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【特別座談会】『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― “人の心を狂わせる物語”の生み出し方を聞く

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石川さんと奈須さんに直接聞く、「キャラの魅力の出し方」

──続いては、奈須さんと石川さんに「キャラの魅力の出し方」についてお聞きできればと思います。

新納氏:
 僕は直近でプレイしたキャラだと「ワクチャン」【※33】が大好きだなあ!

奈須氏:
 ディノスはああいう種族だから、まずプレイヤーには「あぁ、こいつらはみんな原始的な生き物なんだ。あんまり頭は良くないんだ」と思ってもらう必要がありました。ただ、ディノスは一見すごく野蛮な種族に見えるようで、よくよく考えた上でもう一度聞いてみると、深い心理に基づいたことを言っている種族となる。

 そういう種族を代表するキャラが欲しいと考えて、ワクチャンのデザインは「恐竜をリアルに描きつつも、デフォルメしてほしい。かつ、ティラノサウルスの迫力を活かしたまま、愛嬌のある顔にしてほしい」と発注しました。いま自分で言ってて思いましたけど、我ながら新納一哉ばりに無茶な発注をしていますね。

一同:
 (笑)。

※33「ワクチャン」
『FGO』の第2部 第7章「黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン」に登場するキャラクター。恐竜の姿をした「ディノス」という特殊な種族のひとり。プレイアプルキャラではないものの、その愛嬌のあるキャラクター像からプレイヤーからの人気が高い。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_029

奈須氏:
 そんな無茶な発注をしたにも関わらず、中央東口さん(ディノスのデザイン担当)が最高のものを仕上げてくれたんですよね。あのデザインを見たら筆が乗ってしまって……ワクチャンの活躍は、やはりあの表情に引きずられた面が大きいと思います。

 だから、ゲームにおける「キャラクターの魅力」は100%自分が出しているものではないと思います。自分が作っている箇所もあれば、デザイン担当の方や声優さんがその魅力を生み出している部分もある。
 
 ゲームのシナリオを書いていて楽しい時は、やはり上がってきたデザインやイラストを見て、「このキャラは多分こういうことを言うだろう」と妄想を膨らませている時なんですよね。魅力的なキャラクターは「上がってきたデザインに対して、どういうキャラにするのか」というライターの手腕も含めて生み出されるものなのだと思います。

 「声優さんがアニメーションに対して声でキャラクターに命を吹き込むように、シナリオライターはデザインに対して言葉で命を吹き込むものなのだ」と、最近は考えています。

新納氏:
 キャラクターデザインを発注する人には2つのタイプがあって、「自分の脳内のキャラと合っているか答え合わせ」するパターンの人と、「自分の脳内のキャラと違っても、良いデザインになっているか」パターンの人がいます。奈須さんは結構後者のパワーが強い人だなあと感じます。

 「こんなに良いデザインが来たのであれば、もうこのキャラは設定から変えてしまおう」と、上がってきたデザインに合わせてキャラを作り変えたりしていることもしばしばお見かけしていまして。

 デザイン自体が良いものであれば、その良さを吸収した上でより良いキャラクターを作り上げる。それが奈須さんの描くキャラの魅力のひとつだと思います。

石川氏:
 上がってきたキャラのデザインだけでなく、「こんな場所で暮らしているのであれば、こんなことを言う」といったように、世界観やBG(背景)などを参考にしつつ作り上げたりもします。

 そうやって様々なリソースから要素を拾ってきてキャラを作っていくのは、「冷蔵庫の中にある食材で、いかに美味しい料理を作り上げるか」という感覚に近いかもしれません。

 先ほども話題に上がりましたが、買い切りのコンシューマータイトルでは、ひとつのパッケージを確固たる世界観で作り上げることが大切です。なので、答え合わせのタイプの方と相性がいいと思います。

 自分の中の答えとしっかり照らし合わせた上で「このデザインを自分の世界観に組み込むためには、ここを変えてもらわないと全体の中でトゲが出てしまう」と判断して、ひとつの世界観の中に収めていく感じですね。

 このスタイルで作り上げていった作品は、「作品全体として見た時に、ある種の統一感も含めて尖っているゲーム」として完成するのだと思います。どちらのパターンにも、それぞれの良さやメリットがありますね。

 私はどちらかと言うと奈須さん寄りの作り方。「みんなが持ち寄ってくれた食材があるなら、これで美味いチャーハンを作ろう!」みたいな感じですね(笑)。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_030

──私が明確にキャラを好きになる瞬間がひとつあって、それが「キャラの人間味が出ている時」です。『FF14』ではヘルメスとヨツユが好きですし、『FGO』の第2部 第6章では名無しの妖精(ホープ)が一番好きです。
 あの「キャラの人間らしさ、人間臭さ」が発揮されている時、私はそのキャラクターが実体を持ったように感じるのです。あの「人間っぽさ」はどのように出しているのでしょう?

石川氏:
 なんか……あれですね……ちょっと悲しい感じのキャラが好きなんですね……?

奈須氏:
 最近辛いこととかあるんですか?
 上司が厳しかったりするんですか?

──いや、そういうワケでは……(笑)。
 でも、「暁月のフィナーレ」【※34】で一番好きなシーンは、やっぱりヘルメス【※35】がカイロスを起動する時に、自分自身をも巻き込んで記憶を消しているところです。そういう「人間らしさ」をどう表現しているのかは、やっぱり聞きたいです。

※34「暁月のフィナーレ」
新生『FF14』の4作目の拡張パッケージ。「新生エオルゼア」から描かれてきたメインストーリー「ハイデリン・ゾディアーク編」が完結を迎え、新たな冒険に繋がっていく。石川夏子氏がメインシナリオ制作を担当しており、星と世界を巡る壮大なストーリーが高く評価されている。

石川氏:
 カッコつけと、カッコつかないところのバランスでしょうか。カッコよくキメるべき時は、思いっきり、なんならちょっと出来すぎなくらいカッコをつけるんです。

 でも、ずーっとその状態を続けてしまうと、「書かれたセリフを読んでいる」ような感覚が強くなってくる。「なんかこのキャラずっとカッコいいことしか言ってないな……」と感じてしまい、読んでて疲れてしまうし気持ちが離れてしまうんです。なので、緩んでいるところもしっかり作る。

 先ほど奈須さんがおっしゃっていた、「虚構の中にリアルを感じたい」という思いを、キャラのセリフに求めているような感覚ですかね……。それが結果としてキャラクターの人間らしさや、人間臭さに繋がっているのかもしれません。

奈須氏:
 あまりにセリフがカッコいいと、「なんかお前、キャラ作っちゃってない?」と感じる感覚はよくわかります。生き様や行動がカッコいいのは問題ないのですが、セリフそのものまで全てカッコよくしてしまうと、あまり人間として自然な感じはしません。

 カッコいいセリフは自然に出てしまうもので、そこまでのキャラクターの積み重ねも含めて、「この過程があるから、こいつはこういう言葉を口にするんだな」と納得感をともなうものです。

 もし新納さんに「このシーンにすごい演出を作ったので、ここは奈須さんが書いてください」と言われたら、もちろんそのシーンのセリフは全力で書き上げます。ただ、そのシーンやそこの決めゼリフを成立させるために、「じゃあここの前のシーンも書いていい?」という要望を出すと思います。

新納氏:
 もちろん、そのシーンは追加しますよ!

※35「ヘルメス」
「暁月のフィナーレ」においてカギを握るキャラクター。詳細を書いてしまうのは野暮なのだが、筆者としては「人間味」のある良いキャラクターだと思っている。

──自然なセリフを求めたり、それまでの積み重ねが結果的に「人間らしさ」に繋がっているんですね。

石川氏:
 もちろん、カッコいいセリフや張り詰めた空気が隙間なく続いていくような作品が好きな方もいらっしゃると思いますし、もっと日常寄りのカッコをつけない柔らかな雰囲気の作品が好きな方もいらっしゃると思います。

 キャラごとに塩梅を変えたりしつつ、なるべく多くの方に誰かしらのキャラを好きになっていただけることを目指しています。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_031

ゲームにおいて、「地の文」はどんな役割を果たすべきなのか

──ちょっとキャラの話からは逸れてしまうんですが、石川さんと奈須さんのシナリオを読んでいて特に印象的なのが、「地の文に引き込まれる」ところです。もちろん、キャラやシナリオも魅力的だと思うのですが、それよりベースの部分にある「地の文」の誘引力がすごいんです。あの魂を引っ張られるような「地の文」はどのように出しているのでしょう?

奈須氏:
 「地の文」というものは、ある意味「洗脳装置」です。
 地の文は、「運命そのものを俯瞰したもの」「神の視点」とも言えるもの。

 たとえば、あるキャラクターが「今日の夕飯は豪勢に牛丼で行くぜ!」とセリフで言っても、それはそのキャラの意見でしかない。ですが、地の文になると「どうしてその結論に至ったのか。その選択の先には何があるのか」を読者そのものに提示する事ができる。運命そのものを感じてもらえる。そこがプレイヤーや読者の方に刺さることも多いのだと思います。

 ただ、ゲームにおいて地の文を多用しすぎてしまうと、それはただの私小説になってしまいます。やはりゲームは映像も合わせてシナリオを体験するものだと思うので、地の文を多用することであまりプレイヤーを洗脳しすぎてはいけません。なので、RPGでは地の文は極力抑えるようにしています。

 基本的には、キャラクターの意見と映像を組み合わせた上でプレイヤーに物語を理解してもらうのが、正しいゲームシナリオの形なのだと思います。

 ですが、「どうしてもここに必ず地の文を入れたい」と思った時には地の文を差し込みます。例を挙げるとすれば、「地の文によって物語のテーマを強く打ち出したい時」「このキャラクターは死んでもこんなセリフを口にしないから、そのキャラの生き様を見ている神様が言ったことにする」といった状況では地の文を入れています。

石川氏:
 地の文やシステムメッセージは、「確定する事実」です。

 フワッとしている部分を「これはこういう事である」と確定させるために打ち込む1本の杭のようなものが、地の文だと思います。だからこそ、そこは細心の注意を払って書きます。

 つまり、書き手の「ここはこう」という強い想いが表れる部分ともいえるので……楽しんでいただけたなら何よりです。

──新納さんにはこの気持ちをわかってほしいです!

新納氏:
 いや、地の文最高ですよ!

一同:
 (笑)。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_032

新納氏:
 僕も今まさに『EXTRA Record』を開発している中で、当然ゲーム中に多くの地の文が出てきています。

 ただ、最近のゲームのプレイ感からすると、地の文が多いとダルく感じてしまうプレイヤーもいるかもしれないし、ゲームプレイ全体の流れを止める要素にもなってしまうかもしれません。なので、開発の初期段階では「地の文を削るべき」という意見が多かったんです。

 ですが、結果的に『EXTRA Record』は地の文を削っていません。
 地の文を活かしつつ、プレイ感を良くするために「イベントとイベントの間にゲームの時間をしっかり設けて、『そろそろ地の文が欲しい』と感じるであろうタイミングで地の文が来る」という工夫をしています。つまり、「地の文が活きるような間合い」をゲーム側で作っておくんです。

 「地の文を活かすようなゲーム」はそれだけコストがかかってしまいます。でも、それだけのコストを払ってでも残したいと思えるようなパワーが地の文にはあります。やっぱり……地の文は大事ですよ。特に奈須さんの作品では。

奈須氏:
 そう、そもそもゲームの中で「地の文を活かす」ということに結構なコストがかかってしまうんです。そんな中でも新納さんが地の文を活かそうとしてくれているのは嬉しい限りですね。

 実は私、デバッグが終わったあとも『EXTRA CCC』を8周ぐらいしてるんですが……あのゲームは、本当に地の文が多いです。歩いて地の文、歩いて地の文……を繰り返すようなシーンも存在しているので、本当にノベルゲーかと思っちゃいます。

ゲームシナリオにおける、「主人公」の描き方

──「地の文」の流れでお聞きしたいんですが、『EXTRA CCC』の主人公や、『FF14』の光の戦士のように、「主人公自身の選択肢やモノローグが面白い」のが結構好きなんです。
 プレイヤー自身を投影するアバターでもあるけれど、半分くらいは「そういうキャラクター」として確立されている主人公像が好きです。奈須さんと石川さんは「ゲームにおける主人公の描き方」をどう捉えているのか、お聞きしてみたいです。

奈須氏:
 『EXTRA』シリーズの主人公は結構キャラクター像が決まってはいるんですが、明確に「この主人公はこういうキャラクターである」とは断言していません。あくまで、プレイヤーの分身ではあるのです。そこを踏まえた上で、モノローグや地の文を書き上げています。

 プレイヤーが「自分は今こう思っているのに、このゲームの主人公はこう思うの?」と自己を投影した際に違和感を抱いてしまわないように、地の文やモノローグにおいても「極力、強い言葉を使わない」ようにはしています。

 ただ、「主人公が悲しむ」シーンは、ちゃんと「主人公が悲しむ理由」をモノローグや地の文で描いてから、悲しませるようにしています。しっかり文章を読んだ上で、「この状況であれば、自分だって悲しむ」とプレイヤーに納得してもらうためですね。この「主人公の心情に理由をつけた上で、感情表現をさせる」という方法は、1人称視点のゲームでは徹底しています。

 もちろん『FGO』においても、ストーリーのテーマに合わせて「主人公はこんな人間性」という指針は決めていますが、主人公のキャラクター性がユーザーのノイズにはならないようにしています。

 一方、ふざけるべきところは選択肢でもふざけて、主人公の人間性を出すようにもしています。弱いところもあれば、冗談めかして笑うところもある。主人公だってその世界の中でなんとか生きているし、どんなに苦しい状況だったとしても、花と歌を愛でる心を忘れてはいません。そういった「主人公の人間性」はこれからも大切にしていきたいです。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_033
公式サイトより

石川氏:
 光の戦士の描き方も、いま奈須さんがおっしゃられたことと大体同じなのですが……そもそも『FF14』は、新生に際して吉田が打ち出した方針が「FFのナンバリングタイトルとして、必ず世界は救ってもらおう」というものでした。

 なので、主人公は外見も種族も人それぞれであるものの、「世界を救う人である」というある意味でのキャラクター像は有していることになります。

 となると、犯罪を積極的に楽しむような表現は、少なくともこの主人公には適さない。冒険の中で、ちょっとふざけることはありますが……もちろん真面目な選択肢も用意しています。そうやって、「世界を救う」道筋で起きる出来事に、どういった態度で関わっていくかを選択肢で選ぶといった形ですね。

 おそらく、「完全なプレイヤーのアバター」として主人公を描くのであれば、「何種類かのセリフの選択肢を用意する」ことすらしない方がいいのだと思います。ただ、私や奈須さんが手掛けている作品は「既に話のオチが定められていて、主人公はそこに向かって進む」という形のシナリオが大半です。

 つまり、物語のオチを目指すことのできる主人公が必要なんです。アバターとしての自由さは多少制限される形になりますが、その分「自分がキャラメイクした主人公が世界を救うFF」という体験をしっかり楽しめるように作ることを心掛けています。

奈須氏:
 もしそのゲームの主人公をひとりのライターで担当していれば、そのライターの価値観で主人公の行動は決めることができます。ただ、運営型タイトルのように複数のライターがいる場合は、それぞれのライターの価値観や思想が主人公に出てしまうところはあると思います。もちろん、主人公の基本的な設定や情報はライター間でしっかり共有していますが。

 ある意味、そこはユーザーに甘えている部分でもあるというか……「このライターが書く主人公の場合、ここはこう感じるんだな」という面白さが生まれる部分でもあります。物語の最終的な結論自体は定められているので、ライターのハンドリングで多少主人公像がブレてしまっても、一応元のコースに戻ることはできます。

 そして「主人公の選択肢」に関しては、自分の中では基本的に「今この状況に対して、あなたであればどう返す?」という意味で使っているシステムです。そのシーンに対して、真面目に共感するのか? ここで黙り込むのが正解なのか? 困っている人に対して「大丈夫?」と声をかけるのか?

 ……そうして、プレイヤーの価値観に沿うために複数用意するのがソーシャルゲームにおける「選択肢」だと思います。ただ、『FGO』の場合は選択肢の文字数が決まっているので、たまに2つの選択肢でひとつの文章にしちゃってる時があるんですが……。

 逆に、『月姫』のように主人公が完全にキャラクターとして独立している場合は、そのシーンにおける選択肢は「その言葉で、運命がどう分岐するか」という意味合いのものになります。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_034
(C) SQUARE ENIX

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_035

──やはり『EXTRA CCC』の主人公【※36】像にはすごく驚きましたね。「アバター系主人公だと思ったけど……なんだコイツ!?」という衝撃がありました。

奈須氏:
 一見無味無臭なキャラのように見えるけど、遊んでいくうちに「あぁ、コイツはコイツでガンギマってるんだな」とわかるような主人公になっています。

石川氏:
 本当に何もない主人公だったら、犬空間で四つん這いになって進めないですからね。

※36「Fate/EXTRAの主人公」
「Fate/EXTRA」シリーズに登場する主人公。デフォルトネームは「岸波白野」。無口・無個性・中立がイメージでありながら、ここぞという時に主人公らしさを発揮する。

奈須氏:
 ある意味、主人公には「このゲームを遊んでいくうちに、プレイヤー自身に濃いキャラになってほしい」という思いを込めている部分もあります。どんな小説であれ、漫画であれ、ゲームであれ……娯楽やフィクションは、「現実ではこんなことはできないけれど、こういうことをしたい」と自己の願望を投影するものでもあるんです。

 最終的に、主人公を通してゲームに没頭していく中で、その物語を本当に味わったかのような疑似体験の感覚を得られることが極上の娯楽なのだと思います。それは、全ての娯楽の共通点でもあるかもしれません。

 最近、そのテーマをすごく突き詰めた『グリッドマン ユニバース』【※37】という傑作映画がありましたけど……。

──あぁ、確かにあれも似たようなことを……(笑)。

奈須氏:
 よく「職業に貴賤はない」とは言いますけど、あそこまで「フィクションに貴賤はないよ」と言い切った作品も中々ないと思います。どんな物語だろうと、誰が考えた物語だろうと、それはひとつの宇宙の中にある。

 「あらゆる物語は誰かの夢なのだから、そこに上下や優劣をつけてしまうのはおかしいじゃん!」と言いながらも、グリッドマンのような巨大な存在だって夢を見てもいい……そんな大きなスケールの話と、ミクロな話が同居しているのがあの映画だと思います。

 創作というものに対してそこまで真摯に語った後、「じゃあここからはみんなが見たいもの、見せるぞー!」と最後の1時間でハチャメチャに気持ちのいい主題歌に合わせて、ドチャクソに気持ちのいいアクションを全力で叩きつけてくる。

 さっき新納さんが言っていた「このシーンで、このセリフを言わせるために、こう作る」ということを最大限に実践してる映画だから、「こんなことされたら気持ちいいに決まってんじゃん!!大好き!!!」と……。

※37「グリッドマン ユニバース」
TRIGGER制作のアニメーション映画。『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のクロスオーバー作品でもあり、虚構を愛する人間のテーマと巨大特撮的アニメーションがスクリーンを迸る作品。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_036
YouTubeより

どうしてもお三方に聞きたかったこと。それは「好きなFF」

──そうでした、お三方に聞きたかったことがひとつあったんです。お三方の「好きなFF」はどのタイトルでしょう? 新納さんと石川さんには、『FF14』以外の好きなFFをお聞きしてみたいです。

新納氏:
 個人的には『FF11』【※38】ですね。

 ストーリー自体もすごく好きなんですが、実は『FF11』の「ストーリーの描き方」が好きなんです。結構突然巻き込まれて、突然よく知らないことを聞かされるんですよね。

 僕自身はすごくロジック人間なので、何事においても段取りを踏まなければ気が済まないんですが、『FF11』は段取りなく、突然ポンポンと新展開や新事実が放り込まれて、自分が巨大な世界の1市民、1冒険者として大きなうねりに振り回されている感じが味わえるんです。「ああ、なんでもかんでも前置きや伏線を張るのが良いわけじゃないんだな」って気づきがあるゲームでした。

 さんざん振り回したあとで、「これはそういう世界観です」と細かい設定を出して強く断言されてしまうと、「あぁ、そういう世界観なんだな……」と納得せざるを得ない。それが本当に好きです。僕は世界には逆らえない。それが好き。

──「なんでコイツと戦ってるんだ!?」みたいな状況、『FF11』だと結構ありますよね(笑)。

新納氏:
 突然謎のキャラクターが出てきて、謎のセリフを言ってくるこの勢いに「面白い!」と思わされるんです。考えてみれば『FF』というシリーズ自体、「突拍子もないもの」がいつも入っているシリーズだと思います。

  その「突拍子もないもの」の集大成が、『FF11』なんじゃないかと。

※38「FF11」
「FF」シリーズのナンバリングタイトル11作目にして、初のオンラインゲームMMORPG。その運営期間は既に21年を超えており、国内でもトップクラスの長寿MMOである。21年続いた今もなお遊び続けているプレイヤーがいるほど、その人気は根強い。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_037
© SQUARE ENIX
『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_038
© SQUARE ENIX

石川氏:
 私の場合、『FF14』の制作を通じてシリーズ自体にいろいろな思い入れができてしまったので、かえって選ぶのが難しいのですが……。

 それでもプレイヤー目線でひとつ挙げるのであれば、やっぱり『FF6』【※39】だと思います。非常に芸術的で繊細なドット絵である点はもちろん、キャラについて「描きすぎないところ」も好きなんです。

 頷く、俯く、首を横に振る、驚いてぴょんと跳ねる……それだけの動きなのに、ちゃんと伝わってくる。そういった「記号的な仕草が持つ余白」がたまらないのです。

※39「FF6」
「FF」シリーズのナンバリング6作目。スーパーファミコン用RPGであり、当時のドット絵の極地に達したような表現が数多く使われている。

──『FF6』は、「ドット絵でキャラに演技させられるんだ!」という驚きがありますよね。

石川氏:
 そう、しかもすごくドラマチックに!
 その表現が極まっていた『FF6』が、私の中で特に印象深いです。

 もうひとつ、『FF8』【※40】のエンディングがすごく好きなんです。
 あのエンディングは、「言葉がなくても、演出だけで情報や感情は伝わる」ことの良い例だと思います。私たちシナリオライターは「言葉を扱う職業」だと思われるかもしれませんが、「最終的に言葉がなかったとしても、伝えられることがある」ということを、『FF8』のエンディングで強く感じました。

 カットの構図を作る人、キャラに表情をつける人、ちょっとした仕草をつける人……そういった多くのスタッフに「自分が脳内で描いているものの意図」を正確に伝えてこそ、この「言葉がなくても、想いを伝える」演出が実現するのだと思います。そういう制作を心掛けたいという意味でも、『FF8』のエンディングは特別です。

 たとえば、頭上を通りすぎていくガーデンをサイファーがただ見上げるようなシーンがあるのですが、そのときのサイファーの表情に、これまでの彼の立場や物語などが詰め込まれていて……。

──サイファーが釣りをしているところ、私もすごく好きです。

石川氏:
 釣竿を投げて、風神と雷神のやり取りに笑って、そこに通りがかったガーデンを見上げて、なんともいえない表情をする……あの一連、とっても良いですよね。セリフはひとつもないのですが、彼の「言葉にならない想い」そのものはすごく伝わってくるんです。

※40「FF8」
「FF」シリーズのナンバリング8作目。『FF7』に続くPS用ソフトのFFであり、その美麗なムービーや主題歌「Eyes On Me」などが高く評価された。「G.F.」「ジャンクション」などの類を見ない独特なシステムや、個性的なキャラクターも印象深いタイトル。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_039
© SQUARE ENIX CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA

奈須氏:
 自分がハマりすぎてしまったのは『FF4』【※41】ですね。ファミコンのFFを1、2、3と遊んでいき、そこからSFCでグラフィックが一段階上がり、完全にストーリー主体の『FF4』が出てきたこと自体に衝撃がありました。新しい世界が始まった感覚があったんです。
 
 ストーリーも面白くて、全体のクオリティも当時の最高峰でした。遊び始めてからの3日間、本当に夢中で遊び続けましたし、エンディングを迎えた時に、「このゲームが終わってしまったら、明日から何して生きていこう?」と思ったゲームは『FF4』くらいです。当時の自分も若かったですし、『FF4』を遊んだ時に感じた「RPGへの憧れ」はあれから永遠に揺るがないものになっていますね。

 ただ、それとは別に『FF1』【※42】も好きなんです。特に、あのガーランド周りのトリックですね。あの「一番最初に倒したボスが、ラスボスでもあり、世界をこんな風にした原因だった」というギミックは、推理小説の叙述トリックに近い面白さがあります。

 あくまで推理小説は「作者が書いたものを、受動的に受け取る」媒体であるのに対し、ゲームは「自分が行った行動を、自分で受け止める」媒体です。そして『FF1』の「自分が行った行為によって、世界に事件が起きる。そして、自分でその事件を解決する」という体験が、今でもすごく記憶に残っています。

 ゲームの仕掛けとして、必要最小限の手間で最高の成果を出しているんですよね。

※41「FF4」
「FF」シリーズのナンバリング4作目。シリーズ初のSFC向けソフトとして発売された。初の「アクティブタイムバトルシステム」が採用された作品であり、そのストーリー性の高さも人気。

※42「FF1」
「FF」シリーズのナンバリング1作目。『ドラゴンクエスト』に続くコンシューマーRPGの分野に新たな流れをもたらした作品。敵である「ガーランド」周りの斬新な仕掛けは今もなお語り継がれている。

──『FF1』はすごいですよね。まさに初手から「FFっぽさ」が出ているというか。

奈須氏:
 『ドラクエ』に対するカウンターとしての『FF』だからこそ、あの雰囲気が形成されていったのはあると思います。『ドラクエ』に比べると、耽美的なストーリーだった印象があります。ゲームの中の世界が、まんま天野さん【※43】の絵なんです。

新納氏:
 『FF1』はゲーム全体に独特な終末感というか、「空虚な雰囲気」が漂っているのがすごいんですよね。ゲーム全体のなんとも言えない侘しさとか、それを引き立てる音楽とか……あの「なんとも言えなさ」に心を掴まれるところはあると思います。

※43「天野喜孝氏」
『FF』シリーズのキャラクターデザインや、イメージイラストを務めていることでお馴染みの天野喜孝氏。繊細かつ耽美な筆致が特徴的。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_040
© SQUARE ENIX

物語は、人間に何を与えてくれるのか

──私には「好きになるゲーム」の基準がひとつあるんです。それが、「終わった時に何かが残っている」ということです。たとえば、学生時代に『FGO』や『EXTRA CCC』で遊んだ時に、「ゲームのお話って面白いんだ」と感じました。私はあの2作に触れた辺りから、「シナリオ」をかなり意識するようになりました。
 そして初めてMMORPGに触れた『FF14』でも、エオルゼアでの冒険や他のプレイヤーとの触れ合いによって……なんというか……人として少し社交的になった感覚がありました。

奈須氏:
 あ、人間のレベルが上がったってことですか!?

石川氏:
 なるほど!?(笑)

──『FF14』を遊ぶうちに、若干人間として前向きになったような感覚があったのです。その「終わった後に何かが残っている」ことが、私の好きなゲームの基準なんです。だから、私は何よりも感謝をお伝えしたいです。あの「現実に帰ってきた時、何かが残っているような感覚」は、制作側も意識されるのでしょうか?

奈須氏:
 意識はしないですけど、「そうあってほしい」と思いながら作っています。

新納氏:
 まさにそうですね。
 意識はしないけれど、それが一番いいとは思っています。

奈須氏:
 たとえば、「このゲームをやったから、人見知りがちょっと治った」「このゲームをやったから、困っている人を助けるのは当たり前だと思えるようになった」……そういう心の形や在り方を少しでも変えられたのであれば、やっぱり嬉しいですね。

 ほんのすこしだけ手を添えることしかできないかもしれないけれど、同時に「手を添えられるような作品を作りたい」とは考えています。これはある意味、「自分の書いたものを誇りに思えるかどうか」ということに繋がる話でもあると思います。

石川氏:
 奈須さんが書かれる作品の一番好きなところが、最後の締めの一言……「結びの言葉」なんです。いつも本当に素晴らしいなと感動しています。

 その結びの言葉が余韻をもって響き渡り、読み終わった後にもその振動が身体全体に残っている……奈須さんの作品を読み終えた時に感じる、あの感覚が好きです。

奈須氏:
 ありがとうございます。
 石川さんにそう言って貰えるのはとても嬉しく、光栄です。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_041
公式サイトより

石川氏:
 私はTYPE-MOON関連作品の中でも特に『月の珊瑚』【※44】が好きなんです。とにかく描写が素敵で……。具体的な説明は少ないのに、すべての場面の空気がちゃんと伝わってくるんです。温度や湿度まで感じるくらいに。

 そういった細緻な表現に浸ったあとの、最後の1行、「結びの一言」が本当に美しい。本を閉じたあとも、ずっとその余韻が残り続けて……何度読み返しても、最後のページでまたその響きに胸を打たれる。だから、『月の珊瑚』が好きです。

※44「月の珊瑚」
全国各地でライブ配信された『坂本真綾の満月朗読館』第4夜用に書き下ろされた短編小説。遠い未来の地球と月を舞台として描かれるSFラブストーリー。後に、オリジナル小説版とコミカライズ版が公開されている。

奈須氏:
 確かに『月の珊瑚』は締めの一言をすごく意識した上で書き上げた作品です。石川さんがそう言ってくれるなら、当時、苦しんで書いた奈須きのこも報われます……。あの作品は短編ではあるんですけど、仕掛け自体はすごく大きかったんです。

 まず、「クリスマスの日に坂本真綾さんの朗読会を開く」という大前提が決まっていました。確か当時の担当者が「世の恋人たちが集う空間で、12月25日に坂本真綾さんに朗読してもらう短編を作ってください!」とか言いだして……「この男、とんでもないことを……」みたいな。

 12月25日、最高にハッピーな日に、カップルで朗読劇にやってくる人たちに向けた話を書くとか、かつて経験した事がなかった。つーかこれからもない方向でお願いしたい。だってバッドエンドにしたらそのカップル別れちゃうかもしれないじゃん! 責任重大だよ!

一同:
 (笑)。

奈須氏:
 そういったさまざまな条件を考えつつも、当時はTYPE-MOON作品の発表が止まっていた時期だったので「奈須きのこは生きてた」を証明する必要がありました。

 だからこそ『月の珊瑚』にもすごく力を入れる必要がありましたし、総決算とまでは行かずとも……自分にとっての「決意表明」にしようと思って書き上げた作品です。ただ、やっぱりマニアックな作品ではあるので、もしこの作品が石川さんに手を添えることができていたのであれば、こんなに嬉しい事はありません。

石川氏:
 普段生活していく中では意識していなくても、何かのきっかけで好きな作品のことを思い出したり、そこから受け取ったポジティブな気持ちや知識を思い起こすことで、「明日も頑張るか!」となれると嬉しいですよね。

 大変な日々の暮らしの中で、ふと心を持ち直すことができる、それが物語の力だと思います。

奈須氏:
 人間はどう生きていたとしても、やはり苦しみに苛まれるものです。その苦しみの中で、少しでも明日を頑張るような気持ちになったり、「あの作品の続きが出るなら、あと1年頑張ってみるか!」と思えたり……そういう些細な原動力になるのが娯楽です。そういう作品を生み出せるように、いつも頑張っています。

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_042

──終わった作品から力をもらえたり、「今このゲームを遊んでいること」自体がリアルを生きていく上での支柱になってくれたりします。だからこそ、たまに私はエンディングになる直前でゲームをやめてしまうことがあるんです。

石川氏奈須氏:
 あ、わかるー!!

一同:
 (笑)。

奈須氏:
 「世界のオチが見えたからやらない」「オチが見えたものに労力を使いたくない」とかではなく、単純に「終わらせたくない」なんですよね。

──「たとえゲームの中であっても、その中で生きているキャラと別れたくない」という気持ちが強くなってしまうんです。オルシュファンはまさに「データの中の存在だけど、もしかしたら彼は本当に生きているんじゃないか?」と思いましたし、最近遊んだ『魔法使いの夜』【※45】は特に「えっ、これ終わっちゃうんすか!?」という気持ちが……。

奈須氏:
 ゴ、ゴフッ!(血を吐くSE)

 でも、それはやっぱりライター冥利に尽きますね。

石川氏:
 冥利に尽きますね。
 まぁ、エンディングも頑張って作っているので見ていただきたいんですけど……(笑)。

奈須氏:
 そうそう、エンディングも頑張って作ってるから見て欲しくはあるんですが……「それはそれとして、その気持ちはすごく嬉しい!尊い!ありがとう!」という気持ちが同時にあります(笑)。

※45「魔法使いの夜」
2012年にTYPE-MOONより発売された伝奇ビジュアルノベル。奈須氏が過去に執筆した未発表の小説を原作にしたと言われている。2022年にPS4とSwitchでリマスター版が発売された。

新納氏:
 逆に、僕は「ゲームを終えた後の喪失感」が結構好きです。

 そのゲームをクリアした後って、身体の半分はクリア後の気持ちになっていて、もう半分はそのゲームの世界に残っているような感覚があるんです。そしてそのまま日常を過ごしていく中で、気が付かない内にその感覚がスッと抜けている。

 あの「朝になった」ような感覚が結構好きで、あれは同時に「人生のリフレッシュ」にもなっているのだと思います。あの感覚こそが尊いものでもあり、それこそがエンタメの良さでもあると思います。

 だから……ゲームは終わらせた方がいいですよ(笑)。

──クリアしたあとにそのゲームの音楽を聴いたりすると、より「浸れる」感覚はありますよね。

新納氏:
 エンディングを迎えても、まだ身体の半分がゲームの世界に残っているあの状態でストーリーを思い返したり、曲を聴いたりしますよね。ちなみにそれを一番やっていたのはPC版の『月姫』でした。

 PCから携帯端末にテキストを全部移して、その携帯を使って『月姫』の好きなテキストを電車の中で読んだりして……。

奈須氏:
 マジかよ!
 厄介ファンだわ~!!

一同:
 (笑)。

新納氏:
 しかも、読むシーンは大体同じなんですよ(笑)。

 何度も同じシーンを読んでいく内に、徐々に『月姫』の世界がスーッと抜けてきて、「あぁ、終わったんだな」と思う感じがたまらないです。

石川氏:
 好きなシーンを振り返ってみたり、関連することを調べてみたり、まだ終わらないようにちょっとだけあがくんですよね(笑)。

新納氏:
 「この余韻がもうちょっと続いてほしい!」と抗ってみるけど、結果的に2~3日でスッと消えます。でも、それがいいんですよ!

奈須氏:
 先ほども「まずヒロインを好きになってもらう」アドベンチャーの作り方についてお話しましたが、特に『月姫』や「Fate」シリーズは物語を楽しんでもらうことも前提にあった上で、やはり「キャラクターを好きになってほしい」と考えて作りました。

 それぞれのキャラは「おまえのファム・ファタール(オム・ファタル)をくれてやる!!」くらいの気持ちで挑みますし、プレイヤーが「幸せになってほしい」「別れたくない」と思えるようなキャラクターになっていたのであれば、すごく嬉しいです。

 『グリッドマン ユニバース』においてその作中での言葉ですが、やはり虚構(フィクション)という名の作り物に対して愛情を向けられるのは、人間だけの機能です。そして、虚構を愛せる人間は現実も愛せます。自分の作風は、そんな「誰かを好きになる心」「誰かを失う悲しみ」を追いかけ続けるものなのかもしれません。

 だから、さっきライターさんが言ってくれたことは「してやったり」と思う一方で、この先もどんどんストーリーで心をミキサーにいれてやるぞ、と……(笑)。

──やめろーッ! やめてくれーッ!!(了)


 ……アニメだったらアイリスアウトしてるオチですね。

   と、冗談は置いておきつつ……お三方にここまで多くを語っていただいたことに、純粋に驚いています。このお三方に「あの面白いシナリオって、どう書いてるんですか?」と直接聞いたインタビューは、これくらいかもしれません。本当に、ありがとうございました。

 そして、私は何より「ゲーム」から多くのものをもらってきた人間です。だからこそ、私は断言できます。娯楽は、ゲームは、物語は、必ず現実の人間を支える力になってくれます。

 物語を楽しむこと。人と触れ合うこと。誰かを愛すること。そして、自分でもあり、同時に自分ではない誰か<主人公>の人生を見届けること。

 それらは全て、必ず、いつかのあなたに手を差し伸べる。物語は、決してあなたを独りにしない。新しきを知る喜び。未知に胸をときめかせる本能。己の人生を彩る娯楽━━それはつまり……とか言っちゃって!

 なんかさぁ、この人たちが作ったゲームって彩がキラキラして見えたんだよなぁ。どのゲームが良いとか悪いとかあんまよく分かんないけど、すげーキラキラして見えたよ。ちゃんと「良かった」って言えて嬉しかったなぁ。オレの人生めちゃくちゃ充実……って、死なないです。まだ私は死にません!

『FGO』奈須きのこ ×『Fate/EXTRA』新納一哉 ×『FF14』石川夏子 ― 特別座談会_043

 インタビュー内でも大体同じことが語られていましたが、やっぱり娯楽には「明日も頑張ってみよう」と思える力があります。

 冷静に考えてみれば、「明日は頑張れない」なんて人として当然のことだと思います。ふと何もかも投げ出してみたくなったり、ふと全ての行動をやめてみたくなったり、ふと誰にも何も告げぬまま消えてみたくなったり。そういうのは、当然の権利です。みんな持ってて当たり前だし、みんなそう考えて当たり前だと思います。

 だけど、そういう時にギリギリで「あ、そういえばあのゲームのエンディング見てないな」「そういえば、好きだった作品最後まで見届けてないな」と、思いとどまれるのが娯楽の力だと思います。

 たとえば「あ、そういや黄金のレガシー出るんだったな……」とか。
 たとえば「あ、FGOの二部終わってないじゃん……」とか。
 たとえば「あ、『EXTRA Record』まだ発売してねえ……」とか。

 そうやって健全な形で思いを繋ぎとめてくれるものが、娯楽だと思います。
 私も、ちょいちょい繋ぎ止められてます。いつもギリギリのとこで繋ぎ止めてもらってます。だからこれからも、踏みとどまらせてください。思いとどまらせてください。この先も、いいゲームいっぱい作ってほしいです。急に圧かけてみた。

 そんなゲームに出会えたら、人生楽しくなるかもです。
 私、人生超楽しいです。いつも、ホントに助かってます。リアルワクチャン状態ですね。人生楽しくしてくれて、ありがとうございます。

 そして多くの人が、いつかそう思えるゲームに出会えますように。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
編集
新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai

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