身に降りかかる「恐怖」に対し、ただロッカーのような隠れる場所を探して逃げ回るのか、それとも銃や頭脳といった武器を使って脅威と対峙するのか。『バイオハザード ヴィレッジ』は前者ではなく、明確に恐怖を自分の手で打ち払うことを主軸にしようとしたホラーゲームである。
たとえそれがハードルの高く困難なものであっても、あえて立ち向かい戦うことで道は拓かれるように本作はデザインされている。それは、恐怖に対して果敢にチャレンジするほど見返りがあり、自身のゲームプレイをより有利なものにできる、「村」を中心とした有機的なゲームサイクルが構築されているからだ。
『バイオハザード ヴィレッジ』は、そんな上手く立ち向かえば立ち向かうほど有利になるサバイバル要素の強いゲームプレイと、「父が娘のため懸命にもがく物語」を軸としたストーリーへの没入感が重なり、前作以上にプレイヤーをゲームに惹き付けることに成功している。
本記事では、そのような「サバイバル」要素をはじめとして「寓話」、「村」、「4人の貴族」、「父と娘」といった大きく5つのポイントから『バイオハザード ヴィレッジ』の魅力をお届けする。
平和な生活が突如崩壊、イーサンの過酷な物語は「寓話」から始まる
今作では、前作『バイオハザード7 レジデント イービル』から約3年の月日が経過している。アメリカ・ルイジアナ州のベイカー家事件はすでに過去の出来事となり、ヨーロッパに居を構えたイーサンと妻ミアの間には、娘も生まれ家族3人で平穏に暮らしていた。そんな中、『バイオハザード ヴィレッジ』は冒頭では突如、森の中へ迷い込んだ少女が4匹の怪物と魔女と出会う寓話が語られる。
一見すると『バイオハザード』らしくないファンタジーな導入だが、これはじつは主人公イーサン・ウィンターズの妻ミアが娘のローズへ読み聞かせている絵本の話だったとすぐ分かる。ゲームを進めるうちに、この寓話は単に読み聞かせるための話ではなく、ゲームの今後の展開を示唆していることがわかっていく。
幸せな生活を送るさなか、イーサンの一家は突如、クリス・レッドフィールド率いる部隊の急襲に遭ってしまう。クリスは、有無を言わせずローズを奪取し、阻止しようとする妻のミアを射殺する。一体、何が起きたのか? 理由も分からないままにイーサン自身も拘束されてしまい、ローズと共に車で移送させられてしまう。
気付くとイーサンは雪の上に横たわっていた。目の前には移送に使われたバンが横倒しになっている。あたりを見回すがローズもクリスもいなくなっていた。状況もよく呑み込めないままにイーサンはローズを探すため歩き出す。またもやイーサンは、愛する家族を奪われてしまい、取り戻すために降りかかるさまざまな困難へと立ち向かう。
圧巻の存在感を放つ「村」はゲームの中心地点として機能
歩みを進めると、やがて本作のメインの舞台となる「村」へたどり着く。村を構成する家屋は、そのひとつひとつが細かな小道具で彩られており、そこで生活を営んでいた者たちの痕跡が残されている。また、ゲーム序盤に登場する銃を構えた老人、負傷した父を手当する娘のルイザなど、狼の姿をした敵がはびこる村の中で、懸命に生き延びようと奮闘する人々の姿も描かれている。
「東京ゲームショウ2020」の配信番組「CAPCOM スペシャルプログラム」で、「もうひとりの主人公は“村”」と紹介されていたことを覚えている人もいるだろう。
そのとおり、村自体や村で生き延びようとする人々はディティールが非常に細やかに描写されており圧巻だ。単なる空虚な「場」ではなく、人の生きた息づかいが刻まれたリアリティを追っていくうちに、村を探索するプレイヤーの没入感は高まっていくことになるだろう。
さらに村は、ゲームプレイにおいても重要な場所となっており、ゲームを進めるたびにプレイヤーへ新たな一面を覗かせる。今作では、村の中心部から城や工場といった各エリアへ移動して探索を行うような構造となっている。しばらく他のエリアでゲームを攻略すると、ふたたび必然的に中心部にある村へ戻ってくるよう展開されるのだ。
その際、新たに入手した鍵を使うことで以前まで塞がれていた家屋が開放されたり、初見の敵が出現したりと、これまで知らなかった村の新たな側面が次々と明らかになる。見慣れた中心部へ戻ってきた安心感と、新たに開かれたエリアを調べなければならない緊張感が、プレイヤーに休息と恐怖の両方を与える。このひと息つきそうでつかないテンポ感が、本作をプレイするプレイヤーの情緒を上手くコントロールしている。
4人の貴族の支配エリアをそれぞれ攻略、バラエティに富んだゲームプレイ
『バイオハザード ヴィレッジ』でのゲーム体験を起伏に富み、飽きないものにしている要素のひとつは、登場する4人の貴族と彼女らが支配するフィールドにあると断言できる。
ゲーム序盤、捕らえたイーサンの処遇をどうするか貴族たちが話し合う場面がある。この貴族会議に出席しているのは、黒衣をまとう女性マザーミランダを中心に、ドミトレスク夫人、人形使いドナ、モロー、ハイゼンベルクの4人の貴族たち。これ以降イーサンは、彼女らが支配するそれぞれのエリアへ赴きローズを探すこととなる。
4人の貴族たちは、これまでに公開されたトレーラーなどでご存じの方も多いと思うが、ひとりは見上げるほどの背丈だったり、もうひとりは半魚人もしくはトロールを連想してしまうようなグロテスクな姿だったりと、見た目のインパクトも抜群である。
しかし注目したいのは、彼女らが根城としているそれぞれのエリアが非常にバリエーション豊かで、プレイヤーにもたらされる恐怖の方向性やゲーム体験も異なるという点だ。
たとえば、威風堂々そびえたつ城エリアでは、地下や別館もある広大で入り組んだ城内を舞台に、ドミトレスク夫人と彼女の3人の娘たちから執拗に追われながら探索を行わなければならない。
ここでは、どこからともなく現れて追跡される敵の怖さと謎や仕掛けを解き明かす探索の楽しさのふたつがバランスよくプレイヤーにもたらされる。
一方で、続いて訪れた人形使いドナの住まいベネヴィエント邸では、先のドミトレスク城とは異なる体験が待っていた。
ベネヴィエント邸は、フィールド全体はこじんまりとして広くはないが、暗がりの中を探り探り進む場面が多く、プレイヤーを論理的ではない直感的な恐怖へと誘う。いわゆるジャパニーズホラー的な恐怖がここでは体験できるのだ。
また別の「森の砦」と呼ばれるエリアでは、さながら一人称視点型シューティングゲーム(FPS)かの如く続々と出てくる敵の大群を倒し続けなければならない。
このような遊びの多様さは、貴族たちと戦うシークエンスにおいても同様である。従来シリーズ作品のように手持ちの武器を総動員して倒す場面もあれば、武器の類を使わずプレイヤーの頭脳によって倒すパターンも存在する。
この4人の貴族のエリアとボス戦は、まるでテーマパーク内に趣向の異なったアトラクションやエリアが存在しており、それぞれを体験していく感覚に似ている。また4人の貴族たちと関わることで、それぞれのパーソナリティも垣間見え、ミランダをママと呼んで半ば盲目的に偏愛している者がいれば、露骨な憎悪の念を向ける者もいることがわかっていく。
エリアを攻略していくごとに、プレイヤーはこの『バイオハザード ヴィレッジ』の村を中心とした世界設定を解き明かしていくことになる。その度にプレイヤーは冒頭でも伝えた「寓話」を思い出し、この先おおよそどのような展開が繰り広げられるのか、そしてなぜ寓話という手法を用いたのかを理解していくことになるだろう。
さまざまな選択肢が提示されるサバイバル要素、“攻略”する楽しさ
『バイオハザード ヴィレッジ』では、筆者が以前体験した2時間にわたるハンズオンから、ある程度サバイバル要素が強いことは分かっていた。しかし、本編を遊ぶとそれは予想以上のものだと驚く。とにかくプレイヤーに対して、生き延びるための数々の手段を提示し、その中から自由に選ばせてくれるからだ。
基本的なゲームサイクルに関して、シリーズファンの方であれば『バイオハザード4』を想像してもらうのが良いだろう。敵を倒すと弾薬やアイテムが手に入り、それらを活用して自分の装備を充実させていく。武器もハンドガンやショットガンといった複数の銃火器が用意され、威力を強化するには改造パーツを取り付けるか、カスタマイズによって性能をアップグレードすることになる。
より強い敵を倒せば、換金できるアイテムも手に入る。換金用アイテムは、たびたび出会う商人デュークとの取引でお金に換えてもらい、武器のカスタムやアイテム購入に充てられる。
サバイバルしている感覚が増すのはこのデュークと取り引きができるようになってからだ。村には魚や豚などの動物が生息しており、それらをハンティングすることで、肉を手に入れられる。肉は後述する料理の食材に用いることもできれば、換金することもできる。村に住んでいた少女の持ち物だったであろうぬいぐるみなど、思わず苦笑してしまいそうなものが対象になるほど、今作ではとかく換金できるアイテムが豊富だ。
サバイバル要素はゲーム進行によってもさらにバリエーションを増す。たとえばゲーム中盤では、デュークの店で食材調達なる要素が解禁される。用意されたメニューに応じて規定の材料をデュークへ納品することで料理が食べられるといった具合だ。
料理は、食べると永続的に持続するさまざまな効果が得られ、イーサン自身の能力をアップできる。もちろん、必ずしも料理を完成させ食べる必要はない。その腕に自信があるなら食材全てを換金して、装備の充実化に全振りすることもひとつの手段である。
ほかにも、ゲーム内には倒さなくても問題ない強力な敵、行かなくてもストーリーに直接関係しない場所や仕掛けが複数存在する。しかしそれらを攻略すれば、努力や頑張りに応じて何らかの報酬が貰える。
数多くの選択肢が用意されており、その意思決定はプレイヤーの裁量に任されるが、より困難に立ち向かうほど結果的にプレイヤーが有利となるよう設計されているのだ。このゲームはただ恐怖から逃げ回るだけでなく、しっかりとプレイヤー自身が武器や知能を駆使して“攻略”することで利益が得られるようになっている。
そしてそのゲームデザインは、4貴族のエリアと村を行き来する構造にも落とし込まれていく。村の探索を進めて各エリアへと足を進める、そのエリアを攻略して覚えた知識や戦い方で村の探索をさらに進める、そしてまた村で手に入れた物資をもとに次のエリアへ行く。この絶妙なテンポのゲームサイクルで、『バイオハザード ヴィレッジ』はプレイヤーを惹きつけてやまない。
『バイオハザード ヴィレッジ』は、父が娘のため懸命にもがく物語
こうして村のディテールを楽しみサバイバル要素の強いゲームサイクルに没入していくと、ゲーム終盤へ向かうにつれて冒頭でクリスがイーサンたちを襲撃した目的やミアを射殺した理由など、散りばめられていた謎が怒涛のように解き明かされていく。
イーサンは、歴代シリーズの主人公のなかでも、殴られたりチェーンソーで腕を切られたりと、とりわけ悲惨な目にあってきたキャラクターだった。そんな彼が、なぜそのような凄惨な仕打ちをさんざん受けてきたにもかかわらずここまで活躍できていたのか。それに対する答えが提示される。
今作のストーリーを一言で表すなら「父が娘のため懸命にもがく物語」だろう。結末まで体験したいま、イーサンのローズを取り戻したいという想いは、前作での妻を探し出すという想い以上に確たる意思を持っていると感じる。
それはおそらく、自分の血を分けた子供に対しての絆や守るための覚悟というものは、他人である夫婦の関係性よりも強固だからなのだろう。そのイーサンの感情と恐怖に立ち向かっていく姿は、間違いなくプレイヤーの心に没入感を与えることに成功している。
これからイーサンとなり『バイオハザード ヴィレッジ』を遊ばれるプレイヤーへお伝えしたいのは、ぜひ『バイオハザード7 レジデント イービル』を遊んだときのことを思い出していただきたいということだ。
それほど今作は前作と一体となっており、当時の記憶を蘇らせて遊ぶことで物語へ一層没入できるだろう。その目と手でこのサバイバルホラーの世界から何としてでも娘を助け出してほしい。