遊び方に多様性を持たせる
続いてのアプローチは、遊び方に多様性を持たせること。
先ほども触れましたが、主人公はストーリーの進行とともに召喚獣の力を習得していくため、この召喚獣の力によるアクションを多様なものとし、どの召喚獣を選択するかによって戦術が大きく変化するように設定しています。
ただし、召喚獣の力を戦闘中に全て同時に使えるという仕様にはせず、どのアビリティを使ってどういった戦術を取るのかの選択をプレイヤーに委ねるというカスタマイズ方式を採用したとしています。
また、召喚獣の力を用いたアクション “フィート” によって戦術の幅の拡張を、召喚獣の力を用いた必殺技 “アビリティ” によって戦術の深みを付与することを狙ったと鈴木氏は言います。
まず、戦術の幅を拡張するアクションであるフィートの具体例として、敵との間合いを詰める移動特化アクションで、汎用性の高い「接近」、
敵を主人公の目の前に移動させたり敵の体勢を大きく崩し、積極的に敵を攻撃していきたいプレイヤー向けの「引き寄せ」、
敵の攻撃を防いだ後に敵に攻撃を叩き込む、「ガード&カウンター」といったものが挙げられます。
このガード&カウンターは、敵の攻撃に合わせてガードをタイミングよく発動することで、通常は防御不可能な攻撃技でさえも防ぐことができるため、プレイヤーの操作テクニックが強さに直結するという、テクニカルな操作によるアクションを好むプレイヤーにマッチする設定になっています。
このように、フィートには汎用性の高いものから特定の嗜好のプレイヤーに向けたものまで多様な種類があるため、戦術の幅を拡張していると言えます。
続いては、戦術に深みを作る必殺技であるアビリティについて。
例えば、アグレッシブに敵を攻撃したいプレイヤー向けのフィートを持つ召喚獣ガルーダのアビリティは、アグレッシブな戦術をより際立たせる性能を持った技のラインナップで構成しており、攻撃力ではなく手数と敵の体勢を崩すことを重視。
続いて、敵の攻撃を防御してから攻撃を打ち込むというテクニカルなフィートを持つタイタンのアビリティは、スピードこそ遅いものの破壊力に優れる技で構成しています。
タイタンのアビリティは攻撃を放つまでの予備動作が非常に長く、敵からの攻撃を受けるリスクがあるため、ガード&カウンターやパリィなどのテクニックが要求されるアクションを成功させて敵の隙を作ってから打ち込むといった工夫が必要になるため、よりテクニカルなアクションが求められるとしています。
今回挙げたフィートとアビリティはごく一部であり、これらのアクションの調整においては、長所と短所を作ること、短所を他の召喚獣アクションでカバーできるようにすること、「死にスキル」と呼ばれるような全く使われないアクションが生まれないようにすることの3点を基本方針として掲げたと鈴木氏は言います。
これらのアビリティを組み合わせることにより、大魔法のアビリティを中心にカスタマイズした、ここぞという場面での瞬間最大火力に特化したスタイルや、敵の攻撃に合わせてアビリティを発動することで攻撃性能が跳ね上がるようにカスタマイズした、ハイリスクハイリターンなカウンター重視のスタイルなど、プレイヤーによってプレイスタイルがガラリと変化します。
そして、こういった工夫によって目指したのは、エンディングを迎えた時のカスタマイズがプレイヤーによって大きく異なるという形だとしています。
操作キャラクターとプレイヤーの “リンク感” を上げる
続いては、操作キャラクターとプレイヤーの “リンク感” を上げるアプローチ。
この実現のためには操作感の良いゲームにすることが必要で、プレイヤー自身はしっかりと反応できているのにキャラクターが反応しないといったケースが積み重なることで、プレイヤーはそのゲームは操作感が悪いと感じ、ネガティブなイメージを持ってしまうとしています。
また、アクションゲームが得意なプレイヤーの場合は、クセのある操作感でもある程度受け入れてくれる傾向があるものの、アクションが苦手なプレイヤーの場合は操作感の悪さを大きなマイナス点と捉えることが多いため、『FF16』ではキャラクターを操作したときの手触り感を大事にし、操作キャラクターとプレイヤーのリンク感を上げるように調整したと鈴木氏は言います。
例えば、キャラクターのアクションを「このタイミングでは操作できなさそうだな」と感じさせるような、納得感のあるポージングにすることがリンク感を高める一例として挙げられ、突撃攻撃のランジの場合、このアクションでは、攻撃の発動後にキャラクターの重心を大きく下げることで次の動作に移れない状況を演出していると言います。
この調整は、アニメーターの協力により実現したものであり、アクションによってキャラクターが硬直する時間を決定した後に、ポージングの調整をアニメーターが行うというフローで進められたとしています。
そして、もう1つのリンク感を高めるための手法が、1つのアクションを実行したあとに他のアクションを発動可能にするタイミング、すなわちキャンセルタイミングの調整です。
これについては、とあるアクションを実行した後の特定のタイミングで全アクションを一律に使えるようにするのではなく、アクションを移動や攻撃といったカテゴリーに分類し、それぞれのカテゴリーについて発動可能になるタイミングを設定したとしています。
また、このキャンセルタイミングの調整は先ほどのポージングとも関わり、キャラクターが技を出して体勢を立て直し始める時間が、キャンセルタイミングと一致することが理想であると、鈴木氏は言います。
ゲームオーバーになったときの “納得度” を上げる
続いては、敵に関するアプローチで、ゲームオーバーになったときの “納得度” を上げるというもの。
例えば、敵の様子を伺っていたら次の瞬間には敵の攻撃をくらい、ゲームオーバーになるというケースは、ゲームオーバーの納得度がほぼ無く、ほとんどのプレイヤーが理不尽さを感じます。
こういった理不尽さを可能な限り払拭するため、FF16では3つの調整を行ったとしています。
最初の調整は、「予兆記号の徹底」です。
これは、敵が攻撃する前に予兆となる動作を入れることを徹底するというもの。
仮に予兆動作がプレイヤーに上手く伝わらなかった場合、その予兆動作は全く意味をなさなくなってしまうため、どういった攻撃がどのタイミングで来そうかが感覚的に分かるような予兆動作になるよう、各動作の調整を行ったと言います。
例えば、ギガースの横振り攻撃では、攻撃の予兆動作を誇張することで、この動きが攻撃の予兆であることが感覚的に伝わりやすいように調整しています。これは、自然な動きではなく誇張しているくらいが丁度いいと鈴木氏は言います。
そして、攻撃動作の頭でシルエットを変化させることで、実際に攻撃を繰り出すタイミングが感覚的に分かりやすいようになっています。
これらの予兆動作の調整により、攻撃をくらった時の理不尽感を軽減し、キャラクターの回避行動やパリィの目安を生み出しているとしています。
2つ目の調整は、カメラ外からの攻撃の抑制です。
敵の攻撃が画面外から飛んできて被弾するという状況は、プレイヤーに理不尽さを感じさせやすいため、主人公を攻撃する予定の敵がカメラ内に描画されていない場合、敵は一旦カメラ内に移動してから攻撃動作に移るように制御しています。
この制御は複数の敵を相手にするシーンで効果的に作用しており、画面外攻撃の理不尽さを削減し、攻撃を受けた時の納得度を上げていると報告しています。
なお、この制御は近接攻撃に限った場合の話であり、魔法などの遠隔攻撃が画面外から主人公めがけて発射される場合は、主人公が魔法に狙われていることを示すUIを画面端に表示し、それを予兆記号としているとのこと。
最後の調整が、攻撃権のチケット制の導入です。
複数の雑魚敵を相手にするシチュエーションは、アクションが苦手なプレイヤーにとっては困難な状況である上、登場する全ての雑魚敵が制限なしに主人公に対して攻撃を放った場合、戦闘難易度に大きな揺らぎが発生するという問題点があります。
この問題を解消するため、『FF16』では、雑魚敵に対して攻撃権のチケット制を導入しています。
これは、システム側が発行したチケットを受け取った雑魚敵だけが攻撃を繰り出すことができるというシステム。システムの発行したチケットを受け取った雑魚敵は、攻撃を放つとチケットをシステムへ返却し、チケットを受け取ったシステムは、再びチケットをいずれかの雑魚敵に渡すという作業が内部的に繰り返されることで、戦闘が進行します。
攻撃権のチケットを受け取っていない雑魚敵は、待機などといった主人公を攻撃しない行動をするため、この攻撃権のチケット枚数の最大値がモードごとに設定することで、複数の雑魚敵が登場する時の戦闘難易度が制御されているとしています。
そして、アクションゲームにおいて、攻撃をくらった時の納得度は非常に大事な要素であり、これら3つの調整は、その納得度を高めるために非常に有用な手法であったと鈴木氏は言います。
さて、「今回のセッションで扱った内容は全てFF16をプレイすれば体感できるものなので、是非プレイしてみてください」という鈴木氏のコメントで締められた本講演は、ターン制コマンド戦闘から始まったFFシリーズの中で初となるリアルタイムアクション戦闘を、幅広いプレイヤーに受け入れてもらうための様々な取り組みが語られる有意義なものでした。
これらの取り組みがどういった形でアクション戦闘に実装されているのかが気になった方は、FF16をプレイしてみてはいかがでしょうか。