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今の漫画編集者は“編集権を放棄”している!? 鳥嶋和彦氏×霜月たかなか×筆谷芳行『同人誌 vs 商業誌』白熱のトークバトルから見えてきた漫画業界の過去・現在・未来

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「才能に乗っかっているだけ」現代の漫画編集者、出版社に物申す

 「同人作家とプロ漫画家の境界線の消失」のトークテーマから発展し、話題は『Dr.マシリト 最強漫画術』にも記載がある「理想の編集者像」について。鳥嶋氏による言葉のパンチに、現役編集者の筆谷氏・齋藤氏はノックアウト寸前!?

鳥嶋:
 「何かを描く」「誰かに伝えたい」という思いは、商業誌も同人誌も一緒だと思うんですよ。それをどういう形で、どれだけの数に届けるのかというところで、商業誌と同人誌が分かれてくる。僕はいつも、才能がある人には厳しく相対してきた。それは「本人が思ってる以上に、今描いている作品より、もっと面白い作品を描けるし、もっとたくさんの人に届けることができる」と思っていたから。そのために打ち合わせがあり、編集者が作家をよく知って一緒に仕事をする意味があるんですよ。

 例えば、『Dr.スランプ』。皆さんが知っているように、主人公は則巻アラレですけど、当初の鳥山さんの絵コンテでは第2話の話からアラレは出てこないんですよ。僕は「この女の子、魅力的だから出してよ」というと「アラレは発明品だから。それに少年誌だから女の子を描きたくない」と言うわけですね。

今の漫画編集者は“編集権を放棄”している!? 鳥嶋和彦氏×霜月たかなか×筆谷芳行『同人誌 vs 商業誌』白熱のトークバトルから見_016

一同:
 へぇぇ!

鳥嶋:
 ここで僕が作家性を尊重していたら、主人公は則巻アラレにはなっていなかったです。僕は、鴨川つばめさんや江口寿史さんが出てきた流れから、鳥山さんの描いた女の子のキャラは今の時代にウケると編集者として賭けをしました。なので、鳥山さんの『ギャル刑事トマト』という作品を増刊号に載せてもらって、アンケートで3位以内なら僕の言うことを聞く。4位以下なら鳥山さんのやりたいことを聞くということにしたんです。当然、僕は読者の流れを知っていたので、3位を獲りまして、無事に則巻アラレが『Dr.スランプ』の主人公になったんですね。

 商業誌の編集者はこういうことが役割なんです。読者がどこにいて、何を望んでいるかを知った上で、作家の持っているものを最大限引き出して、読者に橋渡しをすること。それが編集者なんです。商業誌で僕らが見ている才能を最大限の人に伝えたい、その作業なんですよ。

筆谷:
 商業誌の立場からすると一番耳が痛いことを言われていますが……(苦笑)。同人誌の場合、大きく分けて夏のコミケと冬のコミケという〆切があり、そこに合わせて新刊をあげてくる。そして、そのなかの編集者は誰なのかというと、まずは自分なんですけど、さらに言うと買いに来てくれる読者さんもなんですよね。意外とサークルの人は毎回買いに来てくれる人の顔を覚えています。その時に言われた言葉は、商業誌の編集者さんが言う言葉とニュアンスが近いんじゃないかなと。いつも来てくれる人を裏切れないから、ちゃんと新刊を出す。まあ、商業誌と同人誌、両方やっている作家さんの場合は、どちらの顔を見るのかというのもありますけど……。

鳥嶋:
 それでいうと、新人漫画家が絵コンテを見せながら「こういう意味があって、こういう意図で描きました」と説明された時、僕は「ジャンプは今何万部売れているか知っている? その読者全員に、今言った説明を君はできるのか?」とよく言っていました。漫画というものは、読んでくれた読者に過不足なく分かりやすく伝えるための媒体であり、そのためのテクニックや技法が必要。分からないことを分かるように描くのがプロじゃないかというのが僕の意見です。

筆谷:
 それはメジャーなエンターテインメントとしてはおっしゃる通りなんですけど、商業誌にも王道じゃない作品があってもいいのではと。料理にいろんな味があってもいいのと同じことです。

齋藤:
 鳥嶋さんは全員を鳥山明先生にしようとしているんですよ。さらに言えば、鳥山先生以上に売ろうとしているんですよ(笑)。だから、我々とは感覚が違うんです。大ヒット作品を描かれてきた桂正和先生にラジオ(『TOKYO M.A.A.D SPIN』)へ出ていただいた際にも「俺が担当していたらもっと売れていたはずだ」という話をするわけです。あれだけ売れている作家さんに対してですよ。なので、今日の話も全部「漫画を描かれている方々が鳥山明になるためには」という話をしています。だから、なかなか腹落ちしなかったり、理想論を語っているなと思ったりするかもしれないですが、これがないと鳥山先生は生まれない。理想を追うことで、鳥山明にたどり着けるのではないかという考え方だと思います。そういう優しい目で見ていただくといいかなと(笑)。

鳥嶋:
 編集者の役割って“目の前の才能の評価と育成”なんですね。作家に対してどれだけの愛情と関心を持っているかで厳しさが変わってきます。例えば、プロ野球選手のピッチャーのスピードボール、150〜160キロのボールを投げられるのは素質なんですよ。スピードボールは選手の天性のものだから、編集者が投げ方自体を教えることはできません。でも、編集者は、変化球やコーナーワーク、組み立てを覚えれば教えることができます。その作家が持っている才能を大事に思って、20勝投手やメジャーリーガーに育てるそこに僕ら編集者は関心があるわけです。だから、才能に対して関心があるがゆえの厳しさだと思っています。

霜月:
 少し別の角度からお話させていただきたいのですが、プロ漫画家にあってアマチュア漫画にないもの、つまり“〆切”が昔はありました。それが年2回コミケが開かれるようになって、〆切のようなものが生まれてしまった。しかし僕が知ってる限りでは、半年に1回の〆切なのに、30ページくらいのペラペラな同人誌しか作れない人が大半なんですよね。確かに仕事をしながら、学校に行きながら描いている人が、さらに漫画を描くのは大変なことだとは思います。だけど、描いている内容は別に壮大な物語でも何でもない、自分の日常を描いたエッセイ漫画だったりする。

 さっき「同人誌が商業誌に負けた」と言いましたけど、結局プロの漫画家には仕事して描く覚悟みたいなものがあって、アマチュアの漫画家はそういう意味でも負けざるを得ない。そこだけは自覚しておかないと、コミケがただの遊び場になってしまうだけで、同人作品という表現が枯れていってしまうのが悲しいと思います。

筆谷:
 昔は「プロ漫画家になること=職業の選択」だったんですよ。「俺は漫画家になって、生涯の仕事としてお金を稼いでいくぞ」と自分の意志で一歩踏み出すものだった。でも、この近年、僕の周りでも「同人誌を描いていたら商業誌の編集者に声をかけられた」「Twitterで絵や漫画を上げていたらスカウトさんから声がかかった」という人が多くなってきました。商業誌のなかで漫画を描くことで、ゆっくりとプロ漫画家としてのスイッチが入るのだろうけど、バシッとした体験としての覚悟があまり見えなくなったのはすごく感じています。

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鳥嶋:
 それは描き手の問題より、出版社や編集者の問題の方が大きいと思いますよ。今の編集者は描き手の才能をイージーに利用している側面があるんじゃないかなと。「声をかけたら最後まで面倒を見てほしい」と筆谷さんが冒頭に言ったとおり、声をかけたということは才能を認めたということだから、それを利用するのではなく「最大限たくさんの人に作家の良さを伝えるにはどうしたらいいのか」を考えるアイデアをつくる。そのための編集なわけだから、単にスカウトして才能に乗っかるだけが編集者じゃないんですよ。

筆谷:
 そういう考え方は『あしたのジョー』で学んだことがあります(笑)。丹下段平が矢吹丈に声をかけて、少年院に入っても手紙を書き続け、ボクシングの基礎を教えるまで諦めなかったじゃないですか。少年漫画のなかにも「目をつけたからには、とことん付き合うこと」が描かれていたので、まさに鳥嶋さんのおっしゃる通りなんですけど、現実的に難しいのかなと。

 鳥嶋さんのおっしゃっていることって、50代前半の僕でもビンビンに響いてきますけど、これが20〜30代の編集者なら泣きますよ(笑)。

齋藤:
 そうですね(笑)。

鳥嶋:
 (笑)。この本(『Dr.マシリト 最強漫画術』)のあとがきにも書いていますけど、今は漫画・アニメのバブルなので、単にお金が儲かるという理由だけで、出版業界じゃないところが漫画に参入している。今は出版社にならなくても、取次も印刷会社も書店もなしに漫画が出せますから。だけど、そういう理由で漫画業界に入ってきてほしくない。漫画がここまで何十年にも渡ってやってきているのは、 一重に漫画を描いてきた才能とそれを支持してきた読者、特に子どもたちの思いがあるからです。ここでつまみ食いされて、才能と読者の育成にお金をかけずに、目先のものだけを売っていたら、5年後、10年後はどうなっているのか。たぶん惨憺たるものになっていると思うんですよ。

 これは新規参入してきた企業だけではなく、50〜60年やってきた出版社にも言える。漫画で儲かった、読者から預かったお金を正しく漫画業界に返しているのか。残念ながら、漫画がたまたま媒体として優れていて、描き手がいろんな形で供給されてきて、ここにあるということを、本当の意味で大事にしてこなかった事実があるんじゃないかと思っています。

筆谷:
 編集長として、若い編集者から新人作家の相談をたまに聞くんですよ。そのなかで、「若い漫画家さんはお金がないから、原稿料を前借りできませんか?」と言われることもあって。その時、僕は「お前が個人的に貸せよ」と試す意味合いで言うことがあります。「絶対に売れますから!」と自分のポケットマネーから出して、売れた時に返してもらえばいいじゃないかと言うと、「いや、それはちょっと」と言うやつがいるんですよ。そいつは負けなんですよね。「俺も出すから、倍出してください。売れたらパーティーしましょう」といい気分になるやつを僕はカッコいいと思う。要するに、「売れる」と言って持ってきた作家に、その一言で自信がなくなってしまうやつは編集者として弱いかなと。

鳥嶋:
 僕は、個人的にお金を出すのは反対です。それは企業活動としてやるべきことじゃないですか? あくまでも編集部のなかの筋論で説明してお金を出せばいいだけで、そういう個人プレーに走った瞬間に編集部のシステムは終わっちゃいますよ。

筆谷:
 個人的に担当作家に(お金を)貸したことはありますけど……あの、うちにもちゃんと前払いシステムの書類があるので、それを強要するわけではないですよ!

一同:
 ハハハハハ(笑)。

筆谷:
 ただ試すという意味では、それくらいの覚悟がないとと思っています。

齋藤:
 「作家さんの才能をそれだけ信頼しているのか?」ということですよね。……なんか、しんみりしてきちゃいましたね(笑)。

筆谷:
 ほかにも、鳥嶋さんには聞いてみたいことが。ジャンプ作家との関係、同人を取り巻く世界とか。やっぱりコミックマーケットにおいては『キャプテン翼』『聖闘士星矢』ってすごく大きくて……。

齋藤:
 筆谷さんの聞きたいことは、あとで控室で聞いてもらえれば(笑)。

参加者ともトークバトル勃発!?質疑応答コーナー

 まだまだ聞きたいことが山ほどありそうな筆谷氏だが、トークショー開始からあっという間に1時間超。試合終了のゴングが脳内で響き渡るなか、ここからは参加者の挙手制による質疑応答のコーナーへ移行。鳥嶋氏と参加者の間にも、ちょっとした火花が散らされる。そんな質疑応答をQ&Aの形で紹介していく。

──(鳥嶋さんへ質問)編集者として、担当される作家さんの良さを伝え続けるため、作家さんの心が潰れないように育て続けるために心がけてきたことをお伺いしたいです。

鳥嶋:
 簡単ですよ。目の前の作家を愛するということ。リスペクトがあれば厳しいことが言えるんですよ。愛情が前提になければ、厳しいことは言えません。だから、編集者の資質は、目の前の才能を愛することができるかどうか。この1点だけです。

──今回の話に出てきた『キャプテン翼』『聖闘士星矢』などは、主に女性向けの二次創作がヒットしたと思うのですが、男性向けで流行った作品についてはどのようにお考えでしょうか?

筆谷:
 男性向けの作品でも、エロ漫画の二次創作に走っている方はたくさんいらっしゃいました。

 二次創作のエロ漫画から、オリジナルでエロ漫画をやらせるのは担当者がしっかり導いていかないと難しいと思っていて。一般誌の「ヤングマガジン」「ヤングジャンプ」「ヤングアニマル」「ヤングチャンピオン」あたりで、成人向け作品、エロでもエロじゃなくても、作家さんが何をやりたいかのキャッチボールをしっかりしていかないと上手くいかないのではないかと思います。

──(鳥嶋さんへの質問)商業誌のマンガ編集者をしてきて、やりがいを感じたことを教えてください。

鳥嶋:
 2つあって、1つは「こいつはいけるんじゃないか」という才能を世のなかに出せた時。桂正和さんが高校を卒業するタイミングで親御さんに会って説得をしたんですよ。「彼はプロになれるから大丈夫です」と。大丈夫と伝えた後、それをどう実現して伝えるかという話になってくるのですが、まず彼の作品が連載されることでは「プロになる」という約束を果たせていない。単行本が出ても、まだ約束は果たせていない。この単行本が売れて、印税計算して「いくら」という金額が頭のなかに出てきた時、ようやく彼の実家に行って親御さんに会って話をし、「大丈夫です」と言ったことのバックアップが取れたわけです。そこで、不安が安心に変わったことがあります。

 もう1つは、15時くらいに家へ帰ることがあって、駅の改札を出る直前、下校時間であろうランドセルを背負った小学生の男の子2人が走りながらかめはめ波を撃ち合っていた姿を見た時。「この仕事をやっていて良かったな」「僕はこのためにやってきたんだな」とふと思いました。

筆谷:
 僕もミニマムに言うと、コミケの会場で自分の担当作品のコスプレを見たり、ジャンルができているのを知ったりした時は嬉しかったです(笑)。

──「作家性の尊重と編集権の放棄」というお話がありましたが、「編集権」についてもう少し教えていただけますか?

鳥嶋:
 僕が関わった漫画の前提でお話すると、漫画は、誰にでも分かることにより技術が磨かれてきた媒体という意味があります。単に作家さんが描いたものをそのまま雑誌に載せても商業漫画にはならないし、伝わらないんですよね。だから、作家さんが持っているいいものを読者にまんべんなく伝わるようにするための打ち合わせをやる意味がある。それが編集権や編集の意味だと思っています。

──(鳥嶋さんへの質問)「理想の編集者像」の話をされていましたが、「理想の読者像」はありますか?

鳥嶋:
 ありません。基本的に読者が読者である限り、そのすべてのあり方を許容します。

──二次創作に関して、原作者さんからどのようなクレームが来たのか、聞かせていただければと思います。

鳥嶋:
 僕の担当作家に限った話ですが、少年漫画誌なので小中学生メインで作品を描いている作家さんがいらっしゃるんですね。そういう人の作品がエッチな形のものになってくると、「自分がつくったキャラクターと世界観が壊される。干渉されていると感じて、ちょっと嫌だ」というコメントを聞いたことがあります。ただ、「ものすごく何とかしてほしい」という訴えは聞いたことありません。

──同時にいくつもの作品を手掛けている作家さんがいますが、人によっては週刊誌と月刊誌の両方で連載を抱えている方もいるかと思います。そういう作家さんの育て方について、どのように考えているかお聞きしたいです。

鳥嶋:
 僕が漫画家に言っていたのは「面白くても1週間。つまらなくても1週間なんですよ」ということ。どういうことかというと、つまらないことが続かなければ読んでくれるわけです。毎回全部面白いものを描き続けていくことを、1週間の時間軸でやるのは無理なんですよ。そうすると、どこで妥協し、どこを拡大するかを考えるわけです。読者のことを知っている編集者が一方で判断しながら一緒につくっていくことは、いつも心がけていました。

──(回答に対する追加の質問)漫画家さんによっては、過労になったり、お亡くなりになったり、途中でペンを折らざるを得ない方もいます。それも含めて、編集としてのあり方をどう考えているのでしょうか。

鳥嶋:
 漫画家さんの健康問題は一概には言えませんが、作家さんの状況を見ながらどこで手離れさせてあげるかの判断も含めて編集だと思う。だから、「いいものさえ上げてくれればいい」ということではないんですよ。作家さんが漫画で生活をしていくということは、編集者は単に原稿を取るだけではなく健康を含めた一切をどう整えるかを考える存在です。目の前の人間、作家、才能をどういう風にマネジメントするかも仕事には入っていると考えています。

 まだまだ参加者のなかに挙手をする人が残っているなか、終了予定時刻の16時まであと数分ということで、名残惜しくも質疑応答コーナーが終了。最後に、登壇者から白熱した本試合(トークショー)への感想が述べられた。

筆谷:
 コミケの会場でサークルとして本を出してくれたジャンプ作家さんたちがいました。それこそ、1994年に『幽☆遊☆白☆書』の最終回後、冨樫義博先生がコミケにサークル参加をして、「『幽☆遊☆白☆書』の最終回はなぜこうなったのかをぶちまける本」を出されていたこと、ジャンプ編集部もご存知でしたよね?(笑) 僕の漫研時代の1年上の先輩がジャンプの連載作家で、「絶対に1冊入手してくれ! ジャンプの編集も待っている!」と言われて。それは三条陸という先輩なんですけど。「みんなで楽しく読んだよ」と言ってくれたのですが、鳥嶋さんは読みましたか?

鳥嶋:
 読んでないね。

筆谷:
 和月伸宏さんもコミケにサークル参加したことがあります。コミケに限らずオフラインの場で、机を挟んで描き手とファンが触れ合える場はサイン会しかなかったので、こういう場もすごく大切だと思います。今日のトークショーも目の前の熱を感じられて、すごくいい体験でした。鳥嶋さんには、しょっちゅうやってもらいたいなと(笑)。次に開催する、鳥嶋さんとちばてつや先生とのトークショー(2023年9月3日開催『ちばてつや×鳥嶋和彦公開対談「マンガの話」』)もアリーナで見させてもらいます。今日は、勉強させていただきありがとうございました!

霜月:
 自分の立場でいろいろ言わせてもらいましたけども、今現在同人即売会は日本中に無数にあって、毎週どこかしらで開催されています。そこで描いているアマチュア漫画家たちのなかから、プロとして自発的に育っていく人が仮に1%いるとして、今ではそういう人たちが商業誌を支えている。自分が目指していたものとは違っていても、即売会を基盤として商業誌があるという日本独自の漫画システムが構築されることになった。これがある限り、今後も世界のなかで「漫画大国・日本」は不動であり続けるだろうなとも思っています。

鳥嶋:
 今日、コミケに参加したのは、堀井さんとの取材を含めて3回目。直近で来たのも20年くらい前のことです。いろんなジャンルの仕事に関わってきて、それなりの人数のイベントを見てきましたけど、コミケの人の数、規模は本当に別格です。なぜこれだけの人が集まるのか、集められるのかは非常に興味深いと思っています。

 話はちょっと変わりますけど、漫画がなぜここまで来ているのか、これだけ人を集めるのか。それは、10代の若者が手軽に自分で何かを始めて、世のなかに発信できる、億万長者になる道が開かれている数少ない仕事だからだと思うんですね。今はYouTuberもありますけれど。これが例えばアニメだったら、1人でやるのは難しい。お金がかかる。著作権は個人に帰属しない。堀井さんとも話しましたけど、個人で著作権を持ってる(ゲーム)クリエイターなんて堀井さんを含めてごくわずかしかいません。みんな会社でやっている。そうなると、「何かを作りたい」と思う若い才能が世のなかに出ていける金銭体験がちゃんと得られる職業って漫画以外なかなかないだからこそ、漫画およびその周辺にあるものの、豊かさが続いていってほしいなと思います。


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今やゲーム・マンガ業界におけるレジェンドとなったふたりの言葉をたっぷりとお届けする。

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ライター
「ゲームの面白い記事読んでみない?」 あなたの時間を奪う、読み応えたっぷりの記事をお届け! 電ファミニコゲーマーは、最先端のハイクオリティゲームメディアです。

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