イラスト大戦国時代、LAMはどう生き残ってきた
―LAMさんは、イラストレーターの中では「SNS世代」の方だと思うのですが、そういった方々の中で、ご自身は「何世代目」にあたるのでしょうか?
LAM氏:
うーん、正確なところはわからないのですが……三輪士郎さんやワダアルコさん【※】を「第1世代」とした場合、おそらく「第2世代」くらいじゃないかと思います。
【※】三輪士郎……日本のマンガ家・イラストレーター。クリエイター集団supercellの一員でもある。
【※】ワダアルコ……日本のマンガ家・イラストレーター。『Fate/EXTRA』シリーズのキャラクターデザインなどを担当。
―第2世代の中でも、LAMさんは「はしり」のほうではあるのでしょうか。
LAM氏:
いえ、どちらかというと遅めのスタートでした。
僕はどちらかというと「中間層」で、それこそ20歳くらいで活躍されている方もいれば、40歳でバリバリ現役の方もいらっしゃいます。それこそ副島さんもバリバリ現役ですし、上の世代にも下の世代にもイラストレーターがいっぱいいます。
だから、いまって本当に「イラスト大戦国時代」なんですよね。
でも、同時にそれが楽しくて、幸せなことでもあるのですが。
ただ、その中で「見つけてもらう」のはすごく難しい時代だよなとも思っていて……。コロナ禍でみんなが家にいて、インターネットにより多くのコンテンツが供給される状況となったとき、僕は「SNSの中で見つけてもらう」ことを意識しました。そこで、アトラス時代の経験が活きたんです。
『P5』のUIデザインなどで須藤さん【※】に学ばせてもらった、グラフィックや視線誘導の技術を、SNS上のちっちゃい画面で「おっ!?」と思ってもらえるように工夫していました。そんな色遣いや画面作りにおいて、アトラス時代に培われた技術を活用できていたんじゃないかなと。
【※】須藤正喜氏……アトラスのUIデザイナー・アートディレクター。『ペルソナ3』以降のシリーズのUIを担当している。
―LAMさんの独立されるまでの流れをもう少し詳しくお聞きできればと思うのですが、アトラスで会社員をされているときに、並行してイラストも描かれていたのでしょうか?
LAM氏:
まさにそうですね。
最初は趣味で、コミティアやコミックマーケットのような同人イベントに参加していました。社会人になって初めて参加したイベントでは、たしか売れたのは17部くらいでした。
副島氏:
もう、いまではレアものですね(笑)。
LAM氏:
それでも、やっぱり楽しかったんですよね。
会社員をしつつ、趣味で絵を描いて本にして、同人イベントに通って……そうすると、少しずつTwitterのフォロワーが増えたり、ご挨拶してくださるイラストレーターさんも増えたりして、交流ができてくるんですよね。
フリーのイラストレーターさんたちとご飯に行ったりもして……。そのとき、僕には本当にみんながキラキラして見えたんです。やっぱり、僕は会社にいたけど、絵は描けていなかった。だから、いつか本当の意味で「イラストレーター」になりたいと思っていました。
LAM氏:
僕は、村田蓮爾さん【※】も大好きで……副島さんも村田さんもアトラス出身ですが、副島さんのように会社内で活躍される方もいれば、村田さんのように独立して華々しいお仕事をされている方もいます。そんな中で、当時の僕は「絵を描くチームにすら入れていない」という焦りを感じていて……。
かといって、自分から「アートチームに入れてください」と言えるだけの技量もない。そんな中で出会うフリーのイラストレーターさんたちって、やっぱり365日自分の絵のことを考えている人たちじゃないですか。
僕は会社にいる以上、日中は会社の仕事をして、帰ってきて平日の夜から朝にかけてと、休みの土日を使ってイラストを描くしかありませんでした。だから、週7フルで自分の絵に向き合える環境が、すごくうらやましかったんですよね。
アトラス社内のアートチームも、副島さんと共にアートワークに日々触れ続けられる、そんな環境への憧れがありました。
そして、「自分の絵にフルで向き合えるようになりたい」と強く火がついたのが、コミティアに出展しはじめて2年目の頃でした。自分も、フルで自分の絵に向き合えている人たちみたいになりたい。だからこそ、その人たちよりも1枚でも多く描かないと、「追いつけない」と思ったんですよね。
【※】村田蓮爾……日本のイラストレーター。アトラスで『豪血寺一族』のキャラクターデザインなどを担当後独立し、フリーランスとして活動している。
副島氏:
あの作品量から考えると……やっぱりそうですよね。
LAM氏:
だから、毎日誰かと話しているときも、ご飯を食べているときも、目の前に「砂時計」が見えるんですよ。いまも見えています。スーって砂の落ちる時計が。その砂時計が何個も何個も見える中で生きていく。そんな生活をしていました。
でも僕はそれが苦じゃなくて、むしろ楽しかったんです。
「上を見て追いかける」のって、楽なんですよね。
上を見てどんどん走っていき、味わってみたかった・享受してみたかった経験がどんどん出来るようになる。そういう「クエスト」みたいなものをこなすのが好きだったんです。「いつか自分の絵でゲームが出たら、どうなるんだろう」といった好奇心がモチベーションだったから、大変だけど苦ではなかったです。
いまに至るまでの流れはそんな感じですね。5年間、本当にあっという間で……いざ振り返ってみたら、たくさんの作品を生み出してきたなと。そして、その「振り返るタイミング」が、今回の個展と画集でしたね。