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なぜSONYは15万円のゲーミングモニターを今販売するのか。メディア向け説明会から見えてきた新ブランド「INZONE」の戦略

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 ソニーは6月29日、同社が開発するゲーミングギア専門の新ブランド「INZONE」(インゾーン)を発表し、ゲーミングモニター「INZONE M」シリーズ2機種とゲーミングヘッドセット「INZONE H」シリーズ3機種を発売すると発表した。

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ソニーがゲーミングギア新ブランド「INZONE」(インゾーン)を発表。ゲーミングモニターとゲーミングヘッドセットが7月8日に発売決定

 本商品の大まかなスペックは、本日の午前中に公開された既報のとおりだ。

 あのソニーがゲーミングデバイスに参入したという話題性に加えて、PS5との連携が用意されている。いっぽう、モニター「INZONE M9」の15万円という強気な価格設定や、各社からさまざまなゲーミングデバイスが販売されているなかでの強味が不明瞭であることから、違和感を抱く読者も少なくないだろう。

 この度、都内で開催されたメディア向けの発表会に参加する機会を得た。本作のスペック情報と共にプレゼンされたコンセプトは、読み取り辛かった「INZONE」の戦略性を明らかにするものだった。

 その戦略性の答えは、「INZONE」の第一弾がモニターとヘッドセットであることが象徴している。結論から言えば、「INZONE」はソニーがこれまで培ってきたノウハウや最新技術をゲームに最適化したブランドなのだ。

 発表されたモニターは「ブラビア」の技術を、ヘッドホンは「WH-1000XM4」のノイズキャンセリング、「Xperia 1 III」より運用が開始された「360 Spatial Sound」を活用しており、その上でストイックなゲームプレイに必要な性能が実装されている。

 記事本文では、商品の具体的な機能や、メディア向け発表会をもとに、より具体的にINZONEの戦略を読み解いていこう。

文/りつこ

「ブラビア」を継承するビジュアルと高いリフレッシュレート&応答速度を両立

 オープン価格が15万円のゲーミングモニター「INZONE M9」は4KでHDRに対応したモニターであり、ゲーミングデバイスで重視される「リフレッシュレート」が144Hzで「応答速度」が1msとなっている。

 しかし、上記のスペックでも十分にハイエンドな性能であるが、このスペック情報のみでは、低価格化が進む他社製のゲーミングデバイスと比べて強気な価格設定が目立ってしまう。

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 そこで着目すべき本商品の性能は、ソニーが開発および発売するハイエンドなデジタルハイビジョンテレビ「ブラビア」の技術を活用した豊かな色彩の高画質技術だ。

 数値的なデータで言えば、本商品はHDRを表示する規格「Display HDR 600」となっており、10.7億色表示の色震度で、繊細な色合いを自然に描画可能である。

 また、「ブラビア」と同様にLEDバックライトをパネル直下で配置しており、ブロックに分けて制御することで「真の黒」の描画を実現し、暗所も黒つぶれしない高コントラストのビジュアルを実現している。

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 メディア向けの説明会では本商品と、本商品に近い価格帯で直下型LEDでない(エッジ型)ゲーミングモニターを比較しながらゲーム映像を鑑賞する機会が設けられた。直下型LEDでないモニターは暗所が黒つぶれし、発光したグレー色になってしまう画面も、本商品では「真の黒色」が描画され、暗所の中に煌めく微弱な光の照り返しも確認できた。

 このように、「INZONE M9」は素早い判断が求められるゲームに最適なスペックを持ちながらも、「ブラビア」で培った高精細な描画を両立したモニターとなっているのだ。

敵の位相感が分かる立体音響 & 静寂の中ゲームプレイに集中できるノイズキャンセリング

 ゲーミングヘッドホン「INZONE H」シリーズはより顕著にソニーのオーディオ技術を活用している。

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 同シリーズにおいて、まず注目したい要素は「360 Spatial Sound for Gaming」だ。

 近年のゲームはステレオ音声のみならず5.1チャンネル7.1チャンネルとマルチトラックの音声が用意されている。しかしながら、通常のヘッドセットやイヤホンではステレオで音声を再生することとなるため、結果的にシューティングゲーム3Dアクションゲームにて重要な音の位相感が感じづらくなるケースが多い。

 そこで、「INZONE H」シリーズはPC本体にインストールする「INZONE Hub」というソフトウェアと共に利用することにより、ヘッドホンながらマルチトラックの位相感を立体的に視聴することが可能となっている。

 実際に音声を視聴したところ、敵の位相を示す効果音の前後左右の位相感、手前奥の遠近感が分かりやすいクリアな立体音響を確認できた。

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 本技術はソニーが音楽用HPへ培った技術を活かしており、2021年に発売されたSONYのスマートフォン「Xperia 1 III」より運用が開始された「360 Spatial Sound」の立体音響技術を利用し、ゲームプレイ向けに新たに構築したシステムとなっている。

 そのため、「360 Spatial Sound」における耳の画像を解析して音声を調整する技術は「INZONE H」シリーズにも継承されている。「360 Spatial Sound」向けに既に自身の耳の解析を行っている読者は、その際に生成した解析データを「INZONE H」シリーズ向けに使用可能だ。

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(画像は INZONE:ゲーミングヘッドセット INZONE H9 商品紹介【ソニー公式】 – YouTubeより)

 くわえて、アッパーモデルの「INZONE H9」に搭載されるノイズキャンセリング機能はソニーのヘッドホン「WH-1000XM4」で実績のある技術を活用したものとなる。

 ノイズキャンセリングモードではPCの空冷ファンの音や屋内のノイズを遮断し、静寂の中でゲームに集中可能だ。完全な静寂が苦手なユーザーに向けて、抑制された外音を取り込むアンビエントモードも用意されている。

 ヘッドセットを実際に装着した感触はかなり軽量で、「WH-1000XM4」と同様の材質のイヤーパッドは長時間使用しても耳に負担がかかり辛い仕様となっていた。

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(画像はINZONE:ゲーミングヘッドセット INZONE H9 商品紹介【ソニー公式】 – YouTubeより)
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 これらから、ソニーがこれまで培ってきたディスプレイとオーディオのノウハウ、新技術をゲームプレイに最適化して提供するという戦略が読み取れるだろう。

 国内大手のソニーによるゲーミングデバイスへの参入はブランドに依存するものでなく、強大な実績に基づいた堂々たる宣戦布告であったのだ。

eスポーツの拡大、ゲーミングデバイスの需要の増大

 最後に、このタイミングでソニーがゲーミングデバイスの開発に至ったコンテクストを、説明会でのプレゼンに倣って紹介しておこう。

 コロナ禍以降、ゲーム市場は例年よりも成長したが、その盛り上がりはeスポーツシーンも例外ではなく、それに伴ってゲーミングギア市場も盛り上がりを見せている。

  説明会では、ソニーはeスポーツのマーケットの盛り上がりに着目しており、「まさに少年たちがプロ野球選手に憧れるように、またサッカー選手に憧れるように、若きチャンピオンが続々と誕生し、それにあこがれる子供たちの登場は時代の変化を感じさせるもので、来るべき新しいトレンドへのゲートウェイとなっている。」と考えているという。

 ソニーが発表した資料によると、ゲーミングモニターはFY23ではコロナ前の約6.5倍に、ゲーミングヘッドセットは約2.5倍に市場が拡大すると予測されており、「今後ゲーミングギアの購入に際し、最も興味があるブランド」としてソニーが第一位であったという。

 これらの分析や方針に基づいて、ソニーの新ブランド「INZONE」は誕生した。

 現状ではゲーミングモニターおよびゲーミングヘッドセット以外の展開は発表されていないが、ソニーは世界的なeスポーツリーグであるEvolution Championship Series(Evo)2022 / 2023、PGL DOTA2 Arlington Major 2022、VAROLANT Champions Tourのスポンサーシップ契約を締結している。

 ゲーム文化の更なる発展を支援すると発表していることからも、「INZONE」の今後の展開にも期待が高まる。


 ソニーは6月29日、同社が開発するゲーミングギア専門の新ブランド「INZONE」(インゾーン)を発表し、ゲーミングモニター「INZONE M」シリーズ2機種とゲーミングヘッドセット「INZONE H」シリーズ3機種を発売すると発表した。

 ゲーミングモニターの「INZONE M9」とゲーミングヘッドセット「INZONE H」シリーズ3機種は、7月8日の発売を予定。フルHDでリフレッシュレートが240Hzのゲーミングモニター「INZONE M3」は2022年内に発売予定だ。

 発表された市場推定価格は以下の通り

市場推定価格と発売時期:
■ゲーミングモニター
『INZONE M9』 15万4000円前後。7月8日発売
『INZONE M3』 未定。2022年内を予定

■ゲーミングヘッドセット
『INZONE H9』 3万6000円前後。7月8日発売
『INZONE H7』 2万9000円前後。7月8日発売
『INZONE H3』 1万2000円前後。7月8日発売

 このほかに、『バイオハザード』シリーズのプロデューサー川田将央氏からINZONEの商品を手渡しで購入できる「INZONE発売日 イベント参加権付き販売会」が実施される。

 開催日時は7月8日で、開催場所はソニーストア銀座となる。

 イベントでは手渡しの販売会のほか、INZONEの商品担当と川田将央氏によるトークセッションが開催され、ライブ配信も行われる。

 応募はソニー公式ウェブサイトのイベント特設ページから行える。

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(画像はINZONE™発売日イベント参加権付き販売会 | ソニーストアについて | ソニーより)

 また、エナジードリンクZONeとINZONEによるコラボキャンペーンが実施される。

 コラボキャンペーンの第一弾に参加することで、抽選でZONe ver.2.0.0 type-T 1ケース、INZONE H9、INZONE M9がプレゼントされる。

 応募方法はZONeのTwitterをフォローしたうえで、対象のツイートをリツイートすること。

 応募期間は6月29日から7月7日までとなる。

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(画像はINZONE×ZONe フォロー &リツイートキャンペーン| アンリミテッドパフォーマンスエナジー ZONe(ゾーン)公式サイトより)

 コラボキャンペーンの第二弾はINZONE H9が12名に当たる企画。応募方法はZONeを一本購入すると獲得できる得点を12ポイント集めること。

 キャンペーンの参加機関は7月1日から9月30日までとなる。

編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。
編集者
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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