両方ともあります。そして、キャラクターの見た目、設定、ステータスバランスなど、多面的な要素を考察し、それらがどの企業に所属するかを考えます。ただし、メインストーリーで登場するキャラクターについては、ストーリー概要の設計段階で、キャラクターの見た目イメージや所属企業などの基本設定は既に確定されています。
──開発チームの皆さんがすごくキャラクターにこだわりを持たれていることが伝わりました。そのうえでキャラクターづくりの「ここは外せない!」という強いこだわりのようなところはあるんでしょうか。
リード・ルー氏:
ひとつはキャラクターごとに強い個性を与えることですね。もうひとつは各キャラクターのチャームポイント、「○○と言えばコレ!」となるような要素を持たせることも大事だと考えています。
──本作ではキャラクターに着せられる“衣装”もいろいろなものが用意されていますが、こちらも制作フローとしては近い流れになるのでしょうか。
リード・ルー氏:
そうですね。衣装も開発側からラフを受け取り、そのうえで「こういうキャラクターなら、衣装もこういう雰囲気が良いんじゃない?」というようなアイデアを出し合って完成させていきます。
日本ユーザーは「新しいゲームを受け容れる力」が強い
──少し話を戻しますが、グローバルで展開している『NIKKE』で日本市場での展開を決める理由というのはどのあたりだったのでしょうか。
リード・ルー氏:
まず日本という市場は、他の地域と比べてソーシャルゲームの基盤がしっかりとユーザーさんの間に根付いている場所だと考えています。グローバルな視点で見ても3大市場のひとつと呼ばれるほどの規模でありますし、展開するという決断に迷いはありませんでした。
また、日本というのはゲーム文化がしっかり定着している国のひとつなので、ユーザーさんが「自分はどういうゲームが好きなのか」をちゃんと理解されているんですね。なので、例え新しい作品であっても「これは楽しめそうだな」と感じてさえいただければ、遊んでみようとしてもらえますし、受け入れてもらえる市場になっているんです。
この“受容度”の高さとか、ほかにも「運営サイドとユーザーの距離が近い」とか、色々と理由はあるのですが、日本市場というのは新しいゲームをパブリッシングするうえで非常に挑戦のしがいがある場所だと考えています。
──そのほか、グローバルタイトルでプロデューサーをされている立場から見て、日本のユーザーの特徴というのはどういった部分が思い当たりますか?
リード・ルー氏:
大きくふたつに分けてお話しますね。ひとつは「RPG」的なゲームを好むプレイヤーが多い点です。ハイクオリティなデザインとストーリーからなるジャンルが好まれているのではないかなと。
もうひとつは「誰もが楽しめるゲーム」の人気が高いなと感じています。例えば『スプラトゥーン』などはその代表的なもので、日本における受け入れられ方は他の地域と比べても迅速だったかと思いますね。
──例えば『NIKKE』以外で、日本でうまく運営されているタイトルとして思い当たる作品はありますか?
リード・ルー氏:
「このタイトルがすごい!」というよりも、全体を通してみるとゲームのクオリティだとか、IP化のプランニングが重要なのではないかと感じています。「あまりうまくいっていないな」と見える作品も、恐らくゲームの内容がどうこうというより、ソーシャルゲームというフォーマットへの適性があるかないか、という話になって来るんじゃないでしょうか。
『NIKKE』の場合ですと、売りになるのは“シューティング+美少女”の要素なわけですが、このシューティングという要素はどちらかというとPCゲームや家庭用ゲームが主流のジャンルでしたよね。なのでソーシャルゲームという媒体で、どう“シューティング”とキャラクターの魅力を引き出すかという点についてはかなり注力したところです。
先ほどのお話しともつながりますが、やはり日本のユーザーさんは“受容度”が高いので、『NIKKE』を好きになってくださる方のところへ届けば、たとえゲームプレイが新しくても受け入れてもらえるんです。なので『NIKKE』を楽しめる方に向けて本作の存在や魅力が伝わるようなパブリッシング戦略をとるというのは、特に意識していた部分になりますね。
──そうした分析を踏まえて、『NIKKE』の日本市場における展開で特に重要視されていた部分はどこになるのでしょうか。
リード・ルー氏:
実は『NIKKE』にとって、日本市場というのはグローバル的に見ても最も重要な市場のひとつなんです。ですから日本のユーザーさんの好みに合わせることを、デザイン、ストーリー、細かいところではローカライズやSNSの運営もふくめて考えてきました。日本の祝日や休暇、ローカルなイベントにあわせてゲームを運営するというのもその手段のひとつと言えると思います。
──実際、『NIKKE』は日本市場に受け入れられた作品と言って差し支えないかと思いますが、この1年を振り返って予想通りに運んだところ、逆に予想外だったところがあればお聞きしてみたいです。
リード・ルー氏:
予想通りだったのは『NIKKE』の新しいゲームプレイが日本のユーザーに受け入れられたところですね。先ほどお話ししたように、本作はシューティングという通常のRPGとは少し異なる要素を取り入れていますので、この独自性は日本でウケるんじゃないか、という予想がありました。
逆に予想外だったのは、日本のユーザーさんからいただいている反響の大きさです。私たちの想定を大きく超える反響を得ることができ、とても嬉しく思っています。
──ありがとうございました。それでは最後に、1周年記念イベントについてお聞きしてもよろしいでしょうか。
リード・ルー氏:
はい、まず1周年記念イベントは大規模なものとなりますので、それにともなう量のストーリーやイラストを準備しております。新しいボスも実装するので、これまでにない体験を味わっていただけるのではないかなと。
またアニバーサリー中には、週末の「迎撃戦」と「シミュレーションルーム」のドロップ率が上がったり、デイリーミッションの報酬が増えたり、さまざまな特典をご用意していますので、楽しんでいただけると思います。
少し珍しい要素としてはニケの「お試し機能」がアンロックされます。これは該当のニケを所持していないプレイヤーの方も、実際にプレイしてその性能をお試しできるというものですね。このほかにも色々盛りだくさんの一大イベントとなるので、ぜひご注目いただけると嬉しいです。
──とても楽しみにしております……! 本日は貴重なお話、ありがとうございました。
リード・ルー氏:
ありがとうございました。(了)
今回のインタビューを通じて、特に興味深かったのは「グローバルな視点から見た日本ユーザーの姿」がありありと伝わってきたところだ。面白そうだと思えば手に取ってもらえる……それは裏を返せば、ピンポイントで『NIKKE』を好きになってくれそうなユーザーのもとへ作品を届けなければいけなかったということ。その課題を攻略した背景に、市場への深い理解と巧みなパブリッシング戦略があったことは間違いないだろう。
実際、例え『NIKKE』をプレイしていない人でも、本作のキャラクタービジュアルやインパクトのあるキャッチコピーは記憶に残っているはず。その時点で「イラストで興味を引いて、重厚なストーリーで沼にハメる」というアプローチの、少なくとも半分は成功していると言っても良いのではないだろうか。
晴れて1週年を迎えた『NIKKE』、1周年の大規模イベントの豪華さももちろんだが、今後の本作のさらなる飛躍にも注目していきたいところだ。