「レトロゲーム」という言葉の由来を探る──「回顧・懐古」から「レトロ」へ、そして「オールドゲーム」から「レトロゲーム」へ

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“市民権を得た”「レトロ」

 このように筆者が確認した例は『ログイン』だが、もはやどこで「レトロゲーム」という表現が登場したとしてもおかしくなかったといえる。なぜなら1987年には、すでに「レトロ」がかなりの広がりを見せていたからだ。

 『現代用語の基礎知識』でも、1986年版で「レトロ(現象)広告」、「レトロ・ブーム」の解説が登場したのに続き、1987年版では「マスコミに出る外来語・略語・総解説」のコーナーに「レトロ」が採録された。
 一方1985年末には、若者向けサブカルチャー誌『宝島』を擁するJICC出版局(現・宝島社)が、懐古趣味記事の決定版ともいえる単行本『1970年大百科』を刊行。テレビでは1986年秋に、懐かしの番組やCMを振り返るトーク番組として人気を博した、TBS系の「テレビ探偵団」が始まっている。

 さらに、1987年に入ると「レトロ」を題名に冠した書籍やムックが続々と発刊されるようになった。5月に刊行された「テレビ探偵団」の関連書『ぼっ!ぼっ…ぼくらはテレビ探偵団』でも、題名にこそ使われていないが、本文では冒頭から「レトロ」があちこちにちりばめられている。
 大手新聞にしても、たとえば朝日新聞の同年4月6日付朝刊1面「天声人語」で、「レトロ趣味、レトロ気分、レトロ風味、おもしろレトロなどなど、たしかに今はレトロばやりだ。」と評されている。「レトロ」という言葉が“市民権を得た”のが、この時期だったわけだ。

 とはいえ、「オールドゲーム」という言葉が一気に「レトロゲーム」に入れ替わるには至らなかった。もしかすると、まだ「レトロ」には一時期の流行語という雰囲気があったのかもしれない。
 それでも『ゲーメスト』では、1988年8月号の「OLDゲーム伝説」の中に「ニューゲーム、体感ゲームが目白押しで発売される中で、レトロゲームもひそかなブームを呼んでいるようです。」との一文が確認できる。

『ゲーメスト』1988年8月号より

 またビデオゲーム雑誌『Beep』では1989年4月号から、「失なわれた記憶の彼方をまさぐり、迷作レトロゲームに光を−−」と掲げた「遠藤雅伸のレトロ帝国の逆襲」が掲載されるなど、「レトロゲーム」という言葉は次第に広まっていった。

「遠藤雅伸のレトロ帝国の逆襲」、『Beep』1989年4月号より

「レゲー」の元祖は新宿にあり!?

 ところで「レトロゲーム」が広がるにつれ、一部で使われるようになった短縮形が「レゲー」だ。筆者の手元にあるゲーム用語に関する資料では、毎日コミュニケーションズ刊『広技苑』2005年春版特別付録『最新ゲーム用語事典』の「レトロゲーム」の項目で、「短縮して「レゲー」とも呼ばれる」と触れられている。

『広技苑』2005年春版特別付録『最新ゲーム用語事典』より

 以前、筆者がインタビュアーを務めたこの記事が公開された際に、「貴重なレゲー」を音楽の「レゲエ」(のレコードなど)のことかと思ったという趣旨のコメントがいくつかついていた。
 さすがに「レゲー」は、マニア向けの言葉の域を脱してはいないということだろう。

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 この「レゲー」という表現がマニアを中心に知られるようになったきっかけは、おそらく『ゲーメスト』だ。その1990年3月号から、読者コーナー「ゲーメストアイランド」内で、ミニコーナー「レゲーの魂」が始まっている。

 ただしこれは『ゲーメスト』が発祥の表現というわけではない。「レゲーの魂」の1回目には、「レゲー…レトロゲーム(C)新宿スポーツランド」との一文が添えられている【※】ほか、1990年5月号には編集部のコメントとして「新宿東口近くのスポーツランドには、元祖レ・ゲーコーナーがあるぞ。」と述べられている。

『ゲーメスト』1990年3月号より
※このころ「(C)」のマークは、ネタを拝借した際の拝借元を示す冗談めかした表現として、主に若者の間で使われていた。
『ゲーメスト』1990年5月号より

 どうやら「レゲー」はそもそも、「かに道楽」の店舗が向かいにあることから“カニスポ”の名でも親しまれたゲームセンター、「新宿スポーツランド中央口店」(2004年閉店)で使われていた表現ということらしい。
 残念ながらその命名の由来までは調べ切れていないが、新宿近辺にはレコードやCDなどの音楽ソフトを扱う店が多数あっただけに、まず間違いなく、音楽ジャンルの「レゲエ」をもじって「レゲー」と呼んだものと考えられる。

「新作レトロゲーム」は“あり”なのか?

 さて、レトロゲームを語る際にしばしば問題になるのが、「レトロゲーム」という言葉が指す範囲、つまり「どこからが(どこまでが)レトロゲームなのか」という点だ。
 特に家庭用ゲーム機に限って言えば、たとえばゲーム機側の発売年次である程度区分することも可能だが、アーケードゲームやパソコンゲームではこのような手法は適用しづらいという点には注意が必要だ。

 とはいえ、1994年末からのセガサターンとプレイステーションの登場と隆盛が、家庭用ゲーム機とアーケードやパソコンとの関係を大きく変えた転換点のひとつであることは間違いない。
 この時期より前のビデオゲームについては、もはやレトロゲームとしてくくっても異論はまず出ないだろう。

 ではセガサターンとプレイステーション、そしてそれ以降についてはどうか。結局のところ、どういったものに懐古の念を抱くかに、個人の生まれた年代や体験によって違いがあるのはやむを得ない。
 したがって、過去に登場したビデオゲームに関して、どれほど古ければレトロゲームと呼べるのかという区分けを一律に定めるのは無理がある。1990年代後半以降のビデオゲームにおける「レトロ」の範囲は、今のところ、必要に応じてその場その場で決めていくしかなさそうだ。

 そしてもうひとつ考えてみたいのが、「新作レトロゲーム」だ。ここでいう新作とは、移植やエミュレーションを利用した復刻を新規に行ったソフトという意味ではなく、リメイクや、「8ビット風」・「16ビット風」などとして新規に開発されたゲームを指す【※】
 これらは「レトロゲーム」に含まれるのだろうか? これも人によってさまざまな意見があるだろうが、筆者は「新作レトロゲーム」は“あり”だと考える。つまりリメイクや「○○ビット風」も「レトロゲーム」に含めることができるという意見だ。

※たとえば、Nintendo SwitchやPS4用のダウンロード版として今年発売されたファミコン風アドベンチャーゲーム『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』 など。

業界歴25年、5社目にして独立を果たした男が作ったアドベンチャーゲーム『偽りの黒真珠』は、ファミコンテイストが溢れていた。「8ビットの表現で、新しいものを作り続けたい」

 先に触れたように、筆者が「レトロゲーム」という言葉を確認した『ログイン』の1987年6月号では、「RETRO-MSX」は古いゲームを取り上げていた一方で、「おめでたビデオゲーム倶楽部」ではリメイク作品を「レトロゲーム」と呼んでいた。
 つまり、少なくとも「レトロゲーム」という言葉が使われだした時点では、古い作品だけを指していたわけではないのは明らかだ。

 それに、現在日本で言われる「レトロ」の源流になったとみられる1970年代の「レトロスペクティブ・ファッション」は、そもそも古着のことではなかった(古着を活用することも含めていたかもしれないが)。
 このような経緯を踏まえれば、リメイクや「○○ビット風」の作品を「レトロゲーム」から排除する理由はないだろう。

「○○ビット風」の広がりが示すもの

 もっとも筆者の嗜好としては、「○○ビット風」に関しては、かつての実在のハードウェアの機能や制約に沿っているものをより高く評価する傾向にあることは否定できない。
 「8ビット」・「16ビット」をうたいながら、それに相当する時期には難しかった表現を無造作に盛り込んでいるケースを見て、「うーん」と考え込むこともしばしばある。例えるなら、昭和末期が舞台のドラマで子どもたちがゲームボーイを遊んでいるようなものだろうか。もしかすると作品の本筋や面白さに大きな影響はないのかもしれないが、やはり違和感を覚えてしまうのだ。
 しかしそれは結局のところ個人の趣味の話であって、絶対的な基準にはならない。

 先に挙げた「白仁丹」のCMが大正時代をイメージしていたことからもわかるとおり、「レトロ」には、その表現の受け手だけではなく作り手でさえも、実際には体験したことのない時代が対象であるものも含まれる。
 これは簡単に言えば、身の回りにありふれたものからは大きく断絶した価値観やセンスに、面白味やあこがれなどを見出しているわけだ。すると、表現が皮相的だったり誇張されていたりということもままあるだろう。

 なにより、娯楽作品は歴史の教科書ではない。良くも悪くも、カジュアルな表現が盛り込まれるのは当たり前のことだ。
 1990年代後半からオタク的サブカルチャーの中で急速に拡大した「メイドブーム」を思い起こしてみよう。
 いわゆるエロゲーやギャルゲーをはじめ、ビデオゲームもその盛り上がりに大きな役割を果たしたのは間違いない。しかし、もし「メイド」を歴史的な経緯から外れたカジュアルな表現として噛み砕くことが許されなかったとしたら、ブームの様相はどうなっていただろうか。
 今日のように、サブカルチャーのみならず、その枠を超える範囲にまで大きな影響を及ぼすには至らなかったはずだ。

 つまり「○○ビット風」が、すでにカジュアルなスタイルとしても扱われているのは、レトロゲームのブームの裾野がそれだけ巨大になったことを示しているわけだ。
 そのことを、まずは肯定的にとらえたい。その道の専門家を名乗っているならともかく、そうでない人々の「○○ビット風」の表現に目くじらを立てたところで、裾野の拡大に水を差すことはあっても、プラスになることはまずないだろう。

 裾野が広がるほどに、山全体が豊かになる。カジュアルな「○○ビット風」も、かつてのハードウェアで実際に動くような“ガチ”なものも、それぞれに楽しみ、互いに影響を与えつつ盛り上がっていくことで、レトロゲームの土壌がより豊かになっていくのではないか。
 その中で、「レトロ」を取り入れながらも新しい表現が生み出されることや、過去のビデオゲームについて自らの手で見聞を広げていく向きが少しでも増えることに期待したい。

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著者
コンピューター文化史研究家。2013年より約2年間、ブログにて 「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」を連載。その際、1999年末まで約20年分の日経産業新聞縮刷版にヘトヘトになりながら目を通した。
Twitter: @Kenzoo6601

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