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アバンにファンレター、死には抗議の手紙
アバンが生んだスタートダッシュ

──導入部のためのキャラクターだから、アバンという名だったんですね。

 その通りです。水先案内人として、主人公を旅立たせるためのトリガーとしての役割を持たせました。なのに、予想以上の人気キャラクターになってしまったんです。でも予定通り死んでいただかないと(笑)、話が転がりませんから。

──冒頭からアバンみたいなキャラが活躍するのは「ジャンプ」では珍しいんじゃないですか?

 確かに、冒頭にすごい人が現れて、導いてくれた人が志半ばで消えて、それを主人公が受け継ぐというのは珍しかったかもしれないですね。でも、先輩や師匠との泣き別れから始まるのは、以降の定番になったんじゃないですか?(笑)

──主人公よりもアバンが強いっていうのは、リスキーだったんじゃありませんか?

 変な人が本当は強かったっていうのは、『ドラゴンボール』の亀仙人がいましたから。加えて、単にすごい実力者じゃなくて先代の勇者でした、とすることで、大河ストーリーを予見させるアレンジを加えたところが良かったのかな、と思いますね。そんなアバンの人気もあって、人気アンケートでは『ドラゴンボール』に次ぐ2位でしたから、スタートダッシュは大成功でした。

──アバン恐るべし、ですね。

 連載開始と同時にすごい数のファンレターがきて、その数週間後ぐらいにはメガンテで死んでしまい、今度はもっとすごい抗議の手紙がくるっていう(笑)。『北斗の拳』『聖闘士星矢』で、主人公の代わりに誰かが命を張っている姿や、魂のこもった奥義を繰り出す姿が眩しくて。そんなジャンプ漫画のエッセンス、面白さを自分なりに考えて、『ドラクエ』のファクターとしてアストロンやメガンテを嵌めていったんです。

──アストロンは『北斗の拳』の秘孔なわけですね。

 ゲームがわからない人なら「魔法の力で足止めをしたんだな」ってわかってもらえればいいわけですから。普通の人はジャンプ漫画として読めて、『ドラクエ』ファンは二倍美味しいっていうのを狙ってました。

特撮的敵キャラ配置を狙い 巻頭カラーを獲得
打ち切りか巻頭カラーか スタートダッシュに賭ける

──アバンが死んで六大団長が一挙に登場しますが、このあたりの展開はあまり「ジャンプ」的ではありませんでしたね。

 僕が特撮好きなので、敵の戦い方が特撮っぽいんですよね。「ジャンプ」の定番って、強いやつを倒したらもっと強い敵が現れるっていう形式のものか、もしくはブルース・リーの映画『死亡遊戯』の階段登りですよね。

──どちらも順番に敵が現れますね。

 でも特撮物の幹部だと、キャラが立った複数の幹部がいて、お互い足を引っ張ったりしながらヒーローと戦うんです。そうなることを踏まえて、まずクロコダイン戦とヒュンケル戦では、すごい強いやつに対して、こっちの3人のパーティーが死力を尽くして戦う、ってのをやったわけです。

──複数の敵を一度に出すのは簡単ですが、出した後どう回していくかは難しいんじゃないですか?

 そこについては計算ができていましたから。たとえばクロコダインをとってみると、普通はハドラーを追っ払ったら次は大魔王バーンが出てくるしかないわけですよ。そこを、その下に6人いますよって言わせて、ハドラーの下っ端だろうと思ったら、それぞれがハドラーより強い部分を持っているんだ、と。そして、クロコダイン戦で頑張って倒したら、次の回で全員出て来て、それが「ジャンプ」の巻頭カラー掲載号に載る。そこはもう完全に、巻頭を取ろうと狙って当ててました。

──敵がずらりと並ぶというのは、確かに特撮的ですね。

 この団長たちのやりとりが一番やりたかったんです。あれを稲田先生の2色原稿で見られたときには、「面白ぇの書いてんな、俺!」と(笑)大満足でした。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_005
(C)三条陸/集英社

──六大団長でいうと、ヒュンケルだけ飛び抜けて「ジャンプ」的ですよね。

 あいつだけ『聖闘士星矢』や『魁!!男塾』の世界の人ですからね(笑)。「敵だったけど味方になった、強くて頼れるやつ」ですね。

──他の団長はそうでもなくて。

 そこは凸凹した感じが欲しかったせいですよ。いわゆるスポーツ物のチームだと、高校だったら同世代の高校生しか出てきませんよね。そうじゃなくて、無骨な傭兵のおっさんがいたり、小柄で弱そうな魔法使いがいたり、凸凹したキャラクターたちが、お互い全然環境や境遇が違っていて、意見も合わなくて、みたいなところがいいんだ、と。

──『ダイ』では、ダイに近いポップやマァムの次は歳が5つも10も離れるヒュンケルやクロコダインですものね。

 冒険物を書いていく段階で、爺さんやおっさんのキャラが要ると思ったんです。バダックやクロコダインといった年齢の、主人公たちにない高さの視点で見てくれる存在が必須だと考えました。…そもそもマァムのように、パーティーキャラに女の子が入ることからして、当時の「ジャンプ」にはほとんどありませんでした。でもファミコンの『ドラクエⅢ』では男女でパラメータの強さは変わらなくて、女性キャラだから腕力が弱いってことはないんです。だから、普通に女の子が入ってがんがん殴り合えばいいんじゃないの、というのはありましたね。主役のチームに女の子を戦うラインで入れるのは、特撮物では珍しくありませんでしたが、当時のジャンプ漫画としては珍しかったと思います。

──女の子だけじゃなくて、メインの5人にはおっさんの獣人もいて(笑)。

 途中ですごく年上のキャラを主役チームに入れて、大人ならではの態度をとらせるのも当時としては珍しかったですね。でも、クロコダインのおかげでバランの死を扱う回などは書き易かったですよ。

連載と共に『ダイ』の世界は日本列島になった

──最初の六大軍団があり、アバンとの過去の因縁があるハドラーがいて、さらにその上にバーンがいるという図式は、意図的に最初から見せたとのことですが、バーンまでの図式というのは連載前段階からできていたんですか?

 はい、ある程度は。老人だっていうのも決めてました。『ドラクエ』における魔王だってこともありますから。

──日本をモデルにした世界地図も、最初から考えてたんですか?

 『ドラクエ』が世界地図だから、こちらは日本列島にしようと考えたのは、連載が決まってからですね。同時に、北海道を意識した「オーザム」は「おー寒」を元ネタに…といったように、現実の土地を思い起こさせる国名なども考えました。もっとも、連載前に名前が出ていたデルムリン島やロモス、パプニカは、あとから場所を考えたんです。それで、デルムリン島は南端だから沖縄にして、次に登場したロモスは九州。その次のパプニカは四国で、それから本土に入っていくという段取りにしました。

編集部から誕生したマトリフとアバン

──作中ではマトリフが実にいい味のキャラでしたが、鳥嶋さんの影響ですか?

 これは、鳥嶋さんのキャラをそのまま出したい、っていうのがあったんです(笑)。「Dr.マシリトが出ているから『ドクタースランプ』をいつか絶版にしたい」だなんて酷い冗談を言ってたから、こっちにも出してやろうかって(笑)。あの人は、残酷なんだけど優しいっていう、キャラが面白いじゃないですか。

──今で言うツンデレですね(笑)。

 鳥山先生から見ると、担当と漫画家だから、ガンガン来るところだけを描かれているけど、鳥嶋さんにはあの人なりのナイーブさがあり、いいところも多くて。そういう二面性みたいなものを入れることで、マトリフというキャラに深みを与えられましたね。

──綺麗なマシリト(笑)ですね。

 そうなんです。だから、後半になってポップとかにアドバイスするようになると「鳥嶋さん、こんなかっこよくないだろう」って、編集部の人たちから怒られましたね(笑)。でもね、そんなこと言ったら、アバンのモデルはフリーザ様の元ネタと言われている近藤裕さんですからね。

──そうなんですか…!

 本人からは「僕はブリバリ頑張ってくださいとか言わないでしょ」って怒られました。でも近藤さんに記事のラフとか見せると「あ、大丈夫です。これでブリバリやっちゃってください」って返して来てたんですよね(笑)。

──いや、あなた絶対にそう言ってましたっていう…。

 近藤さんはハードな言葉を笑って投げつけるようなところもあるので、アバンのモデルとして最適でした。にこやかに「はい、とっととやってください」「そら、やられて死んじゃいますよ」みたいな。フリーザを見るとわかるでしょう?

──アバンとフリーザが繋がりました。

 マシリトとマトリフ、フリーザとアバン、同じ人物をモデルに描いてるのに、鳥山先生と僕とでは全然違うキャラになってますよね。

連載延長がマァムの転職を生んだ

──マァムの、主人公とくっつかない女性キャラっていうポジションは最初から決めてたんですか?

 そうですね。ダイには勇者とお姫様ってことで、レオナがいましたから。かといってパーティーの中に最初からレオナが入るというのは、物語上ないなと思ってたんです。それで、読者はポップ目線で物語を見るだろうと思っていたので、ポップが奮起できるように、彼が好きになっちゃう相手というマァムの役割を最初から決めていました。

──読者の代弁者であるポップが憧れる対象ということですね。一方、ダイはヒーローだから、相手はお姫様だったんですね。

 それは勇者を目指す少年とお姫様っていう基本の枠は譲れませんでしたからね。その代わり、前線で活躍するヒロインは、ポップにとってのヒロインだっていう構造です。

──そのマァムが転職するというのは、どこで決めたんですか?

 それは『ダイ』が2年以上続きますよ、ってなったときですね。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_006
(C)三条陸/集英社

──最初は2年の予定だったんですか?

 『ドラクエⅣ』の発売まで2年くらいかかるから、そこまではやりたいね、って話だったんです。なので、最初は2年で終わるくらいのボリュームでした。クロゴダインと戦い、ヒュンケルと戦い、フレイザードと決戦し、バランはお父さんで戦って死んで、バランとポップがいなくなったまま怒涛の如くバーン戦に突入する、っていう形でしたね。

──それで『ドラクエⅣ』のプロモーションとしての役割を果たす予定だったんですね。

 はい。ところが途中でアニメ化が決まったりとかして、長くなったんです(笑)。

──それで、もう一山作りましょう、と。

 『ドラクエ』の転職的なイベントも描いておいた方がいいかなとか、ヒュンケルたちが入ってパーティーバランスが変わったところで、回復はレオナがいるからアタッカーにした方がいいかなということで、いったんマァムを外して転職させたわけです。3人のキャラで言えば、ダイが前に突っ込んでポップとマァムが支える、っていう形が、ダイとマァムが前に突っ込んでいくようになって、一番動きがあっていいんじゃないか、って。

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