VRアニメ『狼と香辛料VR』×VRアドベンチャー『東京クロノス』開発者座談会――VRで物語を紡ぐとは

 徳島県徳島市で春と秋の年2回開催されている複合エンターテインメントイベント“マチ★アソビ”。このイベントではアニメ関連の催しだけでなく、ゲームの試遊やe-Sports大会、ゲームクリエイターによるトークショウなども行われている。

 そして2019年5月に行われた“マチ★アソビ vol.22”の一環として、「狼と香辛料VR×東京クロノス クリエイターズトーク」が、5月5日に徳島市のufotable CINEMAで開催された。

 Oculus Rift、HTC vive、Oculus Go版が2019年6月3日に発売予定の『狼と香辛料VR』は、そのタイトルからもわかるとおり、電撃文庫の人気ライトノベルでアニメ化もされた『狼と香辛料』を、原作者の支倉凍砂氏が自身の率いる同人サークル“Spicy Tails”で、自らVRアニメ化するコンテンツだ。

 一方、MyDearestの『東京クロノス』は、誰もいない渋谷に閉じ込められた8人の高校生を描く、VRミステリーアドベンチャーゲーム。2019年3月20日にOculus Rift、Oculus Go、HTC vive版が発売された際には、電ファミニコゲーマーでも記事を取り上げている。

VRアドベンチャー『東京クロノス』はビジュアルノベルをどのように刷新したのか。小さな発明の連続で成り立つ、空間を使った新しいドラマ体験

 つまりこのトークイベントは、VRで本格的なストーリー体験を提供する試みにおいて、日本のみならず世界でも最先端をゆくクリエイター陣が、互いの作品について語り合う機会となったわけだ。
 それゆえか、当日は定員以上の入場希望者が集まって抽選となり、客席には立ち見も出る盛況ぶりだった。

 イベントには『狼と香辛料』の作者である支倉凍砂氏、『東京クロノス』シナリオライター陣のひとりである小山恭平氏、そして『東京クロノス』総合プロデューサーの岸上健人氏の3名が登壇。

 東京から遠く離れた“マチ★アソビ”ならではのオフレコトークも交えつつ、VRでストーリーコンテンツを制作する上でのポイントや、ハードの進化を迎えているVRの現状などが語られた。このトークイベントの全容をお伝えしたい。

取材・文・写真/伊藤誠之介


写真左より支倉凍砂氏小山恭平氏岸上健人氏

VRでアニメのキャラに“会いに行ける”コンテンツを原作者自ら作り出す

 登壇者のうち支倉凍砂氏と岸上健人氏は、2017年10月の“マチ★アソビ vol.20”においてトークイベントを行っている。約1年半前のその席上で、支倉氏は「『狼と香辛料』のVRを作りたい」と発言していた。
 その点について岸上氏から質問されたところから、この日のトークはスタートした。

支倉氏:
 その頃からやりたい気持ちはありましたけど、実際に制作を決心したのは今からちょうど1年前、2018年の4月中旬ぐらいですね。

岸上氏:
 『狼と香辛料VR』はどういった作品なのか、みなさんにご説明ください。

支倉氏:
 ゲームではなく、完全にアニメーションなんですけど、今まさにこの場でしゃべっているような体験ができる、「見る」ではなく「体験できる」コンテンツになっています。
 近くにいると錯覚で体温を感じるぐらいのリアリティを、自分が知っているアニメのキャラで体験できるというのを、ぜひみなさんに楽しんでもらいたいです。

岸上氏:
 スクリーンに「キャラクターに会いに、二次元の中へ」というキャッチコピーが出ていますが、まさにそういった作品なんですね。

支倉氏:
 VRってなぜか知らないですけど、ゾンビばっかりなので(笑)。それに対して自分は、可愛い系のものでやっております。

岸上氏:
 支倉さんと意気投合したきっかけが「ゾンビばっかりですよね」だったんです。「それじゃいけないですよね」というのが、支倉さんと仲良くならせていただいた経緯なんですよ。

 それにしても、シナリオもキャラクターデザインも原作者自身が手がけているのは、けっこうとんでもないプロジェクトじゃないですか。

支倉氏:
 どうなんですかね。結局、原作者が出資と企画をしたら、止める理由が誰にもないですから(笑)。
 原作者が勝手にコンテンツを作って宣伝しても、出版社の人たちは別に損しないわけですし。

岸上氏:
 支倉さんのその行動力がスゴイなと。原作者が自らやってくれるのって、ファンとしてはいちばん嬉しいじゃないですか。それって意外とないですよ、世の中には。

支倉氏:
 みんな真面目に仕事してるからじゃないですか(笑)。
 執筆するペースはやっぱり落ちますからね、どうしても。

岸上氏:
 Steamのページも完成しましたが、『狼と香辛料VR』の進行状況は?

支倉氏:
 だいたい完成して、今はクオリティチェックの状況ですので、6月3日の発売日から延期はないと思います。

岸上氏:
 そういう意味では『東京クロノス』も、支倉さんの作品とコンセプトが同じなんです。二次元のキャラクターに会いに行く。
 今までTV越しに見ていたものを、TVの中に入って体験するという感覚ですね。そのあたりの感覚がガラッと変わってしまった映像体験であり、ゲームになっています。

 『東京クロノス』は、瀬川コウ【※1】さん、落合祐輔【※2】さん、小山恭平さんの3名でシナリオを執筆しています。もともとは瀬川さんがおひとりで書かれる予定だったんですが、VRのストーリーはやはり難しかったのと、ボリュームも長かったので、落合さんと小山さんにヘルプに入ってもらったんです。

 野球で言うと、先発ピッチャーが瀬川さん、中継ぎが落合さんで、小山さんはストッパーだったんですけど、試合が延長になって(笑)。結果的に半分くらいのシナリオを小山さんに書いてもらいました。

※1 瀬川コウ
ミステリ作家。『謎好き乙女と奪われた青春』から始まる「謎好き乙女」シリーズや、『今夜、君に殺されたとしても』などで知られる。

※2 落合祐輔
小説家。『俺と魔物の異世界レストラン』、『聖剣転生してギャルと…!?』、『おまえ本当に俺のカノジョなの?』といったライトノベルのほか、ゲームシナリオなども執筆している。

小山氏:
 延長のイニングがかなり長かったですね(笑)。

キャラクター数や背景数といった制約から逆算してストーリーを考える

岸上氏:
 支倉さんにお伺いしたいんですけど、VRアニメで物語を作るのは、小説を書くのとは違うのですか?

支倉氏:
 VRでいちばんツライのは、スペックの制限ですね。Oculus Go【※1】でやろうとすると、キャラクターの最大数はふたりで、半透明処理も使えない。部屋の広さも感覚的にこの劇場ぐらいが限界で、広い草原とかは舞台にできないですから。

 ぶっちゃけると、背景1個を作るのに80万円ぐらいかかるので、場面転換するのが予算的に辛いんです。
 なので、どうしても同じ場所での会話劇になるんですけど、その点で『狼と香辛料VR』は作品的にラクだったというのがあります。
 『Project LUX』【※2】の時は大変でした。

 ただ、ハードウェアの制限はそのうち、だんだんとなくなっていくので。みんな普通の作り方になっていくと思います。あとは予算の問題ですね(笑)。

※1 Oculus Go
Oculusより2018年に発売されたVRヘッドセット。PCなどに接続することなく単体で動作するオールインワン型で、最安モデルは23,800円という低価格になっている。ただし描画能力などの性能に関しては、PC接続型のVRに比べるとやや劣る。

※2 『Project LUX』
支倉凍砂氏の同人サークル“Spicy Tails”が2017年に発表した長編VRアニメーション。約1時間のアニメーションで、マルチエンド型のオリジナルストーリーが繰り広げられる。

岸上氏:
 どちらかというと、制約から逆算して作るパターンなんですね。

支倉氏:
 そうですね。

岸上氏:
 制約から逆算して作るのは、ゲーム的な考え方ですよね。

支倉氏:
 でも『東京クロノス』は、同時に8体のキャラクターが出てきますよね。意味がわからないですよ(笑)。よく動きましたよね。

岸上氏:
 要するに、物語が魅力的で、キャラクター数が少なくてじっくりコミュニケーションできるものだと、支倉さんに敵うとは思えなかったんですよ。
 だから「キャラクターをたくさん出す」と僕が勝手に言って。そういう経緯だったんですよね、じつは。

 小山さんは初めてVRでストーリーを作られてみて、いかがでした?

小山氏:
 僕は逆にスペック面とかわからなくて、ぜんぜん気にせずに書いてしまって。背景は一応これぐらいの数に収めるというのがあったんですけど、勝手に増やして監督に怒られたり(笑)。

岸上氏:
 ちなみに、小山さんが怒られたんじゃなくて、総合Pの僕が怒られてますから(笑)。

小山氏:
 あとは、VRだと視点人物とユーザーが同じなので、ユーザーと視点人物が常に同じ気持ちになってもらわなきゃいけないんです。なので、突飛な行動を取る時とかは難しくて。たとえばですけど、可愛い子を殴るシーンがあったとして……。

岸上氏:
 そんなシーンは『東京クロノス』にはないですよ(笑)。

小山氏:
 ないですけど、もしあったとしたら、ユーザーからすると絶対に殴らないんですけど、そこを同じ気持ちにするために回想シーンを入れたりとか、心身虚脱状態にするとか、そういう工夫を入れなきゃいけなくて。

岸上氏:
 ちなみに支倉さんは、既存のVR作品で参考にしたものはあるんですか?

支倉氏:
 あんまりないですね。本当にFPSばっかりなので、参考にならないんですよ。自分はVRの原体験が萌え系だったので。GOROmanさんが作った「Miku Miku Akushu」とか。これはスゴイっていう。やっぱり原体験の影響が大きいですね。

Oculus QuestやPlayStation VRも重視しているが、ストアの審査が苦労する

 ここからは、客席からの質問に対して、登壇者が回答する形式となった。

──ゲームやVRの場合と、小説がアニメになる場合とでは、チームワークの作業に違いがあるのでしょうか?

小山氏:
 小説だと誰かひとり、確固たる意思を持っている人がいないとグデグデになると思うんです。

 『東京クロノス』での僕たちのやり方は、他の場合ではもしかしたらダメかもなと。
 今回はシナリオを担当した3人の得意分野が奇跡的にズレていて。瀬川さんがシャープな作風で、僕がちょっと重いところをやって、落合さんが華やかにという感じで。3人がちょうど上手い具合にズレていたから、たまたま上手くいったのかなと思います。

支倉氏:
 自分は『狼と香辛料』がアニメになったとき、なにも関わらなかったんですよ。アニメのことはまったくわからないので、口を出したら絶対にロクなことにならないと思って。あまり参考にならなくてスイマセン。

岸上氏:
 完全にオリジナルの『Project LUX』と、もともとの土台がある『狼と香辛料VR』では、作る上で何か違いましたか?

支倉氏:
 あんまり変わらないですね。チームワークに関して言えば、自分が同人でやっているもの(ビジュアルノベル『WORLD END ECONOMiCA』【※】)もあるんですけど、権限を同じにすると絶対に上手くいかないので、最初に「お金を払うのでオレがいちばん偉い」と言って(笑)。

 何か提案があった場合はもちろん話を聞くんですけど、イーブンになった時はオレだ、というのを最初から決めていたので。だからあんまり揉めはしませんでしたね。

※『WORLD END ECONOMiCA』
支倉凍砂氏の同人サークル“Spicy Tails”が、2011~2013年に三部作で発表したビジュアルノベル。小説版も刊行されている。

──VRの技術的な制約のせいで描けなかったシーンはありますか?

支倉氏:
 自分の場合だと、柔らかいぬいぐるみを触るというシーンができなかったんですよ。エンジニアさんが凄腕なので、ぬいぐるみのモデル自体は柔らかく見えるんだけど、それを触るというのが難しくて。そこはエンジニアさんも意外そうな感じでした。

小山氏:
 『東京クロノス』のほうは、全速力で走るシーンを入れたかったんですけど、ちょっと酔うんですよね。

岸上氏:
 ちょっとじゃなくて全力で酔いますね(笑)。

小山氏:
 もうひとつ、僕じゃなくて落合さんがあおむけに寝るシーンを描きたかったんですけど、監督から「ごめん、無理」と言われて。それぐらいですかね。

岸上氏:
 座っている状態でプレイするのが前提になっているので、寝るのは角度的に無理ですから。でも、走るシーンはやっぱり作りたくなりますよね。

支倉氏:
 そうですね。この中で『ハードコア』って映画をご覧になった方はいますか? 完全一人称視点の映画なんですけど。このスクリーンで見ても酔うので、VRだと100パーセント死にますよ(笑)。

──今後出てくるOculus Quest【※】には対応の予定があるのでしょうか?

※ Oculus Quest
Oculusが2019年5月より販売を開始したスタンドアロン型のVRヘッドセット。3DoFのOculus Goに対して、Oculus Questは6DoFとなっており、体験者がVR空間内を自由に移動することが可能。

支倉氏:
 『狼と香辛料VR』はOculus Questも対応予定です。ただ、申請が通るかどうか、ちょっと怖いところがありますね。

 3DoF【※】のOculus Goに合わせてしまうと、6DoF【※】ならではの演出が難しくなってしまうんです。覗き込む動きをしないと隠しアイテムが見つからないとか、そういうことをやるとOculus Goの人たちが気の毒になってしまうので。
 でも自分としては、6DoFがいいなと思っています。

※ 3DoF/6DoF
「DoF」は「Degrees of Freedom」の略で、回転軸の自由度を表している。つまり3DoFは3つ、6DoFは6つの回転軸を持っている。VRにおいては、3DoFでは体験者が同じ位置に留まったまま周囲を自由に見回せることを意味するのに対して、6DoFではそれに加えて、体験者自身がVR空間内を自由に移動できることを意味している。

岸上氏:
 『東京クロノス』もOculus Questに対応する予定です。『狼と香辛料VR』もきっと、申請は大丈夫ですよ。クラウドファンディングですごく支援が集まっているし、なにしろ日本の超ビッグIPですから。

支倉氏:
 Oculus Questでの発売を申請する書類の見本に、「開発に何人月かけたか」といった項目が書かれていて、「エーッ!」って思うんですよね。半端な感じで作っていないというのを確かめたいみたいなんですけど。でも、Steamとかインディーとか同人の文化に慣れていると、ちょっと怖いなと思ってしまって。

岸上氏:
 Steamと差別化を図りたいんでしょうね。Steamはなんでも自由ですから。

──自分はプレイステーションVRしか持っていないんですけど、『東京クロノス』や『狼と香辛料VR』もその他のタイトルも、PS VR版が後から出ることが多いのは、何か理由があるのですか?

支倉氏:
 エンジニアの人に聞いたんですけど、先にハイスペックのPCを使ったVRに合わせて作って、だんだんと最適化していくのがいいらしいんですね。でも、PS VRは明らかに良いタイトルが多いので。『ASTRO BOT』『エースコンバット7』を遊べるのはPS VRだけですから。手軽ですし。

岸上氏:
 支倉さんも僕たちも、PS VRはすごく重視しているんです。明らかにマーケットが大きいので。ただSteamに比べると、やっぱり審査が大変なんです。コンテンツの質が高いので、求めるハードルも高いんだと思うんですけど。

──『Project LUX』も『東京クロノス』も英語に対応して海外でも出されていますけど、日本と海外での売れ行きはいかがだったのでしょうか?

支倉氏:
 『LUX』はもっと海外で売れるかと思ったら、あまり響かなかったですね。日本が7割で、英語圏と中国語圏が15%ずつぐらいです。
 それでレビューを見ていると、アメリカの人は説明文に「アニメ」だと書いてあるのに「ゲームじゃない」と怒ってるんですよね(笑)。中国語圏の人たちはメンタルが日本に近いので、「まだちょっといろいろ足りてないけど、これからに期待する。萌えサイコー」っていうレビューで(笑)。

岸上氏:
 アメリカの人たちは本当に説明を読まないですよね(笑)。『東京クロノス』も同じような感じです。
 6割が日本で、あとはアメリカ、中国、その他っていう。でも噂ではドイツが熱いらしいですよ。今、ドイツ語への対応を薦められていて。

支倉氏:
 フランスじゃないのが意外ですね。

岸上氏:
 ドイツのほうが人口が多いからじゃないかと思います。

体験した人が「イイ!」という声を上げれば、VRの状況は大きく動く

──みなさんがクリエイターになったきっかけを教えてください。

小山氏:
 高3ぐらいのときに友達の薦めで新海誠監督の『秒速5センチメートル』を見て、そこから小説を読むようになって。人生で初めて読んだ電撃文庫が『狼と香辛料』で、今、めっちゃ緊張してるんですけど(笑)。あとは西尾維新さんとか、辻村深月さんとかにハマって、今に至っているみたいな感じです。

岸上氏:
 僕はVRに出会って、自分でVRの何かをやろうと思ったときに、エンターテインメントをやりたいと思ったので。VR発ですね、僕の場合は。

 ただ、自分は徳島出身なので、マチ★アソビもずっとみなさんと同じお客さんの側で来ていたんです。マチ★アソビって、この距離感で支倉さんや小山さんのお話を聞けるじゃないですか。
 あと、期間中に飲み屋とかに行くと、クリエイターの方や声優さんが普通にいたりして(笑)。その環境って大きいと思うんですよね。
 もしかしたらワンチャン自分もこっち側に行けるんじゃないかって、おこがましいですけど、思っちゃうんですよね。

支倉氏:
 自分はじゃあ、なんでVRを始めたかというお話をしましょうか。僕は何度もブームを見逃してきた経験があるんですよ。たとえば“なろう系”だとか、古くは“初音ミク”だとか。あのときボーカロイドをやっていれば、今頃は米津玄師になれたかもしれない(笑)。

 それでVRに出会って、これはスゴイものが来そうだと感じて、自分も何か作れそうだ、関われそうだ、という感じだったので、VRをやってみたんです。

 あとはインディーゲームをやっていて、VRじゃない素のビジュアルノベルって、もうジャンル的にツラいんですよね。何か新しいものをやりたいなと思って、VRをやってみました。

岸上氏:
 ちなみに『狼と香辛料VR』は、クラウドファンディングで合計7200万円という巨額の支援を得ているじゃないですか。

支倉氏:
 あれって、そんなに残らないんですよ。何度計算しても、最大で2700万円ぐらいしか残らないです。他の人に聞いたら「リワードが豪華すぎる」と言われて。配送料もすごくかかるんですよ。海外だと国によっては10000円とか20000円とか、普通に超えちゃうので。けっこう大変ですね。

──『狼と香辛料VR』は、『狼と香辛料』の物語のその後や過去が描かれているのでしょうか? それとも物語の空白の部分が描かれているのでしょうか?

支倉氏:
 時系列的には、物語の中間ぐらいですね。続刊(『新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙』)を読まれている方はわかると思いますけど、ホロとロレンスには娘がいるんですが、さっき言ったモデル2体を同時に出すのがツライというのがあって。
 3Dモデラーさんがひとりしかいないので、キャラがふたりになると2ヵ月から3ヵ月弱ぐらいかかっちゃう。そういう制限があるので、ホロとロレンスのふたりだけという時期の設定で作りました。

岸上氏:
 今日は支倉さんを大好きな方がたくさんいらっしゃると思うんですけど、2019年のVRでいちばんの目玉となる作品は『狼と香辛料VR』だと思っているんです。これがきっかけになって、いろんな作品が続いてくると思うんですよ。

支倉氏:
 どうですかね。川原礫【※1】さんに2014年から「VRをやりましょう!」と言っているのに、あの人はマジで興味がないんですよ(笑)。
 でも他の作品が続いてくれたら、僕もお客さんとして嬉しいです。僕は本当に『ゆるキャン△』【※2】のVRが見たくて(笑)。たき火を囲んで目の前にリンちゃんたちがいたら、もうそれだけでいいじゃん(場内拍手)。

 でもアニメ会社の人たちは保守的というか、あまり興味がないみたいで。

※1 川原礫
小説家。『ソードアート・オンライン』、『アクセル・ワールド』など、バーチャル空間を舞台にしたオンラインゲームの世界を描いた作品で知られる。

※2 『ゆるキャン△』
あfろ氏によるコミックで、2018年にアニメ化されて人気を集めた。女子高生たちが気ままにキャンプを楽しむ様子が描かれている。

岸上氏:
 そこで原作者が自ら作りに行くスタイルですか。

支倉氏:
 編集さんとかも忙しいので、あんまり新しいことをやってくれないんですよ。
 なによりVRコンテンツはあまりに新しい形態のため、版権管理の際にも「これはゲームなのかアニメなのか」と担当者が混乱するので、既存のコンテンツホルダーはいまいち動きが鈍いんですよ。アニメとゲームでは版権の扱いがぜんぜん変わるので。ウチも大変でした。

岸上氏:
 支倉さんがやって大変だったら、原作者以外の人間がやると死にますね。

支倉氏:
 そうなんですよね。原作者だから、というのはちょっとありますね。会社的にやっぱり、新しいことに対応しにくいみたいで。

岸上氏:
 そこをまさに支倉さんが突破口を開いていただいた形なので。『狼と香辛料VR』が売れると、後続もどんどん増えると思います。

支倉氏:
 『ゆるキャン△』のVRも実現するかもしれない(笑)。

岸上氏:
 だからみなさんの声が重要なんです。この場にいるみなさんが『狼と香辛料VR』を買って、「超イイ!」と言ってもらえると、他の人たちもみんなやってみようと思うはずですから。ぜひご購入いただいて、ストアにレビューを書きまくって、みなさんの声を届けてください。よろしくお願いします。


 以上でトークは終了。イベントの最後には『東京クロノス』に関して、ふたつの新発表が行われた。

 まず、フィギュアなどで知られるグッドスマイルカンパニーとMyDearestのあいだで「東京クロノスプロジェクト」が組成されたとのこと。このパートナーシップにより、今後はグッズ化などの2次展開を強化して、『東京クロノス』の新規IPとしての飛躍を目指すという。

 また、講談社タイガより、『東京クロノス』スピンオフノベライズの刊行が決定。著者は今回のイベントにも登壇した小山恭平氏で、その内容は登場キャラクターのひとり、神谷才の過去にスポットを当てたダークサスペンスになるという。

 小山氏によると、小説は現在執筆中だそうで、「このトークショウが終わったらホテルに籠もってがんばります」とコメントしていた。

 VRに関しては、業界を牽引するハードが相次いで登場した2016年の盛り上がりに比べて、現状ではすっかり落ち着いているように見えるかもしれない。だがそれ以降も、Oculus Questのようなスタンドアロン型のVRハードが登場するなど、今なお着実に進化を続けている。

 その中で、『東京クロノス』や『狼と香辛料VR』といった日本独自のコンテンツが登場することは、VRに関心の薄い層へのアピールも含めて、非常に大きな意味を持っているはずだ。アニメやライトノベルといった、日本発のエンターテインメントとVRの世界がどのように融合していくのか、今後の動向に注目したい。

“マチ★アソビ”の会場には、『東京クロノス』の試遊ブースも出展されていた。

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ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
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