LAMの絵、「〇〇の物量」が圧倒的。現代が生み出した、インプットとアウトプットの速度とは
―逆に、「副島さんから見た、LAMさんのすごさ」はどういったところにありますでしょうか。
副島氏:
いや、もう、すごさしかないですよ。
LAM氏:
本当ですか!?
えっ、どこがですか……!?
副島氏:
あまり分析はできていないので、正確なことは言えないのですが……配色とかはもちろん、個展で見たときに感じたのは、「アイデアの物量」ですよね。作品量でも圧倒されました。
やっぱりイラストって、ひとつひとつに違いがあって、それごとに見応えがないとダメじゃないですか。「ハンコ絵」ってわけにもいかない。
そのひとつ取っても、「瞳孔をこうしてみよう」「アイシャドウの流れを雷っぽくしてみよう」といったアイデアがあって……そのアイデアをあれだけ作り出すのは、圧倒されますよね。
LAM氏:
副島さんにそう言っていただけるのは、すごく嬉しく……。
でも、まさに毎回「全力の大喜利」をするような気持ちで描きあげていました。
副島氏:
「消費」と言ってしまうと、言い方が悪く聞こえてしまうかもしれないのですが……「同じものは描けない」という意味で、やはりLAMさんの中ではアイデアを消費しているじゃないですか。
僕にとっては、それが「もったいなくてしょうがない」というか……僕にこれだけのアイデア量があったら、あと100年は食っていけるんじゃないかと思っちゃうんですよね。
一同:
(笑)。
副島氏:
「ずっと仕事をして、たくさん描いてますよね」と言ってくださる方もいるんですが、じつはたいして描いていないんですよ。
アイデアやデザインって、インプットしてからのアウトプットがあるわけじゃないですか。僕から見たら、それが「もったいない」と思うくらいあふれ出ているのが、LAMさんのすごさです。
LAM氏:
いやいや、副島さんはそんなことないと思うんですけど……でも光栄です。
副島氏:
だから、「感覚が違うんだろうな」と思うんですよね。
よく言われることですが、会社に入ったばかりの新人のスタッフって、いま作っているソフトに「これは何年かかります」と言われると、余計に「じゃあこれを最高傑作にしないと!」と思ってしまう……その結果、なかなかそのゲームにおける答えをひとつに絞れなかったりします。
つまり、最初から「人生の最高傑作を作ろう」と思っていたら、それは一生できあがらない。
その「大事にしすぎちゃう」感覚が、いまのイラストレーター筆頭のLAMさんと自分とでは、違う次元なんだと思うんです。インプット・アウトプットのペースや、自分の中で昇華して消費するサイクルが全然違う感じがして、僕の感覚で見ると圧倒されちゃうんですよね。
「この絵にはこんなにもアイデアが入っているのに、この一枚で終えてしまうんだ」というか。
LAM氏:
副島さんにそう言っていただけて、本当にうれしいです……。
でも、そこに貴賤はないというか……「良し悪し」というより、スタイルの違いなんだと思います。単純に、僕が生まれてきた時代には、絵を描くためのハウツーやさまざまなコンテンツが普及していたし、なにより「絵を発表するハードルの低さ」もあったのだと思います。
特に、X(旧Twitter)などのSNSでは、無料で誰でも簡単に、世界中の人に向けて絵を投稿できる。見せられるし、見てくれる。その体験が、いまのインプットとアウトプットのスピード感にすごく影響を与えていると思うんです。そして、僕はその中ですごく揉まれてきたタイプのイラストレーターです。
だから、アトラスのような大きな作品を長い時間をかけて作るスタイルと、フリーランスという海の中で「うわぁ~~~ブクブクブク……」と日々もがいている自分との、スタイルの違いなのだと思います。
副島氏:
自分の中でアイデアを思いついたとして、それを大事に取っておいても、すぐ真似されちゃうかもしれないし、他の人が別の形で出しちゃうかもしれないというのもあるんでしょうね。「すぐ出さないと」というのが大事なんでしょうね。
一定の流行から外れると、「自己探求」のターンに入る
―「インプットとアウトプット」が話題にあがりましたが、おふたりが普段どういったインプットをされているのかは気になります。
LAM氏:
僕がアトラスにいた8年前のころ、副島さんは「若い子の絵とか、新しめのゲームも見るよ」とおっしゃっていましたよね。
副島氏:
もちろん今もよく見ますよ。
でも、最近はLAMさんのような若い感性の方……いやLAMさんもベテランだとは思うのですが、流行りの作品を見て、そこで影響を受けてしまうと、ちょっとよくないものができそうな感じがするんです。
ある程度若いときって、「流行りの中の人」というか、「発信者でもあり享受者でもある」状態だと思うんです。自分の感覚だと、それは30代半ばから40代の手前くらいまでで……。いまはその「発信者でもあり消費者でもある」という状態から少し外れたような感覚があります。
LAM氏:
ちょっと言い方が変ですけど、それもう「成し遂げた」ってことなんじゃ……。
副島氏:
「成し遂げた」って(笑)。
LAM氏:
「文化を作って、根付かせる」という段階に行けるチャンスと実力のある人って、かなり限られると思うんです。絵だけがよくてもダメ、音楽や話だけがよくてもダメ。その中で時流にマッチして最大化することで、「根付くもの」があると思います。
だから、副島さんは「根付かせた人」のひとりだと思うんですよ。
『ペルソナ』って、JRPGの金字塔ですから!
副島氏:
いやいや、それはゲームを作ってくださるスタッフの人たちがいるからですよ。
自分は使っていただいているだけです。
副島氏:
「インプット」の話に戻ると、時流に乗って、みんなで発信して、それをまたインプットして……という繰り返しからドロップアウトすると、今度はなんか「自己探求」のターンに入ってくるんです。
自分は80年代に幼少期を過ごしていますが、その時代を通ったうえで構築されている現在の絵柄の正体は、果たしてなんなのかを探求するようになりました。当時の流行りの中で、勝手に、自動的に取り入れていた「自分の好きなもの」を探求しています。
最近は幸いなことに、インターネットにも過去の70~80年代の情報がたくさんありますよね。
たとえば、自分が昔好きだったキャラクターをオマージュしたくなる気持ちがあったとして、そもそもそのキャラクターはいったいなんだったのかという情報も、いまはネット上に書かれています。
その背景にはアニメやマンガの業界だけじゃなく、ファッションや音楽といった当時の文化的背景をもとに、絵やキャラクターが作られている。自分はそのキャラ単体しか見ていなかったけれど、「もともとはこの文化から来ているんだ」という背景を掘っていくと、模倣からオリジナルに辿り着いていくような感覚があるんです。最近は、そういうデザインの仕方が多くなりましたね。
LAM氏:
副島さんは、「自分の中の自分」からインプットされているんでしょうね。
副島氏:
まさに、自分自身を掘っている感じですね。
たとえば、80年代は髪がド派手なキャラクターが多かったけど、あれは当時のロックシーンに頭を黄緑色に染めている人とかがいて、それを園田健一【※】さんが『ガルフォース』などで描いたのかなとか勝手に思っています。当時の僕はそれに憧れて真似をしていたわけですが、大本はそういうところから来ているんですよね。
【※】園田健一……日本のアニメーター、マンガ家。『ガルフォース』『バブルガムクライシス』などでキャラデザを担当した。
―さきほど「ドロップアウト」という表現をされていましたが、やはり副島さんにも「流行りの渦中にいる」といった感覚の時期があったわけですよね。その時代に、横にいて影響を与えあったようなクリエイターさんはいたのでしょうか?
副島氏:
会社の中にいたので、「横の人たち」という意識はあんまりなかったですね。
三輪士郎さんやヤスダスズヒトさんはアトラスとも関係がありますし、近い方だなと思います。あと当時『P3』の頃にずっと気になっていたのは、TYPE-MOONの武内さん【※】ですね。
時代的に、雑誌をめくると必ず武内さんの絵があったんですよ。ライバル的に意識していたわけではないですけど、同世代の方でしたし、ひと目見れば「武内さんの絵だ」とわかるじゃないですか。そこに憧れていましたね。
自分なんかはすぐ絵柄に影響されてフラフラしちゃうタイプなので、ひと目見て誰の絵かわかる絵柄や雰囲気は大事だと思います。
【※】武内崇……日本のイラストレーター。奈須きのこ氏と立ち上げたサークル「TYPE-MOON」で『fate』シリーズなどのキャラクターデザインを担当。