現在開催中のオンラインゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」。そこで「資料を資産へ、スクウェア・エニックスにおけるゲーム開発資料発掘プロジェクト」という過去のゲーム開発資料の発掘と総管理を目指す社内プロジェクト「SAVE」についての講演が行われた。
ゲーム開発資料保存のワークフロー、注意するべき細部、作業現場における課題とその解決方法、テープやディスク、フィルムなど多岐に渡るメディアからのデータ吸出しとその注意点についての知見が共有された。
講演者は株式会社スクウェア・エニックスから三宅 陽一郎さん、株式会社スクウェア・エニックス・ビジネスサポートから小林 一弘さん、松永 圭一郎さん、阿部 拓人さん。本記事ではこの講演のレポートをしていく。
文/tnhr
SAVE PROJECTについて
最初に三宅さんが、「SAVE」とは何かについて解説。「SAVE」はスクウェア・エニックスが過去に発売したゲームの資産をサルページするプロジェクトの名称である。
昨年のCEDEC登壇後、社内外から多くのメディアから多くの反響を得て、いろいろな所から相談や質問を受けたそうだ。また、ゲームメディアとそれ以外のメディアからも、30件近いWEB記事が公開され、数を見るだけでどれほど反響があったか分かる。
それだけではなく、SIGGRAPH ASIAというコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関するカンファレンス、展示会に招待され、スクウェア・エニックスとタイトーの共同講義と展示を行ったそうだ。
アカデミズムとの連携も進んでおり、立命館大学ゲームアーカイブ推進連絡協議会における招待講演も開催。どんどんと最初の垣根を越えていって、海外ゲームファンや国内ゲーム産業以外などへと繋がっていったプロジェクトへと進化していった。
資料のデータ化作業について
次にSAVEの業務を行う社員をどのように確保していくかの説明がされた。発足当初のSAVEのメンバーは、そもそも本職として担当している開発、非開発業務の遂行と成果を期待されて、会社に雇用されているため、プロジェクトに参加してしまうと本業務に支障が出てしまうという問題を抱えている。
だからといって、社外短期雇用をしてしまうと、全ての資料が機密事項であったり、興味がある人からするとよからぬ誘惑が多いという問題があるため、それも難しい。
そんな中、SAVEは株式会社スクウェア・エニックス・ビジネスサポートに相談してはどうかという提案を受けたそうだ。「正規雇用」「業務に責任を持っている」「本業務として対応可能」「仕事の品質に信頼が置ける」「断続的、継続的に協業が可能」といった点から、採用が決定した。
開発資料保存の現場から
次に株式会社スクウェア・エニックス・ビジネスサポートから実際の作業の説明が行われた。使用機材は「複合機」「デジタルカメラ」「ノートPC」となっている。
そして、作業工程についての説明が行われた。
まずはダンボールの山から1箱回収する。ダンボールから全て取り出して内容物を確認。ダンボールの中にどういった資料が入っているかざっくりわかるように、すべて広げた状態でデジカメで撮影し、撮影した画像はパソコンに保存。同じ画像をカラーで印刷して、最後にダンボールに同梱する。
資料をひとつずつデジカメで撮影し撮影した画像はパソコンに保存。紙類は取り出して、スキャンできるようにファイルからの分離や、ホッチキスなどの異物除去の作業をする。次に紙類をスキャンして、パソコンにデータを貯める。この時に複合機でOCR処理も行うそうだ。
一通り撮影とスキャンが終わったら、管理表を作成する。Excelにどういう商品なのか、資料なのかの項目整理と数を箇条書きすることによってデータをまとめる。
最後に内容物を元のダンボールに戻し、デジタルデータを保存して終了だそうだ。
これらの作業の人員構成は作業者4名、確認者3名。作業ペースにはばらつきがあるため、5から10箱を1か月で完了させるそうだ。
当初は不慣れもあり、箱内の資料をすべてスキャンしてからネーム等の保存作業を行おうとしていた。しかし、ファイル数の多さやOCR処理を行う必要があり、大幅に時間がかかってしまったので、今はある程度で区切ってデータを整理してから次の工程に行くようにしている。
また、カメラ内の画像は1箱終わるたびに消去しているのだが、これは他の箱の画像が混ざったり、どの画像までが対象の箱の画像化を探すこともなくスムーズに進めることができるため、そうしているとのこと。毎日のように撮影しているので、撮影技術が向上していくという成長も見られたそうだ。
書類をPDFにした場合、内容に沿ったファイル名で保存しなくてはいけないのだが、データ作成者が、そのゲームの制作に携わってないためファイル名をつけるのに苦慮するとのこと。そういったものは資料を読み込んで、どういったファイル名を付けるのが適切なのかを判断する。
また、スキャンするための複合機は作業場に1台しかないため、他業務などで複合機を使用していると、作業がストップする問題は未だに発生しているそうだ。
次は作業における注意点についての説明が行われた。中には劣化した資料も多く、ホッチキスの針がさびていることもあるので、リムーバーなどを使用しながら、丁寧に資料をあつかっているとのこと。
OCR処理を行うと紙の向きが変わってしまうことがあり、ページ数が多い場合、向き調整に時間を要するので注意が必要。Adobe製品で作業を行えば向きが統一されるのだが、使用している機材がノートPCで処理に時間を要するため、そうすることはできないそうだ。
他にはCD-ROMやFDなど同形で複数ある媒体でも、タイトルなどはディスクに直接かかれていたりケースに書かれていたりするので、すべて表面を撮影するのではなく、情報をメインに撮るなどの工夫が必要だとのこと。
また、20代の社員だと、カセットテープやネガフィルムを見たことがない、または知らないため、リスト化に時間がかかる部分があるそうだ。
最後に作業担当者の感想がまとめられた。当時の保管状態によってアーカイブかの大変さが変わるため、残しておくことの重要性と同時に管理方法の重要性も感じるそう。そして膨大な資料などを目にして、ひとつの作品を作り上げる苦労を感じたという意見もある。
作業している人はゲームが好きなので、ゲーム関連の資産を扱う作業がとても楽しく感じ、また未開封のゲーム機本体やソフトなど希少価値の高そうな資産がたくさんでてきて、緊張してしまうこともあるとのこと。
さまざまな記録メディアへの対処
次は再び、三宅さんからさまざまな記録メディアへの対処について説明が行われた。
紙メディアのデジタル化、OCR、PDFが進んだおかげて検索性、閲覧性、保存性が上がり非常に便利になったり、死蔵されていた情報にアクセスできるようになった。
紙以外の記録メディアの音楽、映像、データは90年代からの記録メディアの移り変わりの激しさによって管理や再生が難しかったり、そもそも外観からは記録された情報が何かわからないなどの問題に直面したそうだ。
また、記録から時間が経過しメディアの劣化から記録情報が失われる可能性が強くなったのも心配事のひとつ。このような資料はすべて、現在の保存形式へのバックアップが望ましい。主な記録メディア一覧は以下の画像の通りとなっている。
記録メディアが抱える問題
先ほど説明された通り、記録メディアには経年劣化と寿命の問題がある。フィルムなどの古いメディアは案外長くもったりするが、デジタルメディアはあまりもたないそう。
なんにせよ、どの記録メディアも寿命があるので、現在から1年経過するだけで失われる情報やデータがあることは意識しなければならない。そのため、上手く効率的にデータをサルベージできるかの問題を解決しなければいけない。
これらのデータのバックアップの方針としては、破損しやすいフィルム、テープなどのメディアは専門業者へ依頼するというのが基本。しかし高額なので選定が必要だそう。近年、どの家庭でもフィルム、テープの寿命が近くなっているため専門業者の需要が高まっており多忙らしい。
破損する可能性がないメディアは、専用の再生機器が必要だが、自分たちでバックアップをするようにしているそう。また、破損するメディアでもそこまで重要ではないデータは自分たちでもできる可能性があるのではないかを考えているとのこと。
また、破損する可能性のメディアの問題やデータの傾向についても解説された。
リバーサル、ポジフィルムはむき出しであり非常に傷つきやすいので、自分たちで直接取り扱うのは懸念がある。さらに、高品質でもともと高額なメディアであるため、説明書や広告などに使うための画面写真やパッケージのイラストなど、史料価値が高い傾向にあり、これは専門業者に依頼するべき。
1インチオープンリールは現在再生機器がない上に壊れやすく、もともと高額なメディア。TVCMのマスターデータとして使われている傾向にあり、これも専門業者に依頼するべき。
一方、VHS、ベータ、8mm、DVは再生機器も入手可能で、安価なメディアなため、おそらくそれほど重要ではないデータが記録されている。マスターデータではない一時納品、確認用仮データ、特にはVHSデバッグ録画などによく使われていたらしく、高額な費用をかけて専門業者に依頼するべきかは、しっかりと検討しなければいけない。
DATは、数が少ないがマスターデータとして使われていることが多い高品質なメディア。音楽用のマスターデータが記録されていることが多く、重要なデータが含まれている可能性があるためこちらは業者に依頼した方がよい。
コンパクトカセットは安価なメディアであるため、いままでの傾向通り高額な費用をかけて専門業者に依頼するべきかは、しっかりと検討しなければいけない。
バックアップの方針としてはメディアの値段に関わらず専門業者のコストは高いため、安価なメディアは自分たちで対応したいとのこと。そして、メディアが安いと保存データも重要ではないことが多い。
注意すべきこと
最後にこれらのメディアを扱う際に気を付けなければならないことが解説された。
どれもダンボールに入れられているだけで保存状態が悪い。なのでフィルム全般であれば癒着、カビ、キズ、擦れ。テープメディアであれば癒着、カビ、破断、伸張といった再生に影響のある問題が発生していく。
そのなかでも、特に再生に影響のある4つの主要因である癒着、カビ、破断、伸張の問題を解決しなければならない。さらに言うと、癒着した状態で機会を再生すると破断、伸張がおこるため、癒着こそが直面する主要因になるそうだ。
フィルムのカビは直接的には再生の問題にならないが、最終的には癒着を引き起こす可能性がある。磁気メディアの場合はデータへの影響は微小で、バックアップさえ取れれば問題ないそうだ。
まとめ
過去のゲーム開発資料を観察すれば、いかにそれらのタイトルが、その時代の空気の中で作られているかがわかるため非常に貴重である。
さらに、ゲーム産業自身が自分の歴史をきちんと整理して公開すると、ゲーム産業を超えて興味をもってもらえるようになるため、ゲーム業界以上の広がりもある。
そして、社内の伝統と思っていたものは、そんなに伝統ではないということに気が付くこともあり、過去にあったたくさんの可能性の方向を再発見できることもある。以上の知見からSAVEは非常に重要なプロジェクトであるかがわかるはずだ。