8月23日(水)から25日(金)まで開催されているゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2023」の3日目にて、インディーゲームスタジオ「Odencat」で代表取締役・プロデューサーを務めるDaigo(佐藤大悟)氏の講演『「メグとばけもの」のつくりかた – 心を揺さぶるゲームの技術』が実施された。本記事では公演のなかで語られた「表現したいシーン」を生み出すために決める“一点突破型”のコンセプト設計や、明確なゴールのある状態で進めていく“最短ルートのインディーゲーム開発”を紹介していく。
ドイツ生まれ・日本育ちの講演者であるDaigo氏は、当時のアクティビジョン(現アクティビジョン・ブリザード)が手がけたiPhone/DS版『ギターヒーロー』やスクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーXIV』、DeNAから配信されていた『忍者ロワイヤル』などの作品に携わってきた経歴を持つクリエイターだ。しかし、米DeNAの解散にともなって職を離れてしまったDaigo氏は、シリコンバレーで約2年間インディーゲームの開発に着手。2019年2月にiPhone、Androidへ向けてリリースした作品『くまのレストラン』でヒットを収めており、日本への帰国後に立ち上げたスタジオがOdencatである。
そして、今回の講演での題材となった『メグとばけもの』は、Odencat初となるPCおよび家庭用ゲーム機向けのタイトルとして開発された作品。“HP99999”の体力を持つ最強のばけもの「ロイ」と魔界に迷い込んだ少女「メグ」の出会いから物語がはじまる本作は、泣かせないように苦戦しながらメグを人間の世界へ送り届けようとするロイたちの旅路と心の交流を描いた作品だ。
Steamで600件以上のレビューがつき、うち98%から好評を獲得するなどプレイヤーからは好評を得ている本作だが、外側から一見した印象では『モンスターズ・インク』のように既視感のある設定やゲーム要素をほとんど感じられない短編での体験など、なぜ作品が高評価を受けているのか疑問に思う人もいることだろう。そして、疑問への答えこそ冒頭にも記した“一点突破型”のコンセプト設計にある。
Daigo氏によると、本作における製作のはじまりはディレクターおよびシナリオ担当であるRyota氏が出した物語のアイデアやコンセプトアートにあるという。Ryota氏はOdencatの過去作『スノーマンストーリー』や『ねずみバスターズ』でもプロジェクトに参加していたため、作品像に対するイメージがシンクロした状態で「少女が泣くと世界が終わる」コンセプトに合ったゲームシステムが形作られたようだ。
続いて紹介された開発準備の段階では「1年で2,3人で完成させる規模感」とするべく、バトルを盛り込みつつも成長要素を極力入れないよう計画の範囲(スコープ)を設定。ときには“ご意見番”の役割を務める第三者をはさみつつもDaigo氏とRyota氏で細かな設定やバトルシステムの実装、ゲームならではの演出について議論を進めていったという。
上記までの制作過程について、Daigo氏は電ファミニコゲーマーで公開された対談記事へ載せられている“Dr.マシリト”こと鳥嶋和彦氏の発言を参考にしたと語っており、理屈ではない部分からアプローチしたいくつかのキービジュアルとオープニング・エンディングを先に作り、明確なゴールがある状態でプロトタイプ版の製作につなげていったようだ。
また、Daigo氏は開発の段階について工数を“最短ルート”まで短縮するとともに、本質的に感動できる話を提供するため、あえて仮グラフィックでゲームの完成を目指したと述べている。また、講演のなかでは「気持ち悪さ」から少女との対比で生まれるばけものの魅力を大事にしたアートデザインや、“コンセプトありきでの作曲”のこだわりについて触れられた。
講演では最終段階にあたる仕上げの話として、不具合や表記ゆれ、表現方法に対する意見・感想を反映させていく「フィードバックシート」の話が登場。コアメンバーで頻出しそうなフィードバックを取り除いておくことで着眼点の幅を広げる工夫や、Daigo氏・Ryota氏による独自の判断で加えられた改善・改良の例も紹介された。
上記のほか、本講演では日本のインディーゲームでは珍しい「メタスコア」の獲得につながった海外向けのPRをはじめとするマーケティング戦略についても語られた。講演のまとめとしては「明確なコンセプトの設定」や入念な開発準備および仕上げ、出来うる限りのマーケティングが重要であったとしている。