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「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い方の勝ち筋とは? 『パラノマサイト』石山貴也に『マーダーミステリーパラドクス』塩川洋介が訊く

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「テキストアドベンチャーゲームは売れない」とゲーム業界では言われ続けている。

少人数でも作りやすいことから、作家性やテーマ性が色濃く出るジャンルでもあるため好みが分散されやすい。おそらく「テキストアドベンチャーゲームならどんなテーマでも好き」という人は多くはないだろう。

しかしそんななか、近年のテキストアドベンチャーゲーム界に彗星のごとく現れ、ユーザーから圧倒的な支持を得ているゲームがある。それが、スクウェア・エニックスの『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(以下、『パラノマサイト』)だ。

『パラノマサイト』石山貴也✕『マーダーミステリーパラドクス』塩川洋介氏対談。「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い_001
『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』

オカルトノベルゲームかと思いきや、突然 “呪殺能力バトル” が始まるという尖りに尖った内容で、シナリオの濃さと意表を突かれるギミックで話題を呼んでいる。
 そのシナリオは『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズ『スクールガールストライカーズ』(以下、『スクスト』)などで知られる石山貴也氏が担当している。

そんな『パラノマサイト』が異例の高評価を得ている背景には、上記の理由に加え「お手ごろ価格」ということも影響しているのではないだろうか。1980円というわずか映画1本分ほどの価格でありながら、2時間映画の5倍くらい(10時間前後)のボリュームがユーザーの満足度を上げているように思う。
つまりは、コスパやタイパなどさまざまな意味で「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」となっているのだ。

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『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』

そして、この流れに乗ってさらなるチャレンジに挑むゲームが発売を控えている。それが、『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』(以下、『マーダーミステリーパラドクス』)だ。開発は塩川洋介氏が率いるファーレンハイト213が担当している。

そのタイトルのとおり、アナログの推理ゲーム「マーダーミステリー」をデジタルに翻案する、という挑戦を行っている作品である。そしてこの作品も、奇しくも新規IPのテキストアドベンチャーゲームであり、さらに2200円【※】という「お手ごろ価格」を予定している。

※さらに、12月2日の発売から12月8日まではローンチ記念で1980円に割引される予定だ。

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塩川洋介氏(左)、石山貴也氏(右)

『パラノマサイト』のケースを鑑みるに、この「お手ごろなテキストアドベンチャーゲーム」という戦い方には、もしかすると一定の「勝ち筋」があるのかもしれない
そう考えた電ファミ編集部は、『マーダーミステリーパラドクス』にてディレクターを務める中尾彩子氏の同席のもと、塩川氏と石山氏の対談を実施。

なぜスクウェア・エニックスのような大きな会社で「新規IP・テキストアドベンチャー・1980円」という企画が通ったのか。その戦い方を塩川氏が訊く形でお届けしていく。

聞き手/豊田恵吾
撮影/佐々木秀二


『パラノマサイト』は隅っこでコソコソ作っていた

──塩川さんと石山さんは今回が初対面になるのでしょうか?

塩川洋介氏(以下、塩川氏)
初対面になります。私は2015年までスクウェア・エニックスにいたので、同じ会社に在籍していたはずですが、石山さんにお会いすることはありませんでした。会社全体の集会などで同じ空間にいたことはあったと思うのですが……。

石山貴也氏(以下、石山氏)
自分は2005年から在籍しているので時期は重なっていますね。ただ、大きな会社なので部署やプロジェクトが違うと顔を合わせる機会がほとんどないんで。

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──なるほど。塩川さんは『パラノマサイト』のどういうところに魅力を感じていらっしゃいますか?

塩川氏
まず、いまの時代に『パラノマサイト』の企画を通せたことがすごいと思いました。スクエニという大きな会社がテキストアドベンチャーゲームを1980円で出したわけですから。

石山氏
確かに、それについてはいろいろな方から聞かれます。「どうやってこの企画を通したんですか」って(笑)。

塩川氏
みなさん気になると思います。

石山氏
もともと、社内で「新規IPを立ち上げよう」という動きはありました。2022年にも、『春ゆきてレトロチカ』『ハーヴェステラ』など新しいタイトルが出ていますから。

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『春ゆきてレトロチカ』
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『ハーヴェステラ』

石山氏
そんな流れはありましたが、『パラノマサイト』の企画が通った理由としては、まず人数、短期間での開発という制作費の安さがあると思います。その規模感ならば、リスクも少ないと判断されたのかなと。あとは1980円という価格設定や、墨田区との協業や、配信をOKにするといった試みが、チャレンジとして認められたのだと思っています。

それと、自分が『スクスト』でそれなりに結果を出していたことも、任せてもらえた理由になっていたらいいなとは思いますけども(笑)。

ですので、「テキストアドベンチャーゲームを作りたい」という企画から始まったのではなく、小さな規模で新規IPを立ち上げるとなったときに、「今回の条件で戦える武器がテキストアドベンチャーゲームだった」というのが流れ的には正しいです。

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──テキストアドベンチャーゲームなら経験値もあるという判断だった、と。

石山氏
はい。もともと『スクスト』でキャラクターデザインをしていた小林元さんに新しい企画を一緒にやりませんかと相談していて、ぜひにとOKいただいてまして。

なので、企画立案の時点では「シナリオ:石山貴也(自分)」と「キャラクターデザイン:小林元」だけが、自分の持っている手札でした。

塩川氏
すごくコンパクトな立ち上がりですね。

石山氏
そうですね。これまで小規模チームでの開発経験が多かった自分の考え方として「いない人をアテにしない」というのが根っこにあるんです。当てのないものを探し続けていたら絶対に終わらないので。

さらに予算にも限りがありますので、これはもう、売れないジャンルであろうが、今ある手札で納期とおもしろさと品質を満たすためにはアドベンチャーをやるしかないなと。

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石山氏
自分はスクエニに入る前にも『探偵・癸生川凌介事件譚』というテキストアドベンチャーゲームを作っていましたし、その後の『スクスト』のストーリーや演出でも大きな反響をいただいてましたから、どのくらいの工数があれば、どの程度のものが作れるのかはわかります。

そして、新規企画だと特に重要かつ難題となるキャラクターデザインも、デザイナー探しといういちばん大変な部分があらかじめクリアできていたことも大きいです。

──限られた枠の中でベストを尽くせる環境が整っていたんですね。

石山氏
はい。売れるかどうかはわからなかったですが、テキストアドベンチャーゲームだったらおもしろいものを作りきれるという確信はありました。

塩川氏
テキストアドベンチャーゲームとなるとさまざまなテーマの選択肢があったかと思うのですが、ホラーミステリーにしたのはどうしてなのでしょうか?

石山氏
ジャンルについてはプロデューサーを務めた奥州の判断です。ホラー要素があると配信映えもしますし、自分としても『癸生川』シリーズでミステリーを作っていたので得意なジャンルでもありました。

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石山氏
そこから「どんなホラーミステリーがいいだろう」という話に進んだとき、プロデューサーが見つけてきたのが『本所七不思議』でした。実在する伝承の謎を独自の解釈で紐解いていくのはおもしろそうですし、なにより舞台となる墨田区の自治体と連携することもできるというのが、いちばんの狙いでした。

そんな感じで、できる範囲でやれることを詰め込んでいきました。ゲームの中身でも、たとえば配信映えするように、ビックリさせるような展開を序盤に入れてみたり。

──『パラノマサイト』の冒頭はホラー要素が強めで「絶対に振り向きたくない」というシーンもありましたね(笑)。

石山氏
おお。そう思っていただけたなら幸いです。
製品としての方向性が固まったら、プロデューサーからは「あとは好きにしていい」ってことだったので、好きにさせていただきました(笑)。

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『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』

塩川氏
なるほど。とはいえ、いまはテキストアドベンチャーゲームが数多く売れるような時代でもないと思いますし、ここ5年10年ですごく売れたテキストアドベンチャーゲームはあまりないと思うんです。
それに墨田区というローカルな舞台だと国外の人もあまり知らなかったりするわけですよね。

石山氏
それはすごく言われました。あとは、「ボイスもないの!?」とか(笑)。

塩川氏
おっしゃられたように、いくらでもネガティブな要素をみつけることはできると思うんです。そういった状況の中、この企画が通ったところが本当にすごいと思います。

石山氏
そこについては、規模が小さかったから「ま、やってみれば?」という感じだったんだと思います(笑)

あとは、途中まで作ったプリプロ版(プリプロダクション。本制作前の試作段階のもの)を社内でテストプレイしてもらったところ、評判がすごくよかったんです。テキストアドベンチャーゲームが好きな人に、しっかり刺さっていることがわかりました。

あまりにもよかったので、最初は「もしかして忖度しているのでは……?」と思ったほどです(笑)。

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一同
(笑)。

石山氏
「悪くないのであれば止める理由はない」と、本制作に進めさせてもらいました。

塩川氏
では、そこにいたるまでは逆風に耐えながら作っていたのでしょうか?

石山氏
耐えるというより、隅っこでコソコソ作っていた感じなので(笑)。リモートワークだったこともあるので、おそらく、社内のほとんどの人はこんなゲームを作っているとは知らなかったと思います。何十人も関わる大きなプロジェクトだったら気づかれるかもしれませんが、社内で関わっていたのはコアメンバー数人だったので。

社運を背負っているわけでもなく、みんなが気にするわけでもなく、発表してから「そんなの作ってたの!?」と驚かれるような環境でした。

※2023年2月⁹日のNintendo Directにて突如公開された『パラノマサイト』発表映像

塩川氏
『パラノマサイト』は発表からリリースまでが早かったですよね。発表前のティーザーもありませんでしたし。

石山氏
そうですね。「発表直後に予約開始! 価格は1980円!」というインパクトを出したいと思っていましたので。無事にテキストアドベンチャーゲームが好きな人に届いたみたいでよかったです。

リリース時は、ありがたいことにゲームメディアさんも推してくれて、各メディアで熱いレビューを書いていただきました。それを読んで「やってみようかな」と思ってくださった方は多かったと思います。電ファミさんもインタビューなど企画してくださったり、いろいろとありがとうございました。宣伝費もなかったので、とても助かりました(笑)。

中尾彩子氏(以下、中尾氏)
『パラノマサイト』の発表当時は、知り合いのミステリーゲーマー界隈がざわざわしていました。「予約した」という声や、発売後「おもしろかった」という声もかなり多かった印象です。

石山氏
おお、ありがとうございます。少なくとも、おもしろいと思ってもらえないと勝ち目がないので、発売前は緊張で吐きそうになっていました。多くの反響をいただき本当に感謝しています。

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『パラノマサイト』が老若男女から支持されている理由とは

──『マーダーミステリーパラドクス』も『パラノマサイト』と同じく、少人数制作のテキストアドベンチャーゲームですが、タイトル立ち上げの話を石山さんからうかがっていかがでしたか?

中尾氏
『マーダーミステリーパラドクス』は2年前から作っているんですが、「売れにくい」と言われているテキストアドベンチャーゲームで新規タイトルを作っているため、石山さんのお話はとても心強いです。

スクエニさんが『春ゆきてレトロチカ』を出されたとき「スクエニさんもこういうアドベンチャーゲームを作るんだ」という思ったのとと同時に、「すごくリッチだ……」と大手のパワーを目の当たりにして、羨望のまなざしで見ていたんです。ですが、そこに『パラノマサイト』が出てきて、その反響の大きさにも勇気づけられました。規模感が『マーダーミステリーパラドクス』と近かったので。

マーダーミステリーコミュニティでは『春ゆきてレトロチカ』や『グノーシア』を遊んでいる方が多いのですが、『パラノマサイト』についても「おもしろいから絶対やった方がいい」と布教する人を何人も見てきました。

石山氏
それは素敵なお友だちですね!(笑)

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中尾氏
そういう、普段はマーダーミステリーをメインに遊んでいるアナログゲーマー達が『パラノマサイト』を遊んでいる姿を見ると、ビジュアルが「手に取りやすい」ということも遊ぶきっかけとして大きいように感じました。ホラーでありながら親しみやすいビジュアルになっているので、さまざまな人が遊びやすい。

石山氏
そこは小林の絵の力だと思います。きちんと特徴があるけど、クセが強くなくて上手いので、老若男女に嫌われにくいのかなと。
テキストアドベンチャーゲームはもともと狭くてニッチなジャンルだと思っているので、普段ゲームを遊ばない人にプレイしてもらえているのはすごくうれしいです。

塩川氏
『パラノマサイト』の反響の話でいうと、私の周りもかなり遊んでるみたいで、某有名シナリオライターさんも発売してすぐ「あれいいよ」と言っていました

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石山氏
なんと! ありがとうございます! そういうのはもっと言ってください!(笑)

一同
(笑)。

塩川氏
テキストアドベンチャーゲームはストーリーを最後までやったうえでの感想が一般的ですけど、『パラノマサイト』は開始5分〜30分の序盤からすごくおもしろいと思いました。そういった掴みもあり、なおかつメカニクスでホラーの演出を行っていたのもすごくよくて。先ほどの「振り返り」の部分がまさに。

——「うしろにいるんだろ」と思いながら振り向いても、しっかり怖いですよね(笑)。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。

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