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『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?

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原作もネームも4時間の高速仕上げ
「僕の原作も稲田先生のネームも4時間くらいでできていました」

──それで、実際に毎週の打ち合わせは、どのようなものだったんですか。

 僕らが特別だったのは、原作者の僕もネームを見るってことですね。旧来の漫画原作者は、原作を担当に渡して、ネームは担当と作家さんが作っていたようです。だから場合によっては、原作がネームで全然違うものになるから、前回自分が書いたものとは違った続きを書かなきゃいけなくなるんです(笑)。でも『ダイ』では毎週、稲田先生にネームを見せてもらいながら打ち合わせしていました。僕は次回の原作を渡して稲田先生に読んでもらい、稲田先生は前回渡して切ってもらったネームを見せてくれるという、次回の原作と今回のネームという2本を並べてお互いにチェックするのが基本のスタイルでした。

──1話を作り上げるのに要する時間はどれくらいだったんですか?

 本当に数時間でした。稲田先生のネームも僕の原作も3~4時間ぐらいでできていました。稲田先生、すごいんですよ。原稿を入稿するとガーッと寝て、目が覚めましたって連絡が来ると、4時間後にはネームが上がっているんです。それに合わせて担当さんと一緒に稲田先生のとこに行って打ち合わせするという、毎週とんでもないスピード感でしたね(笑)。

デザインは分業制で

──とはいえ、週刊連載だと時間に追われますし、キャラクターなどのデザインを外部のスタッフに出してもいますよね。

 デザインは、ハドラーくらいまでは僕がラフを出して、稲田先生に描いてもらってたんです。ただ僕のタッチは荒いっていうか直線的なので、稲田先生の丸みがあって、質感があるタイプの絵の良さが出にくいな、と感じていました。その頃にはアニメ化も見えていたので、アニメや商品になるのなら、きちんとデザインのプロを呼んで稲田先生にそれを渡した方が、絶対いいはずだって話になって。それで、人間キャラクターは稲田先生に直接頼むけれど、服装や武器はモンスターデザインと一緒に旧知の漫画家の神田正宏先生にお願いするようになりました。そのうち人間キャラも何人か神田先生に依頼するようになり、分業制が進んでいきましたね。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_008
(C)三条陸/集英社

──稲田先生は、輪郭線だけで豊かな立体感を描かれますね。

 そうなんです。なので神田先生には、できたら背面まで描いてなるべくベタを入れて、ペンタッチに近いものでデザインを仕上げてくださいとお願いしてました。

──デザインから漫画用に、稲田先生が変換しなくていいようお願いしたんですね。

 もちろん稲田先生なりに変換をして決定版にしてくれるんですが、その前の段階である程度漫画の絵として成立させておくことで、稲田先生にかかるコストを省かせてもらったんです。

──稲田先生はロジックを大事にされる方なんですか?

 はい、とても。「こいつがここで振り向くと角が当たる」とか、「戦いの場でそんなに離れてたらこの技は使えない」とか。キャラクターの位置関係とかも、めちゃくちゃ気にします。

頭の引き出しには何が詰まっている?
『ダイ』をめぐって賛否両論が噴出

──ロジックといえば、三条先生も物語にしっかりと理屈をつける方ですよね。それを成立させるだけの知識やアイデアが、頭の中にたくさん整理整頓されて詰まっているような印象があります。

 そう、ものにしても知識にしても、子供の頃から貯めてるものがいっぱいあるから、どうしようって考えたときに、選択肢が結構いろいろあるんです。これはよくお話するんですが、キルバーンの笛の仕組みは、『ガメラ対大魔獣ジャイガー』に登場した、ジャイガーを封印してる塔「悪魔の笛」から発想したんです。このギミックを思いついたときには、子供の頃から怪獣映画をいっぱい見てきた甲斐があったなぁと思いましたね(笑)。

──それでは続いて、鳥嶋さんの剛腕ぶりについてうかがいたいのですが。

 すごいですよ(笑)。いけると思ったら、機を見て即連載させてて(笑)。企画漫画であっても、連載を人気で何本も抜いてるんだから文句は言わせない! とガンガン押してましたね。それに対しては、編集部は擁護派と反対派で半々でした。

──アンケートによる読者の支持が一番、というのが「ジャンプ」の価値観ではないんでしょうか。

 『ドラクエ』人気ありきの企画作品に連載枠を取られるのは嫌だっていう人が半分、その一方、『ドラクエ』人気に頼ってるだけじゃなくて、単純に漫画としてよくできてると思う人もいて、敵も味方も半分ずつみたいな感じでした。でも鳥嶋さん曰く、編集部内で賛否が分かれるような作品の方が、読者的には一番ハマるものなんだそうです。

──ゲームに寄りすぎると、ファンは褒めても、ファンしか読まなくなりますものね。

 漫画として普通に読めて『ドラクエ』に興味持ってくれるのがベストなやり方だと思うんです。ゲームを知ってる人しか興味が持てないようでは、企画物なのに広告塔として失敗していることになってしまいます。

「ブイジャンプ」と『ダイ』

──鳥嶋さんといえば、かつて外伝『勇者アバン』を掲載した「ブイジャンプ」(「Vジャンプ」の準備号)を立ち上げてますね。

 「ブイジャンプ」は3冊目でアニメを特集したんですよね。なので3冊目で、当時アニメになったばっかりの『ダイ』を扱って、さらにアバンの読み切りをやる、っていうことになったんですよ。その前の2冊でも『DQI秘伝 竜王バリバリ隊』をやってたんですけど。

──これは鳥嶋さんのオーダーですね。

 もちろんです。「ジャンプ」で『ダイ』を連載しながら記事を書いていたのに、さらに働かされました(笑)。

──そのときは『勇者アバン』を冠した漫画が、30年近く経ってから始まるとは思わなかったですよね?

 思いませんでしたねえ、ホントに(笑)。

──これは集英社からのお話なんですか。

 『ダイ』の再アニメ化にあたり、「Vジャンプ」で『ダイ』の外伝的な漫画をやってくれないかという話がきたんです。すぐに、『ダイ』以外に連載の主役としてふさわしいのはアバンしかいないだろうと思いましたね。

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(C)三条陸/集英社

車田正美先生が『ダイ』を見てくれていた!

──担当編集者の大橋さんは、『ダイ』連載開始時に、どんな作品を担当されていたのでしょう。

 車田正美先生の『聖闘士星矢』を担当されていました。あるときに大橋さんが、車田先生に「このところ、この『ドラクエ』の漫画が高い人気を取っています」とお話したらしいんです。そうしたら車田先生、「そうか、わかった」と言ったあとで「でもこいつ、俺のファンだろう?」っておっしゃったんだそうです。『ダイ』を見てくださっていたのかという驚きと、やはりおわかりですかという(笑)喜びでいっぱいになって…。僕の中には車田イズムが脈々と流れていますから。

編集部が不安に? 早すぎる展開

──『ダイ』はかなりストーリーの展開が早いですが、そこについて編集部から何らかのオーダーはありましたか?

 確かに…早すぎるとは言われました。でも展開の早さは売りにしてたっていうか、狙ってやっていたんですよ。連載開始当時は『ドラゴンボール』の独走状態で、結果的に『ダイ』がもう不動のNo.2みたいになってたんです。そこで、なんとかして差別化を図らなきゃいけないな、ってのがありました。その差別化の手段のひとつとして、思いついた展開を即やることにしたんです。人気作は当然、長期連載になって展開が遅くなっていくので、それに対抗するためにスピードを出して飛ばしていったんですね。

──編集部と見解の相違は生じませんでしたか。

 展開が早すぎると言われたことはありましたね。その際は、意図的にやっているときちんとお伝えしました。

──小さな読者が、展開の早さや情報量の多さについていけないのではという心配は…?

 逆に喜んでもらえて、計算が当たったなという感じでした。スピード感ってのは他にはない魅力になると思ってましたから。

「ジャンプ」を喜ばせた? ロモス武術大会

──武術大会に行く展開は、編集部から天下一武道会をやるように言われたのかなと思ったんですけど…。

 いや、それはなかったですね。大会はファッションで、大会自体をちゃんと描くつもりはありませんでしたから。それと『ドラクエⅣ』にコロシアムがあったので、その要素として武術大会をやったんです。いうまでもなく、武闘家マァムを強く印象づけるためでもありました。

──なるほど。

 でも、鳥嶋さんがガッツリ食いついて、初回の巻頭カラーをやったときに「これはやっぱダイが優勝するのか?」って聞いてきたんです。思わず、しめしめと思いましたね(笑)。「よしよし、騙されているぞ」って(笑)。

──とはいえ、「ジャンプ」っぽい絵面ですね。

 それでいて『ドラクエ』ファンには『ドラクエⅣ』みたいだ、と喜んでもらえました。なかなか描けなかったクエストっぽいことをやらせられたし、やって良かったですね。

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