何のために終わらせるのか、何のために「死」を送るのか
──『FGO』が今年で第二部終章を迎えることも含めてお聞きできればと思うのですが、奈須さんと焼鳥さんは「ゲームの美しい終わり方」をどのように捉えられているのでしょうか? 特に、ソーシャルゲームは終わり方がものすごく難しいと思うんです。
奈須氏:
さっき焼鳥さんが『Fate/stay night』をクリアしたあとに、「虚しさ」を感じたとおっしゃられていたじゃないですか。それは、自分も『FF4』【※】をクリアしたときに思ったんですよ。
エンディングを迎えたときに「俺は明日からどうやって生きていこう、死ぬか」と思ったくらい、あまりにもゲームに熱中しすぎていて、終わった瞬間、ものすごく虚無になった。でも、振り返ってみると、あの虚しさは、やっぱり「悔しさ」なんですよね。あの「なんで永遠に続かないんだ」という悔しさがあったからこそ、いま良いものを作れている。
だから、ワールドエンドというものは、それがどんなに美しい終わりでも、終わる以上は悔しい。その悔しさや切なさが、いいゲームの終わり。それが、本当に意義のある物語だと思っています。逆に、永遠に続く物語は、生きてはいるけど戦っていないというか……まあ、ゴールがない人生はツラいですからね。
だから、『FGO』もキチンと終わらせることは初めから決めていました。終わらせ方も動かしようがないけど、もしきのこのエゴより巨大な民意がやってきたら、その民意に屈服せざるを得ない。アニプレさんがスポンサーだからさ!
一同:
(笑)。
奈須氏:
でも、ソーシャルゲームである以上、その特性を活かした終わり方を考えています。
悪いけど、先にやらせてもらうぜ!
これはもう、やったもん勝ちなので!
※「FF4」
『ファイナルファンタジー』シリーズのナンバリング4作目。シリーズ初のスーパーファミコン向けソフトとして発売された。初めて「アクティブタイムバトルシステム」が採用された作品であり、ストーリー性の高さも評価された。

──焼鳥さんも、『崩壊3rd』第1部のラストに携わられていましたよね。
焼鳥氏:
やはり『崩壊』シリーズのタイトルも、必ず終わり……もしくは段階的な完結があることは最初から決められています。そして、そのエンディングから逆算して、物語の構成を考えています。
私たちのゲームは、やはり「ユーザーと一緒に過ごす時間、一緒に成長する過程」を大切にしています。キャラクターたちも、現実のユーザーと同じく、時間とともに成長して次のライフステージに向かってきます。だからこそ、必ず現実と同じ「お別れ」が来ます。
そこで、どうお別れを告げるか。
それが、物語の終わりであり、「答え」を出すところ。
ただ、ユーザーのみなさまには、ゲームが終わっても「明日」があります。
そのために、物語が終わったとしても、明日に向かって歩き出せるようなテーマを描くべきだと考えています。前へ踏み出すときの原動力になったり、いつの日かその物語を思い出したとき、心のなかに勇気や愛が残っている……そんなエンディングを、目標としています。
──「終わり方」と合わせてお聞きしたいのですが、奈須さんと焼鳥さんは「キャラクターの死に際」や「退場シーン」に、すごく力を入れて書かれている印象があるんです。「キャラクターの終わり」を描くとき、どのようなことを意識されているのでしょうか?
奈須氏:
キャラクターの終わりを書くのは、すごくカロリーを使うんです。
そのキャラクターが終わったら、それ以上そのキャラが語れることはないんですよね。だから、本来そのキャラクターが持っていたものを短いセンテンス……もしくはセリフが言えない状況でも、必ず表現しなくちゃいけない。それが生んだ者の責任であり、プレッシャーでもある。
むしろ、その死に際を最高のものにできなかったら、何のために今まで書いたのか?
そこが、カロリーの高いところですね。
だから、そこを書く前は、ちょっとキレイに禊を済ませて、「お、今日は体調がいいぞ。よしやるか」と(笑)。どのシーンもカロリーは使うけど、特に死に際が一番カロリーがかかるし、熱がこもりますね。
焼鳥氏:
それは、私も近い感覚ですね。
仕事とは関係なく、私はキャラクターが人生の絶頂で幕を閉じるような結末が好きです。すべての登場人物が最も華やかな姿で、物語に美しい句点を打つ。そんなラストに心惹かれます。
それに対して、キャラクターが少しずつ衰えていき、緩やかに坂を下るように終わっていく物語は、私にとって哀しさと、そしてどこか恐ろしさを感じさせるのです。
──さきほど奈須さんが「作品(パッケージ)に不死性を持たせたい」というお話をされていましたが、キャラクターもその散り際や死に様によって、不死性がもたらされることがあると思うんです。
奈須氏:
まさに「伝説」になりますからね。
死に際が鮮烈であったり、凄惨であったり……激しい闇でも光でも、どちらにせよ終わりを迎えたものは、ユーザーの心に残り続ける。それが励みになったり、教訓になる。そこは物書きとして目指すべきものだから、カッコつけて言うと、常に目指してはいます。
焼鳥氏:
少したとえ話になってしまうのですが……ほとんどの人間が人生をかけて「死をどう迎えるか」という問題の答えを探しているのだと言うのであれば、キャラクターの死が注目されるのは、やはりみなさんがその問題に対して関心を抱いているからだと思います。
そして、キャラクターたちも、自身の最後に「答え」を出そうとしている。
これは私たちがシナリオを書いているときに感じたことなのですが、キャラクターはある段階に入ると、もう制御ができなくなることがあります。こちらの認識や知識を超えて、その結末にキャラクター自身が向かっていく。キャラクターが勝手に動き出して、自分たちが見つけられなかった「答え」を出してくれるんです。
奈須氏:
「書いていくうちに、こちらの思惑から外れるキャラクター」は、まれにいるんですよね。
ただ、これはライターのタイプにもよると思います。
たとえば、自分のなかでそのキャラクターのパラメータを作り、「こいつならこういう風に動くだろう」というシミュレーション的な動かし方をしていると、あるタイミングで自分の想定とは全く違うことを自然にやるんですよね。
セリフなども、ここで「はい」と言えばキレイに1ページで終わるのに、こいつ「いいえ」って言いやがった! うわーここから10ページも続く!! ……みたいなことが(笑)。
奈須氏:
そうしてキャラクターが成長していった最後に、何を無念に思うか。その最後のセリフで、そのキャラクターにとって一番大事だったものがわかるんですよ。
そういう突発性で物語を書くことによって成長して、作者のものではなく、完全に物語のものになったキャラクターは、たまに存在するんですよね。
その「物語のものになったキャラクター」が死ぬ間際に言うセリフは、たぶん作者も意図していない。むしろ作者も「ああ、コイツ、これを最後に言いやがった……」と思うような、面白いことが起こる。
たとえば、死ぬ間際に突然「ラーメン……!」と言って、こっちも「お前そんなにラーメン好きだったの!?」と驚くような(笑)。ただ、それだけでも、十分にそのキャラクターがなにを大事に思っていたのかがわかりますよね。ライティング作業には、そういうご褒美があります。
──奈須さんは、その「シミュレーション型」で書かれることが多いのでしょうか?
奈須氏:
そうですね。
「自分のなかに別人格を作る」と言うとカッコいいけど、単純に「この人物だったらこういうことをする」と決めたのを、忠実に守るようにしています。
だから、さっき言ったような「なんで俺の言うことに逆らうの?」と思うようなキャラがいるんですが、同時に「でも、こいつならここで素直に“はい”と言わないよな」と。そのせいで、どんどんテキスト量が増えて、ラセングルさんが泣いているんですけど。
一同:
(笑)。
奈須氏:
ただ、突発的なように見えて、実は無意識のうちに作家が積み重ねてきたキャラクターの所作というものがあり、その設定が長くなれば長くなるほど、それを守らなくちゃいけないんです。そして、真面目な作家はそれを守ろうとして、プロットとは違うことをキャラクターが言いだしたりする。
逆に強引な作家は、この積み上げたものを無視して、プロット通りの話を書く……それに気づいた読者が「なんかおかしくね?」と思うようなケースも発生する。まあ、そこは作家あるあるなのです。
──焼鳥さんも、キャラクターを書かれるときはシミュレーション型なのでしょうか。
焼鳥氏:
私も同じですね。
むしろそうでなければ、キャラクターの現実味はあまり出せないと思っています。
もしも、世界が滅びる最悪の事態が起きたとしたら──
──最後に、なにか焼鳥さんから追加で奈須さんにお聞きしたいことはありますか? 今日は焼鳥さんのTYPE-MOON愛がこれでもかと伝わってきたので、なにか他にもお話しされたいことがあるのではないかと思い……この機会にぜひ!
奈須氏:
やめろー!
こいつの口車に乗るなー!!
焼鳥さん、無茶することないぞ。
焼鳥氏:
私にとって、今回の対談は非常に光栄で、まさに夢のような機会でした。今日の対談を通して、ひとつ頭のなかで浮かんだシーンがあるんです。
それは、もし世界が滅びるという最悪の事態が本当に起きたとしたら──という仮定の話です。
そして焦土となった廃墟で、ひとりの幼い子どもが古いテレビをつけたら、画面には『Fate/stay night』が映っている。そんなアポカリプスな世界で、突如子どもの前に、マントを着ているおじさんが現れる。そのおじさんが、しゃがんで言うのです。
「知ってる?俺は奈須きのこに会ったことがあるぞ」って。
一同:
(爆笑)。
焼鳥氏:
次の瞬間、少年が振り返る。
なんと彼こそが、かつてのあの青年──大人になった自分だったのだ。
「どうだい? 君の期待には応えられただろう?」──このセリフとともに、物語は幕を閉じる。
奈須氏:
うん、もう……要約すると、バトンを渡せてよかった!
いや、だって自分も20代のころにそういうこと考えましたから!
世界の終わりに、好きな作品を見て……そこにはかわいい6歳くらいの黒いエプロンドレスの女の子がいて、名前は「アリス」って言うんだけど、そのアリスが本を持ってきて「パパ、この本読んで」「ああ、その本はな───」みたいに、好きな作品を語って死ねたらいいなとか昔思ったもんだけど(笑)。
いやあ、きれいにバトンが渡りましたね!
──まだ引退しないでほしいです。
奈須氏:
ほらほら、こう言われるから……。
まあ世界の終わりは来てほしくないですが、こちらこそいずれ若いユーザーに「えっ、お前きのこのクセにHoYoverseとコラボしたのか!?」と聞かれたときに、「したんだよー!」って言えますね(笑)。
奈須氏:
最後にちょっとだけ雑談なんですけど、焼鳥さんのペンネームって、なんで「焼鳥」なんですか?
焼鳥氏:
実は、もともとは違うペンネームを使っていたんです。
面白いことに、そのペンネームの中国語の読み方が「焼鳥」と似ていて、自己紹介したときにプロデューサーが「焼鳥」と聞き間違えたんです。ただ、「焼鳥」のほうが覚えやすいので、このペンネームになりました。
奈須氏:
そうだったんですね!
ペンネームは、覚えやすいのが最強です。
一同:
(笑)。
これ、「新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」じゃん。
確実に、私と同じことを思っている人がいるはず。
奇しくも、別になにも狙っていなかったのに、いつの間にか「アーキタイプ・インセプション」になっていた。継承と、世代交代。そんな歴史の一部始終を切り取った対談でした。
いつだって何千、何万、何億回と間違えて、人類は続いてきた。
それは、創作史も同じ。ずっと続いてきたし、これからも受け継がれていく。
時代が変わっても、たとえ国が変わっても、必ず「よりよいもの」に変わっていく。
ちょっと個人的なお話で恐縮ですが……焼鳥さんと同じく、私も学生時代に『FGO』に触れて、「こんなに面白いものがあるのか」と衝撃を受け、なんやかんやあってこの仕事をしています。だから、ちゃんとバトン渡ってると思います! みんな、バトン受け取ってるはずです!
そんな私たちにも、現代を生きている我々にも、いつか必ず「渡すとき」がやってくる。人類の未来を、私たちが生きてきた証を、誰かに任せるときがくる。だからこそ、いまを精一杯生きるべきだ。いまを思いっきり楽しむべきだ。
ということで、『崩壊:スターレイル』と『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』のコラボ、いよいよ始まります!
そんな、いつかの日のために。
コラボも、全力で楽しみ尽くしましょう。
奈須きのこ氏と焼鳥氏の対談を記念して、
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) July 8, 2025
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▼対談記事はこちらhttps://t.co/fPB3N6v8eL pic.twitter.com/iu4KQcvCYS