ゲームのヒロインが全員ぱっつんなわけがない。でもよく見たら、ぱっつん、ぱっつん、ぱっつん、ぱっつん……。
LAM氏:
「好きなものの記号」は僕もいまでも大事にしていて……独立して初めての仕事だった『東京クロノス』のイベントで、ファンの方との質疑応答コーナーがあったのですが、「なぜ『東京クロノス』のヒロインたちは全員(前髪が)ぱっつんなんですか?」と聞かれたんですよ。
僕は最初、「この人は何を言っているんだ?」と思ったんですよ。
ゲームのヒロインが全員ぱっつんなんてありえないと。
……そう思ったんですけど、見返してみたら全員ぱっつんでした。
一同:
(笑)。
LAM氏:
自分でも信じられなかったです。
「なにをやっているんだ?」と思いました。
これ見てくださいよ(キャライラストを副島さんに見せながら)、ぱっつん、ぱっつん、ぱっつん……。
副島氏:
たしかにぱっつんですね(笑)。
LAM氏:
これを見たときに、「あぁ、僕はぱっつんが好きなんだ……」と。副島さんのカチューシャのような、気付いたら取り入れてしまっているエッセンスの暴走した例ですね。
―副島さんは、キャラを描く際に「フェティシズムを入れる」ということは意識されるのでしょうか?
副島氏:
そこまでではないですが、「描きたい!」と思うものを入れるようにしておかないと、あとでたくさん描くときに大変なんですよね。「嫌」とまでは言わないけれど、楽しく描けるようにはしたいんです。
LAM氏:
副島さんは、男性キャラを本当に魅力的に描かれるんですよね。
これだけヒロイズムのあるキャラクターを生んできた方だからこそだと思うのですが、コンシューマーで男女問わず人気のあるシリーズだと、キャラの性別を問わず「魅力的なキャラクター」であることは大前提になってくるじゃないですか。
副島氏:
それはやっぱり金子(一馬)【※】さんの影響が大きいですね。メーカーや作品に求められる雰囲気がありますから。表現は変わっても大事にしているところです。
【※】金子一馬……アトラスに在籍していたイラストレーター。『真・女神転生』シリーズ初期作品のキャラクターデザインなどを手がける。
―副島さんは以前、「出渕裕さん【※1】のデザインがすごい」とも話されていましたよね。
副島氏:
金子さんや出渕さんもそうだと思うのですが、「衣装のシルエットに合わせて人間の骨格を変えてしまわない」デザインがすごいんですよね。
『人狼 JIN-ROH』【※2】というアニメに出てくるパワードスーツのデザインも出渕さんなのですが、あれだけヒロイックなのに、中に入っている人体が、普通の人の頭身のまんまなんですよね。あの中肉中背の人が入れるようなデザインにしているのが、本当にすごいと思うんです。
ああいう風に描きたいとも思うんですけど、どうしても服にキャラクターを合わせちゃうんですよね……なんだか再現性の低い感じになってしまいます。
【※1】出渕裕氏……メカニックデザイナー、キャラクターデザイナー。『機動警察パトレイバー』のメカニックデザイン、『宇宙戦艦ヤマト2199』の総監督や、『仮面ライダー』シリーズにもライダーや敵キャラのデザインで携わる。
【※2】『人狼 JIN-ROH』……2000年に公開されたアニメーション映画。原作と脚本を押井守氏、監督を沖浦啓之氏が担当。
LAM氏:
僕は、副島さんの描く身体のシルエットやコンポーネント、重心の置き方は結構特徴的だなと思っていて……基本的に、「胴が長く、美しく見える」ように描いているんです。『P5』の主人公とかも、「スーッ」ってしてるんですよね。なんか、「スーッ」としてません?
副島氏:
なるほど、「腰が前に出ている」感じでしょうか。
LAM氏:
そうです、まさにあの「腰の薄さがわかる」感じがすごくて……。
逆に、『P4』の番長はマッシブな体型として描かれていたり。あの「体型の描き分け」は、すごくお上手だと感じていました。セクシーでグラマラスな体型の子もいれば、痩せ型の子から小柄な子まで……「人体の理解度の高さ」というか、老若男女の持つ体の特徴を理解されているんだと思うんです。
副島氏:
「フェティシズム」で言うと、自分はゆうきまさみさん【※】の絵がすごく好きですね。
『機動警察パトレイバー』で、主人公の泉野明と篠原遊馬が手すりにふたりでいるシーンがあるのですが……服装はふつうのワイシャツとスラックスなのに、ものすごく性差が出ているんですよ。
『機動警察パトレイバー』のキャラクターは、顔は結構マンガっぽいじゃないですか。なのに、ボディラインのリアリティがすごいんです。体がかっこよくて、男性はちゃんと「ストン」としているんですよ。服のシワとかでボディラインが見えたりして、本当にリアリティがありますよね。
逆に、「変に性的」というか、いわゆる「ボンキュッボン」みたいな感じの絵って、リアリティをあまり感じなくて……そんなに燃えないんですよ。
【※】ゆうきまさみ……マンガ家。代表作は『究極超人あ〜る』『機動警察パトレイバー』『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』など。
LAM氏:
そういう意味では『P5』の怪盗服もすごいと思っています。
たとえば、杏(高巻杏)ちゃんの怪盗服なんかは、ともすれば下品になりかねないようなモチーフをちゃんと機能性を伴った高級感のあるキャッチーなデザインに落とし込まれているじゃないですか。
「機能美」みたいなものが伴っているのがいいのかもしれないですよね。
副島氏:
え、機能美なんてありますかね?(笑)
LAM氏:
いや、ありますよ!(笑)
とくに「尻尾」に感動しました。この切り返しというか。
最小公約数でまとめるから、美しさと色気を伴っているのだと思います。
イラストレーターとしても、「こういう目的でつけているグローブです」「このためにこの材質にしているんです」という、機能が伴ったデザインは中々難しいんです。「無駄なことをしない」のは、すごいことなんですよね。
「〇〇が許されるタイミングが来た」ちょっと懐かしい気がする『メタファー』のキャラデザ、どう作られた?
―最新作である『メタファー』のキャラは、とくに突き抜けたデザインとなっているように感じます。造形に60〜70年代の懐かしさも取り入れつつ、服装はトラディショナルなファッションにもなっていると感じるのですが、どういったところを意識されたのでしょうか?
LAM氏:
たしかに、『メタファー』は肩パッドが入っているようなシルエットだったり、「ズートスーツ」のようなファッションも取り入れられていて、オシャレすぎます。
副島氏:
いろいろな要素が噛み合った結果だとは思うんですが……。まず、「甲冑を着たキャラクターを描きたい」と思ったとき、今作はゲームシステム的に日常を描くパートが多いから、ずっと日常生活でも金属の甲冑を着こんだままだと、「ゲームっぽく」なりすぎてしまうんです。
そのために、今作は「服のインナーに装甲がある」という設定になっています。その設定を踏まえて、たとえばジュナは肩に装甲をつけています。
副島氏:
あと、キャラクターの顔の造形に関しては……当時から時間が経って、80年代の絵柄のリバイバルがみなさんに受け入れてもらえるようになってきたと感じています。
これは目と眉毛の「クリアランス(デザイン上における、空間的な調整)」の話になるのですが、自分がアトラスに入社した1995年から2000年代にかけての時期って、女性のメイクの眉毛は細くてアーチ形なのが中心だったんです。たとえば安室奈美恵さんとか。
そして金子(一馬)さんは、そういう流行にとても敏感な方だったので、当時のキャラクターもそういう雰囲気で描かれているんですよね。
一方、自分は『風の谷のナウシカ』などを見ながら絵柄を作っていた世代です。「クラリス」とかは、目と眉がとても近いんですよね。だから、本来の自分は金子さんの絵柄からはすごく離れていて……それを会得しようとして、金子さんの感覚に慣れていきました。
それからしばらく経ち、だんだんと80年代のリバイバルで、目と眉が接近していてもいいような雰囲気が出てきましたよね。なんか許されるタイミングが来たというか。
それからしばらく経って、だんだん80年代のリバイバルで、目が太くて、目と眉が接近していても許されるような時代になってきたんです。だから、『P3』の主人公とかに比べると、『メタファー』の主人公は目と眉をかなり近く描いているんですよね。
LAM氏:
たしかに、金子さんのキャラは眉毛が細いイメージがあります。
副島さんのキャラは目と眉が近いですよね。
僕は、結構眉を上のほうに描いてしまうクセがあるんです。でも、男性を描く時は、副島さんがおっしゃっていたように「Tライン」を意識して、目と眉を近づけています。ここが近いと、かっこいいんですよね。
副島氏:
そういうのを描き始めて、いろいろ気づいたことがあって……。
ひとつは、「70年代のキャラクターって、欧米人に対する憧れが半端なく強かった時代に作られた者なんだな」ということ。鼻と口の描き方も、「鼻の高さ」を出すような配置になっているし、目と眉のクリアランスもTラインを前に出すように見せるため。
それに比べると、最近のキャラクターの絵は、東洋人としてちゃんとかわいいなと思います。それこそ、LAMさんの絵がまさにそうなんじゃないかと感じてます。
LAM氏:
「東洋人」は意識しているかもしれないですね。
副島氏:
「ようやくそういう時代になったんだな」という時代の流れは、感慨深いところです。
でも、『メタファー』はそこにあえて逆行してみたんですが。
30年も仕事をしていると、だんだんと「マンガ絵」の経緯を俯瞰するようになってきたんです。自分が過去にやっていたことと、いまやっていることが「絵柄」と呼ばれる。それに対し、「なんでそういう絵柄になっているんだろう」と見返すタイミングがすごく増えました。
そのうえで、「じゃあわざとこっちを選択しよう」なのか、「そのままにしよう」なのか。そんなことを最近は考えています。
―当たり前かもしれませんが、やはり我々の想像を遥かに超えて、いろいろな考えが詰め込まれているんですね。
LAM氏:
『メタファー』のティザーでヒュルケンベルグが公開されたときに、あのデザインからして、すでに「ただごとじゃないな」という空気は感じ取っていました。
このレトロでファッショナブルな感じが、ファンタジーの世界観との親和性を高めているというか……むしろ、『メタファー』におけるオシャレな現代的要素をファンタジーたらしめている要因が、そのレトロ調であったり、70~80年代のファッションのオマージュだと思うんです。
やっぱり、ブームって1周~2周と再燃するものですよね。
長いキャリアを積まれている方が、自分の内面を掘ってインプットするから、逆にそれが新しい。いま見ても全然古くないし、むしろ「新しいもの」として、若い方たちの中でも受け入れられる要素になっているんだと思います。
副島氏:
いや、逆に「そっちにしか行けない」んですよ。
自分はLAMさん側にはいけないじゃないですか(笑)。
LAM氏:
(笑)。でもそれでいいんですよね。
長い時間をかけて培った、強大な鉱脈が自分の中にあるわけですから。
『ペルソナ3』以降のオシャレUIの出発点、実は……
―マンガなどのキャラクターデザインの話題も出ていましたが、ゲームやアニメなどの媒体ごとによる「キャラデザの違い」はあったりされるのでしょうか。
LAM氏:
僕は、アニメのキャラデザをする際に苦労したことがあって……『takt op.(タクトオーパス)』で「運命」というキャラクターをデザインしたんですが、ゲーム版とアニメ版それぞれに違う「運命」が登場するんです。そのふたりを同時並行で描いていました。
見比べていただくとわかると思うのですが。ゲーム版はドレスに大量のバラがついていて、アニメ版は比較的シンプルな形に仕上がっています。
LAM氏:
アニメ版は「アニメーターさんが描けるようなキャラクターにしてください」と発注を受けていて、逆にゲーム版は「(装飾の多さは)気にしなくていいですよ」と言われていました。だから、ゲーム版は「じゃあ際限なく薔薇付けちゃえ!」と(笑)。
とくに『takt op.』は、その媒体ごとの違いを最初から強く意識していましたね。でも、副島さんのデザインってもともとがスッキリしているから、あまりそういうのはなさそうですが……。
副島氏:
いや、結構言われますよ(笑)。
『P5』をアニメ化したときは、Production I.Gさんから「主人公のズボンのチェックどうにかしてくれ」と言われました。あと、『メタファー』の主人公が着ているチェック柄のコートも、フィギュア化するときに「タンポ印刷は無理です!」と……。
LAM氏:
たしかに、そこは難しいですか……。
あとは、「動くかどうか」も大事ですね。
アニメは、やっぱりバリバリに動くじゃないですか。でも、逆にゲームやTCGのキャラデザインは、動かない1枚の立ち絵だけで画面を持たせなきゃいけなかったりする。結果として、要素過多であったり、華美な方向になったり。でも、アニメはそこに「髪の毛がなびいたらこうなる」という動きを持たせられるわけですから。
副島さんのキャラクター……とくにジョーカーなどは、「燕尾服がシルエットでなびいたらカッコいい」という動きの部分まで設計したデザインになっているんじゃないかと思っています。
副島氏:
逆に、いまのイラストレーターのほうが、1枚のイラストに込める密度やアイデアの量ってすごいじゃないですか。だから、たまに自分がキャラのイラストを描かなきゃいけないときに、どうしても比べられちゃうというか、必ずそこと隣りに並んでしまうので……プレッシャーを感じます。
LAMさんもそうですが、「1枚のイラストの中で」というより、トータルのブランディングや、実際に本にまとまったときのタイポグラフィまで考えて作られていますよね。デザイン性の強い方であればあるほど、そう描かれているように感じます。
LAM氏:
でも、僕からしたら副島さんは「イラストまでなんてすごい方なんだろう」というイメージです。
副島氏:
いや、そこまで描かないですよ。
年に数枚くらいです(笑)。
自分はもともと、藤子不二雄さんや宮崎駿さんみたいなあたりの優しいタッチが好きで、そこから真似して描いていったので、あまり絵の押しが強いほうではなかったんです。
だから、『ペルソナ』を作るときにも、好かれるキャラにはなるかもしれないけど、LAMさんのように「SNSで負けない絵」の方向に行けるタイプではなかったんです。
そこで、UIなどの別の部分に活躍してもらおうと分業をしたのが、『P3』以降のスタイルの出発点です。
LAM氏:
なるほど、いろいろなところに強さを役割分担していったというか。
副島氏:
映画のPVとかも、キャッチがバンバン飛んでくればかっこよく見えるじゃないですか。俳優さんがぼんやりしていても、タイポグラフィがかっこよければいい感じに見えてしまう……といいますか(笑)。
LAM氏:
副島さんのおっしゃっていることって、要するに「みんなが食べやすい最高のバニラ味」といったことですよね。逆に、僕の場合は少しクセの強い「ドクターペッパー」みたいな絵なんです。
ここ数年の僕自身の課題として、「どうすれば、自分の絵がみんなにとって食べやすいものになるか」をすごく意識していました。やっぱり、尖れば尖るほど刺さる範囲は狭まっていくじゃないですか。
副島氏:
いや、LAMさんの絵は狭まってはいないと思いますよ。
LAM氏:
そう言っていただけると、非常にうれしく……まさに「狭めないようにするにはどうしたらいいんだろう」ということを、すごく意識していたんです。
ありがたいことに、現在自分のファン層は、男性と女性が半々くらいなんです。その「より多くの人に僕の絵のよさを知ってもらいたい」という狙いから、意識的に仕事の幅を広げていました。
アングラなものから、ポップなもの、子ども向けや男性女性を問わず、さまざまなタイトルのいろいろなものに関われるようになりたかったんです。
副島氏:
でも、それってかなり難しくないですか?
LAM氏:
すごく大変でした!
要するに、クセが強いまま、クリーンな存在になりたかったんです。たとえるなら、「タピオカ」や「生キャラメル」みたいなもので……初めて登場したときは「なんだこれ?」と思われていたものが、いまはもう当たり前になっている。そんな存在になりたかったんです。
副島氏:
まさに「ドクターペッパー」ですね。
クセが強いけど、みんなが知っている。
きっと、LAMさんは「ドクターペッパー」になれていますよ。
LAM氏:
僕の絵って……クセが強い分、平凡な日常を描くような作品だと、逆にデザインのノイズになってしまうこともあるんです。「作品性を選んでしまう絵柄」というか。
逆にいうと、副島さんの絵柄は、みんなに「食べやすくておいしい」と思ってもらえる……だから、どんな物語との相性もいいんです。ファンタジーから現代劇まで、どんなものでもいけちゃう。
その意味で、「僕の絵をバニラ味にしていきたい」と思っていました。
副島氏:
でも、そこを全部おひとりで決めているところが、LAMさんのすごさですよ。
うちはアトラスですから。
ユニークな作品ばかりなので(笑)。
自分の役割は、そんな「クセの強さ」をみなさんに食べやすくお届けすることだと思っています。その「どうやって大勢に届けるか」をひとりでコントロールするのは本当に大変なことだと思いますし、それでやれているのがすごいです。