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「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い方の勝ち筋とは? 『パラノマサイト』石山貴也に『マーダーミステリーパラドクス』塩川洋介が訊く

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マーダーミステリーのメカニクスにチャレンジしたい

──『マーダーミステリーパラドクス』はまだ発売前ですが、石山さんは体験版を遊ばれたのですか?

石山氏
序盤だけですが、遊ばせていただきました!

──作られた本人を前にして答えづらい質問だとは思いますが、率直にいかがでしたか?

石山氏
すごく難しいことにチャレンジされていると思いました。アナログのマーダーミステリーをデジタルゲームに落とし込むには、新しい工夫やアイデアがたくさん必要だろうなと思います。複数人で集まって遊ぶゲームだから許されているムーブを、そのままストーリー上でやろうとすると違和感が出てしまうでしょうし。

たとえば「死体を見つけてざわざわしているなかで密談するの?」など、ルール上そうなっている部分を自然な流れで行わせるのは、かなり大変だと思います。

『パラノマサイト』石山貴也✕『マーダーミステリーパラドクス』塩川洋介氏対談。「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い_016

──ゲーム開発者として、興味深い点はありますか? 

石山氏
自分はそんなにマーダーミステリーに詳しくはないのですが、「本来のおもしろさを抽出するとこうなるのか」と教えてもらえたような気持ちでした。なるほど、お互いに隠し持っている情報をうまく交換して、信用を得ながら真相を探っていくことがキモなんだな、と。そこがちゃんと体験できるようになっていて、興味深く感じました。

電ファミさんがインタビューされていた記事を読ませていただいたのですが、プレイヤーの視点をほぼひとりに絞ったのはどういった経緯があったのでしょうか?

塩川氏
もともと「リアルで遊ぶアナログのマルチプレイゲームをシングルプレイのデジタルゲームにしよう」という企画でした。

たとえば『グノーシア』や『レイジングループ』、少し違うかもしれませんが『ダンガンロンパ』も人狼的なニュアンスを含んでいると思うんです。そういったいい事例がいくつもあるなかで、それをマーダーミステリーでやりたいと思いました。

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グノーシア
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『レイジングループ』
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『ダンガンロンパ』

塩川氏
マーダーミステリーの特徴のひとつとして「プレイするキャラクターごとに役割が異なる」というのがありますが、シングルプレイで毎回違うキャラクターにしてしまうとストーリーのどこに感情移入したらいいかわかりづらくなってしまう。

そこで、主人公がさまざまな事件に巻き込まれていく形にすることで、いろいろな役回りになれると同時に感情移入するべきキャラクターをひとりに絞れると思ったんです。

石山氏
なるほど。視点はひとりでも、ちゃんと異なる役回りが味わえるのですね。

塩川氏
この企画の前身は大学との産学連携プロジェクトなんですが、始めは普通のテキストアドベンチャーを作ろうとしていたんですが、結果的にマーダーミステリーをテキストアドベンチャーとしてデジタルゲーム化するというチャレンジをしてみることになりました。問題は「チャレンジのハードルが高い」という部分なんですが(笑)。

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石山氏
マーダーミステリーでシングルプレイは、恐ろしいチャレンジだと思います!

一同
(笑)。

塩川氏
ハードルが高いことはわかっていたのですが、学生となにかチャレンジしたいとなったとき、興味を持っていたマーダーミステリーでやってみたかったんです。

石山氏
いや、それはクリエイターとしてすごく大事なことだと思います。『パラノマサイト』はあまり新しいことにチャレンジせずに作って、たまたまうまくいって評価していただけましたけども、本当はもっと新しいおもしろさを追及していくことも必要だろうなとは思います。

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中尾氏
アナログゲームをデジタルにするうえで「対人プレイならば会話の中で解決できる部分をシステム的に解決しないといけない問題」があるのですが、修正を重ねていくと最終的に伝えたいことが伝わらない状態になってしまうことも多くて……。

石山氏
「おもしろくする」ってすごく苦労しますよね。『パラノマサイト』も決まった仕様のなかでさまざまなアイデアを出し合って工夫しました。特に、仕組み上どうしてもキャラクターの動きを伝えにくいので、アクションのあるシーンを会話だけでどう表現するかは悩みましたし。

中尾氏
じつは『パラノマサイト』でリスペクトした部分がひとつあって……。

石山氏
おお。ひとつなんて言わず、いっぱいあってもいいですよ!

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一同
(笑)。

中尾氏
『パラノマサイト』は会話の中の“間のつくり方”がすごいですよね。特に目線の動き。セリフの前に “目線でちょっと語る” んです。それが場の雰囲気をとてもうまく演出していて、ちょっと怪しかったりするとすぐに伝わる。

3Dで気にするようなことを2Dの中で普通にされていて、テキストの流れ以外での時間の流れをシームレスに感じる演出だと思いました。

石山氏
さすが、そこに目を付けていただけるとは! ありがとうございます! じつは視線の演技の有用性は『スクスト』で学んだものです。目線を逸らしているだけで「ありがとう」の意味も変わってくるなと。なので『パラノマサイト』では視線の差分バリエーションも用意して、使い分けで演技させています。

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中尾氏
そのこだわりを見て勉強させていただきました。その他にもカット切替も細かく丁寧に設定されていて、本当にすごいと思います。

石山氏
いえいえ。もう、どんどん真似しちゃっていいですよ!(笑)

一同
(笑)。

マーダーミステリーならではのおもしろさとは

──ちなみに石山さんはアナログのマーダーミステリーで遊ばれたことはありますか?

石山氏
あ、はい。知り合いに誘われて2回ほどですが。その数少ない経験で個人的におもしろいと思ったのが、終わったあとにほかのプレイヤーの指示書を見るときで。「ああ、だからあんなことしてたのか!」とか「あのとき言っていた言葉はそんな狙いがあったのか!」とか、種明かしの瞬間がいちばん楽しかったなあと。むしろ、種明かしで驚いたり納得したりしたいがためにマーダーミステリーをやると言っても過言ではないくらいに(笑)。

そういう、「いろいろな立場での言動が交わって謎や疑問が生まれていく体験」が、マーダーミステリーならではなんだろうなと思いました。

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塩川氏
『マーダーミステリーパラドクス』のシナリオライターはマーダーミステリー出身の佐藤倫(じゃんきち)さんなので、キャラクターの裏側についてはしっかり見せられると思います。

ただの悪人や嫌われるためだけのキャラクターは作りたくないと思っていて、「どんな行動も回収すべき裏がある」というところはミステリーとして大事にしたい。でもそれを見せるには最後まで遊んでいただかないといけないので……。

石山氏
ああ、そこが難しいところですよね。種明かしも全部しないといけないですし。

塩川氏
先例もなく、手探りで作っているので頭を悩ませている部分でもあります。プレイテストではマーダーミステリー経験者からもある程度良い評価をもらえているので、テキストアドベンチャーゲーム化としてはそれなりに良い形に落とし込めているとは思っているのですが……。

とはいえマーダーミステリーのすべてを再現するのは不可能ですから、取捨選択してエッセンスだけをうまく抽出する必要があり、それが『マーダーミステリーパラドクス』の最大のチャレンジです。

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石山氏
なるほど。再現できれば絶対におもしろいので、チャレンジしがいはあると思います。あと、マーダーミステリーはシナリオごとにルールや条件が違うところもいいですよね。決まりきった構成ではなく、シナリオによってはトリッキーな役もあったりして。

中尾氏
事件を解決するだけのシナリオもあれば、犯人以外の役柄にも重要な目的があるシナリオもありますからね。

石山氏
キャラクターごとに目的が違っていて、犯人を見つけ出すことが必ずしも全プレイヤーの目的じゃないところも特徴的でおもしろいと思いました。そういう要素がうまく事態を複雑にしてくれるし、プレイヤーを怪しくしてくれる。よくできたシステムだなあと思います。

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塩川氏
佐藤倫(じゃんきち)さんの手がけたマーダーミステリーは非常に評価が高く、エンタメとしておもしろいのでぜひ遊んでいただければ……ちょっと時間はかかるんですけど

──どれくらいなんですか?

塩川氏
6時間くらいです。

石山氏
長っ!! 興味はありますけど、長っ!!!

一同
(笑)。

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塩川氏
時間拘束が長いのでハードルは高いんですけど、実際にやってみるとあっという間ですよ。

テキストアドベンチャーゲームはこの先も細々と続いていく

──石山さんと塩川さんは年代も近いですよね?

塩川氏
私は1979年生まれです。

石山氏
自分は1975年です。もう結構な年です。下積みが長かったですが、ようやく業界に認識されるようになったのかなと!(笑)

塩川氏
いやいや、『スクスト』があるじゃないですか。

石山氏
ありがとうございます。でも『スクスト』の時はあまり反応がなくて……。

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塩川氏
スクエニのスマホゲー初期では代表的なヒットタイトルだと思いますが、外から見ると作り手の発信はなかったかもしれないですね。

石山氏
はい。開発者を外に出さない方針でした。女の子ばかりのコンテンツなのに中身はおじさんばかりなのを見せたくないというプロデューサーの意向で(笑)。

一同
(笑)。

石山氏
『パラノマサイト』を出してからは、社内でも知らない人から「おもしろかったです」というリアクションをいただいて、すごく驚いています。ゲーム1本でこんなに変わるのかと。このような対談をさせていただく機会もいただけましたし!

──『パラノマサイト』の注目度は上がり続けていますから、続編を期待する声や石山さんが手がける新たなアドベンチャーを望む声も大きくなっていると思います。

石山氏
テキストアドベンチャーゲームはこの先もたまにヒット作が生まれて、細々と続いていくんだろうなと思っています。作りやすいですし、ジャンルがなくなることはないでしょうから。そういうジャンルが好きな人に向けてこれからも出していきたいという思いはあります。がんばります。

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塩川氏
石山さんは、シナリオを書くことについてはどこで学ばれたんですか? 師匠的な方がゲーム業界にいらっしゃったりするのでしょうか?

石山氏
それで言うと、完全に独学ってことになります。昔からテキストを書くことは好きで、学生のときに小説を書いたり、個人でテキストアドベンチャーゲームを作っていたりしました。会社に入ってからは自分なりに研究をして「読みやすい文章にはなにが必要だろう」とか「『ドラゴンクエスト』の文章って読みやすいな」とか、書きながら覚えていきました。

塩川氏
ユーザーとしてもテキストアドベンチャーゲームやノベルゲームがお好きなのでしょうか?

石山氏
もちろん好きなテキストアドベンチャーゲームはたくさんありますけども、作家性が強く反映されるジャンルですから、どうしても好みは出てきますよね……。ですが一般ユーザーさんでも「アドベンチャーならなんでも好き」という人はそんなにいないと思っていて、自分の作品についてもそれは覚悟しています。

今回は高い評価をいただきましたが、次がどうなるかはわからないですから。ベストセラー作家だって毎回ヒットするわけではないですしね……。

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──『パラノマサイト』のヒットを受けて、フォロワーゲームが出てきそうな予感もあります。

石山氏
あ。それについては、この記事を読んでいる業界の人に本当に気をつけてほしいことがありまして。「よし、『パラノマサイト』が売れてるみたいだから、うちもテキストアドベンチャーゲームを作ろう!」という考えは、やめたほうがいいと思います!(笑)

一同
(笑)。

石山氏
テキストアドベンチャーゲームだから売れるわけではありませんよ、と。アイデアやスタッフがあってこそです。自分も20年の下積みがあってのいまですし、「ぽっと出じゃない」ということで(笑)。

一同
(笑)。

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──最後に石山さんから、『マーダーミステリーパラドクス』へ期待するポイントなどがあればお聞かせください。

石山氏
マーダーミステリーのフォーマットに事件を当てはめると「紐解いていく」ということがすごくわかりやすくなるんだな、と思いました。解き筋が見えてくるのがおもしろいので、それを生かしてどういった展開を見せてくれるのかが楽しみです。

あとマーダーミステリーは、どうしても情報が多くなって全容を把握するのが大変になるので、時系列やキャラクター別にヒントが並べられて整理されるのもすごく親切だと思いました。コンピューターゲーム、デジタルゲームだからこその利点が活かされていると思います。

キャラクターもそれぞれ深みがありました。まだ序盤までしか遊べていないので、これからより大きな事件に巻き込まれていくのだろうと思うと、わくわくしてきます!

塩川氏
ありがとうございます。よろしければ、アナログのマーダーミステリーも一緒にやりましょう。

石山氏
おお。ぜひお願いします。

塩川氏
6時間もあっという間ですから。

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石山氏
それはやっぱり、長っ!!(笑)

塩川氏
楽しみにしています。(了)


「ないものは気にしない」という方針で、限られた環境からヒット作を生み出した石山氏。一方で、まだだれも試したことがないであろう題材に奮闘する塩川氏。同時代にまったく別のアプローチでテキストアドベンチャーゲームに挑むふたりのクリエイターの対談となった。

塩川氏の新しいことへの挑戦について、石山氏は「クリエイターとして大事なこと」と語る。そうしてテキストアドベンチャーゲームはこれからも濃いファンを生み出していくのだろう。

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『マーダーミステリーパラドクス』がどのようなものになっているか、その全貌を私たちはまだ知ることができない。本作はPC(Steam)用として12月2日に発売を予定している。記事を読んで気になった人はぜひ体験版を遊んでみてはいかがだろうか。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。

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