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『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?

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 国民的RPG『ドラゴンクエスト』(以下、ドラクエ)をベースに、オリジナルの設定と物語で多くの人の心を揺さぶったマンガ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(以下、ダイの大冒険)。不朽の名作と語り継がれ、単独でも高い人気を誇る本作だが、そのスタート地点は『ドラクエIV』を支える小さなプロジェクトのひとつだった。

 そんな『ダイの大冒険』を手がけた原作者が三条陸氏。現在では『冒険王ビィト』『風都探偵』でも知られるほか、『仮面ライダーW』『獣電戦隊キョウリュウジャー』といった特撮作品、『ゲゲゲの鬼太郎』『デジモンクロスウォーズ』といったアニメ作品でも脚本家を務めている人物である。

 『ドラクエ』をベースとしながらも、『ダイの大冒険』がオリジナルの物語として展開した背景には、『ドラクエ』の生みの親・堀井雄二氏からの「三条くんなら自由にやっていいよ」という言葉があったという。それほどまでの信頼を得ていた三条氏から、いったいどのようにして『ダイの大冒険』は生まれ、育ってきたのか?

 このたび、電ファミニコゲーマーでは三条氏が自らの作品群、40作以上を語り尽くす集大成本「三条陸 HERO WORKS」より、第1章『ダイの大冒険』から一部を抜粋し、そのまま掲載させていただくことが叶った。三条先生、関係各位の皆様、ありがとうございます。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_001
(C)三条陸、稲田浩司/集英社 (C)三条陸、芝田優作/集英社 (C)SQUARE ENIX CO., LTD. (C)石森プロ・東映

 抜粋部分では『ダイの大冒険』が生まれたきっかけにはじまり、読切から連載へと移り変わった流れ、当時のファンからの反響や制作の背景、「ダイ」や「ポップ」といった名キャラクターたちの物語はどのように紡ぎ出されていったのか……などなど、多岐にわたるトピックで『ダイの大冒険』が語り尽くされていく。

 2020年からはリブート版のアニメが放送され、今年2023年の秋にはゲーム『インフィニティ ストラッシュ ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の発売も控えるなど、まだまだ冷めない『ダイの大冒険』。その歴史のみならず、人気の源にも迫る内容となっているため、ぜひご一読いただければ幸いだ。


三条陸 DAI WORKS を語る

永遠の名作『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の原作者が、そのすべてを語りつくす。

『ダイ』は『ドラクエIV』バックアップ計画の末っ子

──まず『ドラゴンクエスト ダイの大冒険(以下『ダイ』)』という作品が生まれたきっかけから教えていただけますか。

 それはやはり、『ドラゴンクエスト(以下『ドラクエ』)』シリーズの生みの親である堀井雄二さんが「週刊少年ジャンプ(以下「ジャンプ」)」で記事ページのライターをしていたことが一番大きいですね。ジャンプ編集部の鳥嶋和彦さんも、もともと大のゲーム好きだし、ゲームというメディアの可能性に注目していて、『ドラクエ』シリーズをずっと誌面でプッシュし続けていました。ターニングポイントが訪れたのは、『ドラクエⅣ』の発売が見えてきた時期です。

──『ドラクエ』の漫画化として『ダイ』の企画が立ち上がったと…。

 いえ、実はこの段階で『ドラゴンクエスト』関連の3つのプロジェクトがあったんですよ。まずはアニメ化で、これは1989年12月からフジテレビで放送されました。これが一番大きくて、次がバンダイさんのカードダスによる商品化です。そして一番小さなプロジェクトが、「ジャンプ」での読切漫画掲載だったんです。

──そのお話が、なぜ三条さんに回ってきたんですか?

 あとでまたお話させてもらいますが、この数年前から、僕は「月刊アウト」という雑誌でライターの仕事をやっていたんです。当時は堀井雄二さんも同誌でライターをなさってたんですが、僕が担当した特撮パロディーの企画を気に入ってくださったんです。それ以降、お付き合いがあったんですよ。「ジャンプ」でも、『ファミコン快盗芸魔団』というゲーム記事を通してお付き合いがありました。加えて、僕がアニメの脚本や他誌の漫画原作をやっていたことを鳥嶋さんが知り、「漫画はお前が原作を書け」と言い出したんです(笑)。

堀井さんの懐の大きさが『ダイ』を生んだ
「三条くんならやっていいよ」と言ってもらえた

──それにしても、よくオリジナルの設定や物語での漫画化へゴーサインが出ましたね。

 はい。あの時代だからできた、ってこともあるんですが、実現したのにはきちんとした理由があるんです。まず堀井さんは、漫画の特性を活かした作品を望まれていました。それに、漫画が進むとゲームのネタバラシになっていかざるを得ないので、その点でもゲームそのままの漫画化には疑問を呈されていました。そこで『ドラクエⅠ』『Ⅲ』までの世界観や設定を使ったオリジナルの物語をやった方がいい、という話になったんです。

──なるほど。ほかには?

 堀井さんに「三条くんなら自由にやっていいよ」と言ってもらえたことですね。『ドラクエ』のいわば総大将が許しちゃった、というのが大きかった。堀井さんの懐の大きさ無くして『ダイ』は生まれ得なかったと思います。

──おかげで『ダイ』が誕生したわけですか。

 ゲームと漫画のダイナミズムは違うものなので、漫画としての独自の生命を得るにはそれしかなかったんです。全部が全部ゲームの通りであることを目指すのではなく、「ジャンプ」で漫画でやるからには、ちゃんとジャンプ漫画として評価されなければ『ドラクエ』のためにもならないと思ったので。

──漫画らしく作ることが、逆に原作ゲームへのリスペクトになるということですね。

 最初に鳥嶋さんが「『ドラクエ』を漫画にしよう」と切り出して、堀井さんが「いいよ、三条くんに任せる」と言ってくださった…。この人脈の奇跡に対して、僕は全身全霊を傾けてお応えするのみでしたね。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_002
(画像はAmazon「三条陸 HERO WORKS」販売ページより)

──そうして『ドラゴンクエスト』の漫画化が動き出しましたが、オリジナルということで、キャラクターやストーリーを一から作る必要がありましたよね。

 最初は『ドラクエⅣ』の発売に合わせた単発企画でしたので、連載なんて思ってもいませんでした。あくまで「ジャンプ」誌上で目立つことを考えてたんです。歴代の「ジャンプ」漫画を振り返ると、『キャッツ♡アイ』は泥棒で『コブラ』は宇宙海賊と、世間的に悪とされてるものが、実は正義の味方だよ、というお話がヒットしているな、と。なので、善悪を逆転してモンスター側を主人公にしようと思ったんです。モンスターたちの復讐劇という逆転の構造を持つ物語だから、読者はゲーム通りじゃないとすぐに飲み込めるでしょうし。モンスター島で育ち、モンスターを従えて戦う主人公、ダイはこうして誕生しました。彼の魔法の筒は、『ウルトラセブン』のカプセル怪獣をイメージしてました。「行け! ◯◯◯!」と子供が叫んでモンスターが現れるシチュエーションを、『ポケットモンスター』より先にやってたんですよね(笑)。

──勇者のふりをしている人間の方が悪者だ、というところも見事な逆転の構図ですね。

 それは、妖怪たちが善玉になって、悪い殿様なんかを懲らしめるっていう大映映画のシリーズが元ネタです。鳥山明先生が描く『ドラクエ』のモンスターに愛嬌があったからこそ通じた手法ですね。

予想外の人気に即座に連載決定!

──最初の『デルパ!イルイル!』は、読切とはいえ前後編でした。

 プロットができた段階で、鳥嶋さんが「パンチを出すために2話構成でやろう」と言い出して。あ、これは本気だな、と思いましたね。

──この段階で稲田浩司先生と組まれることは決まってたんですか?

 漫画家さんについては、鳥山先生のモンスターの質感が出せそうな作家さんを、とリクエストしたんです。そうしたら鳥嶋さんが「俺、こいつが連載持って一人前になったら、もう担当持つのやめてもいいと思ってるんだけど」と話しながら、稲田先生の読切短編集を出してきたんです。見た途端に引き込まれてしまって、「こんな感じこんな感じ! 最高ですよ」って言ったら、その場で鳥嶋さんが稲田先生に電話して(笑)。一方的な口調で「いいから、やれよ」って、無理やりですよ(笑)。もちろんその場では決まらなくて、何度も連絡してお願いして、最後には稲田先生が折れてくれたんです。

──交渉中には、なんらかの資料をお見せして…?

 プロットというか原作をお渡しして、それで興味を持ってもらえました。そして『デルパ!イルイル!』が「ジャンプ」に掲載されるやいなや、企画物とは思えない票を獲得して、編集部がざわめいたそうです。ただしその段階では「『ドラクエ』人気はすごいね」という話で終わっていたようです。ところが後編でさらに票が伸びたので、鳥嶋さんが「これは話題性だけじゃない、漫画としてウケている。もう連載するぞ」って言い出して。つい、マジか…!? と思っちゃいました。

──その頃の三条先生は、ライター業だけでもフルタイムに近い仕事量でしたよね?

 ですね。朝から晩まで「ジャンプ」の記事を書いていたし、他誌の仕事も続けてました。そこに週刊連載の原作ですからね(笑)。

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(C)三条陸/集英社

連載用主人公にダイ改造!

──連載開始の前に、『ダイ爆発!!!』を挟んだ理由は?

 連載となると、ダイを『デルパ!イルイル!』に出てきた子から、連載用の主人公にする必要がありました。そのため、モンスターを使役する、代理戦争的な主人公ではなく、「本当は強いんだ」「強くなっていくんだ」というジャンプ漫画の主人公にしないといけない。そこで、『デルパ!イルイル!』が受けたから、またあの子の読切をやりますよ…という体で、もう1回読切をやらせてくれ、と鳥嶋さんに頼んだんです。

──そうしてダイを改造したんですね。

 そうです。お姫様が出てきて、ダイが実はすごい能力を持っていたとわかる、連載に向けたコンバートですね。ただし、人間の方が悪いってところは踏襲してます(笑)。

──とはいえ、当時の「ジャンプ」では珍しい、素直な男の子のままでしたね。

 本当にどこでもいる、かわいい純真な子で。それは小学生が感情移入できるように、と言われていたためです。鳥嶋さんは、ダイは勇者に憧れてるのにブラスじいちゃんに「魔法使いになれ」って言われるところが、親に自分の夢を否定される読者の子供たちとシンクロしている、と感心して、珍しく褒めてくれたんです(笑)。

──夢を語る読者が、親に「安定した職業につけ」って言われるように(笑)。

 そう。ものすごく感情移入しやすい、すごくうまい設定だと(笑)。ただこれは結果的なものでした。もしゼロから連載を立ち上げていたら、ヒュンケルのような、もっと抱え込んでるキャラの方が、話は転がしやすいですし、かっこいいですから。でも『デルパ!イルイル!』から始まっているわけだから、連載になった途端にダイのキャラが変わるのはおかしいでしょう? なので、年齢も経験値も子供というキャラで行けるルートにしました。

──そして『ダイ爆発!!!』で、主人公能力である竜の紋章を得るわけですね。

 本当に弱いところから、だんだん強くなっていくまで描くのは、読者が耐えられませんからね。だから「最強なんだけど、自分ではコントロールしきれない」っていうポイントが必要なんです。紋章が出れば無敵なんだけど、最初のうちは自分の意思でコントロールできないっていう、大きなウィークポイントを持ったキャラクターが、一番いいんじゃないかな、って考えたんです。

──連載を開始されたあとも、ずっと鳥嶋さんが担当だったんですか?

 いえ、既に鳥嶋さんは現場ではなくなってたので担当を持てなくて。『ダイ爆発!!!』では鳥嶋さんは監修で、入社2年目くらいの大橋功さんが担当になったんです。その監修も、連載の最初のネーム3本くらいまではフルでチェックしてくれましたが、あとは大橋さんにお任せでしたね。

──三条先生、稲田先生、大橋さんと、若いメンバーでスタートしたんですね。

 そこからが勝負です。当時は10週目に巻頭カラーをもう1回もらえたら大成功でずっと続く、そうじゃなかったらそこで打ち切りみたいな時代でした(笑)。なので、最初の10本で、アバンの登場からダイの修業。アバンがやられてダイが旅立つところまでやる、っていう構成をきちんと作って始めました。幸い10回目で巻頭カラーがもらえて、連載を続けられたんですよね。

──10話で山場を作って序章を終えたんですね。その後の展開も?

 もちろん、フレイザード編までは考えてあって、巻頭になった10回目には、六大軍団がいるよ、ということを匂わせています。フレイザード編が敵と味方の総力戦で、その前のクロコダイン編とヒュンケル編で敵だった2人が仲間になるのが、あの頃の「ジャンプ」っぽいでしょう?

──この5人については、どんなバランスで作ろうと思ったんですか?

 まあ『ドラクエII』が一番好きだったんで、連載版は『II』のシフトでいこうと思ったんです。主人公の男の子の勇者と、線が細めの男の子と女の子の3人パーティーでいくことは決めてました。その3人を繫ぐのがアバンで、そこに追加として、敵だった力の強い獣人と鎧を着ている戦士の2人が入る形ですね。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_004
(画像は『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』Nintendo Switch・PS4・3DS版公式サイトより)

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