パズルに向き合う楽しみとはいったい何なのか。頭を使っているときの感覚が好きな人もいれば、解き終わったときの達成感が好きな人もいるだろう。誰もが音を上げるような難問を解き、高らかに自慢するのが好きという人もいるかもしれない。
逆に、パズルは嫌いだという声もところどころで聞く。アクションゲームの間に挟まれる謎解き要素を邪魔くさく感じる人は少なくないのではないだろうか。かくいう筆者も、ミニゲーム的にパズルが用意されたゲームだと、実績のコンプリートを諦めがちである。
パズルというのは目標が比較的わかりやすいアクションなどと異なり、解決の道筋が見つかるまでおおよそ不自由なものだ。出題者の提示したいくつもの道筋から、正しいものを選ばなくてはならない。それ以外はハズレ、失敗、ゲームオーバー。自由に何でもできたらパズルにならないので当たり前の話だが、そこに閉塞感を抱いてしまう者がいてもおかしくない。
今回紹介するタイトル『Evergate』は、2Dアクションパズルゲーム。古典的なステージセレクト制が採用され、道筋は一本のみ。言ってしまえば遊びの自由度は低い。広大なワールドマップもなければ、多種多様な会話パターンが用意されているわけでもない。目の前のパズルに向き合い、ゴールにたどり着き、次のステージへと向かうゲームだ。
──だが、この不自由さやパズルに感じがちな閉塞感こそが『Evergate』最大の魅力の伏線なのである。
この魅力の真髄は、語りすぎればネタバレになり、しかし語らなければ伝わらない。お仕事としては非常に厄介なタイトルを抱えてしまった。が、それでもなお筆者は言える。『Evergate』を自力でクリアして本当に良かった、と。
シンプルな操作性と誰でもプレイしやすい調整
まず初めに『Evergate』がどんなゲームなのかを簡単に説明したいと思う。前述したとおり2D横スクロールのアクションパズルで、主人公「キー」(Ki)が能動的に行えるアクションはとても少ない。左右の移動と、空中で一度きりのジャンプ。そして本作のパズルの軸であり、ストーリー的にも重要な意味を持つ「ソウルフレーム」(Soulflame)だ。
ソウルフレームはキーの周囲360度に向けることができる直線状のレーザーで、障害物さえ無ければどこまでも届く。さらに狙いを定める間は時間の流れがゆっくりになるので、空中を移動していても落ち着いて操作ができる。
このソウルフレームで、マップに存在する白い壁やブロックの「エン」と「クリスタル」を同時に撃ちぬくと、クリスタルの効果が発揮され種類に応じたアクションが施される。効果としては、大ジャンプ、テレポート、足場の生成など、ジャンプだけでは行けない場所に届くための足がかりとなるものが多い。
クリスタルはゲームを通して10種類が登場。これらはチャプターの進行に応じてひとつずつ増えていく。そのため、序盤では比較的簡単なパズルでゲームシステムや操作感になれることができる。そして終盤でも新たな要素が追加されていくため、ゲームを通して飽きにくいというのも本作の長所だ。
また、ひとつのチャプターにステージは7つ。この「7」という数も絶妙な調整だったように思えた。ステージ1、2で新しく登場したクリスタルの使い方を学び、応用を経ていくとチャプターが変わり、新たなクリスタルが登場してくる。学んで、使いこなして、次のステップへ、とテンポよく楽しむことができる。
難点としては、新しいクリスタルが出てきたときに効果のほどが分からないことがあげられる。最初の1回はリセットを前提として、とりあえず試してみるところから始めなければならない。
デスペナルティやリセットの制限はないので、直接的にデメリットを背負うことはない。しかし、ショートムービーなどで効果を紹介してくれてもよかったのでは、と感じた。
なお、リセット機能はワンボタンで行える便利な設計となっている。ステージの途中にチェックポイントのようなものはないが、そもそもひとつのステージが短いのでリトライのストレスは非常に少なかった。トライアンドエラーを繰り返し、ようやくクリアできたときの快感は本物だ。
総合的な難易度は、とくにパズルゲームをやりこんだことのない筆者からすれば、丁度いいくらいのレベルだった。マップの構造とクリスタルの配置から、今できることの選択肢を狭められるので「何をしたらいいかさっぱり分からない」ということはまず起こり得ない。
とりあえずできることを試して、ダメならリセット。それを数回繰り返せば自然と解法が見えてくるようになる。
また、前述のとおりソウルフレームの発動中は時間がゆっくり進むため、アクション面の心配はあまりしなくても大丈夫だろう。エイムアシストや無敵モード、といったお助け機能も用意されているので「パズルは好きだけどアクションは……」という方にも本作はおすすめできる。
達成感を強めるチャレンジ要素
次に、各ステージに用意された3つのチャレンジ要素について。こちらは一部を除くほぼすべてのステージで同じものが用意されている。花びらの収集、すべてのクリスタルの消費、そしてタイムアタックだ。
花びらは各ステージに3つずつ配置され、すべて回収した状態でゴールにたどり着くとチャレンジ達成となる。こちらもクリスタル同様、獲得できるルートを探ることでゴールへの導線となる場面もあった。しかし、基本的には回収することでステージの難易度は確実に上昇する。クリスタルの使い方だけではなく、ジャンプのタイミングなどまで工夫する必要が生まれがちだ。
全クリスタルの消費、こちらは序盤ほど達成しやすく、種類や数の増えた終盤は難しくなってくる。使い切りたいあまり、余計なクリスタルに手を出して痛い目を見たことも一度ではなかった。初見プレイ時に達成を狙いすぎず、とりあえず一旦はゴールへの道筋をはっきりと掴んでから工夫を凝らすと効率的だろう。
そしてタイムアタックだが、筆者はこちらはほとんどクリアできていない。もともと素早い操作が苦手ということもあり、パズルゲームで思考の時間を制限されるのは、まず初見プレイでは無理だろうと思い無視していた。
後述のアイテムを用いることで大幅なショートカットが可能となるステージもあるので、周回プレイの際に狙うのが吉だろう。なお、タイムアタックのカウントだけはソウルフレーム使用時も容赦なく減っていくので注意が必要だ。
さて、筆者がわざわざ苦労してチャレンジを達成するプレイングを心がけていたのにはちゃんと理由がある。チャレンジをクリアし獲得できる「エッセンス」をためていくことで順次アイテムが解放されていくのだ。
アイテムはひとつまで装備することができ、種類に応じてキーをパワーアップさせてくれる。効果はジャンプや移動といった基礎性能を向上させるものや、クリスタルの効果を強化するものなどさまざまだ。ステージによっては、特定のアイテムの有無で難易度が大きく変わるものもあった。
ステージの攻略にスパイスをくわえるチャレンジと、報酬のエッセンス。より難しい問題に挑戦することで、その後の進行を簡単にできるという、極めてシンプルながら達成感を感じさせる構造が生まれていた。
幻想的なビジュアルと荘厳なBGMで彩られる『Evergate』の世界
「Welcome back to the Afterlife, Ki」と公式サイトで明言されているように、キーはかつて人間に入っていた魂のようなものらしい。肉体が滅ぶと魂はエヴァーゲートへといたり、時を経て新たな肉体へ入る、というのが本作のおおよその設定である。
キーはエヴァーゲートから本の形で記憶を受け取り、その記憶の中身をひも解いていくのが本作のパズルパートということになる。
『Evergate』を初めて見たとき、もっとも印象的だったのはそのあたたかく幻想的なグラフィックだった。ゲーム中に登場するロケーションは実在する地名をかかげたものも多く、それぞれ特徴をとらえた背景が描かれている。
チャプターの間に訪れるエヴァーゲートの場所「異界」の雰囲気も独特だ。宇宙空間から眺めたような地球の姿。背景に並ぶ無数の本棚。フードをかぶった名も知らぬ魂たちに話しかければ、哲学的な言葉が返ってくる。
しかし本作のストーリーは、ただ問いが散りばめられているだけのものではない。明確なストーリーラインがしっかりと語られる。ファーストインプレッションでは雰囲気重視の薄味なゲームかと思いきや、むしろストーリーの主張が強く、それにゲーム的な演出が合わさることで大きな魅力を引き出しているタイトルだ。
序盤から中盤にかけて、物語は言葉よりもむしろ絵で紡がれる。ステージ間ではさまれるいくつもの風景がプレイヤーの想像力を刺激し、今後描かれていくであろうストーリーに思いをはせることができる。
ロケーションも多様で、遠い昔から未来まで、さまざまな風景を見ることができた。セリフがなくとも、キャラクターの感情や情景が伝わってくるこのビジュアルの表現力は確かなものと言えるだろう。
演出におけるもうひとつの強力な要素、音楽についても触れておこう。本作の音楽は、すべてオーケストラの生演奏が収録されているそうだ。ステージやストーリーにフィットした曲調で、きっとプレイヤーの心に強く作用する。
また、パズルを解いているときには過度に主張せず、手を放せるカットシーンでは少しプッシュしてくるなど「ゲーム音楽」らしい心遣いも感じられた。
Steamでは全36曲が収められたサウンドトラックを販売しているほか、Spotifyなどのサブスクリプションサービスでも聞くことができる。筆者も、こちらのレビューを執筆する傍ら流していた。クリアした今となっては『Evergate』の世界に浸る上で、かかせない音楽だと思う。
何が何でも最後までプレイしてほしいという話
『Evergate』は優れた音楽とビジュアル、そして丁寧に難易度が調整されたパズルを擁している。思考の楽しみを感じることもできれば、アクションやパズルが苦手な人でも攻略できるよう工夫されている。しかし、何度でも言おう。本作の素晴らしさは、けっしてそれだけではない。むしろ、それらは『Evergate』の真骨頂を作り上げるパーツだ。
『Evergate』の真髄はエンディング近くからの演出にある。細かに説明できないことがとてももどかしいが、仕方がない。何故なら、プレイヤーが自分の力でそこまでたどりつくことが、何よりも重要な要素だからだ。
このレビューを書くにあたり、Steamの実績でクリア率(メインストーリークリアで入手できる実績の獲得率)を確認したところ、なんと12%程度だった。購入した中でも90%近くのプレイヤーが『Evergate』で一番素晴らしいところに辿り着いていなかったのだ。
彼らが何を思い、プレイを中断してしまったのかは分からない。パズルが面倒になったのか、チャレンジのコンプリートを狙うあまり飽きてしまったのか。冒頭でも書いたように、パズルという頭を使う娯楽はやはり敬遠されがちなのかもしれない。
しかし、それでも『Evergate』で筆者が最も魅力的に感じたイベントがごく一部のプレイヤーにしか伝わっていないのは、とても悔しい。さいわいなことに、本作はまもなくPS5とNintendo Switchでもリリースされる。可能な限り多くの人が『Evergate』に触れ、メインストーリーを楽しみきってくれることを願ってやまない。