そもそもイラストってなんなんだろう
副島氏:
それで言うと、僕は「イラストってなんなんだろう」ということを、ずっと思っているんです。
僕が仕事を始めたころ、「イラスト業」というのは存在しなかったんです。
「イラストレーター」というと、末弥純さん【※】のような小説の挿絵であったり、ヒロ・ヤマガタさん【※】のようなポップアートであったり……。もしくは、マンガ家の方が副業でイラストを描いたりする。
【※】末弥純……日本のイラストレーター。『グイン・サーガ』シリーズなどの挿絵を担当。
【※】ヒロ・ヤマガタ……日本の画家。シルクスクリーン印刷の作品などで知られる。
LAM氏:
あ、それは僕もすごく思います。
以前はゲームのキャラクターデザイナーだって、パッケージのためのイラストを描くから、その結果として「イラストができる」という感じでしたよね。
副島氏:
たぶん、カードゲームが「イラスト業」の最初のような気がするんですよね。
あのカードの絵をいろいろな作家さんが描くようになった時に、「イラスト」単品に商品価値が出てきたんだと思っています。それまでは、そこにストーリーやキャラクターが付随し、ゲームやマンガといった「媒体」があったうえでのイラストだったんです。
イラスト単品や女の子が描かれている絵だけが即座に世の中に出るのは、少なくとも僕が絵を描き始めた当時はなかったんですよ。その流れがカードゲームに留まらず、どんどん加速していってますよね。
そのような状況だったのが、おそらく転機はカードゲームの登場だったと思うのですが、カードゲームのカードをいろいろな作家さんが描くようになった時に、単品の「イラスト」に商品価値が出てきました。
まさにLAMさんはその流れの急先鋒だと思うのですが……どう思いますか?
LAM氏:
いや、僕も「イラストレーター」には同じイメージを抱いていました。
当初のイラストレーターさんって、それこそ小説の挿絵だったり、「画家」に近いようなイメージですよね。どちらかというとマンガやゲームのために絵があり、表紙がある。
そこで初めて「イラスト」や「パッケージ」が生まれるという逆算に近いものだったはずなのに、その表面の部分だけにニーズが生まれ、商品価値が伴ってきているのが現在だと思います。
LAM氏:
1990年代から2000年代にかけて、ちょっとずつ「オタク=気持ち悪い」みたいな状態から市民権を得ていき、いまはもうみんなが当たり前のようにアニメやゲームのキャラクターを待ち受けにしていても何も言われない時代になったじゃないですか。
でも、僕らが10代のころや、副島さんの若いころには、まだそこに多少のアレルギーがある時代だったと思うんですよね。
……と考えると、「2次元」という文化があまりにも日本人に定着しすぎたため、「絵」そのものに価値が伴うようになっていき、その中で爆発的に普及したSNSとイラストというコンテンツの相性がよすぎたのだと思います。つまり、イラストとSNSは「食べるスピードの相性」がすごくいいんです。
たとえば、音楽だったら再生してから歌が始まるまでに、ほんの0コンマ何秒ですが少し時間が必要じゃないですか。それに対し、絵は見た瞬間に味がする。とにかく、パッと味がするわけです。
そのうえで、「インスタントになにかを摂取したい」という人も年々増えていっています。YouTubeのショート動画もそうですし、それこそ音楽も最近は「歌い出し」が圧倒的に多いですよね。その「消費するスピードの速さに伴う」という点で、イラストは時流との相性がいいんじゃないかと感じていました。
副島氏:
それがすごくうらやましいんですよ。
絵を描きたい人にとっては、一番ピュアな環境じゃないですか。
昔は「それってなんのために描いているの」と言われていたところが、いまは当たり前のものとして描ける時代になっていますよね。それどころか、もはやイラストレーターは「憧れの職業」ですからね。
LAM氏:
僕も「いい時代だな」と思います。描かせていただける場所、発表する場所がごまんとある、本当にいい時代です。でも、その分、やっぱりすさまじい数のライバルがいるのは前提にありつつ……。
それこそイラストを始めるにあたっても、画材や液タブも安価になってきているし、ハウツー動画もYouTubeにゴロゴロ転がっています。本当に、絵を描くにはうってつけの時代だと思いますね。その流れもあり、「絵だけのもの」に、価値のある時代になったのかなと思います。
そして僕自身も、その波に乗っかっているような形というか。
副島氏:
いやいや、波に乗るどころかLAMさんは牽引している側ですよ(笑)。
「絶対に1位を取れる絵」
―Twitterが登場する前は、pixivで目立った絵師さんが発掘されるような流れが主流でしたよね。「Twitter流行前と、その後」での変化などがあればお聞きしたいです。
LAM氏:
僕たちの世代って、pixivができたのが高校生のころなんです。
そして、その当時pixivのランキングに乗っている人は、まさに「神様」でした。
昔で言ったら、アニメ雑誌に常連で載っている人の中で、しかもすごく上手い人に憧れるような感じで……pixivのランキングに載るのは、当時の僕の到達点のひとつと言っていいくらいの憧れがありました。
なんなら、「イラストレーターになりたい」より先に「pixivで1位を取りたい」と思うくらい、僕らの世代にとってpixivは大きな存在だったんです。
副島氏:
ちなみに、LAMさんは1位を取ったんですか?
LAM氏:
取りましたね。
ただ、取るまでには本当に長い時間がかかりました……。
実際に1位を取ったのは、アトラスに入ってからです。
―少し話しづらいかもしれませんが、1位を取るにあたっての「攻略法」みたいなものはあったのでしょうか。
LAM氏:
もちろん絵が達者であることは前提でしたが、人気なモチーフや風合いの流行はあったと思いますね。
正直なところ、1位を取った時の絵は「1位を取るぞー!」という思いで描いた絵でした。
副島氏:
えっ、それはどんな絵ですか。
LAM氏:
当時、pixiv内で「水中の絵」がすごく流行っていた時期があって……オリジナルで人気の作品には、たいてい「泡」が描いてあったんです。
それで、「泡だ!!!!!」と。
副島氏:
それだけで取れるなら、みんな取れるじゃないですか!(笑)
一同:
(笑)。
LAM氏:
とにかく、そうやってpixivでランキングに入ると注目されて、お仕事がもらえるような流れが通例となっていた中で登場したのが「Twitter」だったんです。
やっぱりTwitterって、日本人の気質に合っていたんですよね。
利用者の人口が爆発的に増える中で、Twitterを活用したお仕事のあり方が急加速的に増えていきました。徐々にpixivでランキングを取るのと並行して、Twitterでの注目度合いがお仕事に繋がるケースも増えていき、だんだんとTwitterの方が存在として大きくなっていった感じですね。
僕は、ちょうどその「pixivとTwitter」が重なるタイミングにいれたのが、大きかったのだと思います。
―さきほども「インターネット上で人の目に留まりやすいイラスト」のお話をされていましたが、pixivとTwitterでの「見せ方の違い」などはあったりされるのでしょうか?
LAM氏:
やはりそこも、アトラス時代のUIデザイナーとしての経験が有利に働いたのだと思います。須藤さんのもとで「UIの中にどういったものがあると目を引くのか」を、学び続けてきましたから。
Twitterは、縦長の画面をフリックして移動しますよね。
だから、次々と投稿を見ていく中で、「おっ!?」と手を止めさせる違和感がないといけないんです。まず、その「!?」をもらわなきゃいけない。僕は、それを心がけていました。
水のようにスルッと飲めてしまう絵ではなく、なにか引っかかって味を覚えてしまうような違和感のある絵……まさに前述した「ドクターペッパーみたいな絵」を目指していました。なんだかクセがあるけど、忘れられない。そんな絵作りや色遣いが、Twitter上でのインタラクションに繋がったのかなと思います。
『ペルソナ』、実は人を洗脳してる?
―逆に、「絵が古びる」とはなんなのかということもお聞きしてみたいです。絵柄というものには流行り廃りがあり、同時に確立されている絵柄もあると思うんです。その「絵柄の流行りと、確立の違い」はどういったところにあるのでしょうか。
副島氏:
簡単に言うと、その時代に依存しているかどうか……より細かく言うなら、「何割くらい依存しているのか」だと思います。それこそ、自分の絵柄を見返した時に「この感じはもう廃れてしまったものだから、そっと排除しよう」と考えたりはしますね。
LAM氏:
『メタファー』ではどうでしたか?
副島氏:
『メタファー』は……よくわからなくなってしまいました(笑)。
―では、『ペルソナ』のときはご自身で流行りの要素を入れた感覚はあるのでしょうか。
副島氏:
『P5』などは、なんだかんだで入っていたと思います。
LAM氏:
でも、それって「ニワトリと卵」みたいな問題ですよね。
副島さんの絵柄を含め、『ペルソナ』ってどうしても1作品を作るのに年月がかかるじゃないですか。そのスパンの間、前作のブームがずっと継続する。『P3』『P4』の主人公達だって何年も人気ですし、『P5』のジョーカーもこれからがんばり続ける。
そんな「ずっと人気であり続けるコンテンツ」だから、目にする機会も多いですよね。それこそ、小学生が大学生になるまでのあいだ、ずっと『P4』で育っている可能性もあるわけじゃないですか(笑)。
副島氏:
僕としては、すごく予想外なんですけどね(笑)。
LAM氏:
だから、割とシリーズを通して洗脳に近いことを行っているというか。
一同:
(笑)。
LAM氏:
古びるわけがないというか、つねに供給がオンタイムなのだから、副島さんの絵をずっと目にするし、ずっと味わうことになる。そこが『ペルソナ』の強みだなと思っています。
むしろ、トレンドになり続けていることこそが、副島さんの絵が古びない理由なのだと思います。
―最後に、改めて「イラストレーターがどこに辿り着くのか」という、キャリアパスについてお考えをお聞きできればと思います。
LAM氏:
僕はまだ経験していないことがたくさんあるので……この仕事をやり尽くした果てになにが見えるのかは、正直ぜんぜんわかりません。むしろ、「キャリアパスがどうなるのかわからない」というゾーンに突入してみたいですね。
あと、ゲーム業界自体がまだまだ若い業界だと思うので、いまのレジェンドたちが定年退職してしまった後、どうなっていくのかを見ていきたいんですよね。
副島氏:
それは、最近スタッフによく言われるんですよ(笑)。
ゲーム業界って、まだちゃんと定年退職した人がいなくて……。レジェンド級の方々がようやくというくらいで、一般社員の方はまだ定年していないんですよね。
LAM氏:
僕からしたら、まだまだみなさん最前線にいらっしゃるイメージなんですよね。そんな方々が、後年どんな活動をされていくのかは、僕も知らない世界というか……副島さんはどうされるんですか?
副島氏:
出渕さんが、以前『宇宙戦艦ヤマト2199』の監督をされていたじゃないですか。そのときに、「『宇宙戦艦ヤマト』を愛してくれている人がいるから、『宇宙戦艦ヤマト』世代の私が監督をして作るんだ」といったことをおっしゃられていて。
たぶん、自分の世代くらいから、ちょうどゲームやアニメを「卒業」することがなくなったんですよね。
父親の世代くらいは「その歳でまだゲームやってるの?」と言われることもあったと思うのですが、みんなが卒業しなくなったということは、自分たちが作っているものを変わらず愛してくださる方と一緒に時代を作る業界になっていくのでしょうね。
―ゲームやマンガにも、「世代の厚み」みたいなものが現れ始めているんでしょうね。
副島氏:
「世代の厚み」!
そうですね。いいことをおっしゃいます。
だから、「環境がどんどんよくなっている」という解釈をするのがいいのかな。ライバルも多いけど、同時にそれは「憧れられている」ということですから。
―ちなみに、副島さんからLAMさんに対して、なにかアドバイスなどはありますか?
副島氏:
いや、ないですよ。
LAM氏:
絶対ありますよ!
お願いします!
副島氏:
うーん、どうでしょう……そうだ、このあいだロサンゼルスで開催されているAnime Expoに行ったのですが、僕たちが描いている絵は世界中の人が好きなんですよ。そして、もう舞台が日本だけじゃない中で活動をしていき、LAMさんからどんなアウトプットが出てくるのかは見てみたいです。
絵を描く人は結局のところ、見てくれる方にサービスをしているわけですからね。見てくださる方が変われば、当然内容も変わってくる。ワールドワイドになった時に、LAMさんがどうやって持ち味を出していくのかはすごく楽しみです。
LAM氏:
がんばります!
僕も『スパイダーバース』や海外発のアニメ作品が大好きで……逆を言えば海外の人たちも当たり前のように日本の作品を楽しめますよね。現代に生きるからこそ、国や人種、性別も関係なくいろいろな人に喜んでもらえるものを模索していきたいですね。カルチャーをミックスしていくような存在になれたらなと。
副島氏:
それを世界に発信してくれるのは、すごくうれしいことですね。
このあいだも本屋さん行ったら、LAMさんの画集が平積みになっていたんですよ。
だから、悔しくて悔しくて(笑)。
LAM氏:
いやいや、何が悔しいんですか!
副島さんこそ、何千万人という人々に届いているのに!
でも、本日は本当にありがとうございました。夢が叶いました。
『ペルソナ』と『メタファー』のキャラの魅力は、色気にある。
それは、現在と過去を同時に取り入れつつ、自己探求を繰り返してきた副島氏の研鑽の果てに生まれたものだった。まさに、イラストレーターの人生はそこにあるのかもしれない。というか、「クリエイター」とは、そういう生き物なのかもしれない。
数えきれないインプットとアウトプット。
終わりのない分析と自己探求。
掘っても掘っても先の見えない鉱脈の掘削。
その繰り返しによって、「人を魅了するもの」は生まれる。副島氏とLAM氏の生まれた時代は違っても、そこはずっと変わらない不変の真理なのだと思う。その結果として、「時代」は形作られていくのかもしれない。
以前、個人的にLAMさんの個展「千客万雷」におうかがいしました。
数々の展示物を見る中で真っ先に感じたのは、まさに「なんだか足を止めたくなる違和感」でした。めくるめく違和感の連続。ふと2~3秒は足を止めてしまう一瞬の衝撃が連鎖し続ける、独特な空間でした。
そうでありながらも、絵に普遍性がある。違和感があるけど、多くの人に愛される。『P3』に衝撃を受け、『P5』のUIデザインで経験を積んだLAMさんの絵は、まさに「バニラ味のドクターペッパー」として完成した。なにより、開催中の個展に多くの人が詰めかけていたことが、その証左ではないでしょうか。
……などと、なんだかエラそうなことを言ってしまい恐縮なのですが、本当に素晴らしい個展でした! LAMさんの人生の結実である「千客万雷」、ぜひ足を運んでみてください!
アトラス副島成記さんとイラストレーターLAMさんのサイン入り『LAM画集 いかづち』を1名様にプレゼント@denfaminicogame
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) November 26, 2024
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▼副島成記さんとLAMさんがイラスト論を語り合った対談記事はこちらhttps://t.co/b5IjMXHNW2 pic.twitter.com/BeNM539Mds