近年、急速に広まりつつあるアナログゲーム「マーダーミステリー」をご存じだろうか?
マーダーミステリーとは、架空の殺人事件を想定したストーリーを基に、それぞれ役割と目的を与えられたプレイヤーたちが事件の真相を推理する遊びだ。
プレイヤーの中には「犯人」役も混じっており、もちろんそのプレイヤーは自分が犯人だとバレないように嘘をつき、追及を逃れようと動く。そして犯人以外のプレイヤーは議論や推理を重ねて犯人の特定を目指す。ざっくりと紹介するのならば『人狼ゲーム』に代表される正体隠匿系ゲームの一種と言えるだろう。
ただしマーダーミステリーの面白いところは、犯人以外のプレイヤーもそれぞれが異なる「秘密」や「目的」を持っていること。隠しごとを秘めた人間同士が話し合うと、そこではもちろん不信感が生まれてくる。
たとえば、あなたが「秘密」を隠そうとするあまり、しどろもどろな受け答えをしてしまったとしよう。当然、周りの人からは「こいつ、何か怪しいぞ」と思われ、あなたは実際に「犯人」でないにもかかわらず、疑いを持たれてしまったりする。
このように、本来の目的である「犯人を捜し出す」というゴールに向けてスムーズにことが運ぶとは限らないのである。
そんなマーダーミステリーを“ひとり用のデジタルゲーム”として表現すると謳う、極めて挑戦的な新作『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』が、アニプレックスよりSteamでPC向けに販売予定であることが発表された。
しかしマーダーミステリーの醍醐味と言えば、“人間同士の腹の探り合い”と考えるのが普通だ。その魅力をどうやって「ひとり用のデジタルゲーム」に落とし込むのか? そもそも彼らはマーダーミステリーの真の魅力を何だと考えているのか?
そんな疑問を解き明かすべく、電ファミ編集部では本プロジェクトを主導する3名の方にお話を聞くことにした。
ひとりは、本作の開発をプロデューサーとして主導する塩川洋介氏。かつてスマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』のクリエイティブディレクターおよびクリエイティブプロデューサーを務め、2023年現在はファーレンハイト213株式会社でディレクターとして『つるぎ姫』を開発中の人物だ。本プロジェクトの発起人であり、まさに中核を担う存在と言って過言ではない。
もうひとりがマーダーミステリーの名作シナリオ『ランドルフ・ローレンスの追憶』を代表作とする佐藤倫氏。界隈では“じゃんきち”の愛称でも親しまれており、氏の手がける作品には熱心なファンも多い。
そして最後のひとりが、本作ではグラフィックディレクターを担う大阪成蹊大学芸術学部長・教授で映像監督の糸曽賢志氏。驚くべきことに、実は本プロジェクトではビジュアルをはじめとする多くの部分が、大阪成蹊大学芸術学部に在籍する学生たちのチームによって制作されているのだという。
ひとり用でデジタルゲームのマーダーミステリーを作るという挑戦的すぎる企画趣旨。プロと学生の混合チームという異色の開発体制。どこをとっても異彩を放つこの企画のベールを剥ぎ取るべく、電ファミニコゲーマー編集部は塩川氏、糸曽氏、佐藤氏(文中はじゃんきち氏、今回はリモートで参加)に直撃した。
聞き手/TAITAI
文/シェループ
編集/久田晴
撮影/佐々木秀二
マーダーミステリーのエッセンスをデジタルに落とし込むシステムでシナリオを作る
──本日はよろしくお願いいたします。今回の「マーダーミステリーをデジタルにする」という企画がとても挑戦的なものに思えるのですが、まずはどういった形で制作を進めているのか、という基礎的な部分からお聞きできますでしょうか。
じゃんきち氏:
まず、マーダーミステリーをデジタルに落とし込む上でのシステム的な部分は塩川さんが作ってくださっています。私は勝手に「塩川システム」と呼ばせていただいているのですが(笑)。
一同:
(笑)。
じゃんきち氏:
マーダーミステリーのエッセンスを抽出し、デジタルゲームへと落とし込んだフレームのようなシステムがあるんです。私がそれにキャラクターの台詞などを被せ、シナリオを組むという作り方をしています。
そのシステム部分のお話を聞いたとき、初めてマーダーミステリーをデジタルへ落とし込む方法が見えた、と感じました。
ただ、この辺のお話は塩川さんに直接お聞きした方が面白いかもしれません。
──システムの部分はじゃんきちさんとご一緒に考えられたと思っていたのですが、そうではなかったのですね。
塩川氏:
いや、でもけっこうやり取りはありましたよ。実は具体的なところは何も決まっていない段階からじゃんきちさんにお声掛けはしていまして、その際にいくつかシナリオのアイデアをいただいていたんです。そのプロットの中に散りばめられていたキーワードが、システム自体のインスピレーションにもなっているんですよ。
そのとき、じゃんきちさんは「アナログのマーダーミステリーをトレースしてもしょうがないから、ひとり用ならではのマーダーミステリーにしないといけない」ということをおっしゃっていたんです。
実際、「ひとり用のマーダーミステリーとして、プレイヤーがさまざまな体験を楽しめる」というのがプロットの初期の構想としてあったんですね。
やっぱり、アナログのマーダーミステリーにはアナログなりの良さがありますから、そのままコピーしたところで勝てる訳がない。なので、何をそぎ落としてデジタルならではの良さを引き出すか、を考えていきました。
マーダーミステリー自体を、すべてデジタルにしようと思えばできなくはないと思うんですよ。けど、そうすると膨大かつ複雑で、中にはデジタルでやってもおそらく楽しくないだろう部分も含まれてしまう。なので当時のプロットは、そういう取捨選択をする指針になってくれたと思っています。
──では、そのプロットは最初から「ひとり用で遊ぶならこうだろう」みたいな想定をした上で書かれていたのですか?
じゃんきち氏:
そうですね。塩川さんのお話を聞いて思い出したのですが、マーダーミステリーをデジタルに落とし込む上で、大きくふたつの作り方があると思うんです。
ひとつは普通のマーダーミステリーらしく、キャラクターを5人用意したら、全員がプレイアブルキャラクターで、どれになってもプレイヤーが入って遊べるタイプの作り方。
もうひとつは普通のデジタルゲームのように、ひとつのキャラクターの中にだけ入り、その視点を持ってプレイしていく作り方です。
このふたつを比べると、前者の方がマーダーミステリーとしての再現度は高くなると思うのですが、かといってそれがプレイヤーの体験的に良いものになるとは限らないんですね。やはりデジタルに落とし込むのであれば、基本的には主人公をひとりに固定し、その視点をキープした方が総合的な完成度は良くなるだろう、と。
もちろん、すごく高いレベルで実現できれば、ひとつ目の方法でも同じくらい面白くなる可能性はあるんですけどね。
それを考えつつ、今回のプロットを作っていきました。自分の方から積極的に説明をしていたというわけではないと思うのですけど、そこは「汲み取っていただいたんだな」と感じます。
塩川氏:
おそらく「マーダーミステリーをデジタルゲームで作ろう!」とストレートに考えたら、容疑者が5人で5人それぞれの視点で遊べます、みたいな企画にすると思うんです。
けど本作では主人公が固定されていて、その人物を遊ぶ形にしている。やっぱり、そこには体験の多様さやボリュームよりも、マーダーミステリーならではの体験を、高い品質で体験してもらいたいという狙いがありました。
──なるほど。となると、その固定されたひとりの主人公がいろんな事件に遭遇していくようなものなのでしょうか?
じゃんきち氏:
そうですね。ストーリーは最初から最後まで繋がっています。
塩川氏:
その点、本作はマーダーミステリーと同じ弱点を持っていて、「どんな話であるか」はいっさい言えないんですよ(笑)。たとえば『ランドルフ・ローレンスの追憶』(以下、ランドルフ)のストーリーと言いますか、あの体験を一言で語るのって難しいと思うんですね。
今作もそういう感じで、ひとつの体験として見ると、謎は出るし、事件は起きるし、それを解いていくということになります。けど、それだけでは終わらないという、非常に“じゃんきちさんらしい”物語になっているんです。
──なるほど、プレイヤーをびっくりさせたい“何か”があるということは分かったような気がします。であれば、この時点ではあまりお聞きしない方がよさそうですね(笑)。
マーダーミステリーの面白さの核は「推理」と「信用」にあり
──では次に、本作は普通のアドベンチャーゲームやビジュアルノベルと何が違うのか? という点についてお尋ねしていきたいです。そもそも「マーダーミステリーの面白さの核とはなんなのか」という話にもなってくるのですが、実際にそれは何だと考えられていますか。
塩川氏:
そこは各々違いがあるでしょうから……じゃんきちさんのマーダーミステリー作家としての観点から教えてほしいです(笑)。
じゃんきち氏:
今回の企画をまったく無視した話題で恐縮なのですが、私自身はマーダーミステリーを「居酒屋」だと思っています。
──居酒屋ですか!?(笑)
じゃんきち氏:
はい(笑)。極論で言えば、私はマーダーミステリーを「単なる会話にきっかけを与えてくれるツール」だと思っているんです。
人間って長い年月をかけて今のように進化してきましたけど、いまだにこれといった話題もなく、みんなで集まってワイワイ話すのがやっぱり楽しいじゃないですか。マーダーミステリーの面白さって、基本的にはそういう人間同士の会話の部分にあると思っているんです。
それはマーダーミステリーというよりは、アナログゲームの良さとも言えるのですが、居酒屋で挙がる話題のように“きっかけ”を与えてくれるものとしての面白さこそが一番の本質ではないかと、私は考えています。
──なるほど……。塩川さんはどうですか。
塩川氏:
私はデジタルゲームを作っている側の視点でシステム的な分解をやって考えた時、行き着いたキーワードがふたつありました。それが「推理」と「信用」ですね。このふたつを軸に攻略するゲームというのがマーダーミステリーだろう、と。
一般的なテキストアドベンチャーやビジュアルノベル型のミステリー系ゲームと何が違うのかと言いますと、そうしたタイトルは基本的には「推理をすること」が遊びの中心になっていることが多いと思うんですよ。答えを見つけるまでのプロセスが楽しい、謎を解いていくことが面白い、という推理中心のゲームだと思うんです。本作でも当然ながらそうした、ミステリーゲームとしての面白さは軸に据えています。
一方で、アナログゲームとしてのマーダーミステリーについて考えると、推理ってひとつの側面だと思うんです。「犯人は誰だ?」「凶器はなんだ?」「犯行時刻は?」というのは面白さにおける一部分にすぎない。
むしろ、キモは先ほどの居酒屋の話に近いと言いますか、「この人は本当のことを言っているのか?」「本当の情報を与えるべきだろうか?」「嘘をつくべきだろうか?」という人との“駆け引き”だと思うんですね。
そのためには人から「信用」を得ていかないといけない。信用を得なければ、自分が後で吊るし上げられることになったり、情報を得られないということに繋がりますからね。
この「推理と信用のかけ算」がマーダーミステリーらしさかな、と私は捉えています。システムを作るに当たっていろいろそぎ落としていく中で、それが面白さの核かなとゲームデザイン上の選択として考えましたね。
──なるほど。たとえば『人狼』だと「白確」みたいにシステムやロジックで「信用」を得ていきますけど、たしかにマーダーミステリーだと会話や駆け引きで信用を得ないといけないと。糸曽さんはどう思われますか?
糸曽氏:
僕は普段、アニメーションの演出をやっているのですが、アニメーションってこちらの意図通りに観客を誘導し、見ていただくという感じなんです。
なので、その場の皆さんの会話によってストーリーが変わっていく、みんなで作り上げていくと体験がすごく羨ましくて。
じゃんきちさんの『ランドルフ』をやらせていただいた時も、「これは、すごい体験ができている!」と感じたんですよ。「あと何分です」みたいに煽られるのも、アドレナリンが出ますし(笑)。
今も覚えているのですが、じゃんきちさんと学生さんも集めて体験版をやったことがあるじゃないですか。
──体験版というと?
糸曽氏:
はい、実は「こんな感じのゲームになるかも」という具合に、内部向けの体験版を一度形にして出したんです。それをやったのですが、そこでじゃんきちさんに直接伝えたのが「焦らせる体験、あのアドレナリンが出る過程がすごく楽しかったから、本番でも残して」と。
「正解を言っているのに周りから信用してもらえず、犯人にされてしまう」というようなものですね。あのような体験をゲームの中に入れられたらすごいワクワクするし、いつもとは違う推理ゲームを楽しめるんじゃないのかと。
じゃんきち氏:
ちょっとだけゲーム部分に触れつつお話しますと……マーダーミステリーって会話の選択肢が無限にあるじゃないですか。それに対して、普通のアドベンチャーゲームやビジュアルノベルの選択肢はある程度限定されてくる部分があります。
今回のシステムは、その中間ぐらいにあるものだと思っていまして。普通のアドベンチャーゲームとは比較にならないぐらいの選択肢があり、どのNPCに対してどんな話題を提供するかみたいなことを選び、決断していくシステムになっているんです。なので、NPCと選択肢の数だけ、会話がどんどん発展して膨れ上がっていくんですね。
──それですと、たとえば『グノーシア』は選択肢の応酬をするわけですが、技術的には内部ポイントの削り合いじゃないですか。ノリとしてはアレに近いんでしょうか?
塩川氏:
ちょっと違いますね。本作は基本的に会話劇で進行するので、事件現場で「怪しいものがないか調べてみましょう」「調べたらこんな指紋が見つかった」みたいなことはしないんです。いわゆるポイント&クリック式のゲームだと、「あ、ドアが開いた」みたいにいろいろ触って調べていくじゃないですか。
そうではなく、マーダーミステリー自体がもともと会話劇ですから、基本的には会話劇でゲームを攻略していくんですね。推理も信用もすべて会話劇で「こいつ適当なこと言ってやがる」「こいつ、私に疑いをかけてきているな」と考えながら進めていくという感じです。フワッとした説明で申し訳ないですが……。
──つまり、いろんな場所に出向いて探索したりすることは基本的にない?
塩川氏:
そうです。大きな構造で言うと、一般的なアドベンチャーゲームのようなストーリーパート……物語を見せるパートが大きく設けられています。そこでは物語を楽しんでいくのですが、あるタイミングで「事件が始まったらしい」という動きが起きて、「犯人はこの中にしかいないはずだ」「誰がやったんだ?」みたいな会話へと発展していくんです。
その会話からストーリー展開が変わったり、一緒になる人が変わって謎を解いていくことになるみたいに、いろいろなシチュエーションが展開していくという感じになっていますね。
──マーダーミステリーって、『人狼』やTRPGと違って、会話や推理を進めるきっかけがシステム的に用意されている、みたいな部分が特徴的ですよね。
実のところ、僕は『人狼』がけっこう苦手なんですよ。嘘を付くのがいやで、顔に出ちゃうんです(笑)。けど、マーダーミステリーはその辺りが中和されているように感じるんです。やりやすい、と言いますか。
塩川氏:
ゲームマスターやアイテムカードなど、各所でガイドされていますからね。
──だから、『人狼』が苦手な人も遊びやすいから、ムーブメントとして来ているのかなと思うんです。
じゃんきち氏:
おっしゃる通り、マーダーミステリーはサポートが入っているので遊びやすいですね。それに加えて、物語体験の要素があるのも大きな違いだと思います。
先ほど出した「居酒屋」という例えを使うと、『人狼』は料理(物語)よりも、会話の方がメインです。
逆にマーダーミステリーは料理(物語)の価値が大きい。それこそコース料理みたいな感じで、会話を楽しみつつ、お店の方がいろいろと手を変え品を変え、美味しい物語を食べさせてくれる。そんなところがあるかもしれません。
あとは証拠品があるマーダーミステリーと違って、『人狼』は推理の起点も少ない。お互いの人間的な部分を見ていかなければならないので、向き不向きが出やすいです。
そして『人狼』とマーダーミステリーの大きな違いの1つとして、リプレイ性があります。『人狼』は何度でも遊べるのに対して、マーダーミステリーは同じシナリオを1回しか遊べないですからね。
──なるほど。リプレイ性はたしかに大きな違いになりますね。
じゃんきち氏:
ただこれは良い面もあって、プレイヤースキルの差が出にくいんですよ。『人狼』は同じルールで何度も遊んだ人とそうじゃない人が混ざるから、スキルの差がでやすいです。マーダーミステリーは同じシナリオを1度しか遊べませんから、『人狼』ほどスキルの差が出にくい。そこは大きいと思います。
そんな風に『人狼』などのコンテンツが苦手な方の受け皿としての面があるからこそ、マーダーミステリーにムーブメントが起きつつあるのかなとは思いますね。
塩川氏:
自分が最初にマーダーミステリーを説明された時、「リアル脱出ゲームと『人狼』を組み合わせたようなゲームだよ」と説明されたことがあったんです。確かに謎は解くし、ロールプレイもする。けど、リアル脱出ゲームには絶対の正解があり、解けるかどうかが目標になりますよね。
マーダーミステリーはもうちょっと緩めと言いますか、今、じゃんきちさんがおっしゃったように『人狼』のようにプレイ経験の積み重ねによる差が出にくい。そこがカジュアルなアナログゲーマーにはちょうどいいバランスになっているんじゃないのかとは思いますね。リアル謎解きと『人狼』のいい所取りです。
人と人とのコミュニケーションが発生するからこそ、アナログゲームは強い
──もう少しマーダーミステリー周辺のお話をしたく思うのですが、最近はボードゲームも含めてSNSの台頭と共に流行ってきた感じがありまして、この現象は何なのだろう、と思っていまして。
特にコロナ禍以降はDiscordでその辺が流行りだして、オープンではなくてクローズドなコミュニティで友達同士が遊ぶようなものを、オンラインでやるケースが見られるようになってきている。そういう不特定多数の人数で遊ぶのではない、ローカルの良さみたいなものが再認識されてきているように思うんですよ。
この辺りにじゃんきちさんや塩川さんは何か感じられていることとかありますか。
じゃんきち氏:
そうですね……まずデジタルとアナログの違いという話になってくるのですが、アナログのよさってやっぱり“居酒屋”なんですよ。
人と人とのコミュニケーションの「発生」について言えば、今のデジタルコンテンツはまだまだアナログに追いついていないと思っています。将来的にはVR技術が発展していって差は縮まるかもしれませんが、現状はまだ技術的に難しく、アナログにしかない持ち味になっている。
私自身、もともとはデジタルゲームの世界にいた人間なのですけど、人と人とのコミュニケーションが強く発生する点についてはアナログゲームには優位性がすごくあると思うんです。そういうゲームだからこそ、SNSでお互いに魅力を伝えあいたくなる。要は口コミが重視される広がり方をしているんじゃないのかと思うんですね。
なので、マーダーミステリーはこれからもその灯火は絶対に消えないだろうと思っていて。それは人とのコミュニケーションが発生するゲームであるから、ということに尽きると思いますね。それがある以上、アナログの優位性は消えないだろうと考えています。
──「人と人」というお話がでたところでなんですが、アナログのゲームをデジタル化した時の大きな問題って、情報量がスポイルされることだと思うんです。対面で遊ぶ時の面白さって単純な情報のやり取りに限らず、相手の表情や抑揚、身振り手振りとかの情報量の多さにもあると思っていまして。それがデジタルかつオンラインでやってしまうと一気に失われて、味気なくなってしまう。
今回、そんなアナログゲームをデジタル化するに限らず、ひとり用にするとなったとき、いろんなものが失われてしまいそうだな、と思ったんです。その課題にどう対処したのかというのは特にお聞きしたいです。
じゃんきち氏:
このゲームの存在意義は「マーダーミステリーを遊ぶためのハードルを取り払うこと」なんです。マーダーミステリーって、人を集めるのもそうですし、時間も3~4時間ぐらい確保する必要があるじゃないですか。しかも、いざ始めてしまうと絶対に途中離脱することもできなくなってしまう。
そうした所のハードルを下げて、ひとりでも遊べるようにしているんです。無理にアナログのマーダーミステリーをデジタルへとコンバートしようとはしていないんですね。
なのでマーダーミステリーが未経験の人も、経験済みだけど1人で気軽に遊びたい人も、手に取ってもらえたら嬉しいです。
──いただいた資料を見ると「表情による駆け引き」を生み出そうとしているところが珍しいと感じたのですが、この辺の仕組みに関しては詳しくお聞きしても大丈夫なのでしょうか。
塩川氏:
たとえばデジタルのキャラクターが「いや、そんなの知らないよ」という台詞を文字として言ったとして、その時にどんな顔をしているかで意味が全然変わってくると思うんですよね。
けど、どんな顔をしているかに対しゲームとしての正解か不正解かが提示されなかったら、その解釈はプレイヤーがどう捉えるかに委ねられることになります。「これは本当か嘘か?」というのを考える余白と言いますか、そういう所を本作では狙っている感じですね。
──いっぱい選択肢は出るけど、何が正しいか間違っているかは分からず、ひとつずつよく考えて、その積み重ねが最終的な解決へと繋がっていく、ということなのでしょうか。
塩川氏:
そうですね。あと、これはマーダーミステリーの特徴でもありますが、最後の最後まで犯人が分からないことが一般的だと思うんですよね。自分がここまで積み重ねてきた推理があっていたかどうかは、最後にフタを開けてみるまでわからない不安やドキドキ感が続く。
だからこそ、そこに至るまでの心情や攻略に幅が出るんですね。「いや、どうやっても犯人はコイツだろう」と断定した上で到達することもあれば、「いや、もう全然分からないけど、とりあえずコイツじゃないの」みたいなフワフワな状態で到達することもある。
そこはある意味マーダーミステリーならではの醍醐味のひとつかもしれないです。なので、プレイヤーが頭を使って考える余白のあるシステムを目指しています。
──それはまた……伝えるのが難しいですね(笑)。
塩川氏:
なので、どう伝えるべきかはよく考えなくちゃいけないんです。