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“不正解” や“理不尽”を感じさせないバトルデザインとは? 『FF16』は“納得度”を高めることで、アクションが得意な人と苦手な人の両立を目指した【CEDEC2023】

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 世界的に有名なRPGシリーズとして、その名をゲーム史に刻み付けている『FINAL FANTASY』シリーズ。 

 RPGにおける重要な要素である戦闘、すなわちコンバットについてシリーズ作品を振り返って考えてみますと、最初は完全なターン性のコマンド入力形式で始まり、徐々にアクション要素が取り入れられていることが分かります。

 そして、2023年6月22日に発売された最新作『FINAL FANTASY XVI(FF16)』は、戦闘が完全リアルタイムのフルアクションであることも話題を集めました。

『FF16』は“納得度”を高めることで、アクションが得意な人と苦手な人の両立を目指した【CEDEC2023】_001

 従来のシリーズファンから『FF16』でシリーズに初めて触れる人まで、幅広いプレイヤーに楽しんでもらうため、どのように戦闘システムをデザインしていったのか。

 その方針と具体的な手法を紹介するセッション『FINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~』が、国内最大級のゲームカンファレンス、CEDECにて8月24日に開催されました。

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 本講演にて登壇されたのは、長年カプコンに在籍し、『デビルメイクライ5』や2D対戦格闘ゲームの開発に携わり、『FF16』ではバトルディレクターを務められた鈴木 良太氏。

 今回は、本セッションのレポートをお伝えしていきたいと思います。

文/DuckHead


これまでのFFのバトルシステムと、FF16のバトルデザイン

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 さて、これまでのFFシリーズのバトルシステムは、ターン制によるコマンドバトルから始まり、ATB(アクティブタイムバトル)の導入、アクションの要素を盛り込んだセミアクションへと変遷し、発展してきました。

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 そして、最新作『FF16』はシリーズ初の本格派アクションゲームとして、リアルタイム性の高い戦闘を構築しており、この時に目標としたのが、「幅広い世代が手に取ってくれるようなバトルデザイン」であったと鈴木氏は言います。

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 『FINAL FANTASY』というゲームシリーズの流れの中でアクション性の高い戦闘を構築する際の課題が、プレイヤー層の幅広さ。
 これまでのFFシリーズのファンや、『FF16』がシリーズ初プレイとなるアクション好きにも楽しんでもらえるものにするのはもちろんのこと、アクションゲーム好きの中にもライト層とヘビー層がいるため、その層の厚さにも対応する必要があり、従来のゲーム性から大きな改革が求められたと言います。

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 目指したのは、プレイヤーそれぞれにマッチした “遊び方” の多様性を実現すること。

 FF16では、ストーリーの進行により主人公が召喚獣の力を習得していくのですが、この召喚獣の力を用いた “フィート” というアクションと、 “アビリティ” という必殺技を、アクションが苦手なプレイヤーに向けたものからアクションが得意なプレイヤーに向けたものまで多数用意し、これらをプレイヤーが取捨選択することで、その戦術がプレイヤーごとに大きく変わるように設計したとしています。

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 また、FF16のバトルデザインにおいて目標となったのは「アクションが苦手な層と得意な層の両立」
 アクションが苦手な層にはアクションをプレイしている “実感” が得られる状態にした上で、アクションが得意な層にも “やり込み甲斐” を感じられるような魅力的なアクションとバトルシステムを構築するために意識したポイントが、ゲームをプレイする上での “効率性” には変化をもたらしつつも、ゲーム側からプレイヤーの遊び方に対し、“不正解” をなるべく作らないということ。

 以下、その目標達成に向けた様々な工夫の具体的な内容について紹介していきます。

敷居が低く天井が高いコンバットデザイン

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 まず、これまでのターン制コマンド式でFFを楽しんできたアクションゲームに馴染みのないプレイヤーに対しては、アクションのハードルの低さが必須条件となります。

 このアクションへのハードルを下げるためのアプローチは、「難易度」という側面からの調整ではなく、「付け替え可能なサポート機能」というシステムを手厚くすることだったと、鈴木氏は言います。

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 例えば、敵の攻撃を受ける際に画面がスローになることで回避ボタンを押しやすくし、反射神経を求められる局面を削減する「オートスローサポート」

 この機能のポイントは、プレイヤーに実際に回避ボタンを押してもらうということ。この、実際に回避ボタンを押すという行為が、リアルタイムで進行する戦闘の中で行われることで、プレイヤーにアクションをプレイしている “実感” を与えるのです。

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 続いての具体例が、自動で主人公の体力を回復する「オートポーションサポート」。これにより、プレイヤーが体力の残量を管理する必要が無くなります。
 また、このサポート機能は、闇雲に体力が減ったらすぐに体力を回復するという単純な設計ではなく、主人公が所持している回復アイテムの性能を考慮し、それをベースに無駄なく最適なタイミングで回復アイテムを自動で使用するように設定しており、大量の回復アイテムを抱えたままゲームオーバーを向かえないようにしたとしています。

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 最後の具体例が、敵との間合いや位置関係などを検知した上で、複数の攻撃アクションを自動で状況に応じて使い分ける「オートアタックサポート」

 攻撃ボタンを連打するだけで発動するこのサポート機能は、敵にダメージを与えることを考えた際の最適解ではなく、見映えの良さ、いわゆる “映える” コンボを作り出すことを意識したアルゴリズムにより動いていると鈴木氏は言います。

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 また、一口に「アクションが苦手」と言っても、反射神経、ゲージ管理、アクションの使い分けなど、実際に苦手とするポイントはプレイヤーによって様々。そのため、イージーやノーマルといった「難易度」という一軸のみでは、プレイヤーの苦手要素を網羅し、幅広い層に対応することはできません。

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 そこで、『FF16』で取り入れられたのが、「アクセサリによるサポート機能の提供」。
 先程のオートサポート機能たちを「装備品」という形にすることで、それぞれのプレイヤーの苦手に対応したサポートを任意で付け替えられるというシステムを構築したのです。

 このシステムの導入は、初めて遊ぶアクションゲームの難易度でイージーを選ぶことに抵抗感を持っているプレイヤーに効果的だったとしています。

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 また、プレイヤーのアクションへのハードルを下げる際に重要視したポイントが、戦闘中のプレイヤーの思考を0にしないこと。

 そのため、戦闘における最低限の思考として、今は敵の隙を突いて攻撃する時なのか、それとも敵の攻撃を回避する時なのかという思考は残るように戦闘をデザインしたと鈴木氏は言い、この制作方針により、戦闘を全て自動で行うオートバトルは意図的に採用しなかったとしています。

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 続いての取り組みは、天井の高さの実現です。
 これについては、テクニカルな操作を多く採用することでアプローチし、これらを使用することで、敵を倒す効率性が変化します。

 例えば、低難易度のテクニックとして設定されている「ジャスト回避」
 これは、敵の攻撃をタイミングよく回避することで敵に隙が発生するアクションで、偶発的にも発生する可能性が高くなるよう、発動条件を緩くしている他、ジャスト回避後の攻撃に専用のアクションを取り入れることで、プレイヤーがより積極的に狙いにいきたくなる魅力的なアクションになるようデザインしたと言います。

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 続いては、中難易度のテクニックとして設定された、剣撃のヒット中にタイミングよく魔法攻撃ボタンを押すことでコンボに魔法攻撃を組み込む「マジックバースト」
 
 このテクニックを使用するとコンボの火力が増加し、敵の体勢も崩しやすくなるため、戦闘が効率化されます。

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 そして、高難易度のテクニックとして調整した「パリィ」
 これは、敵の攻撃にタイミングよく剣劇を重ねることで発動し、敵に大きな隙を生み出し、プレイヤーが一方的に攻撃をすることができるようになる上に、ダメージボーナスも発生するアクション。

 当然、パリィの発動に失敗してしまえば、敵の攻撃を受けることとなるため、パリィが成功した時のリターンはかなり大きくなるよう設定していると言います。

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 これらのテクニック要素を導入する際に気をつけたポイントが、テクニカルなアクションを使わない選択をとるプレイヤーに対してペナルティを科さないことと、これらのアクションの恩恵を戦闘の効率化のみとすること。
 これにより、プレイヤーがテクニカルなアクションを必ず使わなければならない状況に陥ることを回避したとしています。

戦闘における成功体験を感じやすくする

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 続いてのアプローチは、戦闘における成功体験を感じやすくすること。
 
 これについては、先程のジャスト回避やパリィのような、タイミングと反射神経が要求されるアクションの猶予を意図的に緩めに設定することで、「上手に操作が出来ている感覚」を味わえる瞬間が多くなるよう調整したと、鈴木氏は言います。

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 鈴木氏が過去に実際に行っていた、アクションゲーマーをメインターゲットとする作品で導入したパリィは、敵の攻撃に対してパリィを受け付ける時間的猶予が非常に短かったのに対し、『FF16』では意図的にこの猶予を緩和し、パリィの受付時間を長めに設定したとしています。

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 これにより、プレイヤーは1つ1つの成功体験を積み重ねながらプレイを進めていくことができるため、成長を実感しながらゲームプレイに没頭できるのです。

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ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW

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