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『バイオ7』脱落組の声から『バイオハザード ヴィレッジ』の目指した方向性「楽しいけど怖い」を考えてみた。「怖すぎる」と「人気シリーズの大作」のジレンマでの中でカプコンが示した“大作ホラーゲームの矜持”とは

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 1996年に発売された初代以来、時代とともに『バイオハザード』シリーズは極めて順調にナンバリングを伸ばしていった。シリーズを確立した初期3部作から、『バイオハザード4』から『バイオハザード6』までの三人称視点シューティングアクション路線。そこをすっぱりと捨て、一人称視点のサバイバルホラー路線を採用してリスタートを切った『バイオハザード7』の発売が2017年12月だ。

 そこから3年強の歳月の流れで、いったい「AAA級のホラーゲーム」はどれだけ存在しただろうか。

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『バイオハザード7』

 思い返してみても、目ぼしいビッグタイトルは『バイオハザード RE:2』『バイオハザード RE:3』のみ。つまりここ数年の間、ビッグタイトルのホラーゲームは、ほぼ『バイオハザード』フランチャイズしか存在しなかった

 もちろん、「ホラーゲーム」の数自体が少なくなったわけではない。「ニッチな需要」であり「市場的にホラーゲームはアクションゲームよりも小さい」という声や考え方がたびたび聞こえる中で、ホラーゲームを開発しようとする開発者の多くは小額資本のインディーに流れていった。現在はアセットを使い開発された小中規模のホラーゲームが、星の数ほど生まれては消えていっている。

 それは時代の流れの中で起こるべくして起こる必然とも言えるし、そういった現状が問題であると言うつもりもない。しかし一時代を築いた過去のホラーゲームのビッグタイトルたちが消えたいま、その黄金期に数々の作品を遊んできたホラーゲームのファンとしては、さみしく、憂うべき現状でもある。

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『バイオハザード RE:2』

 ともあれその分析はさておき、その冬の時代の中、たったひとりで気を吐いているのが『バイオハザード』であるのは間違いない。それはホラーゲームそのものを牽引しているというよりは、すでに無人の野を勇敢に独り往くような佇まいと言っても過言ではない。

 つまり大げさでも大仰でもなんでもなく、ほかに比較対象が存在しない以上、『バイオハザード ヴィレッジ』を考えるということは、少なくともここ数年のホラーゲームというジャンル自体を考えるということと同義である

 それは『バイオハザード』が前作で何を目指したか、今作で何を目指したかという自己に対する問いかけと、『バイオハザード』が『バイオハザード』をどう越えていこうとしているのかという一種のセルフアンサーを考えることにほかならない。

文/悲野ヒコ
編集/ishigenn


「恐怖」を軸に創られた傑作『バイオハザード7』

 2017年に発売された『バイオハザード7』は、バイオハザードが「ホラー」であることを強く主張している作品だった

 いままでにないまったく新しい主人公イーサン・ウインターズは、一介のシステムエンジニアでしかなく、一連の事件に巻き込まれたことすらない一般人だ。容貌、性格も含め、物語の登場人物としてのキャラクタライズを極力排した、あらゆる側面において「顔のない」主人公である。

 彼は失踪した恋人であるミアを探索してルイジアナ州にあるベイカー邸に辿り着き、何の事情も知らされないままに狂気の家族の中に放り込まれ、脱出を図る。

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『バイオハザード7』

 スターシステムを採用して軍事的な大規模戦闘まで描写した『バイオハザード6』の強烈なカウンターのように、極めて地味な登場人物と舞台設定。その設定と「恐怖」という概念への飽くなき探求心と洞察力、そしてそれを表現する高いセンスによって、本作は間違いなくナンバリング中もっとも強い恐怖心をプレイヤーに与えることに成功していた

 「何もわからないままに一般人へと襲い掛かる脅威」という強い恐怖体験から始まり、汚物や虫に対する生理的な恐怖、人間の人間に対する悪意に対する恐怖へ。多くの種類の恐怖を段階的に味合わせていくことによって、徐々にプレイヤーは状況に慣れていく。

 じつのところレベルデザインにおいて考慮される「楽しさ」と「面白さ」よりも、「恐怖」ははるかに複雑かつ繊細で強いストレス要因となりうる

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『バイオハザード7』

 『バイオハザード7』では、絶妙なゲームマネジメントによって視覚効果、音響、ストーリーテリングのエレベーションも含め、微に入り細に入った細かい調整が成されている。極めて執念深く「恐怖をつかさどるホラーゲーム」がどうあるべきかを考えられた、ジャンルにおけるゲームチェンジャーと呼ぶに相応しい出来栄えだった。

『バイオ7』ギブアップ組から見る「ホラーゲームが抱える問題」

 だがそれは少なくとも「ホラーゲームのファンにとっては」という但し書きがどうしても付きまとうジャッジにはなるのだ。

 つまり、少なくとも僕のような「ホラーゲームファン」にとって『バイオハザード7』は文句のつけようのない作品だったが、観測範囲内の知人、友人の中に冒頭20分以内でギブアップしてしまったプレイヤーがひとりやふたりではなかったという事実も見逃せない。

 口を揃えて出てくる言葉は「怖すぎる」「無理だ」「できない」。その中には旧来までの『バイオハザード』ファンもいて、今までの『バイオハザード』は楽しくプレイできたが、『バイオハザード7』はできなかったという例もあった。

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(画像はYouTube | バイオハザード ヴィレッジ×人形劇「バイオ村であそぼ♪」第1話より)

 愚察するに、おそらくこの現象はゲームプレイヤーのコミュニティのあらゆる場所で同じように見られた現象だ。それはけっして笑い話ではなく、つまりそのことこそが「ホラーゲーム」というジャンルが構造的に持つジレンマを端的に表している。

 ホラーゲームを批評するとき、僕は繰り言のようにこう書くのだ。「ホラーゲームにおける恐怖の度合いはそのまま難易度に直結している」と。

 そこまで意識しないかもしれないが、人間にとって「恐怖」の概念はつねに間近にいる隣人と表現できる。それは直接的な「死」に対する恐怖もそうだし、未来に対する恐怖でもあるだろう。
 あるいは過去の悔恨に対する恐怖、大切な人を失う恐怖、人に裏切られる恐怖。たとえば歩いていて横断歩道をわたるときに車の往来の様子を窺ってから渡るのは、裏に自動車事故の危険性に対する経験あるいは知識に裏打ちされた恐怖があるためだ。

 「恐怖」という感情は僕らが社会生活を営むためにもっとも重要な一種の安全弁としての機能を備えている。「恐怖」の感情はそれほど人にとって大切な感情であり、しかも生活全般に強く作用しているエレメントである。

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(画像はYouTube | バイオハザード ヴィレッジ×人形劇「バイオ村であそぼ♪」第1話より)
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(画像はYouTube | バイオハザード ヴィレッジ×人形劇「バイオ村であそぼ♪」第1話より)
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(画像はYouTube | バイオハザード ヴィレッジ×人形劇「バイオ村であそぼ♪」第1話より)

 一方で、個々人によってその閾値が大きく違う繊細な感情でもある

 前述したように「面白さ」、「楽しさ」という、生活そのものから少しだけ浮いている感情を喚起し、提供するシステムとは違う。「恐怖」という、ある意味で人の生活に密接に繋がっている感情をシステムとして創りあげ、さらにその精神的ストレスを最大公約数的にコントロールするというのは、じつは極めて困難だ。

 それゆえに、誰かが『バイオハザード7』の冒頭においてギブアップする、あるいは僕がかつて『SIREN』の冒頭で数時間何もできずにトラックの後ろに隠れていたような、恐怖という負荷によって「ゲームを進めることができない」ことになる。つまり「飛躍的な難度の上昇」という現象がおこる。

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『バイオハザード7』

 煎じ詰めて言えば、『バイオハザード7』は「ホラーゲーム」としての完成度は非常に高水準に収まっていたものの、『バイオハザード』フランチャイズが吸収してきたプレイヤーの裾野の広さを考えればビデオゲームとしてはあまりにも「ホラーより」だった

 つまり少し怖すぎる部分もあったのだ。それが三人称視点から一人称視点という仕様変更や、主人公が新しくなったことよりも、はるかに多くのユーザーを困惑させた理由だろう。これが素晴らしいホラーゲームが同等のクオリティのアクションゲームよりも売れる可能性が低いと市場的に判断される、根本の理由でもある。

恐怖とゲームプレイを両立させた『バイオハザード ヴィレッジ』

 それでは3年後のいま、新しく生み出されたナンバリング最新作『バイオハザード ヴィレッジ』はどのような発想で作られ、それはどこまで成功しているのか。製作陣が前作で得た教訓をふまえ、どこまでの「恐怖」を作り、そして『バイオハザード』という巨大なIPに期待する非常に広い層にどこまで希求できるのか

 結論から言えば、僕の想像以上に『バイオハザード ヴィレッジ』はその「恐怖」と「ゲームプレイの楽しさ」の両立について考え抜かれていた

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『バイオハザード ヴィレッジ』

 前作から引き続き主役を務めるイーサンの立ち位置。3年前は無辜の一般人であった者が、「ベイカー邸」で起きた惨劇から無事に戻り、救い出したミアと結婚して東ヨーロッパで暮らしている。

 以前の経験、さらにはそのあいだ戦闘訓練も受けていたイーサンは、すでに今作の冒頭では一般人とは言えない

 そのバックグラウンドは無論のことプレイヤーの記憶下にある感情によるものだ。映画『エイリアン』『エイリアン2』のエレン・リプリーはそれぞれの作品でたくましさの質がまったくの別物だし、『ハロウィン』のローリーストロードは時を越えてマイケルに復讐を果たすほどになる。つまり強い経験が人を変えるという共通認識によって、プレイヤーはその眼に見える情報の質を変えている。

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『バイオハザード ヴィレッジ』

 そういったゲームのみならずエンターテイメント作品が共通して抱えるその一種のジレンマは、これまでさまざまな作品に存在していた。『バイオハザード』シリーズの登場人物も御多分に漏れずそうだ。クリスやレオンでプレイしているということは、過去作で恐怖や苦難に立ち向かえたキャラクター像として、プレイヤーに投影される。

 つまり人はたったそれだけの情報で恐怖心が薄まるものだ。イーサンもやはり物語冒頭からある程度戦える能力を示す。『バイオハザード7』ではゲームにおけるモブ敵は冒頭では出現せず、逆にそれがそこはかとない恐怖心を煽る一因になっていたものが、本作ではかなり序盤から戦闘するシーンがある。

 それは続編ものでは当たり前の光景だが、『バイオハザード7』から『バイオハザード ヴィレッジ』へのかけ橋のシーンだと考えれば、恐怖という意味で相当ストレスの軽減効果に繋がっている。おそらく前作の冒頭で躓いたプレイヤーに対する配慮にもなっている。

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『バイオハザード ヴィレッジ』

 入りは極めてすんなり。さらに前作のように個人の邸宅ではなく、東ヨーロッパのどこか現実離れした村とその周辺。恐ろしさや汚らしさよりも荘厳さや幻想的な空気の漂う舞台は、恐怖よりも目を見張る美しさである場合も多い。

 ゲームプレイにおいては前述のように冒頭部分から終盤にいたるまで戦闘回数も多く、村に隠された探索要素やギミックも多い。商人の登場で想起する人も多いだろうが、要素としては『バイオハザード4』を彷彿とさせる。

 一方で中心に村が据えられているステージ構成は前作に近く、同じ場所を回りながらの探索の楽しさを際立たせている。

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(画像はYouTube | バイオハザード ヴィレッジ×人形劇「バイオ村であそぼ♪」第1話より)
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(画像はYouTube | バイオハザード ヴィレッジ×人形劇「バイオ村であそぼ♪」第1話より)

間口を広めつつも示すAAA級ホラーゲームとしての「恐怖の矜持」

 しかし個人的に『バイオハザード ヴィレッジ』のもっとも強い美点はそれでもなお『バイオハザード』は「ホラーゲーム」であるという矜持と拘りを感じさせる恐怖演出の部分にある。

 レベルデザインにおいて緊張感の抜ける場所が少なく、恐怖というよりも緊張感の強いゲームプレイの中で、ピンポイントで人によっては前作を超えるかもしれない恐怖演出を織り交ぜている。どこがどうと具体的なことは言及しないが、精神的なホラー演出では前作をはるかに上回るのではないかと思う

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『バイオハザード ヴィレッジ』

 先に進むことを躊躇するシーンが意図的に作られており、前作の強い「ホラー寄り」のゲームから「ビデオゲームらしさ」あるいは『バイオハザード』らしさ」が追及されている全体の枠組みの中に、しっかりと「恐ろしさ」の裏打ちを残しておくことに対する思いが感じられる。

 逆に言えば、確実に「恐ろしいシーン」があるからこそゲームプレイ部分で戦闘、探索、物語に没入できる設計を実現できたとも言える。

 前作『バイオハザード7』が、いまの「ホラー」とはどうあるべきかの試行錯誤の元に作られた素晴らしい「ホラーゲーム」だった。一方で『バイオハザード8』は、いまのAAA級に求められるエキサイティングで同時に深みのある「プレイ体験」を「ホラー」を通じてどうより多くのプレイヤーに味わって貰うかという、一見して近いようでまったく別の視点から作られていると考えていいだろう。

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『バイオハザード ヴィレッジ』

 冒頭で書いたように、もはやいま現在、AAA級の「ホラーゲーム」はほぼ存在すらしない。その現状の中、『バイオハザード』だけが己の道をぶれずに追いかけていることに個人的には感動すら覚える。

 その現状をどう捉えるのかは市場が答えを出し、企業がそれに対応するものなのだろう。しかしそれでもかつて数多くあった「ホラーゲーム」の息遣いがいまだ現代に続いていてくれたことに幸せを感じるし、できればこれからもそれを感じ続けたいと願ってしまう。

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『バイオハザード ヴィレッジ』
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『バイオハザード ヴィレッジ』

 そして今回の『バイオハザード ヴィレッジ』は、ゲームとして、ホラーとして、おそらくプロット段階から決められていたであろう「イーサン・ウインタース」という不運な男の「連作」その美しい締めくくりとして非常に贅沢な時間だった。

 ホラーゲームのファンの視点は、そうではないプレイヤーの視点とは違うのかもしれないが、たとえそうだとしても僕が本作をプレイしている時間が信じられないほどの至福の時間だったことは疑いようがない。総プレイ時間12時間弱、それはただただ贅沢な時間だったし、数多くビデオゲームをプレイしてそう多く味わえる瞬間ではない。

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ライター
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悲野ヒコ
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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