2023年7月14日から16日までの3日間にわたり開催される日本最大級のインディゲームの祭典「BitSummit Let’s Go!!」。その開催に先駆けて、同イベントにも出展するグラビティゲームアライズが、メディア向けに試遊会を開催した。今回こちらの記事でレポートするのは、その中の1タイトルである『東京サイコデミック 公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊調査事件簿』(以下、『東京サイコデミック』)だ。
正直に書くと、本作については少し話題になっているとはいえ「キャラクターたちと会話をしながら事件を解決していく、よくあるアドベンチャーゲームだろう」くらいに思っていた。ところがいざ体験版を遊んでみると、関係者の相関図や監視カメラの映像分析など “サスペンスドラマなどでよく見る捜査” をかなり細かいところまで自分の手で操作することができる。その没入感が大きな特徴と言えるだろう。
『東京サイコデミック』は、未知のウイルスにより突然発生したパンデミックから3年が経過した2023年の東京がゲームの舞台だ。東京のロックダウン(都市封鎖)により世界は大きく変わっていったが、新たに就任した首相の手腕もあり、ようやく終息に向かっていた。これから徐々に都市機能が改善されていくという時に、東京都内で様々な超常的な事件が起こる。プレイヤーはそこで、あらゆる物証や捜査材料などを駆使しながら事件を解決していく、といった内容の作品となっている。
今年の4月に公開されたPVでは、リアルな映像との融合と現実世界ともリンクしそうなテーマ性、そしてこれまでになかったような操作スタイルなどから注目を集めていた。
今回の試遊会では、オープニング部分も含めた体験版を実際に遊ぶことができた。そこから分かった本作の魅力と特徴についてレポートしていく。また、後半では本作の開発陣にもインタビューも実施しているので、そちらも合わせてチェックしてほしい。
文/高島おしゃむ
集めた証拠を「エビデンスボード」に貼り付けていくことでストーリーが進行
オープニングはPVでも一部流れていたニュース映像から始まり、それまでの時系列がわかるような構成になっている。まだ平和そうな2019年の映像から、都市が明けた2020年あたりからインフルエンザが流行していくニュースが増加していく。このニュースは妙にリアルで、ちょうど我々がこれまで体験してきたコロナ禍を、そのまま別の世界線の出来事として見ているかのような感覚にさせられる。
本作では、現実世界で実際に起きた事件や不思議な出来事がモチーフになっているのだが、最初の章であるCase1では「SHC」と呼ばれる人類自然発火現象を扱った事件が登場する。きっかけとなるのは、パンデミックが発生したときに治療薬を開発していた製薬会社のビル地下駐車場で発見された、男性の焼死体だ。被害者の姿は、ほかのSHC事件同様に、足だけを残して消失してしまっていたのである。
しかし、その事件発生から1ヵ月後、何者かの意図が働いたのか捜査はあっけなく打ち切られてしまう。そこで事件の真相を探るために捜査を託されたプレイヤーたちが、資料を元に科学的な調査を進めて謎を解き明かしていくことになるのだ。
本作では多くのキャラクターが登場するのだが、プレイヤー自身が操るのはキャラクターの中のひとりではなく、一人称視点の映像だ。事務所の相棒である紅葉巴杏とともに、捜査を進めていくことになる。
冒頭にも書いたとおり、プレイ前の印象ではよくあるアドベンチャーゲームのように様々な場所で人々に聞き込みを行うなどして、キャラクターたちと会話をしながらストーリーを進めていくようなものだと思っていた。しかしながら、それらとは大きく異なる「特別なシステム」が採用されている。そのひとつが「エビデンスボード」と呼ばれるものだ。
この「エビデンスボード」は、映画やドラマなどでよく見かける事件の状況や関係者などを整理するためのボードだ。本作では、捜査の中で見つけていった証拠をこの「エビデンスボード」に貼り付けていくことで、ゲームのストーリーが進行していくという手法が採用されているのである。
もうひとつ、この「エビデンスボード」のユニークなところは、そこに貼り付けていった情報が必ずしも正しいモノであるかは最後まで分からないところだ。各章の最後に、それまでの捜査結果をまとめた報告書を提出する。そこで正しい答えを出していれば、ニュースの映像として報道され事件は解決する。その逆に、全く的外れな答えを出してしまった場合は、一切報道されないといった感じだ。
ガチな捜査をしているような気分が味わえる実写映像と解析ツール
『東京サイコデミック』は、2D×シネマティック・リアル科学捜査シミュレーションと呼ばれるゲームジャンルの作品となっている。この「2D×シネマティック」の部分に関しては、2Dによるドラマ表現と実写映像を組み合わせるといった手法が採用されている。
ドラマシーンで登場する人物たちはLIVE2Dによる動きのある2次元キャラクターなのだが、その背景には絵ではなく実写が使われている。この実写はドラマ部分の背景だけではなく、ありとあらゆる部分にも使われているのだ。
たとえば現場の証拠写真は実写が採用されている。その一部をアップにしながら、ターゲットとなる証拠を見つけていくことになる。また、静止画だけではなく、本作では街中に取り付けられている監視カメラの映像も見られるようになっているのだが、こちらも実写映像が採用されているのだ。
これらの写真や映像、音声などの解析を行うのが「デスク」だ。この「デスク」にはビデオテープなどの動画証拠を解析機材にセットして、映像の中から貴重な証拠を見つけ出すことができるのである。一見するとテレビの編集機材のようにも見えるが、映像や写真といった素材は、ふたつあるモニターのどちらかに表示できるようになっている。モニターは2台並べて設置されているため、ふたつの映像を見比べたいときなどにも便利だ。
たとえば動画解析では、最大5倍速で動画の映像を見ることができる。好きなタイミングで映像を巻き戻すこともできる。実写の動画を再生しながら一人称視点で機材を操るため、まさに自分が事件の捜査をしているかのような感覚が味わえるようになっているのだ。
同じ機材で写真解析も行えるのだが、こちらは動画とは少し主旨が異なり、AIが写真に映っている対象物がなにか検出してくれるようになっている。写真は部分的に拡大することもできるようになっているため、重要そうなポイントを調べて証拠を集めていくことになるのだ。
プレイヤーをサポートしてくれるネット上の協力者「ダークピット」
「デスク」では、動画や写真の解析以外にも「ダークピット」と呼ばれるインターネットサービスを利用することができる。といっても、こちらは普通のネットのコミュニティサイトなどとは異なり、特別な技術を持つ凄腕ハッカーたちが集まったような場所といった感じになっている。
「ダークピット」では、特定の情報について教えてもらうことができるほか、仲間たちの力を借りて特別な監視カメラの映像を入手することもできる。たとえば、特定の人物の行動を調べたいときに、街のあちらこちらに設置された監視カメラの映像を手に入れて足取りを掴んでいくといったこともできるのだ。
少し余談になるが、ゲーム中に手に入る映像などのデータは、必ずしもすべて意味があるものとは限らない。ゲームプレイ上はダミーのものも含まれているのだが、それぞれの映像素材はかなりリアルに作られており、ついつい見入ってしまう。そうしたこともあり、重要なポイントを見逃さないように、早送りではなく等速で再生してじっくりと監視したくなってくる。
ゲームではあるのだがかなり集中してプレイすることになるため、人によっては途中で疲れてしまうこともあるかもしれない。今回試遊したバージョンでは体験することはできなかったが、ゲームをある程度進行させることで、部屋の中が自由に歩けるようになる。そこで「寝る」というコマンドを選ぶことでセーブすることが可能だ。
「ダークピット」の仲間たちの協力を得て集めた資料を元に、ふたつの画像が一致するか「デスク」で照合比較を行うことが可能だ。そこで一致率が高い場合は、同じ証拠物であることがわかるといった感じだ。
今回の試遊では、被害者が可燃性の高いエタノールを購入したことがわかったところまで捜査を進めることができたのだが、府中刑務所にいる人物に意見を聞きに行くというところで終了となった。わずかなプレイ時間ではあったが、想像以上に楽しむことができたほか、続きも気になるような感じだ。この後、さらに様々な事件にも挑んで行くことになるのだが、まだまだ体験していない捜査も楽しむことができそうな感じである。
『東京サイコデミック』プロデューサー&プランナーインタビュー
ゲームを試遊したあと、本作のプロデューサーである神崎喜多氏とメインプランナーの石井政仁氏にお話を伺うことができた。
──ゲームはいつ頃から開発が始まったのでしょうか?
神崎喜多氏(以下、神崎氏:):
去年の7月からスタートしました。そこから1ヵ月間くらい撮影とゲームの根本的な映像を撮影したあと、9月に本制作に入っているので、まだ1年も経っていません。
──めちゃくちゃ早いですね!
神崎氏:
はい。めちゃくちゃな開発方法をしているので(笑)。ちょっと恥ずかしい話ですが、この体験会の会場に貼ってある看板も時間がなかったので、ロゴ以外は全部僕が作りました。この『東京サイコデミック』の構想が出た時に東京の色んな場所のスナップ写真を撮りに行っていて、その時の写真をサイバー加工みたいな感じにして背景に使っています。なので、結構手作り感がありますね。
急いでいるわけではありませんが、決まっていたものをどんどんアウトプットするという作り方をしているので、この速度感が出ているのではないかなと思っています。
石井政仁氏(以下、石井氏):
構想と開発と一緒に考えていく中で、同じ方向に向くのが早かったので一気に作ることができました。
神崎氏:
プロットができ上がるまでは、「ああでもないこうでもない」という感じでした。
──プロットを作る段階で一番悩んだ部分はどこでしたか?
神崎氏:
一番悩んだのは、ゲーム性です。
石井氏:
最初は「エビデンスボード」は存在せず、証拠物を入力していくぐらいの簡素なものでした。しかしお客さんの目線に立ってみると「証拠物が手に入ったときに確認するためのものが何か必要だよね?」という話になったんです。
そこで、映画やドラマなどでよく見かける「状況や関係者をかっこよくまとめるボード」を意識した「エビデンスボード」を採用しました。それに合わせてストーリーも展開していくことで、ゲームの進行も謎解きもできるのではないかと思ったんです。
神崎氏:
「エビデンスボード」を作ったことで方向性は見出せたのですが、社内テストでゲームを遊んでもらったところ、見慣れない機材を使うため「どうやればいいのかわからない」など操作性の問題が出てきました。そこで操作性の改善も2~3回繰り返し、ようやくお出しできる形になったところです。
ある程度目処が立ってきたので、今年の4月27日にプレスリリースを出しました。ありがたいことに意外と反応が良かったので「この方向性で合っているのかもしれない」と思い、今に至るといった感じです(笑)。
石井氏:
じつは最初、社内の反応がめちゃめちゃ悪かったんです。
神崎氏:
「なにこれ大丈夫?」「ゲームじゃないだろ」「ドラマですか? だったらドラマ撮れば?」みたいなことも言われました(笑)。そこから徐々に反響をいただいて、流れが一気に変わりました。
──ゲーム内にキャラクターは何名ぐらい登場しますか?
神崎氏:
絵が動くキャラクターとして登場するのは、主要メンバーとサブキャラクターを合わせて、合計12人くらいです。
──ロケハンや撮影などで苦労したところはありますか?
神崎氏:
主軸となるのがゲームなので、それを現実に落とし込むロケ地がなかなか見つかりませんでした。ゲームを作っている人と映像を作っている人では、文脈も感覚も全部異なります。そこを取り持つのが、毎回苦労するところです。
たとえば、ゲーム側から「こういうことをしてほしい」と要望を出しても、映像側からすると「そんな要求は無理」「そんなロケ地もない」と。そこで、両方を見ている私が間に入り、妥協できるところに持っていくところが一番苦労したところです。
ゲーム側の目線でいうと、「ゲームでこういう演技をしてほしい」という演出要求をしていますが、『東京サイコデミック』は “リアル感” を重視した形にしたいので、映像監督と相談しています。
石井氏:
映像監督もプロ魂に火が付くと、カットが増えたりとか予想以上にシーンが良くなったり、相乗効果が生まれることがありました。
クリエイティブをクリエイティブでぶつけていくみたいな感じでお互いに言い合いはしますが、お互いの仕事をリスペクトし合っているので「この前撮った映像すごくよかったです」といった感じで、突然接待モードになることもあります(笑)。
──映像は何カットぐらい撮られましたか?
神崎氏:
Case1では、監視カメラのダミーデータも含めてだいたい16シーンぐらい撮影しました。
──ゲーム内の映像を実写にしようと思った理由を教えていただけますか?
神崎氏:
これには本音と建前がありまして(笑)。本来は、キャラクターゲームということで、事件シーンなどはCGでやろうとしていました。しかし、CGでは交差点で歩いているシーンを撮るだけで大幅な予算を消化してしまいます。そうなると、Case1を作る映像費だけでほとんどの予算を消化することになります。我々の規模では現実的ではありません。
そうなると映像しかなく、たまたま僕の知り合いの映像監督さんが「だったら俺がやるよ」と言ってくださり、なんとかできました。
普通にやると、「1年半くらい映像だけを作っています」ということになりかねません。なんとか手軽に一番いいクオリティが出せないかと考えたときに「監視カメラの映像を組み立てればいいのでは?」というアイディアが生まれました。
──最初に公開されたPVはどのように作られたのでしょうか?
神崎氏:
まずは、映像班成り立ちから説明します。最初はサンプル映像をゲーム側で制作しました。しかし、ゲーム開発を実施しながら映像制作はリソース的に不可能でした。そこで、映像監督を中心にそこで映像班を作ることにしました。やはり映像監督に入ってもらったところ、リアル感や臨場感が全然違いました。ドラマや映画など作っている人の品質は非常によかったです。Case1ができたときに「これはいける」と、ようやく手応えを感じました。
PVについては、情報を出すたときに、少し引きのある映像が作りたかったので、ニュース映像のオープニングをPVに入れています。ちなみに、世界設定は後付けではなく、元々パンデミック後の世界で不思議な事件が起こるということにしていました。そのパンデミック部分を抜き出すことで現実とリンクすると考えて作ったのですが、これが大正解だったと思っています。
──映像は実写が多く使われていますが、キャラクターをCGにした理由はございますか?
神崎氏:
芝居をさせる場合はキャラクターの方がゲームとの親和性が高くなると考えています。それと、じつは『サイコデミック』シリーズみたいな感じでIP化を狙っておりまして、実写の女優さんを起用するのもありですが「継続的にできるのか」というところが難しい部分で……。
石井氏:
あとは実写の場合、かっこよすぎるセリフを言うと少し冷めてしまうところが正直あるかと思うんです。「現実世界でそういうことは言わないだろう」みたいな。
神崎氏:
石井のいうとおりで、余談ですが、『シン・ゴジラ』などの影響とかもすごくあって、その中で、実写での「芝居・演技をさせたくなかった」というのがあります。
石井氏:
名のある俳優さんを起用すると、事件に集中するよりもその方に目が行ってしまうのでそこはどうしても避けたかったですね。
神崎氏:
結果的に、2Dによるドラマ表現と実写映像を組み合わせる「2D×シネマティック」が生まれたのでよかったと思います。実写映像があることで没入感が違ってきました。
オープニングのニュース映像もフルアニメにすれば確かに引きは強くなるかもしれませんが、絵を見ている時点で現実感が薄れてしまいます。しかし、実写映像を融合することで「こんなことあったっけ?」と、パラレルワードに入ったような感覚が生まれてくるように思いました。
──本作で目指したテーマはなんでしょうか?
神崎氏:
いくつかありますが、ひとつは「コロナ禍で世界が変わったあと、本当に自分たちが見ているものが真実なのか?」というところです。ちょっと都市伝説的で、意味深で、政治的背景も描かれる、みたいな。
──本作は全5章で構成されているそうですが、それぞれどのような物語なのでしょうか?
神崎氏:
Case1は人体自然発火事件、Case2は生物が空から降ってくるファフロツキーズ、Case3は神隠し、Case4は一般的な事件という感じですが、どれもテーマが重くなっています。ゲームの社会的に限界な表現にあえて踏み込みました。
──仮に本作が大ヒットしたとして、続編でどんなものが作りたいといった構想はございますか?
神崎氏:
Case5が「本当に実在するのか」というが、次のシリーズのテーマになると思います。
──全体を通して大きなテーマがあるということでしょうか?
神崎氏:
はい、私の中では持っています。一旦はこの『東京サイコデミック』を完結させて、『サイコデミック』シリーズの中で訴え続けていければいいかなとに思っています。
石井氏:
ゲームの設定的に、登場するキャラクターたちには過去から追っている事件があります。今回はその片鱗に触れますが、「このチームがなぜ結成されたのか?」というところに関してまではあまり出していません。
神崎氏:
その前日譚みたいなものをやりたいと思っています。
──捜査部分に関してはかなり本格的ですよね?
石井氏:
捜査は大変だと思いますが、重厚感のあるドラマや進捗もわかりやすくなるよう努力しています。そのため、いろんな方に手に取っていただければ幸いです。
──最後にこの作品を楽しみしているファンへメッセージをお願いします!
神崎氏:
BitSummitの会場に来られる方は、ぜひ遊んでみてください!
石井氏:
内容的に尖ったゲームになっているので、BitSummitに来場される方がいればまずはどんなゲームなのか体験していただきたいです。ゲーム的表現も含めて、すごく攻めているところは体験できると思います。
──本日はありがとうございました!(了)