いま読まれている記事

『街』『428』『十三機兵防衛圏』──群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る【イシイジロウ氏インタビュー】

article-thumbnail-250724i

1

2

3

4

補足:ノベルゲーム以前からサウンド/ビジュアルノベルの成立、「未来をセーブする」という“見えない発明”に至るまで

ここでは、「ノベルゲーム」というジャンルが存在しなかった時代のストーリーとゲームの関係から、サウンドノベルやビジュアルノベルの成立。
若きイシイ氏に大きな衝撃を与え、ゲームの原体験ともなった「ループ構造」の考察や、本文中で“見えない発明”として語られた「未来をセーブする」という仕組みが果たす役割に至るまでを、スライドも交えつつ振り返っていく。

ノベルゲーム以前 『ドラゴンクエスト』に代表される、シナリオとゲームプレイの分離

ノベルゲームが存在しなかった頃に誕生した『ドラゴンクエスト』(以下、『ドラクエ』)などのRPGは、シナリオとゲームプレイが独立して存在している。
『ドラクエ』で言えば、「王様と話すパート」ではテキストによってシナリオが展開されるが、シナリオとシナリオのあいだは「敵と戦うパート」などのゲームプレイによって分離されている。

こういった構造を取り込んだノベルゲームも存在しており、たとえば『逆転裁判』などは依頼を受けるにあたってはシナリオが、証拠品などを集めるにあたってはゲームプレイが、それぞれ独立的に展開され、「裁判パート」においてシナリオとゲームプレイが合体する。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_028

ノベルゲームの成立 ~『弟切草』と『かまいたちの夜』~

ノベルゲーム黎明期の代表作としては、『弟切草』や『かまいたちの夜』があげられる。いずれも後の世の作品に多大な影響を与えたタイトルであり、選択肢によってさまざまに変化する物語が人気を博した。

だが、プレイした方ならご存じのとおり、『弟切草』と『かまいたちの夜』は、構造的には大きな違いが存在する。

『弟切草』には大きな軸となるストーリーが複数存在し、道中の選択肢によってプレイヤーの体験する世界そのものが切り替わる。言うならば「いくつもの並行世界を放浪しながら物語を読み進めていく」のが『弟切草』だ。

一方で『かまいたちの夜』は選んだ選択肢とその結果によって、時にものごとの「原因」自体が選択肢に寄り添うよう変化し、ひとつの世界から別の世界へと「分岐」していく。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_029

結果として、どちらのタイトルもプレイヤーへ提示されるものは「選択肢によって物語が大きく変化する」という体験だが、その内実には明確な違いが存在していることがわかる。

イシイ氏を魅了したループ構造と、その変化形としての『シュタインズゲート』

本文でイシイ氏が語っていたように、デジタルゲームのループ構造がもたらす体験は、映画やテレビドラマなどの映像媒体や、小説やゲームブックといった書籍媒体とは、決定的に異なっている。

そんなループ構造のゲームは、「選択肢によって分岐する物語を“縦に並べた”もの」と考えることができる。

一般的なノベルゲームでは選択肢によって複数の分岐が生じ、分岐先にしたがってそれぞれの物語が描かれ、結末を迎える。だが、ループ構造を持ったノベルゲームはそういった分岐を縦に並べ、繰り返しプレイヤーへと体験させることで、「繰り返す物語」と「その変化」の両方を強く意識づける。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_030

たとえば、『ひぐらしのなく頃に』では「鬼隠し編」や「綿流し編」などの形で作品内に無数に存在するループの一端が提示され、プレイヤーはそれぞれのループを読み進めながら真のエンディングへと辿りつく。

『シュタインズゲート』もまた、意中の相手と親密になっていく体験を味わう、いわゆるギャルゲーの「キャラクタールート」を縦に配置し、複数のキャラクターと順番に親交を深めながらループの秘密へと迫っていくストーリー展開をおこなった。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_031
(画像は『STEINS;GATE』Steamストアページより)

「未来をセーブする」という“見えない発明” 『街』、そして『428』

このように、さまざまな構造・ギミックを用いて変化・発展してきたノベルゲームだが、とりわけイシイ氏が重要視するのは「未来をセーブする」という“見えない発明”である。

イシイ氏によれば、この発明こそが『428』という「物語とパズルが高度に融合した体験」の根幹を支えているという。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_032
(画像は『428 〜封鎖された渋谷で〜』Steamストアページより)

本文の「マルチサイト型」ADVの説明において、イシイ氏は「登場キャラクターがふたりのうちは『AでなければB』という消去法で判別されたが、登場キャラクターが3人以上になることでシステムに質的な変化が起き、シナリオを整理し因果関係を解き明かすこと自体に“パズル”としての目的が生まれた」と語っている。

そんなマルチサイト型ADVのなかで、「未来をセーブする」という機能がどのような役割を果たしているのか? 一例として、3つのシナリオからなるマルチサイト型ADVの一場面を想像してみよう。

以下の図では、シナリオA/B/Cがそれぞれ相互に影響を与えながらエンディングに到達するまで、が図式化されている。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_033

ここで注目して欲しいのは、シナリオB-1の選択肢がシナリオA-1に影響を与え、シナリオA-1に存在していたBAD ENDを回避している部分だ。

ためしに、シナリオB-1における選択肢を変更し、シナリオAを早期にBAD ENDへ到達させてみる。すると、シナリオB-3において、シナリオAが順調に進行していれば発生していたはずの影響が受けられず、シナリオBもBAD ENDになってしまった。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_034

そこで、あらためてシナリオB-1の選択肢を選びなおし、シナリオAのBAD ENDを回避した。この時、もし未来がセーブされていなければ、プレイヤーはふたたびシナリオAをA-1からやりなおし、ほかのシナリオに与える選択肢も選びなおしながら、シナリオAをエンディングまで導かなければならない。

これが、本文において「未来はまだ何も確定していない」という考え方として紹介された構造だ。

一方で、一度選んだ未来の選択をグローバルフラグとして保持し続けることができれば、シナリオB-1の選択肢を適切なものへ戻した瞬間に、シナリオAの状態が復帰し、シナリオA-5までが「すでに選ばれた状態」としてプレイヤーに提示されることとなる。

『428』イシイジロウ氏インタビュー:群像劇アドベンチャーはなぜ面白いのか? その構造的快感の正体に迫る_035

これによって、プレイヤーは不毛なやりなおし作業に終始させられることなく、ゲーム体験を楽しむことができる。

また同時に、この発明は「確定した未来」という、いくつかのピースが組み合わさった小さなカタマリを用意することで、複雑なパズルであるマルチサイト型ADVを、人間が理解可能なレベルに留めてもいる。

それが、イシイ氏の言う「未来をセーブする」という発明と、その効能なのである。

本文:「利己と利他の世代論──『シブヤスクランブルストーリーズ』が描く、その先へ」に戻る

1

2

3

4

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ