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ケムコって、ファミコン時代のメーカーでしょ? ざんねん!! ケムコの ぼうけんは モバイルアプリしじょうで つづいていた!!

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アドベンチャーゲームはある意味、会社の中でも放置状態です

――これまではケムコさんのRPGについてお聞きしてきましたが、そろそろアドベンチャーゲームについてのお話に移りましょうか。ここからは野吹修平氏ではなく、ディレクター/シナリオライターのamphibian氏としてお話を伺いたいと思います。

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ここからは、野吹氏→amphibian氏に、ジョブチェンジ。スーツ姿から『レイジングループ』の前に作った『D.M.L.C.-デスマッチラブコメ-』のTシャツ姿に。

 今回は、iOS/Androidでリリースされている『レイジングループ』【※】が、PS Vitaのダウンロードソフトとして配信されるとのことですが? 

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※『レイジングループ』
2015年にiOS/Androidで配信が開始されたアドベンチャーゲーム。奇妙な風習を持つ山奥の村に迷い込んだ主人公が、“死に戻り”の能力を駆使して、村を支配する怪異の謎を解き明かしていく。インタビュー中で後述されているように、物語は“人狼ゲーム”がベースになっている。
(写真はPS Vita版です)

amphibian氏:
 PS Vita版は、スマホ版からフルボイス化されているほか、シナリオも一部追加で書き下ろしています。ちょっと弱かった部分の補強と、あとは若干ギャグ的なものではあるんですけど、ヒロイン2人分のエンディングも追加しています。

 新規CGが20枚弱ぐらい追加されていますし、背景やキャラクターCGも若干ですが増えています。また、オマケシナリオの“エクストラ”はちょっと作り替えていて、本編をクリアした人が楽しめるような作りになっています。エクストラにもボイスが入りましたし、演出も強化しています。

――今回、『レイジングループ』がPS Vitaでリリースされるのも、ケムコのRPGと同様なマルチプラットフォーム戦略の一環なのでしょうか? 

amphibian氏:
 いえ、ちょっと違います。端的に言うと、アドベンチャーに関してはほぼ独立してやっている感じなんですよ。そのため作品の作り方もスケジュールも、ほかのゲームとはかなり乖離していて、そのせいで肩身が狭い部分もあるんですけど……。

 すごく時間をかけているし、業務の大部分をアドベンチャー制作に当ててしまっていて、そのわりには収益も、今はまだそんなに高くない。そういった意味では、ビジネスよりもクリエイティブ寄りだとは思います。ただ、手にとって頂いたユーザーさんからは、かなり高く評価されているという面があって。それゆえに社内でも、なんとか認められている状況ですね。

 PS Vitaでリリースするのは、この作品を評価してくれそうなユーザーさんが、より大勢いるところに送りだしたいという意図からなんです。ですからリリースするにあたっては、できる限り手を尽くして、より内容を良くしていく努力をしたつもりです。

黒木氏:
 アドベンチャーに携わっているスタッフは、全部で3人ぐらいと少ないんですけど、彼はRPGのディレクターでもあるので、本来はRPGのディレクションをするための時間が、アドベンチャーのほうに割かれているという状態なんですよ。

amphibian氏:
 『レイジングループ』は、作るのに2年ぐらいかかっているんです。その分のコストを、はたして回収できているのかという点で、社内では冷たい目で見られたりもするんですけど。でも一方では、こういったダウンロード型ソフトの特徴として、いったんリリースしたらずっと長く売れ続けるというのもありますので。

黒木氏:
 何年か経つ間に、なんとなく商品としてペイできればいいっていう。ちなみにスマホ版の『レイジングループ』は2016年12月時点では、有料版・無料版を含めたダウンロードの総数が、4万7000DLを超えています。キャリアさんの定額サービスを含めれば、5万DLは超えているでしょうね。

amphibian氏:
 ケムコのノベルアドベンチャーの中で、『レイジングループ』はいちばんヒットしています。ただ、『レイジングループ』はボイスもついて主題歌もついて、これまででいちばん長いお話という豪華版なので、それまでのタイトルと単純比較はできないんですけど。

――ちなみに開発期間の2年のうち、amphibianさんご自身の作業の割り振り方は? 

amphibian氏:
 そのうちの3〜4カ月は、新作RPGの対応をしていたので、完全に作業が止まっちゃっていましたね。あとは、1日の時間を数倍にしたり(笑)。

――社内の通常のお仕事を終えたあとで、さらにアドベンチャーのお仕事も、といった感じですか? 

amphibian氏:
 そういう感じですね。シナリオを執筆しているのは本当に1人だけなので、その間は他の人の手を煩わせることはないので。シナリオだけで、1年ぐらいかかっちゃいましたね。長めの作品ではあるんですが、シナリオライターとしては遅い部類でしょうね。

――先ほどのお話だと、ケムコさんの中でアドベンチャーというジャンルは、伸びしろがあると思われているのでしょうか? それとも言い方が悪いですけど、放置されている? 

amphibian氏:
 半々だと思います(笑)。弊社ではみんなが忙しくやっているので、お前ら勝手にやって勝手に成功しろ、というのを求められている感があるんですよ。そういう意味では、アドベンチャーはほぼゼロのところからここまで来ているので、伸びしろがあるからこそ、「お前ら勝手にやれ」と言ってくれている感じですかね。

――そういったスタンスは、RPGに比べてアドベンチャーゲームは、少ない人数でも開発できるという理由もあるのでしょうか? 

amphibian氏:
 RPGの開発会社さんは長くやっていてノウハウがあるので、効率よく作ったり、過去のデータを上手く使い回したりといったことをされているんです。けれどもアドベンチャーに関しては、まだ歴史が浅い上に、最初から少人数でやっているので、やっぱり大変ですね。

 ゲームエンジンにしても、フィーチャーフォンのタイトルをスマホに移植した時に新しく作ったんですが、『レイジングループ』ではUnityで作り直していますので。

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もともとは大学の文芸サークルで、小説を書いていました

――ここでamphibianさん個人についてのお話を伺いたいのですが。アドベンチャーゲームはもともとお好きだったのですか? 

amphibian氏:
 嫌いではないですし、有名な作品もいくつかプレイしてますけど、ゲームとしてはどちらかというと、洋ゲーやアクションゲームのほうが好きでしたね。

 もともとは文章を書く側だったんです。大学で文芸サークルに入っていたので。あとは中学生の頃にちょっとだけプログラミングもやっていたので、文章+ゲームという形式自体には、親和性がありました。

――先ほどのお話だと広島大学とのことですが、文芸サークルではどのような活動を? 

amphibian氏:
 学内に配布する雑誌に載せるという形で書いていました。読者がどれだけいたかは分からないんですけど。

黒木氏:
 じつは読んでいたんですよ、私。彼とは2学年違いなので。学内に置いてあったので、いつも読んでいたんですけど、その中にまさか彼がいたとは知りませんでした。

――当時はどんな内容の作品を書かれていたのですか? 

amphibian氏:
 ジャンルとしてはSFや恋愛モノですが、もっとコテコテの、ラノベみたいなものを書いていました。じつはノベルアドベンチャーの『D.M.L.C.』は、その当時の作品を、反省点を踏まえて焼き直したものだったりします。ほかにもその当時のアイデアやテーマを、個人的に反省しながらちょっとずつ昇華しているものがありますね。

『D.M.L.C. –デスマッチラブコメ-』は、告白されると爆死してしまう体質になってしまった主人公と、主人公を取り巻く美少女や個性的な登場人物たちとのハチャメチャ学園ライフが楽しめるノベルアドベンチャー。

――お好きな作家さんは? 

amphibian氏:
 SFだったらハインライン【※1】とか、あとはサイバーパンクが好きだったので、ギブスン【※2】とかジーター【※3】とか。ラノベだったら『とある魔術の禁書目録』【※4】とか、『這いよれ! ニャル子さん』【※5】とか。もともとの素地は、小学校の時に少年向けSFをかなり読んでいたので、そこらへんですね。

※1 ハインライン
ロバート・A・ハインライン。『宇宙の戦士』『夏への扉』『異星の客』といった名作で、世界SF界を代表する作家の1人。

※2 ギブスン
ウィリアム・ギブスン。『ニューロマンサー』をはじめとする電脳空間三部作で、サイバーパンクSFのイメージを決定づけた。

※3 ジーター
K・W・ジーター。サイバーパンクSF『ドクター・アダー』や、スチームパンクSF『悪魔の機械』などの作品で知られる。また、『ブレードランナー』の公式続編小説も執筆している。

※4『とある魔術の禁書目録』
鎌池和馬氏による人気ライトノベル。巨大学園都市を舞台に、魔術師や能力者たちが激しいバトルを繰り広げる。『とある科学の超電磁砲』などのスピンオフ作品も存在する。

※5『這いよれ! ニャル子さん』
逢空万太氏による人気ライトノベル。クトゥルー神話の名状しがたき神々や異形の生物が、美少女となってドタバタラブコメを展開するパロディ作品。

――入り口はSFという感じですか。

amphibian氏:
 そうですね。あとは母親の影響で、海外ファンタジーも読んでいました。『ドリトル先生』【※1】とかアーサー・ランサム【※2】とか、『ナルニア国物語』【※3】とか『指輪物語』【※4】とか。そこらへんを少年時代に読んでいたのが素地になっていますね。といって、SFファンやファンタジーファンを名乗るほどには、読めていないんです。全部中途半端なんですけど。だからこそ、それぞれが中途半端なまま、おもしろいまとまり方をして、今、出ているのかなって思います。

※1『ドリトル先生』
ヒュー・ロフティングによる児童文学のシリーズ。動物語を解する獣医師“ドリトル先生”の冒険を描いている。

※2 アーサー・ランサム
『ツバメ号とアマゾン号』に始まる“ランサム・サーガ”で知られるイギリスの作家。ランサム・サーガの諸作では、ヨットなどの船を中心に据えた、少年少女の冒険物語が描かれる。

※3『ナルニア国物語』
C・S・ルイスによるファンタジー小説シリーズ。20世紀のイギリスと、異世界ナルニアを行き来する少年少女の活躍を描いている。

※4『指輪物語』
J・R・R・トールキンによる長編ファンタジー小説。冥王サウロン率いる闇の軍勢と、ホビットやエルフ、人間といった多種多様な種族が壮大な戦いを繰り広げる物語は、アナログゲームやコンピュータゲームにも多大な影響を与えている。

 そういえば、いちばん最初の原点は、子どものころに読んでいた絵本でしょうか。その中でいちばん気になっていたのが、エジプト神話の絵本だったので。オシリスがバラバラにされて川を流れていきました【※】、みたいなものを読んでいたので。

※オシリスがバラバラにされて川を流れていきました
古代エジプト神話では、エジプトの王でもあるオシリス神が兄弟のセトに暗殺されて、バラバラにされた遺体はナイル川に投げ込まれる。後にオシリスはミイラとして復活し、冥界の王となる。

――それはなんとなく、『レイジングループ』にも通じる内容ですよね。

amphibian氏:
 その意味で言うと、今の作品のベースになっているのは、大学で生物学をやっていたというのがかなり大きくて。カエルの解剖とか、イモリをバラバラにしたりとか、そういうことをやっていて。それもあって、amphibian(両生類)っていうペンネームにしているんですけど。

――あっ! 『レイジングループ』のグロテスクな描写が妙に緻密なのは、そのためなんですね! 

amphibian氏:
 グロテスクな描写に活きているのもありますし、それだけでなく死生観であるとか、ロジックに対する向き合い方といったものは、大学で論文を書いたり、論争をしたりといったところも下敷きになっているんだろうなと。

 もうちょっと、そのへんの知識を活かした作品を書ければいいんですけど、たぶんそれは、より間口の狭い物になってしまうので。

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『レイジングループ』で登場する猟奇的なシーンでは、直接的な描写こそないが、かなり緻密にその情景が描かれ、プレイヤーの想像力を刺激する。
(画面はPS Vita版です)

――なるほど。では、ケムコさんに就職されたきっかけは? 

amphibian氏:
 就職活動の時にどうしようかなと思っていたら、大学の前にケムコの会社があって。「ケムコって、『シャドウゲイト』【※】か!?」と(笑)。

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※『シャドウゲイト』
1989年にファミコンで発売されたアドベンチャーゲーム。主人公の勇者が魔王ワーロックを倒すため、シャドウゲイト城の内部を探索する。もともとはMacintosh用ソフトとして海外で発売されたが、日本語ローカライズの際にゲーム中のテキストを主人公の一人称に変更したため、独特のシュールな言い回しになっている。

――やっぱりそこなんですね(笑)。

amphibian氏:
 ちなみに、3DSのバーチャルコンソールで『シャドウゲイト』が配信されてますけど、そのCEROの審査を申請したりといった手続きは、私がやりました(笑)。

――入社された直後は、どんなお仕事を? 

amphibian氏:
 会社の上の者も、生物学を学んでいた自分をどう使っていいのか、よくわからなかったみたいで、最初の頃はサーバー管理とかデバッグとか、そういう仕事をやっていました。

――とりあえず理系っぽいものを、ということですか。

amphibian氏:
 そうですね。だからアドベンチャーというか、お話を書くこと自体はやりたかったんですけど、入社した当時はそんなことができるとは、まったく思っていませんでしたね。

 チャンスになったのが、フィーチャーフォンで作った『鈍色のバタフライ』というアドベンチャーゲームです。これはもともと社内ではなくて、開発会社さんのほうから出てきた企画なんですが、その時に私が「これって人狼ゲーム【※1】を基にしてるんですね」って言ったんです。『ウルティマオンライン』の中で人狼ゲームがプレイされていた【※2】ということを、たまたま知っていたものですから。

※1 人狼ゲーム
人狼と村人の戦いを題材にしたアナログゲーム。プレイヤーは村人と、村人に化けた人狼のいずれかになり、与えられた役職の能力に従って参加者の正体を探っていく。全ての人狼を処刑できれば村人の勝ち、生き残っている人狼と同数まで村人を減らせば人狼の勝ちとなる。

※2『ウルティマオンライン』の中で人狼ゲームがプレイされていた
人狼ゲームは参加者が直接集まってプレイする以外に、インターネットのチャットやオンラインゲーム上でもプレイされることがある。なかでも『ウルティマオンライン』では、ゲーム内で公式にサポートされていた。

 それで「わかるんならやってよ」っていう感じで、最初はディレクターの下の手伝いみたいな形で入ったんですけど、いつのまにか文章自体を書くことになって。それが初めての、シナリオライターとしての仕事でした。入社2年目ぐらいのことですね。

 それが世に出たら、意外と受け入れていただいたので、じゃあ次は自社でやってみようかということで作られたのが、フィーチャーフォンの『トガビトノセンリツ』です。これは企画の段階から、自分がやらせていただきました。

――では、これまでにシナリオを執筆された作品は? 

amphibian氏:
 シナリオでは、『鈍色のバタフライ』『トガビトノセンリツ』『D.M.L.C.-デスマッチラブコメ-』『レイジングループ』の4作品ですね。そのうち企画も自分で手がけたのは、『鈍色のバタフライ』を除く3作品ですが。これ以外に、サブライターとして手伝わせてもらった『黒の令達(コマンドメント)』という作品があります。

各種の作品は、こちらのページで確認できる。なかなかの更新頻度で、作品の裏事情などがいろいろ語られており、野吹氏もamphibianとして発信している。

デスゲーム物というジャンルは、たまたまかぶってしまったんです

――amphibianさんは、現在のアドベンチャーゲームの状況について、どのように考えているのでしょうか? 

amphibian氏:
 最初に冷や水をぶっかけるようで申し訳ないんですけど、さっきもお話ししたように、自分自身ではそんなにアドベンチャーゲームはやらないんですよ。

 だからアドベンチャーというゲームジャンルというよりは、どちらかというともっと広く、物語という枠で捉えていて。そこに対して思い入れを持ってやっているつもりです。物語というのはいつの時代でも普遍性のあるジャンルなので、ノベルゲーの最近の流行とか、そういったことはあまり関係がないと思います。

 どんなものでも根幹にあるのは物語であり、魅力的な登場人物だと思っているので、そこさえしっかり押さえていれば、トレンドなんかあんまり関係なくやっていけるだろう、と。正直言って、そういった流れとはまったく関係なく動いているところもありますし、むしろそうしたトレンドと、できる限りかぶらないようなものを出すべきだと思っている面もあるので。

 そうしたジャンルのトレンドよりは、ケムコのアドベンチャー……と言ってしまうと、昔の『シャドウゲイト』あたりと混ざってしまってややこしいので(笑)、“ノベルアドベンチャー”と呼んでいるんですけど。ケムコのノベルアドベンチャーという流れを、自分たちがしっかりとリードして作っていかねばということを、強く意識しています。

――とはいえ、これまでの作品を見ていると、いわゆる“デスゲーム物”の流行を採り入れているようにも思えるのですが? 

amphibian氏:
 デスゲームに関しては、たまたまかぶってしまったというのが大きいですね。そもそも最初は、開発会社さんからいただいた企画だったので。

 『鈍色のバタフライ』や『トカビトノセンリツ』を作っている最中に、『ダンガンロンパ』【※1】が発売されたり、『インシテミル』【※2】の映画が公開されたりして、「かぶった〜!」って思っていました。まぁ、結果的に時流と合ったことが、良かったのかもしれないですけど。

※1『ダンガンロンパ』
正式タイトルは『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』。2010年にスパイクチュンソフトから発売された。超高校級の生徒たちが、次々と発生する殺人事件を“学級裁判”で解決する、ハイスピード推理アクションゲーム。
(画像はダンガンロンパプロジェクト 2016 公式サイトより)

 

※2『インシテミル
米澤穂信氏による推理小説。超高額の時給で集められた12人の男女が、より多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームに挑むことになる。この小説を原作とした映画『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』も、2010年に公開された。

――では、自分たちのゲームならではの特徴というかウリとして、たとえばシステム面を意識したりということは? 

amphibian氏:
 システム面で言うと、アクションパートだとか調査パートだとか、そういったものをやろうとしたんですけど、ダメだったんです。『D.M.L.C.』を作った時に、カードゲーム的にヒロインの好感度を低く保ちながら、いろんなところを探索してパズルを組み合わせて、みたいなことを考えていたんですけど、まったく仕様がまとまらなくて。

 がんばればまとまったのかもしれないですけど、それをプログラミング的にゲームに落とし込めるっていう目算が立たなかったんですよ。開発チームの体力的に、かなりの人数が必要だろうということで。

 できないのであれば、完全に物語にしてしまうべきだということで、私自身がシステム面でチャレンジすることは、現在の制作体制ではもう諦めています。私ではなくチームの別の者が、もっとゲームチックな要素を採り入れたアドベンチャーを試みていますけど。

――ではシステム面以外で、スマホ市場の動向を意識することは? 

amphibian氏:
 物語の範疇で、スマホ市場を意識することはありますね。たとえば、男性向けや女性向けに特化したものは、今のスマホ市場で出してはいけないと思っています

――それはどうしてですか? 

amphibian氏:
 そもそもスマホ市場におけるアドベンチャーって、まだジャンルとしてぜんぜん育っていないと思うんですよ。タブレットも普及してきて、個人的にはアドベンチャーは今後、モバイル市場にどんどんとシフトしていくだろうと思っていたんですけど、ぜんぜんそんなことはなくて。

 1つにはスマホストアの、このジャンルに対する非親和性ですよね。ちょっと過激な表現をすると配信できないですし、海外のパブリッシャーさんは、こういったジャンルに対してあまり理解がないので。……最近は徐々に、パブリッシャーさんからも評価をいただいているんですけども。

 あとは、どうやらアドベンチャーゲームを作る側も、プレイするユーザーさんの側も意外と保守的で、モバイルで作るよりはずっとPCで作っていこうとか、PS Vitaで作っていこうとか、ずっとそんな感じなのかなと。そういった状況の中でスマホでアドベンチャーゲームを作って、さらに男性向け、女性向けとターゲットを絞っても、それで売れるということはないと、今は思っています。

――実際のところ、ケムコさんのアドベンチャーの男女比はいかがですか? 

amphibian氏:
 『D.M.L.C.』は非常にギャルゲーチックな見た目なので、アンケートによる男女比は、男性5:女性1ぐらいの割合なんですよ。『レイジングループ』に関して言えば、男女比はほぼ拮抗しています。基本的にウチのゲームは、草の根的な口コミで広がっていると思うのですが、なかでも女性ユーザーさんの拡散力はかなり大きいですね。

黒木氏:
 女性ユーザーさんの中には、キャラのコスプレをしてくれる人もいますから。

amphibian氏:
 女性は気に入ったコンテンツをすぐコスプレしてくれますし、「とにかくおもしろいのでやってみて」という形で、すぐ発信してくださるんです。一方で男性は、ゲームに一家言のある方たちがガッツリとレビューを書いてくれて、そこから広めてくださる方が多いと思います。

 そのどちらも狙っていかないとダメだなということで、男性向け、女性向け、オタク向け、一般向けといった枠組みで縛ることなく、全方向でカバーするようなネタを出していこうと、非常に気を遣っていますね。

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