ジャンプ漫画に三条印の接着剤…?
──ハドラーが敗北したとき、彼が再起に向けて動きだしたのには感銘を受けました。
ピッコロとかベジータみたいに、味方になった後でもう一度努力する奴はいたんだけど、敵であり続けたままで努力する奴っていませんでしたよね(笑)。
──しかも最大の強敵が、リスペクトできる敵として成長し、なおかつ戦うのをやめずに、決着をつけて…。あれは最初から計算されていらしたんでしょうけど。
長いタームの中では、挫折を乗り越える敵がいた方が絶対に面白いんですよ。でもハドラーが、あそこまで跳ねてくれるとは思いませんでしたね。彼はクロコダインと並んで、大人になると好きになるキャラですね(笑)。
──『ダイ』は王道のジャンプ漫画っぽいのに、それだけではない要素が多いと思います。
そうですね。ジャンプ漫画のエキスがあれこれ入っているけど、それらを繋げる接着剤が、ライターの仕事やいろいろなものを見たりやったりしてきた僕という、今まで使われたことがない存在だったせいでしょうね(笑)。おそらくそこに新味があったんだと思います。
──まずジャンプ漫画があって、そこに『ドラクエ』のファクターが加わり、さらに三条先生が蓄えてきた漫画やテレビという、エンターテインメントの要素が、ドーンとぶち込まれた感じなんですね。
鬼岩城とか最終形態のバーンに至っては、完全に巨大特撮ですからね(笑)。
チェスのルールブックで死に様が決まった
──興味深かったのは、ハドラーの親衛騎団が六大軍団と違う属性を持ちながら、統一した金属という属性の軍団っていうことですね。
まず凸凹だった六大軍団長とは逆に統一感がある方がいいな、というのがあったんです。その上で、『聖闘士星矢』における星座のようなチームのモチーフを探して、5~6くらいの種類がありつつ、なおかつ横並びということで、チェスの駒を思いついたんですよ。
──同一モチーフでありながらバリエーションがある「手駒」、ですか。
ダイの剣を作ろうとデルムリン島にルーラで戻ってきたときに、護衛のロモスの兵士がチェスをやっていたなぁと思い出して(笑)。チェスの駒なら統一感があって、軍団感もありますからね。
──しかもゲームの駒だから、属性を明確にしやすいですものね。
それでチェスの本を調べて、プロモーションとキャスリングのルールを知り、ヒムが最後にパワーアップするのと、ブロックがハドラーを庇って死ぬのを決めました。
ダイに言わせてしまった寂しいセリフ
物語が言わせた別れの言葉
──そしてクライマックスを迎えますが、バーンとミストバーン、それにキルバーンの設定は前々から決定していたんですか?
そうです、かなり初期から。稲田先生にも、こっちの人形が本体という設定で行きます、とは伝えていました。「○○○○は影武者だった」っていうネタは、割とオーソドックスなんです。だから、ミストバーンの方が本当にバーンだった、というのが一番よくあるパターンだなって。なので、そこに向かって誘導されてるようで実は違うオチというのが、一番綺麗だと思ってました。
──最終決戦で、ダイが「おれはおまえを倒してこの地上を去る」と、割と早い段階で言いますよね。あれは最終回への伏線ですか?
それもあるけど、戦いに対する決意表明になりますね。最後の戦いに入る前に言わせておきたいという気持ちもありました。本当は12歳の少年であるダイなら言わないセリフなんですけど、『ダイの大冒険』っていう物語がそれを言わせてしまったんですよ。だから書いたときに「ああ、小さな子にこんなこと言わせてしまった」っていう気持ちが強く湧いてきて。それと、作り手である僕らの気分としても、「『ドラクエ』のバックアップで始まった漫画だけど、ここまで来たらもう自分たちのために綺麗に完結させるんだ」ということですよね。それがレオナの「自分自身のために勝って」って部分に繋がる。
──三条先生と稲田先生の、最終決戦への宣言でもあったわけですか。
そうですね。一種、メタな気持ちも入ったんでしょうね。
──でも、それを子供に言わせるのは…。
そう、辛いセリフなんですよ、やっぱりね。
──『ダイ』のキャラクターの中で、読者視点を担うのがポップだ、というお話でしたね。
ポップの位置は『ドラゴンボール』で言うとクリリンなんですよ。でもクリリンは、すごい奴である主役の悟空を立てるための役割があるから、悟空を見ていつもびっくりしてなきゃいけないんですよ。
──やはり、視点の置き場ということですね。
ポップも、ダイの活躍を見て「すげえ」と思ってる読者の目線のキャラなんですけど、連載を続けるなかでポップ自身も強くなり、感情移入してくれている読者に達成感を与えないといけないんですよね。つまり、実際に敵に勝って、メッチャ戦果を上げるクリリンを考えなきゃいけなかったんです。
──クリリンも地球人最強にはなりました。
確かに地球人では最強ですけど、戦いや事件を終わらせる存在とは違いますよね。そんなポップの着地点を考える上で、歴代ジャンプ漫画における、いわゆる相方キャラっていうのが参考になったんですよ。
──それは、たとえば?
僕の中で一番ポップのイメージに近かったのは、『アストロ球団』の明智球七でしたね。要はトンパチ(見さかいない)な性格の副主人公的なやつで、主人公は他にいるんだけど、何かあったら「ふざけんな、この野郎」って真っ先に食ってかかるやつ。このポジションってジャンプ漫画の中では結構重要なんですよ。あと「ジャンプ」以外だと、『機動戦士ガンダム』のカイ・シデンみたいになるといいなって。
目指すは『ガンダム』のカイ・シデン
ポップはいかにして生き残ったか ポップのルーツは『アストロ球団』にあり
──カイなんですか。
さっきお話した、フィニッシャーを務められるクリリンへの道程を、一番明確に示しているのがカイ・シデンなんですよ。『ガンダム』終盤のカイの頼もしさは尋常じゃありませんからね(笑)。前半ではめちゃめちゃ嫌な奴なのに、戦災で親を失ったミハルとの出会いから別れを経て、中盤以降では、めちゃくちゃ頼りになる男に(笑)。だけど人間臭くて愛せる奴ってところは変わらずにいる。だから、ポップには次第にカイみたいに強くなってくれたらいいなと思ったんです。言わば、球七とカイ・シデンのハイブリッドですね。
──ナンバー2キャラで、切り込み隊長で、ムードメーカーなんですね。
そう。ちょっと僕自身にも似ている(笑)。『リングにかけろ』だと香取石松が近いのかな。実際、石松は菊姉ちゃんを奪い合って恋敵の剣崎順に負けちゃうし、エース級のキャラにはなかなか勝てない。球七も、体張ってボロボロになってチームを支えるけど、強敵に一矢及ばないみたいなところがあります。そこが、そういうキャラクターの美学なんだけど、それを一矢及ぶようにするというか、フィニッシャーにしていかなきゃいけない、ってのがあるわけです(笑)。ポップの場合は、そういう脇キャラでナンバー2の、ムードメーカー的な沸かせ役ではあるんですが、『ダイ』はスポーツではなくバトルマンガだから敵を倒せるようにならないといけないんですよね。それで、今は主人公より下にいるけれど、成長曲線が最後に上昇線を描いて主人公を抜くかもしれないってところまで育つという。そんなキャラをジャンルを問わずに探した結果、カイが成功例として出てきたと思うんですよ。
鳥嶋さんとの戦いをくぐり抜けたポップ
クリリンがフリーザを倒したらびっくりしませんか
──とはいえ、それを見せるのはすごく難しいですよね。
そのせいもあって、鳥嶋さんはのっけから「こんなキャラクター早く殺せ」って言うしね(笑)。そこを「クリリンがフリーザを倒したらびっくりしませんか?」って説得して、かろうじてポップの命を繋いだんです(笑)。そしたら「それはびっくりするね」って言って、「なんとなくお前さんのやりたいことがわかった」って言ってくれたんです。でも、そこまで読者が待てないぞ、とも言われました。
──成功例がカイ・シデンだけ、っていうのは不安要素ですよね。
ええ。あんなキャラはそうそう描けるものじゃないです。かっこ悪い点や嫌なところも見せつつ、でもそれを自分で反省したり直したりしていって、ムードメーカー的な面白さは変わらない。だけど内面的にはどんどん強くなってる。とても魅力的ですよね。でも、『ダイ』が「ジャンプ」のアンケートで最も票数を取ったのは、ポップがメガンテする回でしたからね。そこは待ってくれてた読者がいたんだろうな、と(笑)。
──『ダイ』では、打ち合わせのためのシリーズ構成表を作ってらっしゃいますよね。
はい。連絡開始時から、ずっとそうしていました。たとえばバラン編が終わったら、次の武術大会編をといった感じで作っていました。それを稲田先生と担当さんに渡し、「これは2話に割ろう、こっちは1話で済ませよう」といった打ち合わせをしてましたね。
──当時の「ジャンプ」で10週、20週分の展開を用意することは、あまりありませんよね?
なかったですよね、たぶん(笑)。でも僕らはこのやり方で順調にやれていたし、ごく当たり前のように思っていました。稲田先生からは、力の配分を計算できるので助かると言われていました。
──それって、アニメ的な作り方ですよね。
それは、のちにテレビアニメシリーズの仕事をするようになって気づきました。連載漫画でシリーズ構成をしながら進める、というのは「ジャンプ」では異例のことだったと思います。
──担当さんによっては「それはジャンプのやり方じゃない」と言われたかもしれません。
でもなりゆきで書いて最終章をグダグダにしてしまわないためには、こうした方がいいと思うんですよね。ゲームが元だし。最終的に計算通りの物語を全うできたし、稲田先生もさまざまな計算をして執筆する人だから、僕らと『ダイ』にとってはベストなやり方でした。