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初見で散々苦しめられたボスが、2周目では嘘のように無傷で倒せるようになる──『メトロイド ドレッド』は2D探索型アクションの始祖にして頂点たる矜持を見せつけた傑作だ

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緊張状態からの解放を繰り返す癖になる快感と刺激に満ちた「恐怖」の要素たち

 そんな今回の探索には、強烈な新要素がプラスされている。
 サムスの命をいとも簡単に奪い取る最凶の敵「E.M.M.I.」だ。

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 今回の『メトロイド ドレッド』は「Dread」の言葉が物語る通り、「恐怖」をテーマに掲げている。迷路のように入り組んだマップの探索と並行して、絶望的な「恐怖」がサムスに襲い掛かるという刺激的な構成にまとめられているのである。

 ただ、メトロイドにとって「恐怖」は付きものでは、と思うところもある。

 現に過去のメトロイドにも何らかの恐怖が存在し、プレイヤーを節々で驚かせてきたからである。『メトロイドII RETURN OF THE SAMUS』の脱皮による進化を繰り返し、「デデデーン!」という衝撃のイントロと共に現れる「メトロイド」や、『スーパーメトロイド』のアイテムを取って間もなくサムスを襲い始める「鳥人像」などなど。

 特に『メトロイド フュージョン』以降のシリーズでは、プレイヤーに深刻なトラウマを植え付けかねない恐怖が描かれる傾向にあった。最強状態に扮した偽のサムス「SA-X」はその象徴的な存在といっても過言ではないだろう。

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 今回登場する「E.M.M.I.」はそんな「SA-X」と、初代『メトロイド』のリメイク『メトロイド ゼロミッション』の第2部でサムスを追撃した「ゼーベス星人」の流れを汲む存在として描かれている。
 彼らは「E.M.M.I.ゾーン」と称された区画にしか登場しないが、サムスの攻撃はビーム、ミサイル共に一切効かない。さらに音を検知するセンサーを展開しており、少しでもその範囲に収まってしまうと的確、かつ執拗にサムスのいる場所へと向かってくる。
 そして、そのまま接触して捕まってしまえば問答無用で即死。ゲームオーバーとなる。

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 一応、「E.M.M.I.」が光った瞬間にタイミングよく「メレーカウンター」を出せれば相手は怯み、即死を回避できるものの、その確率は1%。しかも、タイミングは毎回異なるため、狙って決めることは不可能に近い。

 そのため、生き残りたければ逃げるしかない。それも足止めさせる方法もないので、捕捉されないよう動き、ゾーンの外へと逃げるしかない。

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 「鬼ごっこ」をモチーフにした一連の展開は、「SA-X」や「ゼーベス星人」に近いが、「追跡されている時に足止めさせる方法がない」、「捕まれば即死」という2点でそれらを上回る脅威として描かれており、プレイヤーに紛うことなき恐怖を抱かせるキャラクターに完成されている。

 何より動きが怖い。ウネウネと関節を動かし、地や天井を這いながらこちらに向かってくるのだ。ロボットというよりはもはや生き物そのものであり、人によっては強烈な生理的嫌悪感を抱かせるだろう。

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 また、追撃の執拗さも背筋が凍るほどの恐ろしさがある。少し引き付けてから距離を稼いで撒こうと思ったら、その意図を読むかのように先回りしてきたり、方向転換して距離を縮めるといったことを平気で行ってくるのだ。
 まるでこちらの思考を覗き見られているような、高度な知能には度肝を抜かれること間違いなし。始祖に当たる「SA-X」、「ゼーベス星人」に追われた経験のある人も、技術の進歩というものを思い知らされるかもしれない。

 そんな完全無欠な「E.M.M.I.」だが、「オメガキャノン」なる武器さえ入手できれば倒せる。だが、この武器を手に入れるためには「E.M.M.I.ゾーン」内の「セントラルユニット」を破壊しなければならない。そのためにも何度か「E.M.M.I.ゾーン」に足を踏み入れては、「E.M.M.I.」に襲われないよう探索していくのだ。道のりは決して容易ではない。

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 ゆえに「オメガキャノン」を手に入れ、倒せる機会が到来した時の嬉しさは格別。それまで「恐怖」そのものだった存在を破壊し、「克服」できるのだ。嫌でも身が引き締まる上、やる気も増幅する。倒す際にその場に立ち止まってキャノンを構え、「E.M.M.I.」の装甲を破壊して、露出したコアを破壊するという、ひと手間必要とする過程もそのような気持ちを鼓舞させ、臨場感を大いに底上げする。

 そして見事、倒せた時は長き苦しみから解放されたかに等しい気持ちよさが襲いくる。併せて「E.M.M.I.ゾーン」内の自由な探索が可能になるご褒美も与えられて、達成感を確かなものにしてくれるのだ。

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 こうした“アメとムチ”の調整が絶妙で、単に怖いだけの存在では終わらない魅力を表現している。また、こうした「E.M.M.I.」との対峙が最初から最後まで繰り広げられるので、本編はまさに「緊張と弛緩の連続」とも言える構成にまとめられている。
 それもあって、全く持って退屈することがない。タイミングよく刺激が加わり、解放され、再び刺激が加わるという流れが繰り返されるのもあり、夢中になって進めていきたくなる圧倒的な中毒性が醸し出されているのである。

 これまでのメトロイドにて、さまざまな「驚き」をもたらした恐怖を全編に設けたに等しい作りで、それが退屈させる瞬間のないアクションゲームを確立させているのには感服するしかない。探索型という枠組みで見ても、「長丁場になりやすい」という特徴から派生する中だるみを防ぐ施策としても効果的に機能しており、ジャンル自体の弱点に対するひとつの回答になっているのが面白い。

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 「E.M.M.I.」については「何だか凄く怖そう」、「難しそう」という印象が付きまとうのも事実で、確かにそれは否定しないのだが、遊べば遊ぶほどにゲーム体験の「驚き」を保ち続けるための存在としての巧みな位置づけが見えてくる。

 なぜ、本作は今までのメトロイドでも付きものだった「恐怖」をわざわざテーマに掲げたのか。
 その理由は「最後まで退屈する瞬間のない探索型アクションゲームを確立する」ということにあったのではないだろうか。そのコンセプトを実現するキーポイントが、「E.M.M.I.」という恐怖の敵キャラクターに完成されているのだ。

 同時に、「E.M.M.I.」は今までのメトロイドにおける恐怖の集大成にもなっている。基本こそ「SA-X」、「ゼーベス星人」の流れを汲む存在だが、細かくその特徴を分解してみると、実にいろいろなメトロイドの要素を併せ持っているのだ。

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「E.M.M.I.ゾーン」全体の雰囲気は、プロデューサー・坂本賀勇氏の十八番「空気を操る演出術」の真骨頂。

 例えば彼らが登場する「E.M.M.I.ゾーン」の居心地の悪い雰囲気、不気味さは『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』の闇の世界「ダークエーテル」に近い。タイミングよくメレーカウンターが決まれば即死を回避できるのも、『メトロイド アザーエム』にあったトラップ同然のクイックタイムイベント(QTE)が脳裏を過ぎるものだ。そして「即死」。『メトロイド サムスリターンズ』にて原作の『メトロイドII』には登場しない新キャラクターとして登場し、衝撃的な破壊力で度肝を抜いた「ディガーノート」のそれだ。

 他にもいろいろあるのだが、そういったメトロイドの恐怖の歴史が凝縮されている点でも、「E.M.M.I.」というのは興味深いキャラクターだ。掘り下げれば掘り下げるほど、その奥深い魅力に魅了され、ついには「amiibo」を買うことにも繋がるかもしれない。

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 もちろん、筆者は購入済みである。

「立ち向かう恐怖」を描く高難度はプレイヤーを「最強なる戦士」に鍛えあげる

 「恐怖」を描く対象は「E.M.M.I.」に限らない。探索の過程でサムスに襲い掛かるボスたちもそのひとつだ。

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 いずれも苛烈な攻撃で攻めてくる強敵揃いであり、いわゆる「立ち向かう恐怖」というものを色濃く表現した存在として描かれている。特に中盤以降から現れるようになる鳥人族の兵士たちは、動きの俊敏さと多彩な攻撃パターンも相まって、まさにサムスの分身と戦うような緊張感と絶望感に満ちている。

 そして、こうした設定も踏まえ、ゲーム全体の難易度も高めに設定されている。『メトロイド フュージョン』や『メトロイド ゼロミッション』の時にあった難易度選択機能も存在せず、総じてプレイヤーの操作技術が試されるバランスだ。『メトロイド サムスリターンズ』に引き続き、敵の攻撃から受けるダメージ量も高めなので、力押しも通用しにくい。

 ただし、同作に引き続きゲームオーバー後も直前のチェックポイントから再開可能と、大きく戻されてしまうようなストレスは皆無。苛烈な攻撃でせめてくるボスたちも、初めはそれらに翻弄されがちだが、理不尽さは一切ない。というのも、どの攻撃の直前にも分かりやすい予備動作が描かれるようになっているからだ。最後に対峙するラスボスでさえ、そのルールは変わらない。

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 そのため、何度も繰り返し挑み続ければ自然に突破口は見えてくる上、華麗に一連の攻撃を避けられるようになる。そんな、段々とプレイヤーが銀河最強の戦士たるサムスとの一体感を感じられるようになっていくバランスは、シリーズにおいても随一といってもいいだろう。

 おかげで周回プレイ時には、1周目からのプレイヤーの成長が露骨なぐらい現れる。1周目の時、散々苦しめられたボスの攻撃をスムーズに回避したり、「メレーカウンター」による反撃チャンスを確実に決めるといった、紛れもない最強の戦士たるサムスの戦い方を自然にやれるようになるのだ。慣れてくると、コンマ1秒の隙を突いてミサイルを叩き込むという、高度なプレイを“サラリ”とやってしまうようにもなる。
 まるで反射神経が研ぎ澄まされていくかのような、覚醒した感覚が味わえるので、最低でも2周はプレイしてみることをおすすめしたい。

 でも、あんな強いボスたちにまた挑むのは……と思うかもしれないが、安心いただきたい。クリアした頃にあなたは「最強なる戦士」、作中に登場する鳥人族たちの言葉で言うところの「メトロイド」になっているのだ。【※】

『メトロイドフュージョン』取扱説明書41ページより。『メトロイド ドレッド』でも公式サイトのストーリー紹介ページに記されているほか、この意味を匂わせる演出がある。

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今まで主人公サムスを「メトロイド」と思い込んでいた人は多いだろう。だが、それも今回の『メトロイド ドレッド』をプレイすれば、全く間違った認識ではないと自信を持って誇れるようになる!

 さらに「メトロイド」としての己の力を高めたいなら、驚くべき対処法を編み出すことにも挑戦してみることも推したい。例えば「スピードブースター」から派生するアクション「シャインスパーク」でボスに大ダメージを与えるとか、本来の進行順序を無視してとあるアイテムを先行獲得し、特定のボスを一撃で屠るなどなど。

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 「そんな無茶な!?」と思うかもしれないが、いずれの例も実際に再現可能なものだ。真の意味でメトロイドになりたいのなら、あらゆる手を尽くしてみよう。

 とは言うものの、である。ひいき目に見てもアクションゲームが苦手な人には辛い難易度であるのは否定しきれない。また、前述にて操作性が素晴らしく、それを元にミスが生じたとの言い訳をさせない作りになっていると評した。
 しかしそれは裏を返せば、操作技術を磨き上げる意志を持って挑まねば、どんな強敵にも勝てる見込みはないということだ。雑に動かしているだけでも勝機が見えてくる程度に甘くはないのだ。
 そもそも、本作には何回かゲームオーバーになれば、難易度を下げてくれるような救済措置は存在しない。あるとすれば「敵の動きをよく観察して対処しろ」という、実力主義なアドバイスが出る程度である。本作の難易度設定と同じ精神を持つ、とある有名な剣戟ゲームの名台詞で例えるならば「迷えば、敗れる…」である。

 その意味でも、極端にアクションゲームが不得意、苦手な人には薦められない作りなので、該当する人はご用心いただきたい。

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 この高難度路線は『メトロイド アザーエム』の頃から顕著になり、『メトロイド サムスリターンズ』にも引き継がれ、再び今回も継承された訳だが、『メトロイド フュージョン』と『メトロイド ゼロミッション』の時の配慮を思うと、なぜこうも振り切るようになったのか疑問が残る。

 だが、この難易度だからこそ「E.M.M.I.」の恐怖を始め、印象深い要素が引き立っているのも事実なので、安易に欠点と言い切れないのが難しいところではある。理不尽さが一切ない点で見ても、むしろ評価点でもあるぐらいだ。

 では、明確に欠点と言えるものはあるのかと言われれば、エリア間移動のテンポだろうか。エレベーターやシャトルで移動中にやや長めのロード時間が挟まるようになった。

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 初代『メトロイド』を思えば、ある種の原点回帰ではあるのだが、ここしばらくロード時間をほぼ感じさせないメトロイドが続いてきたのを思うと、もう少し短縮できなかったものかと思ってしまった。

 エリア移動の際、どこと繋がるかを示す若干長めの演出が挟まるのもまた然りだ。
 また、ストーリーも時系列上の前作に当たる『メトロイド フュージョン』の設定を引き継いでいるため、ハードルの高さは否めない。

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 一応、オープニングでこれまでの出来事は最低限説明されるのだが、例えば「アダム」とサムスの関係などの細かい設定の掘り下げは省かれている。鳥人族がサムスを襲う設定も、これまでのメトロイドシリーズのストーリーを最低限把握しておかないと、いかに衝撃的か否か分かりにくいだろう。
 さらに鳥人族に関しては『メトロイド サムスリターンズ』にて新たに貼られた伏線に関連したイベントがあるほか、今や絶版状態にある漫画版『メトロイド』の設定に(少しだけ)踏み込んだ場面も用意されている。

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 幸い、全く知識がなくても大筋自体は分かりやすいので十分に楽しめるが、細かいところまでじっくり堪能したいなら『メトロイド フュージョン』と『メトロイド サムスリターンズ』は最低限、遊んでおくのがいいだろう。
 「アダム」の補足も兼ね、『メトロイド アザーエム』を押さえておくのもよい。

 問題は、どの作品も既に生産を終了したゲーム機でしか遊べないことなのだが。
 今回の『メトロイド ドレッド』を機に、過去のメトロイドへの興味を持つプレイヤーは相応に発生すると思われるので、できることならば、現行のNintendo Switchでも遊べるようになる展開が起きることを期待したい限りである。

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 他に細かいところで「セントラルユニット」にダメージを与えた際の演出が地味で分かり難かったり、アイテムのコンプリートに当たって「スピードブースター」をフル活用する場面が設けられがちなのもやや気になったところではある。

「メトロイドはメトロイドである」35周年記念に相応しい逸品

 非常に長々と綴ってきたが、結論はシンプルだ。『メトロイド ドレッド』は間違いなく傑作である。

 素晴らしく手触りのよい操作性、洗練されたマップ、(賛否分かれるところもあれど)絶妙な高難度、そして「E.M.M.I.」に象徴される刺激的な「恐怖」の要素。どこもかしかも完成度が突き抜けている。

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 何より、筆者としては、シリーズきっての素晴らしい操作性と爽快なアクションが強く印象に残った『メトロイド サムスリターンズ』の路線を引き継ぐ事実上の続編をこうして遊べたのが感無量である。

 何より、改めて「メトロイドはメトロイド以外の何者ではない」ことを実感させられた。

 ひと昔前とは異なり、昨今はインディーゲーム界隈の隆盛もあり、探索型のアクションゲームというものが飛躍的に増えた。それらはジャンルの始祖たる『メトロイド』と、その魅力を広げる立役者になった『悪魔城ドラキュラ(キャッスルヴァニア)』にちなんで「メトロイドヴァニア(メトロヴァニア)」と称されるようにもなり、さまざまなヒット作や新機軸の作品が誕生するに至っている。

 気が付けば、探索型のアクションゲーム好きにはたまらないパラダイスのような時代になった訳だが、そんな中でも『メトロイド』は他に取って変えられず、例えることもできない作品であることを、今回の『メトロイド ドレッド』は身をもって叩きつけてくれた。

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 サムスという最強の戦士を縦横無尽に動かせる楽しさ。彼女が孤独に、かつ勇ましく戦う姿。「飛んで跳ねて撃つ」ことに特化したアクションの数々。常にプレイヤーの「驚き」を求め、刺激的なゲーム体験の確立に挑み続ける制作姿勢。

 そして何より、操作技術が物を言う純粋なアクションゲームであること。

 それらはRPG由来の要素を持つ“ヴァニア”に寄った作品では決して味わうことがないメトロイドの強みであり、メトロイドがメトロイドたらしめるものだ。『メトロイド』は決して「メトロイドヴァニア」の造語で称せたり、例えられるものではない。

 『メトロイド』は『メトロイド』なのだ。35年の長き歴史を築き上げ、今後もその始祖にして頂点として君臨し続けるアクション&迷路ゲームなのである。

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 こうしてさまざまな探索型アクションゲームが誕生した今だからこそ、メトロイドの持つ唯一無二の個性、ジャンルの始祖であり、その最前線を走り続ける作品である重みはより感じやすくなっているように思える。

 そのことからも、メトロイドへの興味を持ちやすくし、知名度も上げた「メトロイドヴァニア」という造語の誕生、それに関係するインディーゲームの一部ヒット作には大きな意味があったのかもしれない。もしかしたらそれは、今回の『メトロイド ドレッド』の盛り上がりと、売上にも貢献しているのかもしれない。

 今後もメトロイドは、1人称視点が特徴の『メトロイドプライム』シリーズの新作、『メトロイドプライム4』の発売が控えており、さらなる新展開が期待させられる。横スクロールのシリーズも、本作のストーリーと結末を持って『メトロイド』に込められた意味が再定義されたので、次回作からは新章が開幕するのではないかとの期待が高まる限りだ。

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 このような今後への期待と、力強さを感じられる新作が35年目の記念すべき年に誕生し、体験できたことを本当に嬉しく思う。改めて、開発を担ったMercurySteamと、本作のアイディアを15年間も寝かし続けた後、見事、実現へと至らせたシリーズプロデューサーである任天堂の坂本賀勇氏へ感謝の言葉を送りたい。

 さらに今回の『メトロイド ドレッド』は、宣伝全般の力の入れ具合も大変素晴らしいものがあった。それに関わった担当者の方々にも。ひとりのファンとしてメトロイドを広めてくれたことに感謝したい。

 また、発売前後の宣伝にて本作に初挑戦され、メトロイドの魅力を個性豊かな形で伝えたYouTuber、Twitchストリーマー、VTuberの方々、そして声優の中村悠一氏にも多大なる感謝と、困難なミッションに挑まれたことへの敬意を表したい。

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 今なお遊ぶか遊ばぬか、迷っている人はいるかもしれない。
 言うことはただひとつだ。迷わず飛び込んでみるべし。
 その先には恐ろしくも素敵な体験が待つ。この傑作を見逃してはならない。

 そう『メトロイド ドレッド』は……「メトロイド、オモロイド」なのだ。

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しかし、ゲームとしての『メトロイド』はどうだろう?全体的にコアなユーザー間で支持されているマニアックな作品とのイメージが先行していて、その醍醐味や特徴、支持される背景はよく把握されていないのではないだろうか。
 実のところ、筆者も改めて考えてみると、『メトロイド』のゲームとしての醍醐味、支持される背景はよく分かりきれていない思いがある。

 そこで35年を迎えたこの日、改めて『メトロイド』のゲームとしての醍醐味、特徴、支持される背景などをシリーズの歴史も交えつつ、集約してみることにした。これが少しでもメトロイドというゲームの特徴、魅力を把握する一助になれば幸いだ。

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ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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