『レイジングループ』では、自分の考える“人狼ゲーム”の本質を描いたつもりです
――『レイジングループ』の企画が生まれた経緯は?
amphibian氏:
『レイジングループ』は、ウチの中ではいちばんトレンド的なものを意識したタイトルです。この中では“人狼ゲーム”が大きくフィーチャーされているんですけど、その理由の1つは内部的事情で、これまで人狼的な要素のあるゲームを作ってきていたので、そのまとめとして、そろそろ人狼ゲームそのものに対してきちんと向き合うべきだろう、というのがありました。
もう1つは、社内で数字やトレンドに詳しい者から、「今なら人狼コミュニティもしっかり育っているので、そのコミュニティの人たちが反応できる作品をやるべきだ」と言われて。じゃあ、やってみよう。その代わり自分の趣味全開で、和風ホラーにしてみようと。
――リリース後に、人狼コミュニティからの反応は?
amphibian氏:
人狼コミュニティの方たちにものすごく支持されているかというと、それはまだまだだと思うんですけど。でも、人狼ファンの方がTwitterなどで『レイジングループ』を知って、そこから作品に触れてもらえることもありましたし、人狼イベントの主催者の方から「やってみたらおもしろかった」という声を頂いたりもしていますね。
――なるほど。ただ、これは私個人の感想なのですが、実際に『レイジングループ』をプレイしてみたら、いわゆる人狼ゲームとは、微妙に異なるところもある気がするのですが?
amphibian氏:
ユーザーさんからも、けっこう言われているのですが……。それは逆に、みなさんが思っている人狼ゲームと、私が考えている人狼ゲームとの間に、乖離があるのかもしれないですね。自分自身では、『レイジングループ』の中で描いているものこそが、人狼ゲームの本質だと思って書いているので。
――というと?
amphibian氏:
私自身は、人狼ゲームの熱心なプレイヤーというわけでもなくて、どちらかといえば弱いんですけど(笑)、人狼はコミュニケーションのゲームであり、なおかつ試行錯誤のゲームだと思っているんですね。何回も繰り返しプレイして、今回はこういう戦術が上手くいったとか、今回は定石の通用しない事態が起きたとか、そういったところがおもしろいゲームだと思うんです。人狼を見つけることがおもしろいわけではなくて、どちらかというと方法論であるとか、コミュニケーションの部分が重要で。
『レイジングループ』では、ループを繰り返して人狼が誰なのかわかってしまうのは、おもしろくないんじゃないかと言われています。これはミステリーの文脈でも同じで、ループを繰り返して犯人が分かってしまうのは、ミステリーとしてダメなんじゃないかとも言われるんですけど。
でも、先ほどお話しした、私の考える人狼ゲームの本質からすれば、人狼を何回もプレイして反省点を得ながら、次はもっと上手くプレイしようとする部分が、ループシステムと非常に合致すると考えたんです。もっと言うと、一貫したストーリーで人狼ゲームを描くためには、何回もプレイしなければいけない以上、ループにせざるを得ないんですよ。
――なるほど。『レイジングループ』をプレイしていると、その意味は非常によくわかります。
amphibian氏:
それから、これは人狼ゲームの本質というよりは、実際のプレイでよくあることなんですけど、表に出てきている情報だけを純粋に判断するというよりは、プレイヤーの人格を見て判断するというのも、特にオフラインで知り合い同士でプレイしている時には、よく発生するんですよ。
「いつもより多くしゃべるから殺そう」とか、「ふだんから信用がないから殺そう」とか(笑)。そういう“人狼あるある”じゃないですけど、人狼ゲームを実際にプレイした人が経験しているような、人狼ゲームのリアルを目指そう、ということも考えています。
――そうした人狼ゲーム特有の雰囲気と、物語の中のキャラクター描写が巧みにリンクしているのは、『レイジングループ』の醍醐味のひとつですよね。
amphibian氏:
あと、『レイジングループ』が人狼ゲームではないと言われるもう1つの理由として、主人公の目的が人狼ゲームに勝つことではない、という点があります。
主人公は最終的に、ループを抜けることを目的としていて、その過程が人狼ゲームと、あまり関係がないと言えば関係ないんです。そのため、「人狼パートはおもしろかったけど、そこが終わってお話を畳みに入ってからは、ジャンルが変わったよね」という感想をもらうこともあります。
ただ個人的には、ループが発生している最大の謎みたいなものに迫るところは、広義のミステリーというか、謎に向かって走っていくというところで、エンターテインメントの基本的な手法だと考えています。
これは大学時代に文芸サークルで学んだことなんですけど、エンターテインメントのお約束として、キャラクターをちゃんと立たせて、劇的な決断をさせて、謎を追いかけていく。自分としては、それを盛り込んで作っているお話だと思っています。
――『レイジングループ』には、amphibianさんの過去の作品とリンクしている部分もありますが?
amphibian氏:
その要素を入れたのはファンサービスのつもりだったんですが、『レイジングループ』としては、ちょっと失敗したかなぁと。
――というと?
amphibian氏:
そこまで重要じゃないところで、わかる人だけが楽しんでもらえればいいかな、というつもりだったんですけど、そここそが核心だろうと思われた方が多かったみたいなんです。
そこが理解できなかったり、過去作を知らなくてうまくつながらなかった方は、けっこう不満に思われてしまったんじゃないかなと。自分自身では、この設定にこだわっているということは、あんまりなくて。
じつを言うと、最初は『D.M.L.C.』の続きを書こうと思っていたんですが、そこで「人狼ゲームをやるべきだ」という話が出てきたので。だから、『D.M.L.C.』の続きを期待していた人はガッカリしただろうなと思って、その中のキャラクターの生い立ちが分かるようにしてみたんですけど……。
――なるほど、そうなんですね。あとメインストーリーのクリア後には、主人公視点では知り得ないキャラクターの会話や心境が明らかになる“暴露モード”がオープンになりますよね。これは最初に本編と一緒に書いてから、あとで抜く感じなのでしょうか?
amphibian氏:
いえ、本編を全部書き終わって、後から書き足しています。これまでの作品でも、隠しモードや裏モードという形で同様のことをやっているんですけど、書く側にとっては正直、非常にツラいシステムなんですよ。
――でも、クリアしたファンの皆さんには好評ですよね。
amphibian氏:
みんなが求めているんですけど、でも、これを考えたのは私じゃないんですよ。『鈍色のバタフライ』の時に、この作品のディレクターだった“ディレT”が、手軽に作れて美味しいシステムとして、これを考えたんです。書き手の私としては、かなり否定的で。
なぜ否定的かというと、それで表現できることって結局、たいしたことではないんじゃないかと思うんです。キャラクターの裏の心がわかったところで、話の本筋に影響するわけではないし、逆に本筋に影響するような作りにするのは、相当に難しいんですよ。
ユーザーさんとしては、それでも嬉しいと言ってもらえているので、裏を読むことで完結する作りにしてみたり、いろいろ工夫して今の感じになってるんですけど。……とはいえ、書くのはすごく大変なんですよね(笑)。
次回作では、デスゲームとは違うものを書きたいですね
――『レイジングループ』では、ケムコさんのノベルアドベンチャーでは初めて、キャラクターボイスと主題歌が収録されていますが?
amphibian氏:
自分自身がアドベンチャーゲームをプレイする際は、文章主体で読むタイプなので、ボイスをけっこう飛ばしたりしてたんです(笑)。いざ自分のゲームにボイスが入ったら、やっぱり表現力は高いなと思いましたね。ユーザーさんのほうでも、「ボイスがあるならやってみよう」という方が、けっこう多かったですし。
――ボイスの収録期間は?
amphibian氏:
スマホ版では、全体の約1/3のセリフにボイスをつけていたんですけど、それでも1カ月ぐらいかかりました。PS Vita版の追加で、さらに2〜3カ月かかった感じですね。
音声の収録が、広島で作業するいちばんのディスアドバンテージでしたね。1、2回は東京での収録に立ち会えるんですけど、大半は収録後にデータ化してもらったものを広島で監修するという形になって。そうするとやっぱり伝わりきらないものがあるので、ニュアンス違いや読み間違いの部分をまた戻して録り直してもらうというのを、モノによっては数回繰り返してしまったんです。
さらに、収録したボイスデータの管理も自分たちでやるしかなかったので、最初のうちは重複がやたらと発生したりもしました。こうした点に関しては、今後の課題ですね。今回はボイス収録自体が、初めての経験だったので。
――PS Vita版のキャストも、スマホ版から変更されてはいないのですか?
amphibian氏:
はい。じつはスマホ版のあと、別の事務所に移られた声優さんもいるんですけど、そういった方も全員、再結集してくださいました。
黒木氏:
声優さんのほうも「ぜひ出たいです」と言ってくださって。
amphibian氏:
ボイスに限らず、そういった人のつながりで支えられている面は大きいですね。
黒木氏:
イラストのほうも、同じ広島の方なんですけど、今までのウチのゲームをたまたまやってくださっていた方が、仲介に立ってくださったんです。
amphibian氏:
イラストマネジメントのカワサキマミさんは、広島で“コスカレード”っていうコスプレイベントを主催されている方なんです。
じつはカワサキさんが、『トガビトノセンリツ』の向島七緒というキャラクターをかなり気に入ってくれていて、ご自身でコスプレしてくださっていたんです。それがご縁になって、SNSで仲良くなって、そこから地元のイラストレーターさんと結びつけていただいたという形ですね。
あと、音楽を担当している乃々都さんは、有名なゲームの音楽を多数手がけているベテランの作曲家さんなんですけど、さっき出てきた弊社の“ディレT”が個人的なファンで、『トガビト』の時に突撃してお願いして以来、ずっと音楽を担当してくださっているんです。
最初にお話ししたように、近くに同業他社がまったくいないので、ゲーム業界の中でのつながりや、シナリオライター同士のつながりというのが、まったくないんですよ。だからそのぶん、個人同士のつながりに助けられていることが、ずいぶんありますね。
――現在はゲームの実況動画が人気ですが、『レイジングループ』のようなアドベンチャーゲームの実況については、どのように考えていますか?
amphibian氏:
楽しんで遊んでいる姿を拡散してもらえるというのは、ありがたいことだと思っているんですよ。ただ、アドベンチャーゲームの場合はあくまで物語ですから、最後まで全部実況されてしまうと、それはそれで困ってしまいます。
そこでウチの場合は作品ごとに、“ここまでは実況していいですよ”というガイドラインを用意しています。『レイジングループ』の場合は、“実況はここまでにしてね”という表示が出てくる機能もありますから。
こちらで決めた範囲をご理解いただいて、その範囲内でやっていただくぶんには何の問題もないですし、むしろありがたいと思っています。実況主さんのほうも、ガイドラインをご理解いただいた上で、「続きもおもしろいからぜひ買ってね」と言ってくださる方もいるので、たぶんいい関係は築けているのかな、と思っています。
――では最後に、amphibianさんの次回作についてお聞かせください。
amphibian氏:
企画自体は頭の中にあるんですけど、実際にはまだぜんぜん動けていないですね。『レイジングループ』の移植がようやく形になって、あともう1本、RPGのほうで死にそうになっているので、そちらが落ち着いてからでないと……というところです。
次にアドベンチャーを書くとなると、今までとはまた違うものになると思います。今はデスゲームライターみたいな評価になってしまっているので、個人的にはもっといろんなものを書けるというところを見せていきたいので。
できれば常に、ユーザーさんの想像を超えるものを書いていくというのが理想です。でも現実には、ビジネスマンとして求められるものと、書き手としての矜持みたいなものを、どこで折り合いをつけていくかというのが、ずっとこれからの課題になるんだろうな、と思っています。
アドベンチャーゲーム、特にノベルゲームというジャンルは、数あるゲームジャンルの中でもやや特殊なものだ。そこでは「物語を語る」という目的を達成するために、ビジュアル、テキスト、サウンド、ゲームシステムといった各要素が、極限まで絞り込まれている。アクションゲームやRPGがハードの進化に合わせて、ビジュアルもゲームシステムもより豪華になっていくのとは対称的だ。
物語を語ることに特化したノベルゲームは、少人数でも開発可能だ。PCの美少女ゲームや同人ゲームから、ノベルゲームの大ヒット作が生まれたことを記憶している人は多いだろう。そしてノベルゲームは、作り手の個性が通常のゲーム以上に反映されやすい。なかでも物語そのものを担っているシナリオライターの個性は、完成したゲームと不可分の関係と言えるほどに重要だ。
これまでにも、ノベルゲームのシナリオから小説へ、そしてアニメの脚本へと、数多くの才能豊かな人々が、活躍の場を広げてきた。『レイジングループ』のamphibian氏が、ノベルゲームのネクスト・ウェーブとしてそうした才能に続くことになるのか、それともゲームの世界でなおいっそう活躍することになるのか、今後の展開にぜひ注目していきたい。
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