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昨年12月に「お葬式」を迎えたゲーム『勇者ヤマダくん』は、いかにしてNintendo Switchで復活したのか? Onion Gamesが語るスマホ版からの転生秘話

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 6月27日、Nintendo SwitchにてOnion Gamesのダンジョン探索型RPG『勇者ヤマダくん』がリリースされた。

 価格は2800円。現在はサマーセール中で、8月21日まで30パーセントオフの1900円で購入することが可能だ。また、Onion Gamesの他の作品やグッズもセール対象となっている。

昨年12月に「お葬式」を迎えたゲーム『勇者ヤマダくん』は、いかにしてNintendo Switchで復活したのか? Onion Gamesが語るスマホ版からの転生秘話_001

 同作の主人公である「ヤマダくん(36歳)」は、大手ゲーム会社に勤務する出社拒否ぎみのサラリーマン。ヤマダくんは夜な夜な裸になって、都会の片隅で自作RPG「勇者ヤマダ」を作り続けている。

 そんな「勇者ヤマダ」は、ヤマダくん自身が主人公の勇者で、隣に引っ越してきたプリティ・ガール「マリアちゃん(18歳)」がヒロイン、現実世界の理不尽な会社の上司がボス敵という、中年のおっさんの妄想があふれだす、ちょっとぶっ飛んだ内容になっている。

 プレイヤーはそんな「勇者ヤマダ」をテストプレイし、ヤマダくんによるゲーム「勇者ヤマダ」の開発を手助けしていく。ゲームは5×5マスのステージをクリアしていくダンジョンRPGだが、一筆書きで移動する進路を決定するという、特異なゲーム性が魅力の作品となっている。

 おっさんの妄想から生み出された自作ゲームをプレイする、一筆書きでダンジョンを探索するなど、独自の魅力がある『勇者ヤマダくん』。しかし本作はそれ以外にも、実は2016年からDMMよりスマートフォン向け基本無料ゲームとしてリリースされていたという、特異な経歴がある。

 2018年12月にスマートフォン版のサービスは終了し、『勇者ヤマダくん』の配信は停止されたが、翌年3月のイベントではNintndo Switch版への移植が発表された。その際、開発スタジオOnion Gamesの代表である木村祥朗氏は、以下のようなコメントを編集部に寄せてくれた。

木村氏「僕はいま、最初の『勇者ヤマダくん』を何度も繰り返し遊んでいます。開発当初、どんな気持ちでこのゲームを作ったのかを再確認しているのです。

 この勇者ヤマダくんというスマホの無料ゲームは、そもそも限りなく、買い切りゲームのフィーリングで遊んでもらおうという哲学でゲームを構築しました。「お元気ダック」と「四次元道具箱パコ」という1000円アイテムをふたつ買うことで、永遠に楽しく遊べちゃう感じを目指していました。

 しかし、長い運営の中で改造改造を繰り返して、なんだか最初のイメージとずれてしまったのかな?と思うのです。そういうわけで、買い切りの家庭用ゲームとして自分が思うベストな勇者ヤマダくんを目指したいのです」

『勇者ヤマダくん』がNintendo Switchに移植へ。「買い切り型の家庭用ゲーム」として当初の理想に立ち返る、木村祥朗氏がその考えを説明

 スマートフォン版の基本無料から、Nintendo Switch版の買い切り型へ。ゲームデザインやバランス調整はもちろん、開発においても画面の比率やこれまでのイベントをどうするのかなど、根本的な問題がさまざま思い浮かぶところだ。

 今回はそんな『勇者ヤマダくん』のことについて、Onion Gamesの木村氏およびmic氏リョウ氏に転生秘話を聞いた8月9日(金)の電ファミラジオから、一部を記事としてお届けする。笑いあり悲しみありで語られた、あまりにも大変だったというNintendo Switch版の開発の一端を知っていただければ幸いである。

聞き手・編集/ishigenn
聞き手・撮影/実存


「おっさんが作る自作ゲーム」

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左からmic氏木村氏リョウ氏

木村祥朗氏(以下、木村氏)
 「Onion Games」代表、旅人でゲームデザイナーの木村と申します。

mic氏
 フリーランスでゲームプログラマーをやっておりますmicです。今回は『勇者ヤマダくん』のメインエンジニアを担当させていただきました。

リョウ氏
 「Onion Games」でグラフィックデザインを担当しています、リョウと申します。

──今回のラジオでは、6月27日に発売されたNintedo Switch版『勇者ヤマダくん』のお話を伺いたいと思っております。発売から1ヶ月が経過しましたが、評判はいかがでしょうか。

木村氏
 おかげさまで好評でして、Metacriticの平均スコアでは80点いただいきました。ここまで評価されたの、なかなかないよね。

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(画像はMetacritic 『Dandy Dungeon: Legend of Brave Yamada』 Switchより)

──あの作風が世界で評価されてるというのは、凄いことですよね。

木村氏
 通じてよかったよね。通じるはずと思って作っていたんだけど、ローカライズが上手くいかないとギャグが通じないところもあるので。

 ただ、Onion Gamesは発足したときから、開発したゲームは「海外にも売る」と決めてやっているんですよ。海外の人が喜ぶ方法をいつも考えていて、「日本人らしいままで海外の人が気にしてくれる」というゲームを模索している部分があります。『勇者ヤマダくん』なんて、主人公は日本人だし、食べ物はおにぎりだし。

──さらにサラリーマンだし、会社に使いつぶされている。

木村氏
 でも、思い切り日本に偏った作品を作れば、受け入れられると思っていたんです。実際に海外にも『勇者ヤマダくん』のファンもいてくれて。ちなみに洋名の『Dandy Dungeon』よくないですか? 『Dungeon&Dragons』【※】みたいで(笑)

※『Dungeons&Dragons』:
1974年から販売されているテーブルトークRPG。ファンタジーRPGの始祖として知られる。

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──(笑)。過去のゲームのオマージュもある作品ですし、いい名前だと思います。そもそも、『勇者ヤマダくん』をプレイされてないリスナーに、軽くゲーム内容の紹介をしていただきたいのですが。

木村氏
 ある種のロールプレイングゲームなんですけど、僕らは「ローグライトロールプレイングゲーム」と呼んでいます。『ローグ』のようなゲームなんですが、画面は5×5マスのダンジョンとなっていて、“一筆書き”で進路を決めます。

 ルートを決めるとヤマダくんが進んで、その間にアイテムを使ったり敵を倒したりする。小さい画面の中に戦略性を詰めこんでいるんですね。

 ただこのゲームのちょっと変わった部分は、このゲームを作ってるのが主人公のヤマダくんなんですよね。ヤマダくんは36歳のおっさんなんですけど、何が起こってもゲームを作るんですよ。

──(笑)

木村氏
 会社を辞めちゃって、家でインディーゲームを作っていて、不幸な出来事が起こっても、全部ゲームのアイディアに昇華して盛り込んでいく。そんなヤマダくんに幸せなことが起きまして、隣にマリアちゃんという、プリティな女の子が引っ越してきたんですね。

 マリアちゃんに恋したヤマダくんがどうしたかというと、マリアちゃんもゲームの中に登場させる。そしてゲームの中でマリアちゃんを助ければ、現実世界でも恋が成就するという妄想の元、よりゲーム制作に没入していく。そんな話です。

mic氏
 それだけ聞いていると、ちょっと危ない人ですよね。

──今日はそんな『勇者ヤマダくん』の誕生についてもお聞きしたいんですが、「なぜそんなおっさんを主人公にしたのか」というのは気になりますよね。

木村氏
 これを思いついたのは、2012年とか2013年くらいの話なんですよ。『Million Onion Hotel』【※】を作ってる最中に思いついちゃったんです。

※『Million Onion Hotel』:
2017年10月にiOSとAndroid向けにリリースされたOnion Gamesのスマートフォン向けパズルゲーム。モグラ叩きの要領で畑に浮かび上がるタマネギなどの野菜をタップしていく。

 その時から主人公は36歳のおっさんだったし、ゲームを作っていたし、裸だったし、しかも5×5のゲームデザインも最初にあったんですよね。そして倉島くん【※】に、「ドルアーガみたいな通路作ってよ」って言ったんですよね(笑)

倉島くん:
キャラクターデザイン担当の倉島一幸氏のこと。『moon』などを生み出した開発スタジオ「ラブデリック」のころから木村氏とともにゲームを作ってきた。

mic氏
 危ない、危ない(笑)

木村氏
 でも、このゲームをちゃんと作るならお金と人が必要で、僕らの規模だとできない。小規模、個人制作みたいな感じで『Million Onion Hotel』はできたけど、これは無理。だからお金と人を集め始めてました。

──『勇者ヤマダくん』のために 開発ラインをもうひとつ設けるような?

木村氏
 というよりは、ゲームを作るために動けるようにしたという感じですよね。会社を大きくするっていうのはね、嫌なんですよ。知らない誰かと雇う雇われるみたいな関係は、ほんとにめんどくさいです。だから本当に信用できる仲のいい人だけとやろうと。

──なるほど。

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木村氏
 それで、いくつかパブリッシャーを回って、その中のDMMの、当時『艦隊これくしょん』(艦これ)を担当していた岡宮道生プロデューサーに話してみたんです。飲み屋でペライチの企画書を見せたら、すごく喜んでくれて、「やろうよ」と意気投合してくれた。

 「でも僕、無料ゲームは自信がないんです」と言ったら、「だいじょうぶできるよ」って。でも、僕らはこれをインディーゲーム的な状態で作りたかったので、最初から嘘なくアイデアを説明しました。「36歳の主人公で……。ゲーム作るために会社やめて……」と。そしたら「全部オッケー問題ないから」と返答された。

──当時Onion Gamesを設立された木村さんは、BitSummitなどにも頻繁に参加されていて、「インディーゲームの人」という認識がありました。それだけに、スマートフォン向けに基本無料ゲームを発表されたのは、意外でしたね。

木村氏
 ここは説明しないといけないところですね。僕はインディーゲームを作っているんですけど、自分の好きなスタイルの、自分の好きなビジュアルのゲームを作っているだけであって、そのためにお金がいるときはお金を探すし、人がいるときは人を探すわけです。

 『勇者ヤマダくん』は、新宿付近で「お金ないですかー」とさまよっていたら、岡宮プロデューサーと巡りあったみたいな感じですよね。ほかのゲーム制作の人に当時の企画書を見せたら、「この企画は通らないよね」と思われそうですが、奇跡が起きたんですね。

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 ちなみに、無料ゲームとしてやるんだったらという考えは僕なりにあって、『勇者ヤマダくん』はどちらかと言えば、家庭用に近い作り方を当初からしていました。

 たちえば「ダック」を購入すれば、AP回復をまたなくてもガンガン遊べます。「パコ」を購入すると、遊びのフィーリングが変わります。メインは非消耗のアイテムを売る作戦でいこうと決めていました。

 できるだけ、無限にお金を吸い取らない方式をイメージして開始したんですね。そしてエンディングがあるスマホゲームを作ろうと。そういう考えでした。

──ただApp Storeなどでは、特に倉庫の拡張チケット(装備品を収納する底を拡張する有料チケット)などで、ローンチ当初に低い評価も受けた記憶があります。

木村氏
 基本無料型のゲームとしてのバランス取りや、課金して貰うポイントは考えなければいけなかったので、その辺ではお客さんも僕らも残念な思いはありましたね。

──当時、木村さん自身もファンに向けてコメントを残していましたよね。

木村氏
 ファンに送っているメールマガジンですね?

 Twitter上の僕の投稿を見た誰かが、スマホのレビューにゲームの批評じゃなくて、「作者はTwitterで女の子には返事するのに男には返事しない」とか言われて、それをメルマガでちょっとストアのレビューに関して愚痴ったら、それを発端に軽く炎上したんですね。「『moon』の作者が絶望している?」みたいな?

──すこし悲しい体験でしょうか。

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木村氏
 悲しくないですよ。いまとなってはいい思い出です。僕があの件で驚いたのは、炎上でも拡散されると、実はみんなダウンロードしてくれるんだということですね。ああいう内容でも、たくさんリツイートされたりすると、遊んでくれる人が増えるんですね。複雑な心境でした。

──なるほど。

木村氏
 あのころは、いろいろありましたねえ……。ひとつ良かったのは、僕は山本さほさん(『岡崎に捧ぐ』、『無慈悲な8bit』などで知られる漫画家)が好きなんですけど、あの件でやり取りして仲良くなれたことですね(笑)。イベントにも来ていただいたりして。

──災い転じて福となす。

木村氏
 あとダウンロード数でいえば、「ZIP!」で放送されたときが凄かったですね。

──「ZIP!」といえば、日本テレビの朝のニュース番組ですよね。

木村氏
 すごいですよ。ちょっと紹介されただけだったんですが、たくさんダウンロードされる。

──それはどういった経緯で放送されたんですか?

木村氏
 テレビ局から「ヤマダくん紹介していいですか?」と問い合わせが来たので、「いいよ」と返答したら、その数日後くらいに流れていました。ZIPの出演者の方が遊んでいましたね。

──問い合わせから放送まで早いですね。

木村氏
 そうですね。とにかく、いろいろありました。

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 ゲーム開発の点で言うと、『勇者ヤマダくん』で人を探してるときに、リョウさんに出会ったのも思い出深いですね。

 友達が社長をやっている会社に行ったときに、「いま人を探してるんです」と言ったら、「誰に声をかけてもいい」と返答されて。そこにいる20人くらいの前で、『勇者ヤマダくん』という作品を作ろうと思っているんですがと説明したんですよ。その後、喫茶店でリョウさんと話したんですよね。

mic氏
 そこはリョウさんが勇気を持ってOnion Gamesに飛び込んだんですね。

リョウ氏
 僕は話を聞くまで、「裸のおっさんが主人公のゲームを作ろうとしている」という前情報だけ得ていて、「いったい、どんな人が作ろうとしているんだろう」と思っていましたね。

木村氏
 そういえばリョウさんはタリーズコーヒーで、「世の中、本当にクソゲーばかりでくだらない」と、本気でキレてましたね。

リョウ氏
 あのころは、たしかに少しやさぐれていました。

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木村氏
 「ゲームが作りたい、面白いゲームが作りたいんだけど、そんなものには出会わないのが自分の人生なんだ」と言っていましたよね。「じゃあ丁度、面白いゲームを作ろうと思ってるんだけど……」という。

──リョウさんはそのときの木村さんの話で可能性を感じたんですか?

リョウ氏
 それもあるんですけど、当時の仕事に満足もできていなくて。

木村氏
 一緒にやりたいというよりも、どこかに新天地を求めていた(笑)

リョウ氏
 両方ですよね。

mic氏
 次の船に乗ったんですよ。

木村氏
 船がスーってタイミングよくたまたま通りかかったわけですよ。

mic氏
 そういうフィーリング、大事ですよ。

木村氏
 でも実際、いまリョウさんがいないとOnion Gamesはゲームを作れないもんね。僕はプログラムを組む前にいろいろ決めておこうという考え方なんです。イメージとか、そういうものを作っておきたい。

 リョウさんは、それを全部やってくれる人なんですよね。動画作れるし、エフェクト作れるし、Unity上でもいろいろできちゃう。僕がラフで書いた適当なものを渡すと、凄いものが返ってくる。

mic氏
 実質、リョウさんがゲーム作ってるみたいなもんです。

──Onion Gamesのアキレス腱ですね。

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木村氏
 人数は少ないので、全員同じ立場みたいなもんですけどね。

リョウ氏
 人数が少ないと、キャラクターデザインの倉島さん以外のことは全部やらないと回らないですからね。

木村氏
 倉島は倉島で、キャラクターデザインに関してはめちゃくちゃ手が早いよね。

リョウ氏
 あの人のキャラクターデザインは素晴らしいですよ。

苦難に満ちたNintendo Switch版への転生

──さて、『勇者ヤマダくん』は、当初はDMMからリリースされたスマートフォン向けの基本無料タイトルでした。ある特定のアイテムを買ったりすれば買い切りと同じような調整はされつつも、木村さんとしては心残りがあり、Nintedo Switch版で買い切りタイトルになった。同一のゲームでありながら、形態が大きく変わってますよね。

『勇者ヤマダくん』がNintendo Switchに移植へ。「買い切り型の家庭用ゲーム」として当初の理想に立ち返る、木村祥朗氏がその考えを説明

木村氏
 スマートフォン版でも3年ほど運営してきて、バランス調整しているんですけど、スマホゲーはバランスの調整自体がお客さんの迷惑になりかねないデリケートさがあって、だから大きく手を入れてはいなかったんです。

 でも今回、Nintendo Switch版を作るにあたって、家庭用にあるべき感触と、それと同時に「今のゲーム」としてのテンポを考慮してバランスを取ろうと思ってたんですよ。ところがバランス取るどころじゃなくて、そもそも“作れない”わけですよ。

──作れない、ですか?

木村氏
 スマートフォン版をNintendo Switchに移植するために、ものすごい難題がいくつもあって、AIとかイベントスクリプトを稼働させるのがとても大変だった。それをまずやらないと、移植すらできない。

 そんな壁がいくつもあって、実はある時点で「もう無理」となったんですよね。実は去年、ヤマダくんのお葬式イベントのときは完全にギブアップ状態で、Nintendo Switch版を出す余地なんてなし。iOSが閉じた時点で、本当に『勇者ヤマダくん』は終わるんだと思って、お葬式をしたんです。

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(画像は『勇者ヤマダくん』公式サイト 運営終了のお知らせより)
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(画像は『勇者ヤマダくん』公式サイト 運営終了のお知らせより)

──スマートフォン版のサービス終了した2018年12年にされていた、お葬式イベントですよね。

木村氏
 本当にちょっとピンチでしたね。いくつか乗り越えなければならない難問があるけど、人もいない。僕らの体力的な問題もあって、やるならやる、やらないならやらないというのを判断しなければならなくなった。

 そのときに、まったく別の話をお願いしていたmicさんに出会った。そこで「『勇者ヤマダくん』どうですか?」と。

──言い過ぎかもしれないですけど、Nintendo Switch版の救世主……?

木村氏
 救世主どころか、過去のスマートフォン版のバグも直してもらっていますから。救世主超えてますよね。神が現れたみたいな。

mic氏
 その神も、一月は死んでいましたから。二度目のお葬式みたいな空気が出ていた。

木村氏
 僕らもちょっとハラハラしていた時期で。

リョウ氏
 micさん、いったい何時まで働くんだと。

mic氏
 その時期は、人生で一番働きましたね。だいたいこれだけ人数が少ないのに、6月のリリースに間に合っていること自体が、衝撃ですよ。

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──2018年12月のサービス終了、そして2019年6月にNintendo Switch版がリリース。たしかに自分も時期が早いなと思っていました。

木村氏
 僕らは働き者なんですよ(笑)

──Nintendo Switch版の発表は3月の「タマネギ音楽祭 2019」でしたよね。

木村氏
 発表してもいいなというフィーリングになったのが、3月だったんですね。できるだけ早くファンの人たちに報告したかったよね。『勇者ヤマダくん』が生き返るんだって。

mic氏
 それからもピンチの連続でしたけどね(笑)。

木村氏
 このチームが良かったのは、全員めげないタイプだったんですね。すぐどうしたらいいか考える。すかさず前向きになる人しかいなかった。

mic氏
 だいたい朝の9時半から10時くらいに仕事を開始して、帰るのは0時過ぎみたいな。で、会社での作業ってだいだい数時間は集中して、ときおり喋ったりしながら休憩するじゃないですか。そうじゃなくて、全員が黙々とずっと作業してる。

木村氏
 今回は特別だよね。Onion Gamesは基本的に9時半に出社して、19時には帰るというのを守るタイプなんです。でも、『勇者ヤマダくん』に関しては業が深すぎて、「今日やらなければいけないものをやっておかないとヤバいな」という日がたくさんあった。それくらいピンチが続きましたね。

 しかし、いろいろな問題があったんですけど、これは人数が多ければ解決したかというと、そうではない気はしますね。逆に並行作業していたら、まずかったかもしれない。

mic氏
 最初は絡まりに絡まった毛玉をひとりで黙々と解く日々でしたね。ソースコードは書かずに、ひたすら読んでいました。

木村氏
 3月くらいにmicから「木村さん、最近『勇者ヤマダくん』のソースが分かってきました」と言われて、そこからが凄かったですね。

 それと忘れてはならないのは、僕らのゲームをデバックしてくれている「遊び隊」の方々ですね。通常はデバックって社内や外注でお願いするんですけど、最近はファンの方々に頼んでしまおうという。

 『BLACK BIRD』【※】のときはシューティング経験が豊富な人に頼んだり、『勇者ヤマダくん』のときはスマートフォン版を遊んでくれた人たちにお願いしたり。

※『BLACK BIRD』:
2018年4月にPC、Mac、Nintendo Switchでリリースされたシューティングゲーム。黒い鳥となった少女を操作して、不思議な国の敵たちを打ち倒していく。音楽とマッチした敵の出現や演出が特徴。

mic氏
 強すぎますよね。僕より全然ゲームを知っている人たちなので、報告の件数が半端ない。その方々と僕らは戦う。

──「遊び隊」の方々は、Onion Gamesのスタジオに出入りしてるんですよね。

木村氏
 僕らとの距離感の近さもあるし、みんなの誠実さもあるんですよね。何回も会うわけですよ。音楽会のときも、『Million Onion Hotel』のときも会って、「この人たち頼りになるぞ」と思ったんです。

 で、今回『勇者ヤマダくん』のときは、Onion Games史上で最大期間にわたって最大人数を呼んじゃって。申し訳ないと思ったんですけど。

──最大でどれくらい呼ばれるわけですか?

木村氏
 土日は朝3人、昼3人、夜3人で、延べ9人。2日で18人くらいくるわけですよ。だから僕は「土日にこれだけくるから、金曜日までに直すぞ」と号令をかける。

mic氏
 減らさないと報告でバグが増えますからね。

木村氏
 バケツリレーと消火作業ですよね。

──Onion GamesはDiscordもやっていますし、スタッフとファンの距離がかなり近い日本の開発スタジオですよね。

昨年12月に「お葬式」を迎えたゲーム『勇者ヤマダくん』は、いかにしてNintendo Switchで復活したのか? Onion Gamesが語るスマホ版からの転生秘話_014
Onion GamesのDiscordサーバーはこちら

木村氏
 実はmicさんはフリーランスなんですけど、micさんがいることに誰も何も疑問を抱かない。

mic氏
 不思議な空気ですよね。

木村氏
 僕らは「AKB48」みたいなもので、それぞれ所属事務所は違うけど、同じことをやるときに集まってやれればいい。

 理想とするのは、大学の部活のサークル会館とかあるじゃないですか。人が来ては去るみたいな。ギャラの出るサークル会館、ゲーム作るために集まってまた去る。人間関係としても、一緒に居れたら楽しいし、新しい発想が出ることもあるみたいなのが理想ですよね。

──「Onion Games」はゲーム業界のAKB48。

木村氏
 ゲームを作るために会社を作って、人を雇ってお金を払うっていう考え方が、バカバカしいなと思っているんです。できるだけ個の力が強い状態で、声をかければ集まってくれるような関係を作りたい。

リョウ氏
 わたしも実は社員ではないフリーランサーで、自分でもゲームを作っています。そういう関係ですよね。

木村氏
 メンバーというだけで、ウチにほとんど会社員はいないんですよ。すみません、ダメな社長で(笑)

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──話が戻りますが、やはり本作はスマートフォンからNintendo Switchに移植されるということで、バランス調整に関しては苦心されたのではないでしょうか。基本無料から買い切りゲームに変更するわけです。

木村氏
 けっきょく、バランス調整の話ができたのはラスト1ヶ月の話で、それまではバランス調整どころか「Nintendo Switch版が実現できるかどうか」みたいな話でした。

リョウ氏
 それどころじゃなかった。

木村氏
 でも、それまで突き詰めて働いているわけじゃないですか。だから、バランス調整も突き詰めないといけない人たちになってしまっているんです。

mic氏
 そんなことないのでは(笑)

木村氏
 でも、最終版を提出する1日前とかにも、micさんが「木村さん、これは進化素材が集まらないですよ」と言い出したり。で、そのバランスを直すまで言い続けるんですよ。

mic氏
 それはそうですよね。

木村氏
 micさんはクールなようで、実は熱いんですよ。ゲームに対して「こういう感触はダメ」というのは、絶対に曲げないんですね。僕はそういうところが好きなんです。

 ゲームを作っていると、しんどくなるじゃないですか。でもここの人たちは共通して、人ごとのように一歩引いて、自分たちで作っているゲームの悪い部分を「つまんないよな」と言い始める。micさんもリョウさんも、それはありますよね。

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──そうやって、Nintendo Switch版『勇者ヤマダくん』もギリギリまで詰めていた。

木村氏
 スマートフォン版で3年のあいだに溜まった不要なデータとか、この10000分の1のドロップはなんだとか、そもそもドロップしねえじゃねえかとか。

mic氏
 この特殊な組み合わせのみに発生するこのバグはなんなのかとか。あれやばかったですね。

──たしかに。スマートフォン版ではイベントも頻繁にやられていたわけで、単純にコンソールに移植するんだという話じゃないわけですよね。

木村氏
 理想はスマートフォン版にあった期間限定イベントが、きれいにゲームのストーリーに組み込まれることじゃないですか。できるだけ物語として説得力のある入れ方ができるか。

 その辺は作戦を立てています。『勇者ヤマダくん2』では、現時点で出ていないダンジョンがいっぱいあって、Nintendo Switch用に組み替えていたり。

──『勇者ヤマダくん2』はスマートフォン版では大型アップデートとして配信されたものですよね。

木村氏
 実はそのスマートフォン版のものとは少し意味合いが違っていて、今回のNintendo Switch版の『勇者ヤマダくん2』は、スマートフォン版の『勇者ヤマダくん2』以降に入っていた要素が全部同時に追加される予定です。

 もともとの『勇者ヤマダくん』でもかなりのボリュームだったんですけど、『1』がこれくらいだとすると、『2』はこれくらいなんですよ。

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木村氏「『1』がこれくらいだとすると」
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木村氏「『2』がこれくらい」

──それが今夏リリースなんですよね……?

木村氏
 日本では夏って10月までなんですよ……涼しくなる前には出します。

──異常気象で涼しくならないことを祈っています。

木村氏
 やめてよ……(笑)。しかし、僕ら的にゲームを作るというのは、完成したと思ってから調整する時間が必要なんです。

mic氏
 でも、調整の期間は面白いですよね。それまでは基本的に苦痛でしたけど(笑)

木村氏
 毎月、長いダンジョンばっかりリリースしていましたから、『勇者ヤマダくん2』も大変にはなりそうだけどね。

mic氏
 それも僕の悩みの種ですよね。僕は『勇者ヤマダくん』の全容を知らずに仕事を受けているんですよね(笑)。そんなないでしょうとやっていたのに、それどころじゃなくなっちゃった。

木村氏
 3年間運営していた基本無料ゲームをコンソール向け売り切りに作り変えるというのは、ゲームのバランス的にも、プログラム的にも、レイアウト的にも、相当特殊だったと思う。

リョウ氏
 スマートフォン版の縦長を横長にするのがかなり大変でした。ぜんぜん比率が違うので。

mic氏
 作っていると、いろんな事件が生まれますよね。

木村氏
 作戦は立てているんですけど、想定されてないことが起こる。

mic氏
 そこをなんとか乗り切っちゃうのがリョウさんだったと思います。

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──micさんやリョウさん筆頭に、Onion Gamesはみなさん腕利きや才能ある人が揃っているという印象が深まりました。

mic氏
 自分はプログラマとして能力があるというわけではないと思います。ただ、ゲーム作りに熱心なんですね。

リョウ氏
 それはすごく大事。作品を完成させるために粘る力もあるし、精神的に安定しているのもうれしいですよね。プログラマってピリピリしている人が多くて、話しかけづらいなあという方もいますから。

mic氏
 それは本当に注意していますよね。話しかけづらいプログラマは相談されなくなっちゃうからね。プログラマはケツモチの担当だから、みんな自分たちのできる範囲で終わらせようとして、いびつな仕事で終わってしまう。

木村氏
 リョウさんも怒らないよね。俺は怒っちゃいけない立ち場なんだけど、いつも怒っているのに(笑)。まあとにかく、みんなゲーム作りに熱心だというのは間違いないですね。(了)

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(C)Onion Games, K.K. (C)DMM GAMES

編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
編集
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哲学科を卒業後、ディオゲネスのような暮らしを送っていたが、2017年11月より電ファミニコゲーマー編集部に加入。
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