6月21日、電ファミでは実験的なラジオ番組「電ファミラジオ(β)」の第0回となる「クラウドファンディングを経てアクションゲームを完成させた男たち」をDiscordサーバー上で配信した。
【ラジオ】『Bloodstained』のIGAと『La-Mulana 2』の楢村は何を見てきたのか? Kickstarterから発売までこぎ着けたアクションゲームの男たちが語る「電ファミラジオ(β)」6月21日に配信へ
第0回のゲストは「IGA」こと五十嵐孝司氏、ならびに楢村匠氏のおふたり。
両名ともKickstarterのクラウドファンディングを通じて横スクロールアクションゲームを完成させた人物だ。
『悪魔城ドラキュラ』シリーズの元プロデューサーとして知られる五十嵐氏は、2015年にKickstarterにて『Bloodstained: Ritual of the Night』の開発資金を集めることに成功。
同作は2019年6月19日にPC版および海外コンソール版で発売に至った。
楢村氏は2014年にKickstarterにて『LA-MULANA 2』のクラウドファンディングを達成。その後、同作はゲームエンジンの変更などを経て、2018年7月に発売。
2019年6月27日には、国内でPS4/Xbox One/Nintendo Switch版もリリースされた。
奇しくも横スクロールアクションゲームの開発資金をKickstarterで同時期に集め、紆余曲折を経ておよそ4年から5年で発売に到達するという同様の過去を辿ってきたふたり。
彼らがこの数年で見てきたものを語り合ったとき、そこからはインディーゲーム開発の精神性や、アクションゲームの現在(いま)が見えてくるのではないだろうか……。
といったふれこみで始まったこの企画。
当日は2Dアクションゲームに関する興味深い話も繰り広げられたが、ここではラジオで放送された内容の一部、Kickstarterに関する話題を公開している。
Kickstarterで開発資金を調達するまでの道のりから、クラウドファンディング達成後の開発状況、支援者へのリワードに関する苦労話など、当時者だからこその「生の声」が聞ける対談となった。
Kickstarterでお金を集めるのは「インディー」なのか
──まずは『Bloodstained: Ritual of the Night』(以下、『Bloodstained』)を発売されたばかりの五十嵐さんです。
五十嵐孝司氏(以下、五十嵐氏):
『Bloodstained』の五十嵐です。まだ日本版はちょっとあれなんですけど、Steam版は配信しています。よろしくお願いします。
──そして『LA-MULANA 2』を去年発売され、コンソール版が発売間近になります楢村さんです。
楢村匠氏(以下、楢村氏):
楢村です。よろしくお願いします。
──いきなりこんな豪華なゲストに、今日緊張がすごいんですけど。
楢村氏:
僕はそんなに豪華じゃないんですけど。
──いえいえそんな。
五十嵐氏:
けっこう僕も試験的に使われることが多いですよ。サイン会を僕がやって、そのあと有名な人がやるみたいな。けっこうそういうことはあります。
楢村氏:
僕もインディー界隈で新しいことやるなら、あいつに声かけろみたいに思われてる。
五十嵐氏:
試験担当みたいな。
──いきなり謎の暴露話ですね(笑)。まずお話の発端としては、今年のBitsummitでおふたりがかなりお話をされていたということをお聞きしまして、じゃあラジオに出演していただければいろいろ面白いお話が伺えるのかなと。
楢村氏:
公の場所でお話をさせてもらうのは、今回が初めてですね。
五十嵐氏:
飲みの場が多いですよね。
──そもそも最初に出会われたのはどこなんだろうと。
楢村氏:
たぶん2013年、一番最初に東京ゲームショウにインディーブースができた年かな?もしかしたらその次の年かも。
僕が「インディーストリーム」というインディー開発者が集まるパーティーをやったときに、五十嵐さんがいらっしゃって。名刺交換させて貰うときに「鞭を振るゲームを作ってます」と紹介させていただいたのは、今でも覚えてますね。
五十嵐氏:
それは言ってましたね。
楢村氏:
それをスタートに、あとは木村(祥朗)さんの「ポリポリ☆クラブ」を西でやっていたときに、五十嵐さんが乱入してきて、ずっとふたりでしゃべったりしていましたね。
──五年ほど前から知り合いだったということですが、今出されている新作が動き出す前くらいからですかね……?
楢村氏:
Kickstarterを始めたくらいですね。
五十嵐氏:
なぜか僕が「インディー」って呼ばれ始めたくらいですね。
──そこは実はわだかまりがあるんですかね?
楢村氏:
それは五十嵐さんに聞いたことあるんですけど、資本があってちゃんと売らなきゃいけないから、僕はインディーじゃありませんっておっしゃってましたね。
五十嵐氏:
インディーの定義っていうのが人によって違うんで、何が正しいっていうことを言おうと思ってるわけじゃないんですけど、僕の中の「インディー」の定義は売るとか売らないとか関係なく、「自分の好きなものを作る」なんですよね。
ただ、Kickstarterでお金を集めているということは、向こう側にお客さんがいるんですよ。だから、作りたくないとかじゃないんですけど、向こう側にお客さんがいて、お客さんに対して商品を提供するという話になると、「それはインディーなのか?」という話になってしまうわけです。
なんで僕の中での定義とは違うという意味で「インディー」とは違う。なぜならそこに「お客さん」がいるから。
楢村氏:
いろんなパターンがありますからね。ずっと受注開発ばっかりしていた会社が自分のところで作りたいと作ったのをインディーと呼ぶ場合もある。
五十嵐氏:
定義はいろいろあるんで、僕の考えるインディーとは違うという感じです。だから、どう呼ばれてもいいんですけどね。
楢村氏:
でもインディーのイベントには呼ばれる(笑)。
手探りで始めたKickstarter
──今回はやはり『Bloodstained』と『LA-MULANA 2』という、似た時期にKickstarterを開始されて、似た時期に発売されたアクションゲームを開発されたおふたりがゲストということもあり、まずクラウドファンディングに関してお聞きしたいと思っております。
最初に軽くデータとして振り返らせていただくと、『Bloodstained』は2015年の5月12日にキックスターターが開始されまして、半日で50万ドルの目標を達成。そして最終的に6万4867人から554万5991ドルを集められました。当初の目標の約10倍ですね。
『LA-MULANA2』に関してはその1年前くらいになるんですけど、2014年1月開始で最終的に5200人の方から26万66670ドル。目標が20万ドルだったので、しっかりと成功されています。
数字的にはふたつとも大成功しているイメージなんですが、たとえばKickstarterを選ばれるまでですとか、その周辺のお話って意外と出てないなと思ったんですよね。Kickstarterを始めた日とか終わった日の心境についてとか。
楢村氏:
僕らのクラウドファンディングに関しては、その前に『Mighty No. 9』がKickstarterで成功しているのを見ていて、「こういうことができるんだ」とか「日本からでも成功できるんだ」というのが前例としてあって。
──『Mighty No. 9』ですと、2013年の9月にKickstarterで資金募集が始まりまして、目標90万ドルのところ最終的には384万5170ドル。バッカーの人が5万7226人。
やはり日本で一番最初に大成功したクラウドファンディングということで、この現象が大きかったということでしょうか。
楢村氏:
我々は開発をいったん始めると何年も黙って作るしかないので、ほっとくと忘れられちゃう。なので、なにかしらのニュースソースを出さないといけないだろうし、海外での認知度も意識しなければいけない。
そういった意味では、Kickstarterに成功したというトピックは大きいだろうと、そういった話題性込みで。だから挑戦してみようというのがありました。
今はKickstarter Japanという日本での窓口がありますけど、当時はアメリカのカードを持ってないといけないとか、いろいろ煩雑でしたね。
五十嵐氏:
それね。うちもKickstarterを始めてから聞かされて、どうしようかと。そしたら「大丈夫です。1日で作れますから」って言ってくれる人がいて、助かりました。
楢村氏:
そういう人がいれば良かったんですが、僕らはパブリッシャーのPLAYISMさんと一緒に「どうするよ」、「いや海外で手伝ってくれそうな人がいる」みたいな感じで手探りでしたね。
だから2013年の東京ゲームショウで最初に出展したとき、「Kickstarterやろう」というのは決まっていたんですけど、「やれる」となるまですごい時間かかりましたね。逆にそのお陰でキャンペーンの作戦を練ることはできたんですけど。
──当時はそんなに大変だったんですね。外から見ていると、『Mighty No. 9』の成功を皮切りに勢いで続々という感じで見えたんですが、そうすんなりというわけでもなかったんですね。
五十嵐氏:
僕の場合は、もう開始の時期は決まってたんですよ。決まっているのにもかかわらず、「向こうの法人が要るよ」とかいう話が出てきたり、「これ間に合うの?」という感じでしたね。
ただ、僕らのKickstarterが上手くいったのは、やっているスタッフがほぼほぼ『Mighty No. 9』の運営をしていた方々だったんで。だから当初から「『Mighty No. 9』のときはこうしたけど、ここはこうすれば良かったね」という反省があった。
たとえばバッカーのアチーブメントに関しての工夫は、そういうところからきました。一ヶ月間をどうしたら盛り下げないで続けられるか、という内容は決まってました。ただ、ストレッチゴールは全部決めていなくて、「早く決めないともう次のがきちゃう」みたいに焦りもしました。
──Kickstarterのキャンペーンでよく見ますよね。途中でストレッチゴールにいろいろ追加されたり。
楢村氏:
僕らも途中で変えましたね。
──ファンの方々の支援が想定以上に大きかった。
楢村氏:
僕らはそこまでのノウハウがない中で始めたので、稲船さんのプロジェクトだったり海外の成功例だったりを見ながら真似てみるんですけど、ゲームによってファン層って違うので、ファンが求めてるのはこうじゃなかったんだ、みたいなことにも気づいて。
あの頃は、まだUnityとかUnreal Engineとかで移植が簡単になるというのはそこまで一般的ではなくて、なので『LA-MULANA 2』ではコンソール移植がものすごく高いストレッチゴールとしてあったんです。でも、四年経ったいまだとそこまで高くなくても良かったかなって思います。
──五十嵐さんはどうでしたか?
五十嵐氏:
やっぱり「安請け合いしちゃだめだな~」ってことですかね。
楢村氏:
それ凄く分かります。
五十嵐氏:
昔だったら簡単に入れられたことだったんですけど、今の制作環境だとすごく難しくなってることも多くて。
昔は一から作っているんで、全てのことが手の中にあったんですけど、今だとミドルウェアとか使っていくと、自分たちではどうにもならないことがあって。そういうのが後から分かってくる。
──ストレッチゴールを設定されるときって、やっぱりある程度は予想を立てられるわけですよね。
楢村氏:
僕らだったら「この程度なら最低いけるだろう」とか、「本音を言うと倍は欲しいけど、それだとクラウドファンディングが失敗になっちゃう」とか、その辺りを逆算して設定してました。あと追加でやりたいことも決まっていたので、その辺の整合性がとれる設定にしましたね。
五十嵐氏:
僕らは一応、開発側と「これくらいあればできます?」とか確認しながらやったんですが、実際やってみると大変だった。
──おふたりとも、Kickstarterを始める前からかなりいろいろと準備されていたと。で、準備を追えてローンチになると思うんですけど、その時お二人ってどんなお気持ちだったのか。
楢村氏:
そりゃもう、ブラウザを開いて更新更新更新ですよ。
五十嵐氏:
僕はあのとき、Twitchを一日ジャックするみたいな番組をやってました。そのときに達成していて、バタバタしてる内に終わっちゃったみたいな感じでした。
楢村氏:
僕らは一ヶ月の期間中でジワジワ伸びていきましたね。東京ゲームショウが始まってしまうと忙しくなるので、その数週間前に日本の中で海外にみえる場所をさがしてプロモーションビデオを撮ったりしてました。
海外での成功例を見ると、開発者が顔を出して「こういうものが作りたい」みたいなことを言っていて、最初はそういう方向で作ろうと思ったんですけど、稲船さんがそれよりもっと完成度の高いものを先にやってしまっていて。同じ路線でいったらダメだ、身体を張らないとダメだと砂丘を転んでみました。そしたらあらゆる場所で使われてしまって。
──五十嵐さんで言えば、ローンチトレイラーにも顔出しされてましたよね。
五十嵐氏:
あれもワイナリーに決まる前は、銀座の時計店の前で撮りたいから「交渉してくれ」って言われて、「俺が交渉すんの?」みたいな。
楢村氏:
やっぱりトレイラーで注目されるかどうかも決まるみたいなところ、ありますよね。そういった意味だと、ゲーム作る前にイメージアートとキャラクターアートが先にできてたのは初めてでしたね。スクリーンショットも疑似的に作ってたし。
──2012年にDouble FineがKickstarterを大成功させて、そのときはゲームの画面とかは一切出てこなかったわけですが、それから1年とか2年が経ってみんなゲームの中身を気にかけるようになりましたよね。
中身がわからないとファンの人やバッカーが見向きもしないというか。
五十嵐氏:
ちょうど『Bloodstained』のKickstarterをやっていたころが、いくつかプロジェクトが中止になった時期で、ゲームのクラウドファンディングに関しての風当たりが強かったんですよね。なかなか厳しいんじゃなかろうかと。
楢村氏:
僕らの1年後だと、投資した分が返ってくるのかくらいなことを言われてたと思いますね。翻訳費用だけとか、細分化したプロジェクトも出てきましたからね。
──ともかくおふたりのプロジェクトは成功されたわけですけど、終わったあとってどんな気持ちだったんですか。
楢村氏:
嬉しさはありましたけど、逆にプレッシャーみたいなものはなかったですね。Kickstarterが成功しても失敗しても、(なんとかして)僕らは『LA-MULANA2』は作っていたと思う。
だからお金が集まろうがどうだろうが、あまり変わらなかったと思います。で、途中で達成もしてましたから、最終日に喜んだとかもないですし。
五十嵐氏:
僕のところは初日に達成していたんで、喜んだのはその日で、あとはどこまで伸びるかという話でしたね。それからの不安があったとすれば、もともと僕はいわゆるフランチャイズのタイトルをずっとやってたんですよね。
フランチャイズのタイトルをやるっていうのはファンの要望とか希望に応えていかないといけない。今回も同じことなんで、その辺りはいつも通りでしたね。
──意外とKickstarterのときはどっしり構えられていたと。そう考えると、むしろそのあと続いた開発の方が思い入れは深いかもしれませんね。
楢村氏:
思い返せば、僕は2014年始めにKicksitarterをやるというところからスタートしてて、それから本格的に作り始めるまでに半年くらい期間が空いてるんですね。
Kickstarterに成功してニュースになったので、そういうことに関する取材とか、いろんな会社さんからよろしくねと言われたりとか。僕はしばらくゲームの開発者というより、Kickstarterを成功させた人みたいな扱いでした。
開発も、最初は前作のエンジンを使って短い期間で出そうよという話をしていたんですが、その間にインディーを取り巻く環境が大きく変わっていったり、コンソールの機種がそろそろ変わったりして。
「そろそろUnityを使わないとまずいぞ」みたいな時期になり、当初の予定からいろいろと変わりましたね。
五十嵐氏:
うちはもともと座組が決まっていたので、そのまま開発にすっと入ってはいけたんですけど、一番大きいのは機種が変わってしまったことですね。
最初考えていたことが、実現しようとしたら意外に難しかったり、サポートが無くなってしまったり。その辺が一番難しかったかな。でも、単純に当初より予定が伸びたっていうのが、一番大きいですね。
クラウドファンディング成功後の開発状況
──ぶっちゃけてお聞きしてしまうと、当初の発売時期からどちらの作品も大きく伸びてしまいましたよね。
楢村氏:
僕らの規模で言うと、まあ正直年数はかかるとは思っていたんですよ。ただKickstarterで出すときに「発売日未定」って言ってたらバックはないでしょうし。
だからある程度、希望的観測の入った発売予定ではあったんですね。ただし、ここまで遅れるとは思っていませんでしたね。
──『LA-MULANA2』はKickstarterのリワードということで記されてましたが、発送日は2015年の12月という設定で、実際PC版が発売されたのが2018年になりました。
楢村氏:
僕は2017年に首のヘルニアで入院した際には、「やった、これで言い訳ができるぞ」と思いましたね(笑)。
五十嵐氏:
そこなの?(笑)。
楢村氏:
真っ先にそれが頭に浮かびましたね。でも入院から数日経ったら、もうPC持ち込んで作業していましたから。医者も「リハビリにいいから、どんどんやれ」みたいな感じで。
五十嵐氏:
面白いね。
──リリースされたからこそ笑える話ですよね……(笑)。
五十嵐氏:
ストレッチゴールが絡むと、たしかに当初計画されていたよりも制作期間は伸びるんですけども、それよりも開発環境の変化による当初の目論見だったり算段が崩れたってのが大きいですね。
今では一から作っていたものを、ミドルウェアを噛ませるようになった。形になるのが早くなった代わりに、ブラッシュアップが大変になりましたね。
そこらへんで「これはお客さんに出していいレベルじゃないよね」という話になる。どうしてもその部分で企画を練り直したりすることになって、期間が長くなってしまった部分はあります。
楢村氏:
うちはそんなに規模の大きいプロジェクトじゃなくて、昔から一定数いたファンの方が確実に集まってくれたという感覚だったので、バッカーオンリーのアップデートでは頻繁に「ダメだ。この時期にはできない」と、わりと正直に言ってました。
でもそう言うと、「時間をかけてもいいから納得するまで作ってくれ」っていう声が聞こえてくる。そういう部分に助けられた部分はあります。
多分それはただ甘いというよりは、急いで出してつまらないものにされるくらいなら、しっかり面白く作ってくれという意味だと思うんですけど。
五十嵐氏:
僕らのところも、そういう声は多かったですね。いい加減なものを作られるよりは、しっかりしたものを作ってくれという。
──Kickstarterでは、そういった定期的なアップデート(更新情報)によるファンとの対話が必要という意見もありますよね。
五十嵐氏:
それがけっこう大変なんです。「今月何発表する?」みたいな。難しいのが、通常ゲームって発売の一年前からプロモーションかけるんですよね。
その辺りから内容を出していくんですけど、Kickstarterは一番最初からプロモーションみたいなことするじゃないですか。
素材を見せなきゃいけない。それをやっていると、「プロモーション素材なくない?」みたいなことになる。
楢村氏:
僕らはアップデートの回数をとにかく多くしたのが自慢です。毎週とは言わないですけど、何かしらは用意してました。
僕らはプログラマーがふたりで僕がディレクター兼グラフィッカー兼、いろんな事をやっているので、ラフとか資料はあるわけですよ。その辺を小出しにしていった感じですね。
──でも開発が長く続いていくと、ファンの方の反応も変わっていきませんか?
楢村氏:
僕のところであれば、国内のコンソールはもうすぐ出ますけど、海外では数か月も押していますし、いまだに待たせてる状態です。
本来であればPC版がもう出ているので、リワード関連も渡しているはずなんですけど、その作業もまだ終わっていない。待たせ続けて、本当に申し訳ないですよね。
ファンの方の反応としては、変わったかどうかはわからないですけど、昔からのファンの人はずっと応援してくれてますよね。
五十嵐氏:
うちも応援してくれる人の方が多いですね。ただ、日本のコンソール版だけは流通の問題がありまして。僕らは制作の方はしっかりやるんですが、流通は任せている部分があるので、その辺りの部分でお叱りを受けたりはしますね。
その部分はまあ仕方ないのかなと思いつつも、我々はベストを尽くすしかない。ありのままをお伝えするしかない。
楢村氏:
開発側からはどうしようもない部分でそうなってることも多いですし、こっちも説明したいけどパブリッシャーから発表をちょっと抑えてくれと言われたら、そうするしかないですよね。
支援者へのリワードの裏側には様々な苦労が……
──ファンからお金をいただいてやり取りをし開発を進めるというのは、やはり相当大変だろうなと思います。
楢村氏:
やりとりをするという面では得難い経験でしたね。でも、僕が一番苦労したのは、「ゲームの中に登場する」というリワード。やっておいて良かったという思いはあるんですが、入れ込むのに苦労するという。
──比較的よく見るリワードではありますよね。
楢村氏:
ほかにも成功したプロジェクトで一番よく見るのが、一番安いプランでも「スタッフロールに名前が載る」というやつなんですけど、これもバッカーの方が多ければ多いほどスタッフロールが長くなってしまう。ウチはホームページに名前が載るに留めましたね。
五十嵐氏:
うちは2万人くらいがそのリワードの権利者になったので、ものすごく大変なことになったんですよね。久々に自分でコードを組んで、クレジットをハイスピードで流すモードを作ったりして。
ほかにも名前は最大26文字ねという話だったんですけど、小文字を想定した幅で考えていたために、全部横幅の大きな大文字で書いてきた人の対応が大変になって。
楢村氏:
ほかにも特殊文字を使う人がいて、その人のためにテキストセットにその文字を入れなきゃなんないみたいなことになりましたね。
五十嵐氏:
載せちゃいけないような言葉とか入れてくるんですよ。
楢村氏:
そうそう(笑)。
──ええ……そういう方もいらっしゃるんですか?
楢村氏:
遺跡の中に倒れている骸骨のメッセージを決められるというリワードがあったんですけど、そこに他社のゲームの名前入れてきて、「使えるわけないでしょ」と。
五十嵐氏:
だから、そういったことがあれば変えるかもしれないと先に言っておく。
楢村氏:
謎解きゲームなんで、ヒントを自分の言葉で入れたいがために、その謎まで先に考えてくる人もいて。そんな謎解きは、このゲームの中にはないぞと。でも応えてあげなきゃいけないし、そういう苦労はかなりありました。
五十嵐氏:
うちはほかに、バッカーがデザインする敵とかも入れたんです。
それで、ゲーム序盤に出てくる敵は、たとえば騎士タイプだったらこれくらい、飛行タイプだったらこれくらい、というようにラインナップを分類しておいて、バッカーから来るのはこれくらいの割合だろうと予測して枠を空けておいたんです。
でも、バッカーさんから来た敵が全て足が付いているやつで、「あれあれあれ?」みたいな感じ。あと一番悩んだのが、「返答が遅い人」ですね。
楢村氏:
権利があるのに連絡がつかない人がいますからね。
五十嵐氏:
もちろんこちらから連絡するんですが、一度返答で「こういうのがいいです」ときたので「ではデザインをいただけますか」と返したら、そのまま返ってこない。そういうのは困りましたね。何回かメール送って、返ってこないとどうしようって状態になりましたね。
楢村氏:
敵の数とかも開発状況によっては減らさないといけないとかもありますよね。
五十嵐氏:
だからバッカーさんの敵は優先順位を上げつつ、バリエーションを派生させたりしましたね。
ちょっと面白かったのがポルターガイストなんですけど、リワードでバッカーの肖像画を飾るというのがあったんですけど、その権利者さんに「これ敵にしてもいいですか?」って聞いて、オッケーを貰えた人をポルターガイストという敵にしました。
楢村氏:
変わったところで言うと、結構な高額を入れていただいてるんですけど、リワード関連は全部いらないって人がいましたね。「応援がしたかっただけだから」って。でも枠が狭いところにいる方なんで、せっかくなんでなにか言ってくださいみたいな。
──ちなみに『Bloodstained』だと、五十嵐さんと食事できるという権利もありましたね。
五十嵐氏:
ありますね、3人。稲船さんがやってらしたんでやってみようと。ただし、まだやってはいませんね。あと僕とゲームを遊ぶ権利もありました。
実はもっとも高額のリワードだったので、それはちゃんとやろうと。あと指輪を作るという権利もあったりします。
楢村氏:
それって世界中にいらっしゃるわけですよね。
五十嵐氏:
その方々には来てもらうことになっているんですよね。しかも渡航費はその方々が自費で……。
楢村氏:
えっ……。まあそれだけ高額出せる人ですもんね。
五十嵐氏:
ありがたいことです。
──いろいろなリワードがありましたが、考える際に苦労された点はなにかありますか?
楢村氏:
考えているときはノリで「これ面白いんじゃない?」って考えつくんですけど、あとから考えるとしんどい、みたいのはたくさんありますね。
──物理系のものは難しいとよく聞きます。
楢村氏:
いま一番壁に当たっているのは、僕の手書きのイラストですね。高をくくって安い方のリワードにいれてしまって、全部埋まったんですけど……。「このキャラクターを描いて」と一言で終わるものだけじゃなくて、ものすごく細かい注文をつけられる方もいるので。
五十嵐氏:
しまったなと言ってしまったのは、パッケージにサイン入れて送るというやつなんですけど、最終的に4000個くらいになってしまって……。
一同:
(笑)。
五十嵐氏:
そのパッケージが来週会社にやってきます……。過去に一晩で400枚書いた覚えがあるんで、なんとかなるんじゃないかと思ってるんですけど。とりあえず頑張るしかないですね。
──リワードはノリで決めてはいけないよという話でした。
楢村氏:
Kickstarterの話で思いのほか盛り上がってしまいましたね。
Kickstarter発のゲームを完成させるために大事なものとは
──この話の最後に、Kickstarterを経てゲームを完成させるためにもっとも重要なことはなんでしょうか。
楢村氏:
完成させるという強い意志ですかね。
五十嵐氏:
僕の場合はKickstarterの資金だけでは足りなかったですし、パブリッシャーのお世話にもなったので、僕らだけじゃなくて皆を巻き込んでやれるかどうかですよね。みんなゲームを届けたいという気持ちがあって始めているので。
だから、中止している方々はやっぱり辛いと思いますね。
──ゲームを届ける先がリアルに見えているということで、よけいにそう感じますね。
五十嵐氏:
あとファンの方々が納得できるかというのが見えるのは、良い面も悪い面もあると思います。普通にゲームを作っているときは、一年前くらいから情報が出る。でもそのときには、もう仕様の変更は出来ないんですよね。ただ、今回のようなやり方だと、修正が効く段階でファンの人たち話ができる。
楢村氏:
そんな初期の段階で修正が入るなんて、普通にゲームを作っていたらありえないんですけど、長く作っている中で早めに話を聞きたいことって結構あるんで、そういう意味では助かりますよね。
こんなこと言っちゃなんですけど、Kickstarterは完成度を保証するものではないです。でも、面白くして欲しいという期待には応えたいと思う。ただ、そこにプレッシャーを感じるのは僕は逆効果だとは思います。
五十嵐氏:
人の意見ってさまざまで、人の意見を全部聞いてたら丸くなってしまう。我々は尖ってナンボみたいなところがあるので、あくまでも最終的に何かを決めるのは当事者である我々じゃないといけないと思う。
そう考えるとKickstarterは、自分たちが出したい尖った部分を出しつつも、多くの意見を集められるという意味で、とてもいい方法なのかなと。会社の企画会議でどんどん丸くされるところを、もっとたくさんの人から意見を貰いつつ、尖った部分を残していけるので。
楢村氏:
ファンの人も我々が作る丸いゲームなんて欲しくないでしょうしね。意見としてはこっちが多いとしても、これだと丸くなっちゃうから、こうするねということもよくある。
──そのかじ取りが、Kickstarter発のゲームを完成させるカギになるのかもしれませんね。
楢村氏:
作ってるあいだは、自分の心を試されますね。
五十嵐氏:
あれにちょっと似ているかなと思いますね。今のソーシャルゲームのあり方。いっぱい意見があって、データもあるんですけど、データ通りにやってしまうと、どんどん丸くなっていく。
僕はマーケティングリサーチってあんまり好きじゃないんですけど、ゲームをマーケティングリサーチにかけると、大体似たものになってしまう。それをそのまま出したら、もちろん売れないわけで。
それはKickstarterに限らず、エンタメというか、クリエイティブなものを作るという中で、我々が守らなけらばならない部分があって、その部分は死守するという姿勢は大事なのかなと。
──(中略)──
──最後に、おふたりの作品をご紹介いただければと思います。
楢村氏:
もう知ってる人も多いと思いますが、こういう話をきちんとするのは初めてで、その話を踏まえて『LA-MULANA2』をプレイしてくれたら別の見方ができるかもしれないですね。
特にいま、ゲームを実際作ってるという方にこういうことを考えて作ったんだというのが見えるかもしれません。自分の作品が参考になるとは思わないですけど、技を増やすという意味ではいいと思います。
五十嵐氏:
『Bloodstained』のSteam版は絶賛発売中です。コンソール版の情報に関しても、おいおい出てきますので続報をお待ちください。
そういえば、ゲーム開発者的な話をしてきたんですけど、僕はよく人が作ったゲームの感想を求められるんですよ。
でも僕は感想を言うのが苦手だし、僕の意見を鵜呑みにされるのも凄く嫌なんですよね。
楢村氏:
憧れてるから聞きたいという気持ちもわかるんですけど、人に聞いてる時点でそれはどうなんだという思いはありますよね。
五十嵐氏:
自分がいいと思ったんならそれを貫いて欲しいんですよ。特にインディーは。だから「こうしたらいいと思うよ」と言って、「はいわかりました!」と言われると凄く心が痛む
ゲームを見て参考にするのはいいと思うんですけど、自分がいいと思うことをやってほしいかな。僕も作りたいゲームがあって、絶対に売れないって言われてるんですけど、儲かったら密かに作ります。
そういう情熱が特にモノづくりの現場では大切だったりしますんで。(了)
【あわせて読みたい】
“ヴァニア”元プロデューサー・IGA氏が「メトロイドヴァニア」を語る──『サムスリターンズ』から受けた衝撃と新作“IGAヴァニア”に注ぎ込んだ想い【インタビュー】
『メトロイド サムスリターンズ』に、IGA氏は何を感じただろうか? また『メトロイド』とともに、このジャンルに心血を注いでいる理由とは何なのだろうか?
いちジャンルを築いたクリエイターの1人である彼の言葉から、「メトロイドヴァニア」の魅力に、改めて迫ってみたい。