ヒットコンテンツを手がけるクリエイターには、物事の捉え方や発想の転換、世の中を見抜く先見性など「なんでそんなことが思いつくの?」と、頭の中をのぞいてみたくなるような人がいる。コンテンツプロデューサーの高瀬敦也氏もそのひとりだ。
代表作の「逃走中」はまさに「なんでそんなことが思いつくの?」なゲーム的番組システムが画期的で、開始当初から目論んでいたゲーム化でも累計100万本の大ヒットを記録した。しかし、有名テレビマンとして活躍中に「(ヒットしたコンテンツも)自分の力でない」と悟ったことで古巣フジテレビから独立。現在はメディアを横断してさまざまな企画を独自の視点でプロデュースしている。
[今回のスゴい対談相手]高瀬敦也
コンテンツプロデューサー。フジテレビ在職中に「逃走中」「Numer0n(ヌメロン)」「有吉の夏休み」などを企画したほか、アニメブランド「ノイタミナ」の立ち上げにも参加。プロデュースしたゲーム版「逃走中」は累計100万本を記録した。独立後は多分野でヒットコンテンツを連発。著書に「人がうごく コンテンツのつくり方」(クロスメディア・パブリッシング刊)などがある。
「そもそもエンタメとは何なのか、真剣に考えたい」という思いから始まったこの連載「エンタ飯!〜うまい飯といい話〜」は、イザナギゲームズのCEO・梅田慎介氏が聞き手を務め、エンタメ業界の最前線で戦うトップランナーたちと美味しい料理をご一緒しながら、彼らが考えるクリエイティブの真髄に迫っていく。
「物語づくり」について考えさせられた編集者・佐渡島庸平氏の回、「ニッチでも深く刺さるゲーム」の制作秘話を聞いた小高和剛氏の回に続いて、高瀬氏を第3回のゲストに迎えた。
テレビ離れの加速、コンテンツの飽和、AI時代の到来……クリエイターたちには“変化”が求められてきるように感じる昨今。高瀬氏は新刊書籍「スキル 仕事で使える変な力たち」(クロス・メディアパブリッシング刊)でもAI時代も廃れない仕事と人生のスキルについて再定義しているが、いまのエンタメ業界についてどんなことを考えているのだろうか。
今回ふたりが集まったのは、下町の風情がある町屋の蕎麦店「うじいえ」。こだわりの手打ちそばをずるずるとすすりながら、著書を読み込んできた梅田氏が、肩の力が抜けてやる気も出る、高瀬氏の考え方を聞いた。
[今回のウマいお店]蕎麦 うじいえ
住所:〒116-0001 東京都荒川区町屋3-5-13
TEL:03-6807-8538
http://www.sobaujiie.com
お昼の部:11:30~14:00
夜の部:17:30~22:00
定休日:毎週月曜、火曜
固定観念を壊した「若者向けテレビ広告枠のパッケージ化」戦略
梅田:
高瀬さんには聞きたいことがたくさんありすぎて。今日は高瀬さんの経歴からちょっと復習させてもらってもいいですか?
高瀬:
もちろん。
梅田:
大学を卒業してフジテレビに正社員で入られて、独立されるまで何年いましたか?
高瀬:
入社は1998年だからフジテレビは19年間ですかね。
梅田:
フジテレビでは最初に営業をやっていたんですよね?
高瀬:
そうですね。最初の5年間はスポット営業。たとえばスポンサーがTVCMを5,000万円で発注したら、その5,000万円をプランニングする役割ですね。この番組とこの番組に流しましょう、みたいな。それを広告代理店に返して、文句を言われて……。
梅田:
文句(笑)。
高瀬:
「もっとこういうふうに変えてくれ」と言われるから、「そんなのイヤだよ」と言う仕事でした。
梅田:
そんなのイヤだと言う仕事(笑)。
高瀬:
仕事というか、そういうコントです(笑)。
梅田:
いや、そこですごいなと思ったのが、高瀬さんが空いている枠を組み合わせて若者向けのサービス商品を考案したんですよね?
高瀬:
枠は余るんですよ、結局。なるべくまんべんなく売れるように頑張るんですけど、パズルのような組み合わせだから、どうやっても枠が余る。余っている枠のうち、再放送でも広告主にとってみれば安く買えるならいいわけじゃないですか?
梅田:
ふむふむ……そうですね。
高瀬:
それが若者に特化しているんだったら価値が出るので、そこだけをパッケージにしたんですよ。当時だったら「めちゃイケ」とか「HEY!HEY!HEY!」とか、若者向けの番組があったので、それを限定10口みたいな感じで売ったら即完売でした。
梅田:
アイデアがすごいですよね。高瀬さんの著書を読んでいても、「あるもので作ればいいじゃん」「発想を変えればいいじゃん」みたいな考え方が書いてあるんですよ。その広告枠の話も、「余る」で済ませて1個ずつ売るんじゃなくて、セットにして売っちゃえばいいじゃん、と。
「世の中のものは考え方しだいでコンテンツになる」説
梅田:
そういう発想の原点というか、高瀬さんがたとえば幼少期からそういう考え方をしていたのか気になります。
高瀬:
その話と繋がるか分からないですけど、僕はすごく承認欲求が強かったと思うんですよ。でも、HSP【※】だし、内向的だし、人と接するのが苦手なタイプだったんです。未だにですが、できれば新しい人とは関わりたくないというか……。
※HSP
ハイリー・センシティブ・パーソン。感受性が強く敏感で繊細な気質を持った人を指す
梅田:
いやいや、まったく逆の生き方をしてるじゃないですか(笑)。
高瀬:
基本的に自分に自信がないんですよ。あとハードルが高いことを僕は本当に嫌うんですよ。とにかくいろんなことに対してハードルを下げたいんです。
何か発言する時も「大したことないんだけどさ〜」と最初に言う。「つまんない話だけど〜」「すぐ終わるからちょっと聞いて〜」とか。
人に期待させたら自動的に自分が何か被害を受けることになるので、とにかく期待してほしくないんですよ。だから、今日の梅田さんとの話もすごくつまんないことしか言わないです(笑)。
梅田:
ここでもハードル下げにきた(笑)。
高瀬:
でも、梅田さんが僕の本を読んで、ちゃんと準備をしてくださっているのがうれしいです。僕はエゴサをしまくるので、承認欲求を満たすために本を出しているところもあるんですけど(笑)、そうするといろんな読者さんの感想に触れるじゃないですか。
本のいいところは、エンゲージメントが異常に高いのでネガな感想ってあんまり出てこないことなんですよ。
梅田:
たしかに。つまらなかったら読むのをやめるだけだし。
高瀬:
わざわざ「つまんねーよ」というコメントをする人はあまりいないですね。
梅田:
今回の書籍「スキル 仕事で使える変な力たち」はめちゃくちゃボリュームありますよね。
高瀬:
そうですね、13万字あります。
梅田:
ビジネス書籍の文字数って普通はどれぐらいなんですか?
高瀬:
9〜10万字じゃないかなと思います。今回の本はまず18万字書いて、そこから5万字削って13万字にしています。
梅田:
高瀬さんって文才もありますよね。文章に惹き込まれます。
高瀬:
いや、スゲぇ気を遣って書いてますよ。みんなに嫌われたくない一心で(笑)。
梅田:
嫌われたくないって一心で書いてるんですね(笑)。
高瀬:
上から目線にならないように、すごく気にして書いてるので。
梅田:
だから、“優しい本”という印象なんですよね。
高瀬:
それは本当にうれしいです。優しく背中を押す系ビジネス書だね(笑)。
梅田:
過去の著書「人がうごく コンテンツの作り方」(クロス・メディアパブリッシング刊)では、コンテンツを作ってきた高瀬さんが、「世の中のものはすべてコンテンツである」と書いているのが面白くて。
考え方しだいでどんなこともコンテンツになるし、考え方をアップデートしたらスキルになった、と。それは高瀬さんの過去の本にも書いてあって、結局どの本でも言い方や見方を変えているけど、根底は同じなんですよね。
高瀬:
ホントだ! 気づかなかった(笑)。
梅田:
高瀬さんのすごさはそこだなと。発想の転換ってコストがかからないじゃないですか?
高瀬:
たしかに。
梅田:
コストをかけずに発想の転換でモノを生み出している人だな、という。
もちろん本に書いてある通り、行動力と実行力と最後までやりきる力みたいなものがないと無理なんですけど。だって「逃走中」なんて何百人も関わっているわけじゃないですか。
高瀬:
一番多い時は、関係者全部で700〜800人いましたね。
梅田:
そういう番組のプロデュースってとてつもないし、しかもあの番組は一発勝負じゃないですか。
高瀬:
そう、超怖いっすよ。だから僕は番組の最中は何も楽しくなかったです(笑)。
小室哲哉からヒントを得たフジのアニメ枠「ノイタミナ」の名前
梅田:
フジテレビ時代の話に戻しますけど、営業部で一目置かれるようになって、そこから制作に行くんですよね?
高瀬:
そうです。フジテレビの組織体でいえば編成部ですけど、まあ番組を作る部署ですね。
梅田:
そこですぐにコンテンツを作ったんですか?
高瀬:
いや、最初は企画書を書いても相手にされないから、何とか自分のポジションを……と思いながらいろんなことをやっていました。初めて番組を作ったのは異動して2年目ですね。その2年目に「逃走中」も始まっています。
梅田:
思ったより早いですね。同時期だと「ノイタミナ」のネーミングも高瀬さんですか?
高瀬:
そうですね。スキームを作ったのは金田(耕司)さんですけど、概念を作ったのは僕です。「ノイタミナ」の企画を作っていた時、僕はまずタイトルをつけて、その枠を概念化したほうがいいと思ったんです。
どうしようか考えて、ANIMATIONを逆さまにするんだけど、じつは昔、小室哲哉さんがORUMOK RECORDS(オルモックレコーズ)というレーベルをやっていて……。そのORUMOKは小室のアルファベットの逆さ読みだと知って、超カッコいいじゃんと思っていつかパクリたいな、と(笑)。
梅田:
見事なパクリ方ですね、誰も気づかない(笑)。
高瀬:
それが真相です。インタビューなどで記者向けに「アニメの常識を覆すからANIMATIONを逆さから読むんです」と説明していましたけど、それは後づけです(笑)。
梅田:
へー。でも、その概念の作り方にすごくセンスがあるんですよ。
高瀬:
アニメーション番組に枠としての上位概念をつけるという考え方自体が、当時はなかったですからね。
梅田:
だから「ノイタミナ」枠自体にファンができたし、「月9」みたいな形で認知されましたよね。上位概念を作ることはめちゃくちゃ有効な手段だと思います。
高瀬:
まあ、“それっぽく”なりますからね(笑)。同じ枠の次の作品をファンが期待してくれるし、こっちも文脈が作りやすいんですよ。
梅田:
そうやってフジテレビで数々のヒット作を生み出す花形テレビマンの街道を突っ走っていたところから高瀬さんは起業するじゃないですか。フジテレビを辞める時は引き止められなかったですか?
高瀬:
止められないですよ、別に。大きい会社はシステムがよくできているじゃないですか。特にテレビ業界なんて異常なシステムとすごいスキームが成り立っているから、誤解を恐れずに言えば別に誰がやってもいいわけです。
これは揶揄したり、批判するわけじゃなくて、誰がやってもそこそこの結果が出せる。それだけすごいビジネススキームなんですよ。
梅田:
なるほど。それはすごいですよね。
高瀬:
とりわけ当時はそうでした。20年前ぐらいは、テレビ業界という輪の中にさえいれば、かなり高い確率で何かしら世に名前の残せる作品を作れるポジションに立てたんです。いまは時代が変わってそうではなくなったんですけど……。そこを勘違いしてしまうと、いまのテレビはキツい業界でしょうね。
梅田:
俯瞰で見るとそうなんですね。
高瀬:
「俺はすごいクリエイターなんだ!」と思っちゃっているとキツい。「逃走中」と言う番組は僕が企画したけど、あの時代のテレビのスキームがあって、圧倒的なリーチ力があるからできたことなので。
YouTubeやSNSなど、いまの時代のほうが使えるものは多いですけど、裸一貫からあの規模のものを作るのは、やはりテレビ的なスキームがあってこそだと思います。