3月18日、アクアシティお台場にあるソニーの体験型科学館「ソニー・エクスプローラサイエンス」にて、“プレイステーション分解ワークショップ~モノのしくみをしろう~”が開催された。
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対象は小学3年生から中学3年生の子どもたち。参加者が大人と一組になってPlayStation 2(以下、PS2)を分解し、“分解博士”を筆頭としたソニーグループのエンジニアの指導のもと、ハードウェアの仕組みや工具の使い方を学んでいくというもの。
同イベントは2月20日に開催が告知。「ソニー・エクスプローラサイエンス」では分解ワークショップを以前から開催してきたものの、今回は「ソニー公認でPS2を分解できる」という“特例”が注目を浴び、ITmedia Newsの報じたニュースは純粋な告知でありながらも900リツイートを達成するなど話題を呼んだ。
その前評判を裏切らず、イベントは特にハードウェアに詳しいわけではない大人たちでも大騒ぎするような、驚きと意義に満ちた内容だった。
たとえばPS2はなんと最終型番(SCPH-90000)の完全動作品であり、作業前に開封してわざわざ動作確認をした上で、手順も教えられず各々が自由に分解を進めていくのである。
現在生産されておらず、比較的高値で取り引きされているものを自分勝手に分解するのは、公認とはいえなんだか悪いことをしている気分になる。
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おそらくこのイベントにインターネット上で反応を示した多くのユーザーは大人たちで、対象年齢になぜ自分が入っていないんだと歯がゆい思いをしたかもしれない。
本稿では、特別に許可をもらい子ども役としてPS2を実際に分解できた編集スタッフとライターのやり取りを追体験しつつ、イベント内容を写真解説とともに振り返っていきたい。記事を見て興味を持った親御さんたちは、ぜひ次回以降の分解ワークショップへと子どもを連れて参加してみてほしい。
取材・文(大人役)/Nobuhiko Nakanishi
取材・編集(子ども役)/ishigenn
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身近にあったPlayStation 2を自由に分解
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そういえば、そもそもPS2にどんな印象を抱いてますか?
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特別なものという感じではなくて、“身近にあったゲーム機”という印象が強いですね。当時はみんな持っていたじゃないですか。
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僕の印象は“何台も買ったゲーム機”ですね。自分用だけではなくて、親にも買いましたよ。あと、家ではまだ現役のハードなんです。半年前くらいから『クーロンズゲート』【※】が入りっぱなしになっている。
※クーロンズゲート
ソニー・ミュージックエンタテインメントが1997年に初代PlayStation(以下、PS)でリリースした一人称視点のアドベンチャーゲーム。上位互換性を有するPS2は初代PSのほとんどのゲームソフトに対応しており、ゲーム機としては非常に画期的だった。
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あと、「もう初代PSはレトロハード区分のゲーム機」という話はよく聞くけど、PS2はまだそこまでいってない印象ですよね。
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現役じゃないですか。
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生産終了したとはいえ、流通はしていますしね。だから今回のイベントはインパクトがある。初代PSではなく、PS2のジャンク品でもない。
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SCPH-90000は最終型番で、しかも未開封の新品。家のPS2はSCPH-75000【※】なので、正直欲しいぐらいでしたね。素晴らしく贅沢。
※SCPH-75000
初めて薄型化されたPS2、いわゆる“薄型PS2”であるSCPH-70000系のひとつ。SCPH-70000系はACアダプターが付属する唯一のPS2でもあり、今回分解した後継のSCPH-90000では電源ユニットは内蔵型になっている。
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僕も最終型番は買わなかったので、触るのは初めてですね。しかし、箱から取り出す段階からスタートするのはすごいなあ。新品開封の儀から即分解というのがなんというか、マッチポンプ的な味わいがある。
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確かに。
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PS2の最終型番とコントローラー、こんなに軽かったんだなあ。やっぱり、第8世代家庭用ゲーム機【※】と比較すると、そりゃ軽いですよね。それにPlayStationのロゴエンブレム(正式名称はPlayStation family mark)とか、コントローラーの差し込み口がUSBではないとか、なんかいいなあ。アナログなおもちゃ感というか。このツヤもいい……。
※第8世代
2013年に発売されたPlayStation 4などと同時期に発売された家庭用ゲーム機のこと。PS2は第6世代、現在から2世代前に当たる。
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手が映り込むぐらいですね。自宅のSCHP-75000にはツヤがないんですよね。
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細かい部分なんですけど、このハード側面のギザギザの意匠とか、ディスクトレイの蓋が上開きで開く懐かしさとかもトキめく。プレミアム感ある。
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分解の一歩目でつまずいてたんですが、分解博士によるとここのシールを剥がすと裏面に最後のネジがあるんだとか。「え、すごい!」と子どもみたいに驚いちゃった。
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しかし、シールを剥がせば簡単にドライバーでネジが取れて外装を外せるんですね。もうちょっと複雑にできてるんじゃないかと思っていました。
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中身もとてもシンプルでわかりやすい構造ですよ。なにがどこでどう動いているのか、一見すればだいたいわかりそうになる。
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普段からPCをいじったりするって聞きましたけど、そういう観点からはどうですか?
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たまにパーツを交換する程度ですが、個人的な感想としてとっても簡潔で綺麗ですよね。雑な性格なので自分のPCなんて中身はぐちゃぐちゃなんですけど、この薄型の外装にぴたっと無駄なくはめ込まれてるパーツと配線。完璧に整理整頓されていて、なんだか一種の色気を感じますよね。
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なるほど。
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一番最初に電源ユニットを外したんですけど、これもひとまとめになっている感じがいい。持って帰りたい。
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たぶん、子どもは電源ユニットを持ち帰ろうとしない。
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あとさっき教えてもらった、PlayStationのマーク(エンブレム)が回転するのは、勉強不足でまったく知らなかった。そのためにバネなんかが組み込まれている。
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コントローラー、実は分解すると左右でバイブレーションの構造が違う。これも分解博士が教えてくれたんですが、独特な振動を生みだすために、あえてこうしているらしいです。
あとはボタンの入れ込みを間違えないように形状を4つそれぞれ変えていたり、ボタンのマークは表面に書かれているのではなくて裏から色が付いた素材を流し込んでいたり(これは摩擦によってマークが消えないようにするため)。中にある白いフレームもすごくて、完全にネジで内部のパーツを止めず、フレームで衝撃を受け止めるようになっている。
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手荒く扱っても壊れないようにということでしたね。
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僕は手荒く使わなかったですけどね。ともかく、分解すればするほど技術の結晶という感じがしました。
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ゲーム機本体もコントローラーも、合理主義を究めたらこうなっていったという感じがありますよね。最終型番ならでは。
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たとえばPlayStation 3の初期型番にあった高級感とは逆のような。
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必要ない部分を削りに削る、F1マシンのような合理化。
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F1のような高級機というよりは、その合理的な技術を大衆向けに提供した、ホンダのバイク、カブのような。
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ともかく、日本的というか、外車ではなくて国産車っぽさを感じますよね。合理化の果てに出てくる美しさがありました。色気すら感じる。こういう感覚は、おじさんならではですよね。
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今回、子どもたちと並んで分解できましたけど、お子さんたちはどう思っていたのでしょうね。
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自分たちと同じぐらいの年齢の家庭用ゲーム機、それを分解するってどうなのでしょうね。
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もしかしたら、ディスクトレイすら見たことがないお子さんも多いんじゃないですかね。いまはCDやDVDではなく、ダウンロードが主流の時代ですもん。
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光学の物理メディアに触れること自体が、いますごく少ないですよね。
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僕がカセットテープのMSX【※】を分解するようなものかもしれない。
※MSX
1983年に発表されたマイクロソフトとアスキーによるパソコン規格。ROMカートリッジのほか、カセットテープも記憶媒体として使用できた。
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お子さんたちよりもはしゃいでいた気がしますが、すごく楽しいイベントでした。いまはスマートフォン一台でなんでも済んでしまう時代。音楽や映像、それこそゲームを楽しむために専用機を買う必要は必ずしもなくて、ハードウェアに触れる機会は子どもたちにとって減っている気がしますよね。そういったエンジニアリングの機会を提供するという意味で、有意義なイベントではあったのではないかと思います。
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ソニー・エクスプローラサイエンス館長の速見氏はイベント後、なぜ組み立てではなく分解なのかという問いに対し、「ものの仕組みを知るためには“組み立て”でも十分だが、逆に分解していくことには、探していくという面白みがあるのではないか」とのコメントを残した。
自由にPS2の中身を調べられるこのイベントは、まさしく普段は味わえない“分解する”楽しさを──かつてソニー創業者が時計を分解したように──体験できる内容だったといえるだろう。
イベント本来の意向ではないものの、大人たちにとってもPS2の設計思想が垣間見ることができた。その行為がとても楽しかったのは、ハードウェアに関する知識はけっして深くない「子ども役(30代、既婚)」のおじさんが大はしゃぎしたことからもわかるのではないだろうか。
「破壊は破って壊す、分解は分けて解る」とはこのイベント中に分解博士が語った発言。今後も分解ワークショップは続く予定とのことで、PS2やゲームハードではなく、知育教育であることを差し引いても、行くことに意義と価値のあるイベントであることは伝えておきたい。
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