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「誰もいなくなった東京」を舞台に行方不明の親友を探すゲーム『Tokyo Stories』は、なぜ注目を集めるのか。「現代ピクセルアート」「ローファイヒップホップ」を紐解いて見える、コロナ禍以降の普遍性【TGS2024】

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インスパイアされた「現代のピクセルアート」「ローファイヒップホップ」から考えるパンデミック以降の普遍性

──本作においては、音楽によるドラマチックな演出も印象的です。本作のサウンドトラックはソウルフルなブーンバップを手掛けるヒップホップのコンポーザー・NEWLY氏が手掛けているとのことですが、どのような経緯で同氏がキャスティングされたのでしょうか。

池田氏:
NEWLYさんは私が単純に大好きなトラックメイカーで、以前から作品などを楽しませていただいていました。本作の楽曲を決める際に、作品のイメージとマッチしていると思ったので、受けてくれるかわからないけど、InstagramでDMをしてお誘いしたんです。

すると、ゲーム音楽を作られている方ではないので「自分でできるんですかねぇ……」というお返事をいただいたので「いけると思います!」と口説きました(笑)。

──では、率先して池田さんからお誘いをしたんですね。

池田氏:
はい。もちろんライブなどを個人的に拝見する機会はありましたが、とくに縁があったわけでもないですね。

よりポップで楽しい楽曲を制作するコンポーザーの方もいらっしゃると思うのですが、やはり「作風にマッチしているのはNEWLYさんだな」と考えました。

──チルな雰囲気で、時にサンプラーのSP-404的な質感を感じるブーンバップと日本の文化を踏まえたピクセルアートという組み合わせからは、いわゆるローファイ・ヒップホップを想起します。

本作がインスパイアされたピクセルアートシーンとローファイヒップホップには、類似するノスタルジックな感覚があり、それらの盛り上がりとコロナ禍は近しい時代の出来事であると感じました。『Tokyo Stories』はそれらからの影響を受けているのでしょうか。

池田氏:
ローファイヒップホップはここ最近、これまで以上に流行してますし、私たちも作業中によく聞きます。なので、確かに影響を受けていると思います。

寺島氏:
確かにグラフィックにおいて影響を受けたピクセルアートの作家さんたちも、ローファイ・ヒップホップと同じような時期にSNSで話題になっていました。自然と私たちがそういった文化の空気感に馴染んでいた感覚もあります。

いっぽうで、もともと私たちは90年代から2000年代のヒップホップも好きなんです。

池田氏:
そうそう。なんなら、参考にしているイラストレータの方のTwitter(現X)とかを見に行ったら、90年代のヒップホップのレコードのジャケットをピクセルアートで描いていることもありました。

「あ、俺も同じレコード持ってるわ」と驚きましたね(笑)。

大きな潮流のルーツには、クリエイターの世代的なものもあると思っていて、お話に挙がったような作品は「自分たちのテイストに自然と合っている」と感じます。

『Tokyo Stories』のような作品を作るのは初めてですが、気付けば好きなもの達の中に、共通点ができていました。

──いわば、現代における同時代性のような感覚が生まれていたし、それが自然と作中に集っていたのは興味深いですね。ピクセルアートやローファイヒップホップにおいては、リバイバル的な側面もあるように感じます。

寺島氏:
90年代的なものが最近では逆に新しいものだと解釈されることで、その時代の文化を当時楽しんでいた私は「やりやすい」フシがある気がします。

ただ「当時のものをそのまま出力する」ということは、私たちとしてもできないし、全く同じことをしてもいいものにならないと思うんです。

90年代に流行った名作アニメをいま見て「間違いなくおもしろいけど、どことなく古臭さもある」ように感じることって少なからずあるじゃないですか。

池田氏:
ピクセルアートに関して言えば、確かに全て手書きで書けば間違いなく美しいものができるのですが、実際に作ってみたら「イベントシーンのボリュームがぜんぜん足りていなかった」というケースも発生しやすいと思います。

そういったデメリットがあるならば、3DCGを駆使することで「前編ピクセルアート風のビジュアルを楽しめる」方がいいのではないかと考え、作品に使用したという経緯もありました。

──勝手な解釈かもしれませんが、本作におけるピクセルアートや固定カメラを切り替える視点、音楽などにはリバイバル性があるものの、いずれも新しい技法や解釈、役割などを携えていると思います。そういった「ただ過去を反復する訳ではない」点も、本作の大きな魅力であると感じました。

少し話が戻りますが、本作の舞台は東京を舞台にしています。これはどのようなイメージがあって選択されましたか。

『Tokyo Stories』先行レビュー&インタビュー。注目のゲーム『Tokyo Stories』が、発売前から人気な理由とは_011

池田氏:
じつはピクセルアートの影響を受けて制作を開始した時点で、東京を描くことは決めていました。

寺島氏:
というのも、参考にした作品の中には日本の駐車場やコンビニのイラストなどが多かったんです。それがすごくカッコよくて。

池田氏:
本当にふとした場面を切り取っているような「切り取りや演出の仕方のうまさ」を感じます。

寺島氏:
なので、当初から「ヨーロッパの城にしよう」といったイメージはなく、「都会の少し寂しけとが物語性のある景色」を描きたいと思っていました。

※影響を受けたピクセルアートの作家名を聞きそびれてしまったが、現代のピクセルアートにおいて多大な影響をもたらしたとされる豊井氏の作品などを筆者はイメージした。

──「なんの象徴性もないけどなにか想像の余地がある都会の寂しげな景色」としては、近年では「リミナルスペース」といった概念が流通することも想起します。

寺島氏:
たとえばローファイヒップホップのような2010年代よりネットで流行する音楽の中には「Vaporwave」がありますよね。

とくに「Vaporwave」は、誰が作ったのか、なんのために作ったのかわからない ‟情報の塊” のような性質があると思います。

そういったものを作る/見ることを楽しむような文化の流れも「リミナルスペース」といった文化に接続しているのかもしれません。

ただ、「リミナルスペース」に影響を受けた作品として『8番出口』があるように、同概念は少しホラーよりの美意識があると感じています。本作においてはもう少し温度があるというか、ホラー的な雰囲気にならないようには心がけて制作しています(笑)。

池田氏:
ホラーっぽくなってしまったら修正するというか。もう少しかわいく、親しみやすくするように修正していますね。

──作品内にある匿名性が狂気や恐怖ではなく、本作では鑑賞者やプレイヤーが想像して入り込める懐(ふところ)のような役割を果たしていると感じます。

寺島氏:
根本的な話にはなりますが、「誰もいないこと」や「任意の場所が存在する意味のささ」みたいなものに、多くの人が最近になって敏感になっているのではないでしょうか。

──となると、「コロナ禍」と近しい時期に「誰もいない」状況へ焦点が当たるのは、ロックダウンにより人々が強烈な孤独や喪失感を味わったことに起因しているのではないかと考えてしまいますね。

寺島氏:
使い道がなくなってしまったような、少し宙に浮いてしまった存在としては、廃墟などの存在もありますよね。

日本ではバブルが終わったことで、作るだけ作って残された廃墟のような建築物が複数あって、そういった建物がノスタルジーを持って親しまれている。

本作の制作を開始する少し前には廃墟ブームみたいなものがあって、私も写真集を買ったりしていました。やはり廃墟などには、見る人を引き込む力があるし、私もその感覚が好きです。

──「リミナルスペース」として流通する特命的な写真(画像)の中には、都市的なものではなく廃墟がモチーフになっているケースも散見されます。なので、確かに少し前からある「廃墟」と「リミナルスペース」などに見られる匿名性には共通点がある気がします。

寺島氏:
そういう意味では、私が前から好きだった「廃墟」感覚が、より公共的に共有される時代になったのかもしれないですね。

──『Tokyo Stories』は特にSNSなどでも大きな話題を呼んでいて、弊誌のニュースなどにおいても毎回すさまじい反響があります。お話を伺っていて、本作がシナリオやビジュアル、音楽を通じて「なきものを想う」という現代において強烈に普遍化した感覚を描いているからこそ、多くのファンが熱狂するのだと気付かされました。

池田氏:
いつも取り上げていただきありがとうございます。正直、その大きな感覚や期待を我々が本当にコントロールできるのか……。という心配もあります(笑)。

寺島氏:
ワンピースで尾田栄一郎さんが読者の質問やコメントなどに答えるS.B.Sというコーナーがありますけど、ファンの方の考察し過ぎたタイプのお便りに対して公式設定にしてしまうというやりとりがあるんです。

──公式が取り入れるスタイルですね(笑)。

池田氏:
じつは私たちとしても、本作を発表する前にはこんなに大きな反響があるとは全く思っていなかったんです。

でも、最初にBitSummitに出展して以来、本当に多くの方に注目していただけて驚いていますし、不思議に感じていました(笑)。

寺島氏:
その大きな反響があったからこそ、なかなか完成していないという事情もあります……。

池田氏:
ファンの方に期待していただいている分、期待を裏切るようなことはしたくないので、パッとリリースすることができなくて……。

──最後に、本作の発売を楽しみにしている方に向けて、メッセージをお願い致します。

池田氏:
やはりゲーム開発は昔以上に時間を要するものになっていて、我々もいろいろ考えながら作っている分、ファンの皆さまをお待たせしてしまっていると思います。

いっぽうで、「我々が期待する作品を作れのではないか」という見通しも見えてきました。なので、もう少しお待ちいただければと思います。

寺島氏:
けっこう今回のインタビューで、製品ができる前に本作のバックグラウンドを話しちゃったなとも思います(笑)。ですが、そういった時代の総合的な動向を含めて、ひとつの事象として『Tokyo Stories』を楽しんでいただきたいと考えています。

ちゃんと本作を楽しめるように、引き続き開発を頑張っていきます!(了)

『Tokyo Stories』先行レビュー&インタビュー。注目のゲーム『Tokyo Stories』が、発売前から人気な理由とは_012


『Tokyo Stories』の根本には「現代のピクセルアート」そして「コロナ禍に感じたセンチメンタル」というふたつの概念がある。

しかし、本作のグラフィック、シナリオや音楽を紐解けば、異なるふたつの概念が、時代を象徴する出来事により強く紐づいていることが伺えた。

そしてなりより、本作を構成するすべてが、パンデミックが人々に感染させた「今は存在しないもの」への意識を立ち上げる。

実際に試遊し、開発陣のお話を伺った限り、本作はトレーラー映像などから感じられる大きな期待にきっと答えてくれるはずだ。『Tokyo Stories』にときめいた方は、ウィッシュリストに登録して発売を待とう。

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編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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