読者の皆さんは、画面分割(英語でSplit Screen)対応のゲームをプレイしたことがあるだろうか?
この機能は、プレイヤーが個別の視点を持つ協力&対戦型ゲームをひとつのテレビやディスプレイで遊べるよう、画面領域を分割してそれぞれに割り当てるというものだ。
昨年発売された『Call of Duty: World War II』など、画面分割に対応している新作タイトルはまだあるものの、近年はゲームを日常的にプレイしていてもなかなか目にすることはなくなった画面分割。
オンラインマルチプレイが当たり前になった現在、開発されるゲームが“ひとりが占有する画面のゲームプレイ”に照準を向けるようになったのは当然であり、それは誰もが疑うことなく進んできた時代の流れである。
だが、あえてその流れに逆らい、画面分割をメインのギミックとして搭載したゲームがある。今年3月末に発売されて海外で好評を集めた協力型3Dアクションアドベンチャーゲーム『A WAY OUT』だ。
開発を指揮したジョセフ・ファレル氏は、2013年に発売された『ブラザーズ 2人の息子の物語』の開発にも参加。同作では左右のスティック操作でそれぞれ別のキャラクターを動かすという斬新なギミックを用いた。
そんな氏の二作目となる『A WAY OUT』は、「ふたりのキャラクターをひとりのプレイヤーが動かす」という独自のルールから解放され、「ふたりのキャラクターをふたりのプレイヤーが動かす」という、一見当たり前なルールに変更されている。
しかし本作は、ゲームをプレイするためにふたりのプレイヤーが必要で、片方のキャラクターをAI操作に任せることはできない。つまり「ひとりでゲームはプレイできない」という縛り付き。ある一定のゲームプレイヤー層には、非常に高い壁となるプレイ条件だろう。
だが、その壁を一旦乗り越えてしまえば、『A WAY OUT』ではユニークかつ魅力にあふれた体験が約束されている。本稿では、発売されたばかりの『A WAY OUT』が、いったいどのように画面分割を現代的な3Dアクションアドベンチャーゲームに組み込んだのかに迫る。
文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn
本作のメインキャラクターであり、刑務所からの脱獄と復讐を目指すビンセントとレオ。どちらかといえば常人的な思考回路を持つビンセントと、乱暴かつ奇抜な感性で動くレオのふたりは、脱獄と逃亡生活を経て徐々に互いの心の内を覗くことになる。
ふたりの“相棒・バディ感”を表現するために大きな役割を果たしているのが、画面分割の斬新な活用方法だ。
本作では、ほぼすべてのシーンにてビンセント視点とレオ視点の画面分割でのプレイが採用されている。もちろん、それはローカルマルチプレイに限ったことではなく、オンラインマルチプレイにおいても同じだ。
前述したように、画面分割によるマルチプレイが、ローカルプレイでも非常に限られた範囲でしか採用されていない昨今のゲーム制作の常識の中で、これは稀有な選択肢だ。
ただし本作でもっとも重要となるのは、この古めかしい画面分割が単に突飛な思いつきで最新作に組み込まれているのではなく、協力プレイ必須のゲームプレイの中でどう妥当性を待つのかという点になる。
『A WAY OUT』では、いかに画面分割を妥当なギミックとしてゲームプレイに組み込み、さらに相棒・バディ感を生みだすことに成功しているのだろうか?
たとえばゲーム内では、ふたりがそれぞれの独房に脱出口を作るシーンがある。片方はその作業をしている一方で、もう片方は看守の動きを警戒するという場面だ。
脱出口を作っているあいだ、そのプレイヤーは鉄格子の外の状況を確認できない。そのため、見張りをしているプレイヤーは、何らかの方法で作業しているプレイヤーに看守の接近を知らせなければならない。
もしこれが別の作品であれば、ゲーム内で音を出して看守の接近を伝えるといった方法をとることになるのだろうが、本作では分割された相手の画面を見るだけでそれが伝わる。
これはこのシーンに限ったことではなく、ゲーム内ではほとんどのシーンでもう片方のプレイヤーが「何を見ているか」、「何をしているか」が、隣りの画面を見れば簡単にわかるのだ。
隣りのプレイヤーの操作画面を見るという原始的なギミックは、非常にゲーム的な仕様である。このアナログ感は、画面分割を備える『A WAY OUT』ならではである。
一方で本来、ゲーム内で別の操作キャラクターの行動が全部見えてしまうことは“リアル”ではない。“リアル感”の表現が現代ゲームにおけるひとつの到達指標だとするならば、むしろ本作はそこからは遠い。
だが、本作における画面分割は、画面構成を使った映画的演出としての臨場感を高める装置でもあり、決して古びたギミックを付け加えたからといった退化しているわけではない。
脱出口を作る先ほどのシーンの例で言えば、独房で作業中に看守の動きを見ているのは他のプレイヤーだ。だが、他のプレイヤーはその役割を果たそうとするなかで、はからずも作業を進めるプレイヤーの“眼”の役割を同時に担っている。
つまり、本作のゲームプレイの中で分割された画面は、そのまま左右の“眼”になっているのだ。片方は自由になる“眼”であり、もう片方は自分の思うようには動かない“眼”。
そのある種のままならなさは、『A WAY OUT』の持つ魅力であり、開発者が想定して組み込んだ設計理念のひとつなのかもしれない。
そして相手が体験している事を同時に経験し、また自分の経験していることを相手も同時に経験している。そのことがゲーム全体にもたらしている効果は、ゲームプレイだけに留まらない。
時に違う角度から同じものを見ることにより、ゲーム画面そのものに奥行きを感じさせ、時にお互いのキャラクターへの感情移入を促進させる。
“相棒・バディモノ”として、『A WAY OUT』では相互に対する信頼や親愛が画面分割によってより深く醸成され、そのことが全体のストーリーテリングを想像以上に濃密なものにすることに成功している。
同作はビデオゲームの技術的進化の中で必要に迫られて使用されてきた「画面分割」というギミックを逆手に取り、むしろそれを積極的に駆使することによって「表現手法」に昇華させている野心に満ちた作品と呼べるだろう。
リニアなゲーム性の中でふたりのプレイヤーが一体何を話し、何を感じるかをしっかりと想像し想定した上の計算に基づいて作られている。「2人プレイ」専用のコンセプトの名に恥じない内容だ。
ゲームの最終局面、プレイヤーたちは「分割画面」、「同じものを見ている」という意味を鋭く突きつけられることになる。
個人的に、本作はなるべく仲の良い友達と遊んでほしい。そのふたりにある“絆”の意味を、あらためて考えさせるきっかけになるかもしれないと思う。
残念ながら現時点では英語版のみとなっているが、作中のセリフにおける英語は日常会話レベルを超えない。壁は高いかもしれないが、乗り越える価値はある壁だ。
なお『ブラザーズ 2人の息子の物語』でもそうだが、制作のジョセフ・ファレル氏の原風景にどんなゲームがあるか実によくわかる。
プレイしてみるとそのギミック、画面分割の方法等、間違いなくいくつかの名作ゲームのオマージュの要素が各所にちりばめられている。しかしその方法を用いて表現された物語の紡ぎ方は非常に意欲的であり、新鮮でありながら完成されている。
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