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『Pokémon LEGENDS アルセウス』はポケモンの原点「昆虫採集」に立ち戻った「最もポケモンらしいポケモン」だった

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 『ポケモン』シリーズは捕獲、交換、対戦、ストーリーとさまざまな角度から楽しめる作品だが、その原点となったのは、ポケモンの生みの親である田尻智氏が少年時代に体験した「昆虫採集」であった。

 人が何かをきっかけに虫に興味関心をもち、外に出て歩き回り、虫を見つけ出して捕獲していく……それが「昆虫採集」だ。その目的は、数多く捕まえるのか、特定の虫を探すのか人によってさまざまだろうが、いずれにしても「見つけ出して捕獲する」という行動を繰り返していくことになる。

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 『Pokémon LEGENDS アルセウス』の目的は「全てのポケモンと出会うこと」であり、そのために、ポケモン図鑑の完成を目指していくが、先行プレイ記事にもあるように、従来のゲームシステムが刷新され、図鑑の完成に向けてポケモンの「捕獲」に特化した作品となっている。

 一部例外はあるが、大半のポケモンは捕まえるための戦闘すら省くことができ、捕獲を存分に楽しめる本作は、ポケモンの原点である「昆虫採集」という基本のコンセプトに立ち戻っており、ある種「最もポケモンらしいポケモン」といえるのではないだろうか。

 本稿では、この「捕獲」に特化した本作の魅力を中心にお伝えしていこう。

文/flamingo
編集/実存


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初見では見抜けない驚きだらけのポケモンの生態

 「捕獲」に特化しているなら「とりあえず『Pokémon GO』みたいにバンバン捕まえていればいいんでしょ?」という軽い気持ちでプレイすると、残念ながら筆者のように痛い目にあう。

 ということで、まずは捕獲対象となるポケモンの生態をみていくと、たしかに、コイキングビッパのように、明らかにおとなしそうなポケモンなら乱獲できるし、ミミロルコロトックのような近づくと逃げるポケモンもいた。

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 一方で、案の定、ズバットイシツブテのようないかにも気性が荒そうなポケモンは平気で襲ってくるし、ギャラドスは「きょうあくポケモン」の名の通り、はかいこうせんをキメてきた。

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 ギャラドスはこうでなくっちゃね。という気持ちもあるが、それにしても容赦ない。はかいこうせんがデカすぎて普通に怖い。身体が溶けそう。

 ギャラドスのように全てのポケモンが見た目でおおよその行動が予想できればまだいいが、そんなことはなく、予想外のほうが多いのが本作の面白いところ。

 筆者が印象に残ったのは、ロゼリアだ。
 いやだって、GBA時代のドット絵は目を瞑っておだやかな顔しているし、進化前のスボミーは可愛いし、図鑑でも「はなの かおりは きもちを なごませる。」とか言っているじゃないか。

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 それなのに、プレイヤーめがけて毒を打ってくる。なんかもうドバドバと。
 そばにいるミツハニーはミツハニーで、蜂なのに無害そうに飛んでいるからそっちに逃げてなごむわ、といった具合だ。

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 本作はポケモンの生態もまだまだ未解明の時代。作中で何度も「怖い生き物です!」と念を押されるように、ポケモンはペットのような可愛らしい存在ではなく「未知の生き物」としての側面が全面に押し出されているからなのだろう。

 その他にも夜になるとゴースフワンテなどゴーストポケモンが大量に出てくるし、大概襲ってくるので、夜のほうが物騒なのはポケモンの世界も同じらしい。

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 このように、フィールドでは何もしないおだやかなポケモン、逃げるポケモン、襲ってくるポケモンの大まかに3種類が存在する。とはいえ、そのようなさまざまな行動をするポケモンたちがフィールドの至るところにごちゃ混ぜで存在するため、たくさん捕獲することができるにはできるが、気の抜けない探索となっている。

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 「静かな森に入ったし、ちょっと落ち着けるか」と思った瞬間、目の前にストライクが出てきて素早く襲ってくるということもあった。現実世界でもでかい虫がいきなり出てきて飛んできたら、蛾でも無害なカナブンでも、とりあえずビビると思う。
 そういった偶発的な遭遇による怖さみたいな感覚も、これまでのポケモンにはない、本作ならではのリアルな体験といえるだろう。

「捕まえる過程」も含めてリアルに体験できる

 そんなさまざまな行動をするポケモンたちの捕まえ方も、またバリエーション豊かに用意されている。プレイヤーによっていろいろなやり方でポケモンを捕まえる楽しみがあるのだ。

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 ポケモンに気付かれないように物陰から、息を潜めてボールを投げる。アイテムで気を引いたり、身を隠して捕まえるのが、おそらく正攻法だろう。

 筆者の場合は、序盤で道を遮るオヤブン個体のビーダルにボコボコにされたことがトラウマとなり、「ポケモンは怖い生き物」という価値観に染まってしまっていた。なので、捕まえやすさや気付く気付かれないとかは二の次で、とりあえずより遠くから「フェザーボール」を投げることに徹した。

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 フェザーボールは本来、素早いポケモンや空高く飛ぶポケモンの捕獲に有効なので、地上のポケモンに使うのは邪道かもしれない。
 ただ、フェザーボールは普通のモンスターボールと違ってまっすぐな軌道で、かつ遠くまでよく飛ぶのがとてもありがたい。とにかく、ポケモンに近づきたくない方には強くおすすめするボールだ。邪道かもしれないが(2回目)。

 フェザーボールを使えば、強力なオヤブン個体も「とりあえず遭遇したら見つからない距離からフェザーボールを投げて、ダメだったらさっさと飛んで逃げる」という超チキン戦法をとることも可能だ。一応、運が良ければそれでも捕まえられるので気になる方は試していただきたい。

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 ちなみに、電ファミの編集者は「オヤブン個体はけむりだまを投げて近づいてからエサを投げ、エサを食べてるうちに後ろからメガトンボールを投げる」と言っていた。オヤブン個体に近づく勇気がある方は、おそらくこちらの手段のほうが捕獲率は高いだろう。

 このように、「オヤブン」個体の捕獲をひとつとっても、プレイヤーによって捕まえ方に差が出てくるゲームなのである。

 ちなみに、編集者と解釈が一致したのは「マンタインはゼロ距離で捕まえる」ということ。

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 水上では身を潜めることができず、ボールの照準を合わせにくい。
 特に、タマンタマンタインは襲うことも逃げることもしないが、海から出て飛んだりしているのでなかなかボールを当てられない。
 なので、着水タイミングを狙って、ゴリ押しで捕まえるのが手っ取り早かったりする。

 空を飛んでいたら「ピロリン★」というSEが鳴ったので降りてみたら、そこには色違いのムックルが。「うおおおおおお!!」とテンションが上がったわけだが、本作ではここで一旦、冷静になる必要があった。

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 従来の『ポケモン』シリーズなら(『ピカブイ』を除けば)、一度遭遇すれば倒しさえしなければほぼ捕まえられるのだが、本作では気づかれると戦闘に入る間もなく逃げられてしまう場合があるからだ。
 ムックルは臆病なポケモンなので近づきすぎると逃げてしまうし、それは色違いも例外ではない。

 ミスったらどうあがいても絶望なので、いつも以上に緊張する捕獲になったといえるだろう。
 「そら、鳥なんだから近づいたら飛ぶわな……」と、上野公園前の広場にいる鳥たちを思い浮かべながらムックルを捕まえる筆者だった。

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 また、フィールドでは稀に「時空の歪み」とよばれる空間が出現する。中にはポリゴンなど珍しいポケモンも出てくるが、時空の歪み内で出現するポケモンは基本的に気性が荒いうえ、一度に2〜3匹の集団で襲いかかってくる。

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 多勢に無勢を強いられることになるので、いつもの捕獲とはまた違った戦法を考える必要があるのだ。

 このように、本作での「ポケモンの捕まえ方」にはプレイヤーによってさまざまな方法があり、これといった正解があるわけではない。 それはまさに現実世界での「昆虫採集」と同じなのだ。セミを捕まえるのに、網を使うのか、そっと後ろから掴むのか。トンボの前で指をグルグル回してひるませるのか、ゴリ押しで羽をつまむのか。

 ボールを投げて揺れるのを見ながらボタンを連打して、「捕まれええええ」と念じる従来の『ポケモン』も楽しいが、そんな「捕まえる過程」も含めて体験できる・楽しめるのが本作の最も大きな魅力といえるだろう。

捕獲ありきでガラッと変わった戦闘と育成

 「ポケモンの捕獲」に特化した本作では、『ポケモン』シリーズの大きな柱のひとつである戦闘・育成システムも、そのコンセプトに即してガラッと様変わりしている。

 先ほど「オヤブン個体のビーダルにボコボコにされた」と述べたが、本作では20レベル差くらいあっても平気でごっそりHPを削られ、2連続で敵が攻撃することもザラにある。おそらく、従来のシリーズとはダメージやステータスの計算式も変わっているのではないだろうか。

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 つまり、かなりの頻度でポケモンが瀕死になる。
 丁寧に1体1体倒そうとすると、とてもじゃないが身がもたない。

 ということで、オヤブン個体のビーダルに完全敗北し、序盤にして「目の前が真っ暗になった!」を喰らったわけだが、このことから、筆者には従来の戦闘が「勝つために能動的に戦うもの」であれば、本作はポケモンに襲われて「戦うことを余儀なくされたとき、受動的に初めて戦うもの」という位置づけのようにみえた。

 そして、オヤブン個体のビーダルに関していえば、戦ったとしても頑張って勝ちに行くのではなく、「無理だとわかった瞬間にさっさと逃げる」のが正解だったと今では思う。

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 状態異常のねむり状態も「ねむけ」に変わり、毎ターン動けないわけではく、まひ状態のように、確率で動けたり動けなかったりするので、「ポケモンを眠らせてから安全に捕まえる」という定石も崩れた。
 ヒスイ地方では、従来のシリーズでは定番の捕獲要員だった「キノコのほうし」「みねうち」を覚えさせたドーブルエルレイドはお役御免らしい。

 戦闘システムのこうした変化により、いわゆる「強いポケモン」の定義も従来のシリーズとは異なってくるように思えた。
 今までは「強いポケモン」といえば素早くて攻撃力が高かったり、技の範囲が広かったりといったイメージが強かったが、今作では野生ポケモンの苛烈な攻撃を耐え、適度に体力を削り、捕獲をサポートしてくれる高耐久・高耐性のポケモンが心強く、「強いポケモン」と感じられるのである。

 たとえばなかなか捕まりにくい格上のオヤブン個体でも、相手の技がノーマルタイプ中心であればいわタイプやゴーストタイプのポケモンを繰り出すことで、ボールを投げるターンをかなり稼ぐことができる。
 あるいは、「でんじは」でまひさせつつ「バークアウト」で攻撃力を下げ、「ねむる」で削られた体力を回復できるレントラーや、「ねむりごな」を持ち電気無効・粉技無効の耐性を持つドダイトスなどは優秀な捕獲要員となってくるのだ。

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 そんな戦闘すら捕獲ありきの本作だが、シリーズ伝統の「個体値」「努力値(きそポイント)」まで廃止されたのだから驚きだ。

 従来でいう「厳選」をしたければ、本作では「せいかく」のみ意識すればよくなった。
 さらには、ストーリーを進めるとせいかくによる能力補正を変化させられる「ミント」を栽培できるようになるため、最終的にはせいかくすらも厳選する必要はなくなってくる。

 努力値に代わるものとしてアイテム消費でステータスをあげられる「がんばレベル」があるが、レベルの段階は各ステータス10段階と、0〜255の値を割り振る努力値と比べても簡略化されている。

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 最初は「そこまで変えちゃっていいの?」思ったが、遊んでいるとこれが正解だったと思えてくるから不思議だ。主な育成要素となる「がんばレベル」を上げるアイテムも、オヤブン個体を捕まえたり、捕まえすぎたポケモンを逃がすことでザクザクと手に入る。

 つまり、ポケモンを捕まえていれば勝手に育っていくようになっているのだ。ゲームのコアを「捕獲」に振り切ったからこそ、これほどの大胆な割り切りができたのだろう。本作は「とにかくポケモンの捕獲を楽しもう!」というゲームなのである。

これこそが「ポケットモンスターのせかい」だった

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 シリーズ初代『ポケットモンスター 赤・緑・青・ピカチュウ』の冒頭でオーキド博士は次のように言う。

 はじめまして!
 ポケット モンスターの せかいへ
 ようこそ!
 (中略)
 この せかいには
 ポケット モンスターと よばれる
 いきもの たちが
 いたるところに すんでいる

 この「ポケットモンスターの せかい」、「いきものたちが いたるところに すんでいる」をもっともリアルに感じることができるのが、本作『Pokémon LEGENDS アルセウス』なのではないかと思う。

 そこらじゅうにポケモンがいて、それぞれが自由に生きている。
 人を見つければ、リアルの生き物のように逃げたり、時には襲ってくる。
 プレイヤーはその生態を知るために、フィールドを歩き回り、ポケモンを探し出し「捕獲」して調査を進める。

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 「捕獲」に振り切ったがゆえに、これまでの『ポケモン』シリーズに対して「対戦」や「育成」を求めていた方には物足りなさもあるかもしれない。
 とはいえ、『ポケモン』の魅力を新たな角度から再定義したという点で、本作が歴とした『ポケモン』シリーズに連なる一作であることは間違いないだろう。

 なにより、「ポケットモンスターの せかい」をリアルに感じ、そのゲーム性から『ポケモン』の原点である「昆虫採集」という基本のコンセプトに立ち戻ったという意味では、「最も『ポケモン』らしい『ポケモン』」とまで言える仕上がりとなっている。
 対戦でも捕獲でも、ポケモンに少しでも興味があれば、ぜひオススメしたい作品だ。

ライター
少年時代をポケモンとともに過ごし、これからもポケモンと生きようとする埼玉育ち。元IT系編集・ライター。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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