コンティニュー、ニューゲーム、リトライ。ゲームをプレイしているとき、キャラクターはボタンひとつで蘇ることができる。この、プレイ中に幾度となく繰り返す「死」を圧倒的な解像度で拡大し、プレイヤーにまざまざとその惨さを見せつけるのがThirdverse社の『SOUL COVENANT (ソウル・コヴェナント)』だ。ゲーム内で繰り返される「死の追体験」は、プレイヤーに命の重さを問いかけ、心を揺さぶる。
9月21日(木)より開催された東京ゲームショウにて、ゲームプレイがついに明らかとなった本作。体験版は、戦死した隊長の惨たらしい最期を追体験するという、とんでもなくヘビーなもの。VRという体験してこその表現方法で描かれる本作の「死」や戦いについて、なるべく多くを読者のみなさまに届けたい。
文・取材/anymo
「VRドラマチックアクション」と銘打つ本作の舞台は、圧倒的な恐怖で支配し、人間を虐殺する機械兵器「デウスエクスマキナ」によって荒廃した近未来の日本。それらで構成された機械兵団に立ち向かうのは、遺伝子改良された強化人間「アヴァター」。彼ら彼女は初陣から1年間に90%が死亡する運命にある。
アヴァターたちが積み重ねた「死」の記憶情報を追体験し、戦闘能力を向上させていく。戦死者の人格を移植し続けてその経験値を未来へ引き継ぐという、グロめの「強くてニューゲーム」のようなプロジェクトが「輪廻計画」だ。そしてこの計画で生み出された新型強化人間が、本作の主人公である。
死を追体験することで向上するのは戦闘能力だけではない。遺伝子改良を施されているアヴァターだけが感受することができる、神の言語「メタコード」への感受能も向上する。アヴァターは世界の外側にあるという高次領域「ゼロバースレイヤー」と繋がり、天啓や神託のような強大な力を手にすることができる。
これだけで、神の存在や「死」の克服といったような人類のタブーに触れているようなシビアで惨い世界観を感じていただけることと思う。が、もっとすごい設定が本作には存在している。
それは、アヴァターたちの遺体から製造される武器「スケイプゴート」だ。プレイヤーは戦場へ赴き、これを握りしめて振るい、敵の命を潰えさせていく。「死」は経験値として、「遺体」は武器として。仲間の死で感傷に浸っている暇などない。なにひとつ無駄にすることもできないほど、この世界の状況は差し迫っている。
主人公が培養ポッドの中で目覚めて、すぐに戦闘のチュートリアルが始まる。このチュートリアルはプレイヤーもそうだが、今すぐ戦うべき肉体として生まれた主人公にとってのものでもあり、ゲームの中でも外でもこの世界のことは初めて知ることだらけだ。
空間を転移し、主人公は頭に大きな損傷を受けて戦死した「ユリア隊長」の死を追体験することを告げられる。アヴァターたちが立ち向かい、そして敗れた敵が目の前に現れ、それらを薙ぎ倒しながら武器の握り方や必殺技となる「デモニックバースト」の発動方法などを人工知能「イヴ」から淡々と教わる。
敵を倒していくうち、とうとう隊長を死に至らしめた敵が現れる。しかし、これまでの無機質な敵と異なって中央に人の顔が配された「それ」は、戦死したはずのユリア隊長からの救難信号を発信しているのだ。その表情は、どこか隊長に似ているようにも見える。
動揺するプレイヤーを見透かすようにイヴは「騙されるな」と指示するものの、敵を倒している間ずっと「助けて」、「戦うばかりの人生だった」、「あなた達は家族だった」とユリア隊長の声が響き続ける。この苦しさからくるものなのか、本当にこの敵が固いのか定かではないが、戦闘時間がとても長いように感じられた。
仲間の遺体でもある「スケイプゴート」を振りかぶるうちに、敵はいつの間にか虫の息になっていた。人類を守るためには仕方がない、でもユリア隊長は目の前の敵に取り込まれているだけで助けることができるかもしれない。揺れる主人公の心など戦場には不要とばかりにイヴがトドメを急かすが、最後の一振りができない。
「私はここにいる」と口にするそれにプレイヤーとして同情を抱いてしまったが最後、「いただきまぁす」と敵のセリフが流れた。敵の策にハマったことがわかり「あー、やられた」と思ったが、とんでもない追い討ちが待っていた。
文字情報を認識した次の瞬間、敵の上部についていたなんらかの器官が開き、一瞬のジャンプスケアのあとに主人公を飲み込む。エキサイティングなエンタメとしての「怖い」ではない、本能的な恐怖と生理的な嫌悪感が駆け上がってくる。
そして主人公はユリア隊長と同じく頭部を飲み込まれ、薄暗い中で頭蓋骨をガリガリバリバリゴリゴリボキボキ砕かれる。この演出が、本当に「イヤ」だった。VRゴーグルとヘッドホンを装着することでプレイヤー自身が感じている首から上の重さと圧迫感にものすごくマッチしていて、プレイを終えてからも呆然としてしまった。本作の「死の追体験」は、本当に容赦がない。大の大人が体を仰け反り、悲鳴を上げるほどの演出だった。
ゲームにおいて「死」はゲームオーバーとしてデフォルメされて訪れるものだ。視界が真っ暗になったり、残機がひとつ減ったり。“ざんね〜ん”な感じのBGMと「GAME OVER」の文字は、落胆しながらもどこか肩の力が抜けるホッとした時間でもあるだろう。しかし、本作が描きだすのはペナルティとしての「死」ごっこではない。ゲーム世界での「死」を圧倒的な解像度でプレイヤーに体験、というか叩きつけてくるのだ。
本作の持つシビアな世界観とそれを礎とするダークな物語は、存分に伝わったことと思う。さらに絶対に伝えさせてほしいのが、本作の「たまんない」体験の数々である。
戦闘中は左右で同じボタンを押すことで、武器が現れる。VRのコントローラーの性質上、直感に近い感覚で操作できるため、ほぼ意識したと同時に武器を握ることできる。言葉にすると「顕現」というような感じだ。この脳とゲームが直接繋がっているような体験が、VRという肉眼に極限まで近づけた視界情報とあわせてゲーマー心を高揚させてくれる。
必殺技「デモニックバースト」の発動なんて、夢のようだった。左手を前に突き出し、左腕に現れるガイドに右手をかざす。そうすると自分の左腕からキャノンのような光が出ていく。現実の肉体とリンクして技が発動すると、もう気分は立派なアヴァターである。「たまんねー!」と口に出したくなるくらい楽しい。
明らかに骨を模している「スケイプゴート」のデザインや、主人公陣営の赤と黒のカラーリングなど、フィクションならではのスタイリッシュな世界観にダイブする体験は、自分がこれまでさまざまな作品で感じてきた世界が拡張されていくような感覚だった。ゲームで感じられる衝撃が大きくなるためには夢中になれるような世界設定は不可欠で、本作はその魅力にあふれている。
試遊の興奮冷めやらぬ中、ディレクター・シナリオライターを務める下川輝宏氏、プロデューサー岡村光氏、エグゼクティブプロデューサー鳥山晃之氏からコメントをいただけた。
さらに本作には携わっていないものの、本作の精神的な前作にあたる『ソウル・サクリファイス』を手がけた 稲船敬二氏が偶然同じタイミングで試遊に訪れていたため、同氏からもコメントを寄せていただくことができた。
──最後の演出、体が仰け反って悲鳴をあげるほど怖かったです!
下川氏:
理想的なプレイです(笑)。最高の褒め言葉です。
鳥山氏:
「気持ち悪い」、「キャー!」と言われるのが目標なので(笑)。
──タイトルすらも隠した状態でティザーが公開されて、TGS前に『SOUL COVENANT』とタイトルの発表がありましたが、その反響はいかがでしたか?
鳥山氏:
僕らも発表させていただいたとき、「VRゲーム」であることをどうやってユーザーに伝えようかなと思ったんです。まず、一旦何も言わずに誰が作ってるかもわからないようにプロモーションしてみようと思って(笑)。
そのあとに反響を見たら「『ソウル・サクリファイス』のメンバーだった!」という、ポジティブな意見をいただいていました。
初日の試遊では『ソウル・サクリファイス』ファンの方を含め、さまざまな方にプレイしていただいています。プレイした感覚としては「『ソルサク』と変わっていない、面白かった」という評価をいただいて、ポジティブに捉えてもらったと思います。
岡村光氏:
「VRゲーム」という点で情報を遮断してしまう方もまだ多いのかなと思います。
まずは世界観やゲームのビジュアルを先に知ってほしかったので、シークレットで発表させていただきました。そしてそれらに興味を持っていただいたうえで「VRゲーム」であることを発表したところ「VRでも遊びたい」、「VR、遊んでみようかな」という声も多かったです。
下川氏:
僕のSNSには『ソウル・サクリファイス』が発売された10年前からフォローしてくださっている方が多いんです。その方々が、今回反応してくださったのがいちばん嬉しかったですね。
──ゲームの詳細やスタッフが公開されたあと『これ、ソルサクじゃん!』と歓喜する声が多くあがっていましたが、反響についてはどのように受け止めていますか?
下川氏:
ファンタジーじゃないですし、ハードも違うんですけども、そこを超えて「『ソルサク』っぽいね!」と言わせることが僕のミッションだったので、そこはひとつ壁を超えられたのかなと思います。
岡村氏:
今回、すごく不思議な反応というか。発表の段階で『ソルサク』っぽいねっていう声とあわせて、ファンタジーではなくSFであったりといった違いも感じてもらっています。プレイをしたからこそ、「VRなのに『ソルサク』っぽい」と感じる方もいて。
感触を見てると、「『ソルサク』っぽい」ところと「『ソルサク』とは違う」と感じるところのバランスがうまくいってるのかなと思います。
鳥山氏:
正直いうと、僕たちがゲームを通してユーザーに伝えたいものっていうのは『ソルサク』でも『ソウル・コヴェナント』でも変わっていません。表現方法が携帯ゲームであったりVRに変わって、より臨場感あふれるものになっただけです。
目指してるもの、ユーザーに体験させたいコアの部分は変わっていないので、『ソルサクじゃん!』という反応は、僕らからしたらかなりいいコメントをいただけているなと思っています。
──ブースにすごい人だかりができていましたね。スタッフさんによると試遊の整理券が「瞬殺」だったとのことですが、今後多くの方にゲームを知っていただけるような予定はありますか?
鳥山氏:
出展台数や試遊時間、VR機器の清掃やオペレーションなどがあるため、TGSではどうしてもプレイできる人数が限られてしまうため、まずは今回のゲームプレイを映像化することを考えています。
やはり、VR空間に入ってプレイしていただかないと本作の面白さは伝わらないと思いますので、体験会をできるかどうかを検討していきたいと思います。
──ゲーム中、NPCが登場していましたが、彼らとの人間ドラマは描かれていくわけですよね?
下川氏:
今回の体験版でも、小さなストーリーは楽しめたかと思います。
主人公たちが属するチーム「アヴァタール」の合言葉は「骨は拾ってやる」っていうものなんです。そして、死んだ仲間の数だけ武器が増えていく。
──そこだけ聞くと凄まじいゲームですよね(笑)。
下川氏:
NPCたちがいずれ武器になる。このあたりも乞うご期待です。
──最後に本作を楽しみにしているユーザーのみなさんにメッセージをお願いします。
下川氏:
「死の追体験」、「骨は拾ってやる」。こういったキーワードで作り込んでいます。体験してもらいたいのは「ごっこ遊び」なんです。ちゃんばらごっこから始まって、少年漫画に出てくるようなシチュエーションを主人公と一体となってユーザーの皆さんに遊んでもらいたいなと思っています。ぜひ期待して待っていただければと思っています。
岡村氏:
「VRらしさ」、「視点が動く、全体が見渡せる」という点を踏まえて下川さんがシナリオを描いて、さらにこれらを活かしたイベントや演出を作っています。その部分を期待していただきたいです。
鳥山氏:
『ソルサク』ファンの方には何か通じるものが残っていると思います。
VRゲームならではの感情体験をユーザーに与えたいと思っていて、それに関して新しい形で答えが出せたと思います。そのあたりに今回注目していただいて、ユーザーのみなさんには期待していただきたいです。
──(偶然ブースにいらっしゃっていた)稲船さんからもコメントをいただきたいと思います。『SOUL COVENANT』をプレイされてみていかがでしたか?
稲船氏:
面白かったです。VRで戸惑う部分はありましたが、没入感がしっかりありました。ストーリー的にも「これ、なにかあるだろうな」と下川くんがシナリオで匂わせてる感じが懐かしかったです。
「あ、これ知ってる!」という、いい意味の既視感。うまく『ソルサク』感があると思いました。
VRなので、戦っているところをみられてる恥ずかしさはあるよね。武器を振りかぶってるところとか(笑)。
下川氏:
日本のVRの課題でもありますよね。海外の方は思い切ってやってくれるので。
稲舟氏:
そうそう。ゲームの中には入り込めるんだけど、恥ずかしい自分もいる。その部分を超えたら、さらに面白いんだろうなと思います。
──稲船さんからの太鼓判がもらえましたね。
稲船氏:
思っていたよりもずっと出来がいい。もうちょっとプロトタイプ感があるのかと思ってたけど、完成されていますね。
岡村氏:
じつは、ビジネスデイのときからバージョンを差し替えているんです。朝6時にロムが届いて、さきほど最新バージョンに差し替えました。
下川氏:
今回の試遊で感じていただけたのは、この世界の一端に過ぎないので、開発が進んだときに、また稲船さんに触っていただきたいと思います。
「設計の経緯は不明」とされているイヴは何者なのか、この戦いに終わりはあるのか。今回だけでもかなりハードな体験だったが、物語が進むにつれて仲間に愛着を持ってしまったらと思うと恐ろしい。「こんなもんじゃないんだろうな」という、心に爪痕を残す試遊体験であった。
2024年初頭、プレイステーション VR2、Meta Quest 2、PC(Steam)向けに発売予定の本作。話があった体験会の展望についても期待しつつ、続報を心待ちにしたい。