以前は1カ月に1本のペースで、RPGをリリースしていました
――ケムコさんは今、新作のリリースはどれぐらいのペースで行われているのですか?
黒木氏:
今は年に5、6本ですね。日本語で5〜6本、英語で5〜6本ぐらいといった感じです。
――それはRPGのリリースが5〜6本ということですか?
黒木氏:
RPGですね。
野吹氏:
アドベンチャーは2年に1本とかなので……。
黒木氏:
昔は1カ月に1本、RPGをリリースしていたこともあるんです(笑)。
――RPGでそのペースは、さすがにスゴいですね。
黒木氏:
私たち自身もその当時は、「頭おかしいんじゃないの!?」と思ってましたから(笑)。フィーチャーフォン時代には、1カ月にRPGを2本リリースしたこともあるんですけど、担当のディレクターが倒れそうになってましたね。
――そのようなハイペースで開発を続けるのには、何か理由が?
黒木氏:
ウチは基本的に売り切り型なので、ゲームをリリースして、その反省点を活かしてすぐ次を出すというサイクルになっているんです。プレイヤーさんによって差はあるんですけど、1本のRPGをだいたい1カ月ぐらいかけて遊んでいただいているので、ちょうどそれが終わった頃に、次の新作を出すという感じですね。
今は以前に比べて新作の本数が落ち着いているんですけど、それはマルチプラットフォーム化したからです。そのぶん、新作の本数自体は減らしています。
野吹氏:
今は1つのタイトルを、いろいろな形で売っていこうという戦略にシフトしています。
黒木氏:
1つのタイトルが日本で出たら、それをすぐ海外に移植して、さらにニンテンドー3DSにも移植して、というマルチプラットフォームと多言語化ですね。多言語といっても、現状では英語だけですけど。
――それだけハイペースのリリースだと、採算が取れているのかどうかが、気になるのですが?
野吹氏:
弊社のタイトルはビジネスモデルがいろいろと混在しているのですが、今は無料版と有料のプレミアム版を同時に出すという形になっています。ヒットする作品の場合は、プレミアム版を出した瞬間に制作コストを回収できたこともありますね。
とはいえ基本的には、マルチプラットフォーム・多言語化を前提にしないと厳しいです。あとはauスマートパスや、NTTドコモのスゴ得コンテンツといった、キャリアさんの定額サービスが意外と重要で。そうしたビジネスモデルを全て駆使して、ようやく採算が取れるといった感じです。
――今のスマホアプリ市場から考えると、有料の売り切り型タイトルというのは、なかなか厳しいようにも思えるのですが?
野吹氏:
スマホストアの位置づけで言うと、無料版ではもうランキングが取れるような状態ではないので、ランキングは有料のプレミアム版のほうで狙っていくことになります。
一方で、そんな状況でもダウンロード数は無料版のほうが圧倒的に多いので、そちらで大勢のユーザーさんにリーチしつつ、それがさらにプレミアム版のランキングを上げるという感じで考えています。ですからユーザーさんに対しては、無料版で遊んでもプレミアム版で遊んでも、どちらも満足できるような作りを心がけています。
黒木氏:
無料版も広告は表示されますが、最後まで遊べるようにはしてありますから。
野吹氏:
体験版モデルも試してみたんですけど、ユーザーさんには体験版であることを一瞬で見抜かれてしまうので。無料で最後まで遊べるかどうかは、かなり大きな違いですね。
黒木氏:
そうやっていろいろなビジネスモデルがあるなかで、数はそんなに多くはないんですけど、リリースしたらすぐ、プレミアム版を購入してくださるユーザーさんもいらっしゃるので、それは嬉しいですね。
「こういうタイプは大好きだよ!」っていうJRPGが好きな層は、海外にも常にいるんです
――先ほどもお話にありましたが、ケムコさんがリリースされているのは、いわゆるクラシックなスタイルのJRPGですよね。それを英語化して海外でリリースされているというのも、興味深いのですが?
野吹氏:
海外でも、JRPGが好きな層は常にいるんですよ。実際、E3に出展すると「こういうタイプは大好きだよ!」っていう人は多いですから。なので、欧・米・アジアと海外全土に話を広げてしまえば、確実にプレイヤーはいると考えています。
黒木氏:
弊社では、日本版を出したらすぐローカライズする、というのを基本としているんです。そうした形を採っている会社さんはたぶん、他にはないと思います。そのために海外のユーザーさんとしては、「JRPGならKEMCO」というイメージがあるんじゃないかと。
――実際の売り上げとしては?
黒木氏:
海外の売り上げが多いタイトルはまだないんですけど、五分五分に近いタイトルはありますね。
野吹氏:
海外は国内以上に無料の比率が高いので、広告収入と、あとはセールですね。セールで100円になったら急に売れるっていう。
黒木氏:
北米や欧州はまだ有料でも勝負ができるんですけど、アジアは本当に無料版しかダウンロードされないような状況ですね。
――現状では、1つのタイトルをどういった順番でマルチ展開されているのですか?
野吹氏:
国内版のiOS/Android、海外版のiOS/Androidと出した後で、Unity対応のタイトルは、ここからPS VitaやPS4に移植する形ですね。PS系ハードは最近始めたばかりの新しい試みですけど。
新作のスマホタイトルがフィーチャーフォンのリメイクだった場合は、スマホ版ではなくてフィーチャーフォン版から3DSに移植するという流れもあります。これはなぜかというと、フィーチャーフォンと3DSは画面のドット数が近いんですね。最初からスマホ向けに作っているタイトルだと、3DS向けに画面をダウンサイジングするのが、かなり難しいんですよ。
――なるほど、画面サイズの問題なんですね。
野吹氏:
逆にスマホ向けに作ったタイトルは、より高解像度の家庭用ゲーム機やPCにも持っていくことができるんですけど。ただ、スマホ版であえて解像度の低い、ちょっとレトロな画面で作っておいて、それを3DSに移植するっていうパターンも、今後は出てくるかもしれないですね。
いずれにしても、家庭用ゲーム機やPCも含めたマルチプラットフォームは、まだ始めたばかりなので、今後もいろいろと試行錯誤していくことになると思います。
ただ、こういった形で1つのタイトルを多方面に展開していくというと、プロダクトとしてビジネス面を重視していると思われるかもしれないですけど、開発現場としてはできるだけ、クリエイティブを追求していきたいとは思っています。1つ1つの作品で、クリエイティブにこだわれるところは決して多くはないのですが、毎回できる限りのこだわりを持って作っていますので。
――ちなみにケムコさんは、いわゆるソーシャルゲームのような運営型のタイトルをやられることはないのですか?
黒木氏:
じつはmixiアプリで一度参入してみたんですけど、まったくノウハウがないので、上手くいかなかったですね。
野吹氏:
運営型ということは、ずっと手がかかるわけじゃないですか。他のタイトルの本数を守りながら、運営のためのスタッフを割くっていうことが、やっぱりムリだったと。
黒木氏:
ウチの会社のカラーが、売り切りのソフトを定期的にリリースして、1本で大きく儲けることはできないけど、ちょっとだけ返ってくるというのを積み重ねている会社なので、運営型のモデルはもともと合わなかったんだと思います。
野吹氏:
私も含めたディレクター陣は、運営型のタイトルがもしできるのなら、こういうことをやってみたいというアイデアを、それぞれ持っていると思うんです。でも運営型は、専門のノウハウを持っている人が最初のゲームデザインの段階から必要なので、そう考えると今の我々には、地の利も人脈もないですよね。