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『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?

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父は『ダイ』に 息子は『アバン』に
まずは芝田先生に喜んでもらいたい

──『ドラゴンクエスト 勇者アバンと獄炎の魔王』の芝田優作先生についてうかがいます。芝田先生のお父様は、『ダイ』旧アニメのスタッフだったとお聞きしました。

 アニメの演出家をやっていらしたんですよね。芝田先生との顔合わせのあとしばらくして、ご本人からその話を聞いたときはビックリしました(笑)。小さな頃から『ダイ』のグッズをもらったりアニメを見たりしてらしたそうで、「ご縁を感じます」って言われて。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_012
(画像はAmazon『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王 1』より)

──三条先生から見た芝田先生は、どのような作家ですか?

 熱意も能力もあり、理想的な漫画家ですね。人当たりの良い方で、細かい直しや打ち合わせにも嫌な顔することなく応じてくださいます。作家としての実力も確かですし、「ジャンプ」で描かれた『ZIPMAN!!』などを拝読するに、キャラクターデザインもかなりお好きなんだろうな、と。『アバン』でも僕がキャラクターのラフ、要点や性格などを設計して、細かなところは変えて頂いてかまわないですよ、と先生にお任せしています。芝田先生が思いついたアイデアだと、たとえばガンガディアというキャラは、僕のラフだと「ちょっとシュッとしたボストロール」くらいのイメージでしたが、それを芝田先生が眼鏡を加えてインテリ風に仕上げて、面白いなと。ご自身でちゃんとキャラをつかんで昇華する能力が高いのだと思います。

──芝田先生とはかなり年齢が離れていますが…。

 僕の作品を子供のころに読んでいたファン世代の方と仕事をすることが最近多くて、とうとうそんな時代になったのかと(笑)。だから原作を送った時に、まず芝田先生に喜んでもらいたいっていう思いはありますね。リアクションがいいといけそうだなと(笑)。たとえば、バルジ島の近くにマトリフの隠れ家があるのですが、マトリフがあそこに凍れる時間の秘法で石化したアバンを隠すとか、メドローアの特訓中に腕を冷やしている滝つぼが、ポップが同じように腕を冷やしていた滝つぼ、とか、『ダイ』ファンならニヤリとするような感じで書いてみたんですよ。そうしたら芝田先生が「エモい!」と仰って、大変喜んでくれました。ああいう反応を見ると手応えを得られます。

──芝田先生は月刊誌での連載は初めてですよね。

 週刊誌で2作ほど連載されていましたが、ご本人は月イチで45ページほど描くサイクルの方が合っているとおっしゃっていました。そういう意味でも『アバン』の仕事が合っているのかもしれませんね。僕としては嬉しい限りです。

──新作のアニメについてお聞きします。これはリブートに当たるわけですが、そのなかでも極めて幸せな結果を迎えられた、時をこえた奇跡的な作品じゃないでしょうか。

 このアニメは、100話でしっかり最後まで描くとのことで、最初っから覚悟が決まっていて、本気度が違ったかなっていう作品でしたね。

──作品に携わった方々の姿勢が、いい形で作品の力になったように思います。

 それは、スタッフについてもキャストについても言えると思います。たとえばハドラー役の関智一さんが典型なんですけど、旧作アニメでハドラーを演じていた青野武さんの語り口にちょっと似せてスタートして、前作では制作されなかった辺りの話になってから自分の個性を出していかれたんですよ。キャストの皆さんが、ただ出て演じるんじゃなくて、役の肝を考えて演ってくれていました。

 スタッフについては、今回は監督が『ダイ』大好きな若手で初ディレクターなので、逆にライターさんをベテランにして、100話に入れるための取捨選択とかをクールにやってもらうという形で行きます、と最初に言われました。

──作中では、ちょっとした一言やワンカットを省略する一方で、足しもしてましたね。

 あれは脚本段階での作品の補強ですね。追加のセリフが入ってた場合、「加えることは面白いけど前の言い回しと合ってないから、これを言わせるんだったらこうした方がいいですよ」っていうアドバイスをしたこともあります。プラスしようという発想自体は非常にいいと思ったんで、常に肯定的にお返ししていました。

──設定的なことでは、一度は逃げ出したポップがダイの元に戻ると、アバンのしるしが鈍く光っていましたね。はるか先への伏線になっていて、すごいと思いました。

 それは1作目のアニメとは違って、原作の最後までわかってるから描ける、っていうこともありますね。たとえば、1話からずっとまぞっほがヒャドを使ってますけど、あれも最後はマヒャドを使うから、という描写ですよね。そういうところも今回のスタッフには信用置けたんです(笑)。最後までやる気なんだ、って明快にわかるので。

──あと印象に強く残っているのが、ラーハルトが「もはや目が見えん、バーンはどっちだ!?」と言うと、ヒムが「こっちだ!」という場面です。

 あれは確か、シナリオだとポップあたりが教えてあげてるんですよ。漫画だと「バーンはどっちだ!?」でブツって終わってるから、後でどこにいるかを聞いたであろうラーハルトが突っ込んで来るでOKなんだけど、アニメではリアルタイムで進行しているので、ヒムが「こっちだ、こっちへ来い」って言えばいいんじゃないですかって、アイデアを提供したんです。

──しかも、そうすることでラーハルトとヒムの繋りがはっきりしますものね。

 あれは、漫画的な時間盗みをリアルタイムで見せようってことなので、ラーハルトに教えてあげるセリフを、シナリオで追加したのはいいことなんです。でも、ポップとかダイが教えるよりは、ヒムが「俺んとこ来い」っていう方がテンポいいよね、って(笑)。

──スタッフの作品への熱意に応えた三条陸、ですね(笑)。

 そういう、アニメにするためのツボを突いた質問がよく来たんですよ。なので、すごく踏み込んでやってくれてるなっていうのはこっちもわかりますから、こんなふうにやってくれると嬉しいみたいなふうによく返しました。

──こうした作品で、誰かお1人を取り上げるのは難しいと思いますが、本アニメについて、誰かに感謝的なもので締めていただけないでしょうか。

 うーん、そうですね…。集英社の会議室での最初の顔合わせのときに、唐澤和也監督の最初の挨拶が「今回ディレクターをやらせていただくことになりました。子供の頃この漫画が大好きで、稲田先生と三条先生に会えたので、本当に最初に言いたいのは、この漫画を生み出していただいてありがとうございます」だったんです。最初の言葉が「漫画を生んでくれてありがとう」ですよ?(笑) 熱量が違うなと感じ、胸が熱くなりました。この世代のスタッフはみんな本当に『ダイ』が好きで、逆にシリーズ構成の千葉克彦さんなんかは僕と年齢が近いので、抑えに回ってみんなが暴れすぎないように的確にまとめてくれていました。監督のありがとうから始まった出会いだけれど、僕の方こそありがとうですよ、本当に。

僅かな時間を突いたオムニバス小説
「『ダイ』の記事なら僕が一番早く書けるから」

──アニメ放送終了後間もなくして、初のノベライズ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 それぞれの道』(原作:三条陸 漫画:稲田浩司 小説:山本カズヨシ)が登場しましたが、これはいつくらいに動きだしたお話でしたか?

 作品のアニメ化が動き出したのとほぼ同時に、新装彩録版コミックスの刊行やゲーム企画各種が立ち上がりました。この小説も、そういった動きのひとつですね。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_013
(画像はAmazon『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 それぞれの道』より)

──この小説がオムニバス構成に決まった経緯をお聞かせください。

 『ダイの大冒険』は作中の時間軸がかなり明確に決まっているので、オリジナルの長編を作るのは困難だろうと思いました。そこでオムニバスで…となったんです。ダイ、ポップ、マァム、ヒュンケル&クロコダイン、レオナを主人公にした5編が収録されています。

──もともと原作自体の作中時間の経過が僅か50日強という…。

 そう。超過密な構成で、本当にほとんど隙間がないんです(笑)。執筆をご担当くださった山本カズヨシ先生は、さぞご苦労されたと思います。

──三条先生は連載当時、原作だけでなく、『ダイ』の「ジャンプ」での記事作成やプロモーションも結構ご自分でなさっていましたよね。

 まぁ、『ダイ』の記事だったら僕が一番早く書けるから書くよ、ってだけの話です。そもそも『ダイ』連載中に他の作品や雑誌の記事も書いていましたし(笑)。

──「僕が一番うまく『ダイ』の記事を書けるんだ」ってことですね(笑)。

 なので六大団長の記事などは、原作者ならではの前振りに近いことが書いてありますから(笑)。この本の66ページから再録してありますので、ご覧いただければと。他の漫画の後追いでやってる記事より先出し情報が多くて、同業者は「え!?」ってなったと思います(笑)。

──他の雑誌というと、当時はまだ「月刊アウト」はありましたよね。

 ありましたね。「アウト」の『ダイ』のページは、たしかウチの奥さんが書いてました(笑)。

──この記事の中で、連載当時の漫画本編にまだ出ていない情報としては、他にどんなものがあったんですか?

 鬼岩城の場所のヒント、とかですね。あと、各キャラの紹介についているパラメータはコミックスに再録されたけれど、「ジャンプ」の扉絵が初出だと思います。これを作りだした理由はシンプルに子供が喜びそうというのが大きかったんですけど、どうせやるなら、『ドラクエⅢ』のデータを本当に使ってやってみようとなったんです。それを作品に合わせるために、ちょっとずつ変えました。クロコダインならちょっと遅くして力強くして、と。ポップなら運の良さだけ抜群にいい(笑)みたいな調整をしました。

──それを妄想しながら読むのはすごく楽しいですものね。

 一番近いゲームのキャラやモンスターのデータをベースに、加工しましたからね。あと武器類の攻撃値とかもゲームベースで設定してます。

──読者から、モンスターやキャラのコスチュームを募集したこともありましたね。

 そこで選んだものは、割とそのまま使ってますね。というか、使いやすいやつを選んだので、選んだものは全部出してます。

──当時の「ジャンプ」は、こういう記事をやってたんですか?

 デザイン募集は結構ほかの作品でもやってましたね。定番企画でした。

ポップと共に描ききった『ダイ』

──『ダイ』というのは、三条先生にとって最大のヒット作と言えると思うのですが、「ジャンプ」的な作品でありながら「ジャンプ」的でない部分がその魅力のひとつだと思ってます。どうしてそういう作品が作れたんでしょうか。

 これについては、後年鳥嶋さんが言っててよく覚えてるんだけども、「読者が好きになる主人公ってのは2つしかなくて、こいつ本当すげえなって憧れるやつと、こいつ俺と同じだと思って共感できるやつのどちらかなんだ。で、鳥山くんの悟空とかは前者の典型で、お前さんの持ち味は後者だ」って言われたんですよね(笑)。

──ポップはまさしくそれですものね。

 だから、ポップがダイと月夜に散歩して、弱いくせに必死についてきた奴が、一番強い奴を励まして立ち上がらせてくれるまでに成長できた瞬間が書けた時には、まあある種この作品の集大成的なものを感じましたよね。ああ、自分の持ち味が出せたな、って。

リブートして今も生き続ける『ダイ』の物語

──『ダイ』について、リブートをかけてくれないかと最初に持ちかけられたのはいつくらいですか?

 2018年にジャンプが50周年を迎えたときですね。当然、いろいろな展示やイベントをやることになったんですけど、それまでは権利が整理されていなくて「ジャンプ」の歴代キャラが出るゲームなどではいつもハブられてたんです(笑)。

──オールスターなのに。

 オールスターなのに『ダイ』が出せなくって。それで関係各所と話し合って、この機にちゃんとクリアにしましょう、ってなったんです。それで、ついてはそれに合わせてっていうわけじゃないけども、リブートをかけて2年間ぐらいのアニメーションで、原作を完結させたい、って話をうかがいました。そこから「Vジャンプ」編集部とスクウェア・エニックスさんが仕切り直してくれて、全部OKになったんですよ。

──それで連載終了から四半世紀も経ったリブートとなったわけですね。

 四半世紀「も」と言いますが、その四半世紀のおかげで、当時楽しみに読んでくれていた読者が、今度はスタッフやキャストになってアニメを作ってくれてるんですからね。

──そして、三条先生は今も『アバン』の原作を書かれてるわけですね。

 それはとても幸せな、奇跡的なことだと思いますよ(笑)。

『ダイの大冒険』連載当時の貴重な資料を大公開、その制作秘話を原作者・三条陸先生が語り尽くす。編集から「早く殺せ」とまで言われた“ポップ”が目指したのは『ガンダム』のカイ・シデンだった…!?_014
(C)三条陸/集英社

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